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私は敵になりません! 作者:奏多
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メイナール市傭兵団討伐 3

「な、何だこれ!」
「うわキモっ!」

 傭兵たちの声に、よしよしもっと気持ち悪がるがいい、と思いながら石人形達を進ませる。
 傭兵の中には石人形を避け、こちらに向かってくる者もいた。
 ばらばらと、速攻で魔術師である私を殺そうとしてきた彼らは、カインさんの剣が一閃する度に倒れていく。
 さすがカインさん……。ゲームでは壁役とかさせてた人だけある。攻撃力も防御力も申し分ない。

 そのうちに一緒にここまできた兵士達が追いつき、アランの騎士ライルさん達の号令で攻撃を始める。
 その間にも石人形は前進。
 途中から細長い腕を伸ばさせ、近くにいた傭兵に抱き付かせる。
 横幅も縦幅も私とはくらべるべくもない大柄な傭兵たちが、野太い声で驚愕の叫びを上げた。
 怖いだろうなぁ。火事の火で揺らめく明かりの中、表情もなく前進してくる細長いお化けみたいな人影に掴まるんだから。
 しかも石なので、捕縛している腕は斬り落とせず、もがくしかない。

 その様子に周囲の傭兵も怯え、こちらの兵士達がつけ入る隙が増える。
 石人形達はそのままに、私はカインさんに遠くへ銅貨を投げてもらい、さらに向こうで石畳をうねらせ、逃げようとした傭兵たちを転倒させる。
 ここで少しでも多く倒しておけば、他の場所にまで火を付けて回られずに済む。
 そこにさらに群がるエヴラールの兵達。さすがに傭兵も剣を持っているため無傷とはいかないが、通常の戦闘よりも楽に戦えている。

 あっという間に市長館の傍の道は、倒れた傭兵達と、その手を縛り上げたエヴラールの兵という図だけになった。
 石人形に捕まえられた者もきちんと縛られたのを確認し、石人形を解除。
 捕まえた傭兵は、市の人々に引き渡し、どうするかを決めてもらうことになるだろう。

「この周辺にいるのはこれだけでしょう」
 カインさんも周囲を見回して、一度剣を鞘に収める。そこに、ライルさんが残りの傭兵を追って西門へ移動すると知らせてきた。
 バーナードさんは半分を率いてもう一つの傭兵団の根城へ向かうという。彼の目指す場所も火の手が上がっているので、逃げだした傭兵を追いかけることになるだろう。

 そこで私は、延焼を防ぐために市長の館に向かう。
 巨大土人形を出し、火を覆うように燃えている部分へ倒れ込ませながら術を解除。大量の土砂に押しつぶされ、覆われていくらか火が消えた。
 それを二回繰り返したところで、市長の館は左端の、燃えて炭になった部分から煙を上げるばかりになっていた。これで周囲に燃え移らないだろう。

 うなずいたところで、くん、と私のスカートが引っ張られる。
 何かにひっかけたかと思えば、後をついてきていた氷狐だ。青白い毛が火事の照り返しでオレンジ色に輝いている。
 リーラと子供に呼ばれていた氷狐は、しきりにバーナードさんが向かった方向へ、私を引っ張ろうとしていた。

「あっちに、お前の主がいるの?」
 尋ねてはみたものの、狐に返事ができるわけもない。
 困ってカインさんの判断を仰ごうと見上げた私は……そこで気付いた。
 傭兵団は三つ。だけど今、火の手が上がっているのは二か所だ。市長の館を根城にしていた傭兵団が逃げたはずの西の方向と……むしろこれから向かおうとしていた北側は、いくつかの建物が燃えて火が大きいように見える。
 もう一つの傭兵団がいるだろう東門の近くでは、火の手が上がっていない。

「カインさん、燃えているところを優先しよう」
 そう言うと、我が意を得たりとばかりに、氷狐リーラが私のスカートから口を離した。どうもこの狐はそうしてほしかったらしい。

「消火してほしいの?」
 ゆらりと、細い顔よりも太そうな尻尾が揺らされる。そうだよ、と言うかのように。

「リーラは僕の家を心配してくれてるんだ!」
 そこへ割って入ったのは、市外に一人で置いてくるわけにもいかず、例の斥候兵が抱えて連れてきたあの子供だった。

「おばちゃんが放火を止めようとしてくれてたけど、リーラ達だけじゃおばちゃんたちを守るのが精いっぱいで……おばちゃんが、僕を先に逃がしてって、リーラに……」
 そのまま子供が涙ぐみはじめ、斥候兵さんが慌ててなだめる。

「……傭兵の仲間割れでしょうか。市の人々に同情した氷狐の使役者がいて、子供を逃がした後もまだ放火された場所にいるのでは」
 カインさんの推測に、私は同意してうなずく。
 それはもしかして、三つ目の小規模な傭兵団の人間ではないだろうかと思うのだ。氷狐の使役者が、普通に暮らしている市民のはずはない。だからそちらからは火の手が上がらなかったのではないかと考えたからだ。

「行きましょう!」
 カインさんがうなずき、預かってくれていた兵士さんに礼を言うと馬に飛び乗り、抱え上げるように私を馬上に引き上げた。

 氷狐のリーラが先導するように走りだす。
 遅れて馬を駆けさせながら、カインさんは子供を連れて他の兵達も追って来るように指示し、後はリーラの姿を追うことに専念した。
 火元はそれほど遠くはなかった。
 けれども夕暮れ時かと思うほどに明るく感じるほど、何軒もの家が炎に包まれている。
 近くの道端では、家の持ち主だろう人が立ちすくみ、膝をついて呆然としている。近くには、放火を阻止しようとしたのか、殺された人が血を流して倒れていた。

