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私は敵になりません! 作者:奏多
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思いがけない宣言に

サブタイトルと日数等を変更しました。
 セシリア嬢と気まずい遭遇をした翌日。出発日が本決まりになった。

 その打ち合わせのために行う今日の会議には、もちろんセシリア嬢はいない。
 会議の流れは、基本的にヴェイン辺境伯様が淡々と決定を伝えていく形だ。既にレジーとは打ち合わせが済んでいるのだろう。

 装備も整い食料の輸送についてもめどがついた、兵もルアインとの戦等の問題で、数こそ8千ほどではあるが集まった。
 なので3日後に出発し、さらに6日後に南西のリメリック侯爵領へ到着、そちらに来ているレインスター子爵の軍とも合流する予定だ。
 知らせでは先方の軍が合わせて7千だというので、1万と半分くらいの軍勢になる。

 国内の離反者が提供する兵力をも受けてルアイン軍は膨れ上がっているはずなので、心もとない数字ではある。けれどヴェイン辺境伯曰く、各所においては激しい戦力差とはならないだろうと言う。

 ルアイン軍は各所に散らばっているのだ。
 兵力を受け入れて増えるものの、一つの領地を侵略後はそこをがら空きにするわけにもいかない。そこで援軍が来るまではある程度の兵力を残す。それを繰り返しているのと、嫌々ながらルアインと手を結んだ領地はそれほど多くの援軍を出さないだろうという予想もあった。
 これから進軍する先でまず出会うのは、そうして援軍が来るまで領地を臨時統治する軍がいる場所だ。

 なるほどと納得して、会議は終わりになる。
 これが夕方近くのことだったので、私はお風呂を使わせてもらうことにする。

 出陣すると、そうそうお風呂に入れない。
 実は先日ルアイン軍を撃退する時に、なかなかお風呂に入れない泣ける生活を余儀なくされたのが、微妙に堪えたんだよね。
 できれば身ぎれいにしておきたいというのは、女子としては当然の欲求だろう。前世ほどではなくとも、病気の予防も兼ねて、就寝前には体を拭うかさっと水を浴びるのが、貴族の間で習慣化しているこの世界では、なおさら哀しかった。
 だから今のうちに堪能しておくのだ。

 一応、今後のために対策は立てている。何度か土で川の周囲を囲むのプライベート空間を創ってみたりして、水浴びくらいはできる環境は整えられるようになった。なんにせよ、暖かい季節で良かった。冬だったら行水なんてもっての外だから。

 そんなことを考えながら、予め湯を頼んでおいた風呂を楽しんだ。
 ちなみにエヴラール城は風呂の場所が固定で、部屋にバスタブの持ち込んだりはしない。井戸から離れていない部屋が浴室になっていて、大きな桶に水を入れ、焼いた石を入れて温めてくれる。湯を運んでもらったりする必要がないので、少しは気楽にお湯の用意を頼めるので嬉しい。

 風呂上り後、ほくほくした気分でいたのだが、部屋に戻る途中で私は表情をひきしめた。
 階段を上がったところで出会ったのが、あまり近づかないようにと言われていたセシリア嬢だったからだ。
 セシリア嬢はこの後の夕食の席につくことを考えてか、髪を結い上げ、きっちりとドレスを着こんでいた。だから待っているのはレジーだろうと思い、私は会釈だけして通り過ぎようとしたのだが。

「ああああのっ、お話が」
 呼び止められてしまった。仕方なく振り返ると、私と目を合わせたセシリア嬢が、ばつがわるそうに視線をそらす。

「…………?」
 話をしたいと望んだのはそっちではないだろうか、と首をかしげてしまう。何も話すことがないのなら、早く部屋に入りたいものだけども。
 発言を待っていると、セシリア嬢は「ええと」とか「あの……」とやや迷った末に、ぎゅっと目を閉じて言った。

「殿下と、あまり親しく、しないでほしいのですっ」
 ようやく聞けた話は、どうもセシリア嬢が嫉妬しているらしい、というものだった。
 王子妃候補っていうんだから、セシリア嬢は親族にまで結婚するのにふさわしいと認められた人だ。本人もそのつもりで過ごしていたから、レジーと私が一緒にいるのを見て不愉快に思ったのだろう。

 きっとセシリア嬢は、友達であっても他の女子が傍にいるのも嫌だっていうタイプなんだろうな。前世で母親の読んでた雑誌に、そういう人がいるという話が書いてあったのを覚えている。

 セシリア嬢にとってレジーは、彼氏どころか夫候補だ。
 しかも領地は敵の手に落ち、父母の生死もわからない心細い状況では、現実になるかどうかわからないまでも、頼れる相手として細い糸で繋がっているレジーを、自分のものだと思いたくもなるのかもしれない。

 かもしれないけれど……嫌だな、と思ってしまった。
 婚約者とか結婚後だというのなら仕方ない。友情は団扇で仰ぐように冷まして、レジーに近づかないようにするしかないと思うのだが、セシリア嬢はまだ結婚するかどうかもわからない立場だ。ましてや父母を失ったとなれば、王子の妃になるという話は立ち消えになってもおかしくはないだろう。

