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私は敵になりません! 作者:奏多
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エヴラール辺境伯領攻城戦 1

「なんで……なんで!?」
 理解できなかった。

 今朝、斥候からの報告が来た時には、今だ敵の姿は見えず、だった。
 それでも次の斥候が帰って来るまでの間に、何かあって後手に回ると不利になる。だから城から1000の兵を率いて、私達とほぼ同時に出発していた。

 移動先で次に戻ってくる斥候の報告を受けながら、布陣場所を変えることもできるからだ。最初の中継点では、前日のうちに通達を出した分家からの軍も到着して、3000にはなるはず。
 なので、ルアイン軍がこんなに早く進軍してこられるはずがない。

 足止めすらもできずに、ヴェイン辺境伯は蹴散らされてしまったのか?
 確かにルアイン軍の数は多いように思える。けれど軍のおおよその人数を、ぱっと見であてられるほど、私は軍隊を見慣れているわけではないので、わからない。
 だから予想ができなくて。気が焦った。

「カインさん、早く、お願いです!」
「わかってる……!」
 カインさんは顔をしかめながら、馬に拍車を当てた。

 体が跳ね飛びそうになる私を、片腕で抱きとめてくれる。私は鞍にしがみつきつつ、師匠を抱きしめるので精いっぱいだ。
 そしてルアインの旗を見た瞬間、誰もが馬を走らせた。
 アランも、歩兵には後からついてくるように言い置いて城へ向かって疾走している。

 とにかくみんなにまだ無事でいてほしい。その情報が欲しかった。そしてルアイン軍の攻撃が始まっているなら、すぐにも駆け付けて、全力で阻止するのだ。
 けれど間に合わなければ何もかもがお仕舞いになってしまう。せっかく魔術師になれても、何の役にも立たない。

 馬から放り出されないように耐えながら、目裏にちらつくのは、血を流して倒れるレジーの姿だ。
 せめてレジーが外に出ないように。それだけを願って願って、ようやく全容が見える、けれど木立と岩に隠れられる場所まで来て、私達はようやく馬を止める。

 緩い丘陵地帯の坂に、進みゆく兵士達の波。その先にあるのは、私の目にも1年半の間に『帰る場所』として馴染んだエヴラールの石積みの城だ。
 ルアインの黄色の地に黒で描かれた獅子の紋が、刻一刻と城へ迫っていく。その歩みが止まるのは、城壁から射かけられた矢が降り注ぐ間だけだ。
 矢が途切れると、ルアインの黒っぽい鎧を着た兵士達は盾を降ろし、じわじわと間を詰める。城壁を乗り越えて侵入するつもりなのか、長いはしごまでも担いでいた。
 こちら側からは見えないけれど、門がある側にもルアインの軍は大挙しているのだろう。

「ち、父上は……」
 アランが呆然としたように目の前の光景を凝視している。
 ヴェイン辺境伯はどうしたのか。それすらもわからない。

 しかもこんなにも早く敵軍がやってきたということは、徴兵して集めようにも、ほとんど兵力を集め切れていないだろう。分家からの派兵も、ごく近くの者が間に合ったという感じではないだろうか。
 なら、城の兵力は……そう多くない。

 私はめまいがしそうだった。
 まるで、ゲームのオープニングそのものの状況だ。
 このままでは負けてしまう。城に火を放たれて、中にいるレジーやベアトリス夫人達も無事ではいられない。

 どうにかできそうな手はただ一つだ。
 千の兵士に匹敵するだろう圧倒的な力。それを使える自分がなんとかするのだ。
 私はカインさんの馬から滑るように降りると、地面に手を当てて魔術を使おうとした。やり方はわかっている。後はゲームでキアラが呼び出したような巨大な土土人形(ゴーレム)を作りだして……。

「待て、弟子よ」
「師匠、だってっ!」
 なんでこの状況で待てというのか。
 反論しようと振り返って、投げ出した後で上手く着地し一人で立っている土偶の顔を見た瞬間、ふっと私の中にあった焦りが鎮火する。

 不意に日常に引き戻されたような感覚になった。
 そういえばさっき師匠に顔が似てるからと土偶をつくっちゃったんだとか。みんなにぎょっとされたこととかを思い出したせいだろう。
 思い出し笑いをしそうになって、だけど何も口から出てこない。
 焦りと攻撃的な気持ちが消えうせたら、急に絶望に襲われて、涙がこみ上げてきそうだった。

「ししょお……」
「おいおいおい、わしの弟子のくせに泣くな。わしは昔からふてぶてしいのが売りなんじゃ、イヒヒッ」
 いっひっひと笑う土偶に、私は「うーっ」と唸る。

「だって、もうルアインの軍を魔術で蹴散らす位しか方法が思いつけないのに、どうして止めるんですか!」
「何をする気なのかはだいたい予測できるがのぅ。お前、巨大な土人形(ゴーレム)を出して兵士をつぶして行けば良いと思ったのだろう? しかしちゃんと良く見るがいい。土人形(ゴーレム)で踏み潰した先に、仲間がいては元も子もなかろうが」
「なかま?」

 息を飲んで、遠くを見つめる。
 黒っぽい兵士達の群れの中に、ルアイン以外の旗はない。ないけれど、人並みがずっと向こうの方でわずかに混乱を起こしてるのがわかる。

 ぱっと火花が上がったように見えた。とても松明が火花を散らしたとか、そんな小さなものではない。悲鳴のようなものも聞こえる。

「あれ、まさか魔術!?」
「そうさのう。肉体を失った今だからこそ言えるが、ルアインに通じておる奴らは、魔術師が上手く作れないならば、魔術師くずれを戦に利用できないかと考えていたようでな。もしかするとそういった奴が投入されて、あそこで暴れ狂っておるのかもしれん」
 ホレス師匠の言葉に、私は叫んだ。