 少し先の方で、誰かが争っている音がする。
 剣が打ち鳴らされた音。倒れる音。
 氷狐リーラは、そちらへ向かって走り去った。カインさんも更にリーラを追いかける。
 角を曲がった所で、真正面から吹きつける風雪に思わず顔を背け、けれど前を見ないと危険だからと細く目を開いた私が見たのは、たった二人で立ち向かう男女と、彼らを囲む十数人の剣を持つ男たちだ。

 二人も負けてはいない。
 鳶色の髪を一つに結んだ女性の号令に、足下にいた二匹の氷狐が一斉に吹雪を生み出す。吹きつける風雪にひるんだところへ、勢いよく突っ込んで行くのは、筋肉でがっしりとした短髪の「行くわよぉぉ!」男……?

 女性口調で叫んだ男性は、自分にも吹きつける風雪にエリザベスカラーみたいな大きな襟がついたマントをはためかせつつ、幅広の曲刀を構え、振りぬく。
 風雪に混じる血しぶき。一瞬で三人を倒すと、さらに曲刀が炎の投げかける明かりの中できらめき、血を散らした。
 その間に横から走り込んできた氷狐が風雪で数人の腕を氷漬けにし、その頭を土台に飛び上がって、鳶色の髪の女性の元に降り立った。

「ギルシュ下がって! ルナール!」
 女性の声に一歩下がった男性の代わりに、すかさずその身に氷をまとった狐が前へ出る。
 その尻尾に触れた者たちが、鋭い氷の刃に足を斬られて呻き、さらに風雪が襲い掛かる間に、先ほどの狐は女性の後ろへと戻っていた。
 けれどたった二人なので、敵を倒すにも時間がかかっている。

 私は急いで馬から降り、石畳交じりの土人形(ゴーレム)を作り出した。突然の土人形(ゴーレム)の登場に混乱する傭兵達。
 蹴散らされて宙を舞う者、その手に握られて気絶する者がいる中、こちらへ向かってくる傭兵はカインさんがことごとく斬り伏せた。

 その間に氷狐を連れた男女も、目の前の敵を一掃。
 落ち着いたところで、私は土人形を燃え盛る家を抱きしめるようにして解体。近くの家が一軒、くずれながらも土に半分埋まって炎が静まる。

「消火してくれるの? ……て魔術師!?」
 氷狐を操っていた女性が、目を丸くして尋ねてくるので、私はうなずいた。

「リーラの主はあなた? その子がこっちに来いって連れてきたの」
「え? リーラ……あんたケネス君どこやったの!?」
 傍にいた氷狐をひっつかまえて、彼女は鼻先に顔を近づけて尋ねている。
 リーラと思われる氷狐は『何言ってるんでしょうね』という顔で、ふんと鼻息をついた。
 そこに、当のケネス君と思われるあの子供が、兵士に抱えられて連れて来られた。

「おばちゃああああん!」
「ケネス君!」
 女性が立ち上がり、走ってくる子供をしゃがみこんで抱きとめた。
 って、え? 彼女どう見たって私と数歳しか違わないのに、おばちゃん? 親戚の子?
 疑問が頭の中に浮かんだものの、とりあえず私は消火活動の方に精を出し、追いついた兵士達にはカインさんが十人単位でまとまって、周辺に傭兵がいたら討伐するよう指示した。
 一方のアランも、私達が戦っている間に西から逃げようとしていた傭兵達を倒し、放火を防ぐことができたようだ。

 こうしてメイナール市での戦闘及び消火は終了し、半分黒焦げになったあげく土砂で埋まった市長の館の前で、他の傭兵を討伐したアラン達と合流したのだが。

「……おいキアラ、なんで氷狐が増えてるんだ?」
「えっと……なりゆき? あと氷孤の飼い主さんと、そのお兄さんも一緒に連れていきたいんだけど」

 そう言って、私は後ろに立っていた鳶色の髪の女性ジナさんと、筋肉隆々で短髪の男性……なのに、エリザベスカラーみたいな大きな襟がついたマントを羽織った、やや内またのギルシュさんを紹介する。

「ルアイン軍と一緒にファルジアに入ったんだけど、メイナールでは市民の皆さんの避難とかに尽力してくれてた、サレハルド出身の傭兵のお二人で。氷狐の面倒を見てるのはジナさんなんだけど、この氷狐が私から離れなくて、それならついて行かせてくれないかって……」
「はぁ!?」
 アランが口を開けてぽかーんとした。

 うん、びっくりするよね。私も予想外……。だって私作成攻略本には、傭兵を仲間にできるとは書いてなかったんだもんね。
 あともう一つ言うと、私達が勧誘したわけじゃないんだよ。
 私の足にぴったりとひっついた、他二匹よりちょっと大柄で、尻尾の毛がやや長いルナール。
 彼がね……私から離れなかったんで、それなら一緒について行っていい? と聞かれてこうなったわけで。
 上手く説明してくれないかなと思いながらカインさんを振り返ると、彼は名状しがたい表情をうっすらと滲ませながら、目を細めてルナールを見下ろしていた。

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