 でも私は不必要にレジーとべったりしているわけではないのに、制限されるのも……と思ってしまうのだ。
 とそこで、不意に思い出してしまう。
 レジーが私を抱きしめたこと。手に口づけようとしたことだけならまだセーフか? でも足を掴んだのはどうだろう。
 うわ、そうだ。噂とか聞かれたらどうしよう。絶対嫌われる。この泥棒猫! とか思われるんじゃないだろうか私。

 色々と今までのことを思い出して、微妙に焦った私だったが、ふと強い視線を感じて我に返る。
 気付けば、セシリア嬢を見守るように、少し離れた場所に茶の髪の騎士が立っていた。
 なんていうか、守るためだとわかってるけれど、私が彼女に何かをするのではないかと思っているような、ちょっと鋭い目つきだったので、やや不愉快になる。
 何もしませんよと言いたい。
 一方のセシリア嬢は、私に言いたいことを口にするだけで精いっぱいのようだ。

「お、お願いよ。せめて殿下に近づかないで。じゃないと困るのよ」
 建物の中が暗いせいではっきりとは言えないけれど、怯えているかのように彼女は青い顔をしていた。
 私が魔術師だから、怒らせたら何をされるかわからないと思ってるのかな? こんなことで何かする気は全くないんだけど……。

 とはいえ、はいそうですかと言うのもなんだか嫌だった。でもこの場では分かったフリをした方がいいだろうか。話が長引いたら、髪が生乾きのままだと風邪を引きそうだし。
 悩み始めたところで、救いの手がやってきた。

「どうしたんですか? セシリア殿」
 階段を降りてきたレジーだ。
 彼も明らかにくつろぐ気満々の腰をコルセットで固定しない服の私とは違い、きっちりと上に裾長のジャケットを羽織っている。

 レジーを見たセシリア嬢は、泣きそうな顔をして「な、なんでもございません!」と言って逃げてしまった。
 一緒に、こちらを睨むように見ていた騎士もいなくなる。一体何だったんだ。

「…………なんか、リスとか小鳥みたいな人ですね」
 餌を見て近くまで寄ってきても、人が一定以上近づこうとすると一目散に逃げてしまう。今の場合、餌と人のどちらもがレジーなわけだが。
 素直な感想を漏らしただけだったのに、レジーはくくっと笑い出す。

「キアラ。君はセシリアに絡まれてたんじゃないのかい? なのに感想がリスとか小鳥とか可愛い物だし、彼女が噛みつくくらいは何とも思わなかったんだ?」
「なんとも……ないわけじゃないけど」
 楽しい気分ではなかったのは確かだ。どこの世界を探したって、特に利害もない相手から敵認定されて嬉しい人はそうそういないだろう。

「彼女も、以前はあんなことを言いに来られるような人ではなかったんだけどね」
 レジーが考え込むような表情になる。

「小さい頃から内向的だったみたいでね。最初に会ったのは王宮の宴だったか。彼女はずっと母親の後ろに隠れていたんだよ。それでも親の方は、どうにか王族とも交流させうとしていてね。ろくに話もできない彼女の、絵を贈ってきたりもしたんだよ」

「セシリア嬢は、絵がお得意なんですか?」
「風景画なんだけどね、性質そのままの繊細そうな綺麗な絵を描く人だよセシリア殿は。どうも他人と交流するのは苦手で、毎日のように絵を描いたりして過ごしているらしい」
 だから、自分もちょっと驚いたんだと、レジーが言う。

「まさか彼女が、近づくなと言い出すとはね」
「……そんな最初から聞いてたの?」
「ごめんね。気になることがあったから」
 レジーは悪びれずに微笑んで謝ってきた。そうして私に手を伸ばし、髪に触れた。
 髪が動いたことで、かすかに首筋がざわっとする。

「引き止めるようなことになってごめんね。部屋に戻った方がいいよ、キアラ。これ以上濡れた髪のまま、他の人と会うことになったら困るからね」
 うんまぁ、風呂上りに長話なんて、こっちの世界……もしくはファルジア王国ではあまりしないもんね。ドライヤーで髪を乾かせないからだとは思うけど。こっちでは火のある場所でじんわりと乾燥させる必要があるから。
 だからはしたないという意味でレジーは言ったのだと思ったのだが、部屋の前までついてきた彼は、扉を閉める前にさらに忠告してきた。

「できれば入浴後には、何か被っていてほしいかな。キアラももうすぐ成人だろう? 濡れた髪のままだといつもより大人っぽく見えるから、他の男にはあまり見せないようにしてほしいんだけど」
 じゃあおやすみ、と言ってレジーは去っていく。

 私は……あまりのことに開いた口が塞がらなかった。
 前世から数えて約29年。今まで一度だってそんな忠告されたことなかった。

「ほほほほほ、ほか?」
 他の男に見せないようにって、見せないようにって。見――られたくないってことで。普通の、大人の女性みたいな対応をされたせいで、動揺しすぎて言語中枢が仕事をしない。

「なんじゃ、頭の中身まで茹で上がったのかいな? イッヒヒヒ」
 今日ばかりはそんな師匠の言葉に、全く反論できなかったのだった。

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