「もっと悪いじゃないですか!」
 完全な魔術師ではないとはいえ、魔術師くずれも術をまき散らして辺りを破壊するのだ。厄介な相手に違いない。
 しかしホレス師匠は「イッヒッヒ」と笑う。

「考えてみよ、不肖の弟子よ。そんな魔術師くずれなんぞを使うということは、そこに敵がいるからではないのか?」
「え……あっ!」
 そこで話を聞いていたアランが割って入ってきた。

「まさか、向こう側で父上が戦っているのか!?」
「お前さんの親父かどうかはわからんがな、軍を率いて外に出ているのなら、可能性があろう」
 ヴェイン辺境伯が生きている可能性がある。少しだけ心が上向いたし、アランも希望を持てたおかげか冷静な表情に変わってきた。
 が、そんな私達にホレス師匠は更に悪い材料を指摘してくる。

「もう一つ問題がある。魔術師になったばかりのお前では、すぐには全ての魔力を扱えぬのだよヒヒッ」
「なんでですか?」

「契約の石だ。あれがお前の体に馴染んだばかりで、下手に魔術を使い続ければ、活性化して契約時のようにお前の体をむしばむだろう。わしを入れる小さな人形や、一人分の墓になりそうな穴だけならまだしも、大軍を蹴散らして仲間を救うことまで考えるのなら、奴らを踏み潰せるほどの巨大な土人形(ゴーレム)を……まぁ、十体は必要だろうのぅ。契約したばかりのお前さんには耐えられまい。死ぬぞ? ウヒヒヒ」
 思わず唇をかみしめる。

 死ぬ……。私が最も避けたいことだ。けれど出し惜しみして、レジー達が死ぬのも嫌だ。このままでは生きているかもしれないヴェイン辺境伯も危険だ。
 だから「それでも……」と言いかけた時だった。

「弟子よ心して聞け。あれは川の流れだ。無理に背後に岩を落とせば、その衝撃で下流へ向かう勢いが増すだけじゃ。水の道を変えるにはどうする。川を埋め立てたいのならどうするべきだ?」
「川……?」
 ホレス師匠の言葉に、私は睫の先に火花が散ったようにハッとする。

 もし、城の正門前に一体だけ土人形(ゴーレム)を置いたとする。城の正門へは容易に近づけないと悟り、兵士はそこから離れ、騎士達がまず土人形(ゴーレム)を攻略するため集まるだろう。もしかすると魔術師くずれをぶつけてくるかもしれない。
 一方で、兵士達はそれならと、ヴェイン辺境伯達の方へ殺到するのではないか。そして土人形(ゴーレム)が動けばやはり正門へ移動してきてしまう。であれば私は、もう一体土人形(ゴーレム)を作るしかないが、下手をするとイタチごっこになって、私の力がつきたらもう手をこまねいて見てることしかできなくなる。

 それは洪水に対して、土嚢を積む作業に似ている。
 対処はできても、応急処置に近いものだ。
 ではもっと効率よく、ルアインの軍を城に寄せ付けないようにしたなら……?
 そんな私の思考に、アランが援助してくれる。

「動きが早い騎兵じゃなくて……歩兵が攻城のために前面にいる。ほとんどが平民からの徴兵だ。魔術師くずれが、父上達を堰き止めるのに使われていると仮定するなら、その傍には状況を管理し、自分達に害が及んだら始末できるように騎士がいるはず。それらの動きを統括しているのは本陣で、それはおそらく歩兵たちの中心だ」

 最も守られ、兵達の流れが避けていく中洲のような場所が、ルアインの本陣だとして想像する。そこは将である人間を守るため、騎兵で固められているだろう。
 その騎兵たちは、何かことが起これば流動的に動く。

「歩兵は1ターンの移動距離が短くて、彼らは命令がなければ動けない。移動距離が多い騎兵は、どこに土人形(ゴーレム)が現れても先に仕留めに来る? となれば……」
 頭の中で、ゲームの兵の配置図を思い描く。
 けれど動かすのまでも頭の中で処理するのは難しくて、私は草の生えていない地面にがりがりと近くに落ちていた石を使って描いていく。

「ホレス師匠……こんな感じ?」
「ほう。いい感じだの」
 分かりやすく騎士を『K』と兵士を『P』、魔術師くずれを『M』で表記して配置すると、師匠が感心したような声を出す。
 カインさんとアランが頭を寄せてきて、私は彼らに自分の計画を話す。

 そうして話し合った動きを加味して別な図を描けば、二人もうなずき、ホレス師匠も不敵な笑い声を立てた。
 方針が決まった。

「行こう、カインさん。アラン……敵将を討つ」
 そうして私は地面に手をついた。

「さぁ出ていらっしゃい、ゴーレム!」
 自分の中の魔力と同じ力がゆったりと近くに集まる。
 密集した場所は、周囲の物質を動かし、形を私の意思を感じ取って変え、やがて地表に現れた。

 やや角ばった輪郭の、巨大な人の形。
 石を組み合わせたロボットのような形をした二足歩行の土人形(ゴーレム)は、地の底から這いあがるように立ち上がった。
 樹木の枝先ほどの丈があるので、たぶん身長は10メートルほどだろう。
 想像どおりの土の人形は、私の意思を感じ取ってルアインの軍へと向き直った。

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