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私は敵になりません! 作者:奏多
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魔獣討伐

 一人一袋。
 大きくはないものの、小さな袋を通常の荷物とは別に背負った集団が、朝日に背中を押されるように出発した。

「小さいのに重いな……」
「お前のは粉か? 俺のはごつごつして背部の鎧に傷つきそうだよ」
「僕の袋さ……もしかして肉?」
 兵士達はひそひそと話しながら、先導する騎馬に従って進む。

 おしゃべりしたくなるのも無理はない、と私は思う。使用法は説明されたけれど、変なものを持たされて行軍するのだ。
 しかもそう遠くはない場所にいる、魔術師と魔獣という、人間よりもやっかいだろう相手と戦うのだ。
 討伐である程度慣れている者は、本当に自分達が持っているものは役に立つのかと、考えてしまうだろう。

 私としてもこれは『上手くいったらしめたもの』という作戦なので、確実なことが言えないため、彼らの不安を取り除くことができないでいる。
 そんな私は、男物の衣服を借りて、カインさんの馬に同乗させてもらっている。
 手には鎖を巻きつけて石のペンダントを持ち、魔術師のいる方向を探っていた。

「このまままっすぐ……」
 私がつぶやく言葉を拾ったカインさんが、他の騎士に伝えて進路を修正していく。

 そうしてかなり近づいたと感じたのは、城から数時間離れた街道だ。
 私は方位しかわからないので、森の中をつき進むルートをとってしまうことになったが、おかげで人の背丈二つ分ほどの小さな崖の上から、敵の様子を先に視認することができた。

「いた……」
 囁き声で発見が伝えられ、攻撃のために整列しながら兵士達も敵の姿を確認している。

 街道を進んでいるのは、主に老魔術師とそれを囲む五人の兵士達が行動しにくいからだろう。森を突っ切るのは重労働だ。うっかり操っていない魔獣に遭遇することも考えてのことだろう。

 ただ魔獣の数が多い。
 いつもは30匹程度だが、今回は50は連れているのではないだろうか。風狼と空クラゲの両方を同数連れている。もしかすると、今までは力を温存していただけで、50匹を操るのがあの老魔術師の限界なのかもしれない。

 しかし混成部隊のせいか、時折魔獣同士で諍いをはじめそうになったりしていた。
 ……魔術師が押さえているようだが、やはり生存競争を行ってきた相手なので、魔獣たちは相手を追い払いたいという欲求が時々噴出するようだ。

 やがて魔術師は風狼を先行させ、やや後方に空クラゲを配置し、自分達はさらに後方から追う形に組み替えていた。

 しめた、と私は思う。
 すぐにカインさんを振り返れば、彼も今後の行動を察してくれたのだろう。馬首をめぐらせてアラン率いる一隊から離れようとした。

「キアラ」
 アランがそんな私を呼び留める。

「10騎連れていけ」
「え、でも」
 10人も騎士を連れていけば、兵の数が減ってしまう。風狼も空クラゲも、こんな低い崖はものともしないだろう。すぐに白兵戦になってしまうかもしれない上、今までにない大量の魔獣を相手にして大丈夫なのだろうか。

「人間の兵を相手にするなら騎士が一番だ。そして魔術師の攻撃に対応しやすいのも騎士だろう」
 確かにアランが言う通りではある。

「ありがたく好意を受け取りましょう、キアラさん」
 カインが騎士を貸してもらえと言う。

「そうしてもらわなくては困る……レジーになんて言われるか、わかったもんじゃない」
 アランの方も、さらに勧めてくる。レジーという単語を聞いて、私もさすがに断り切れない気分になる。
 私がこうして出ることに、結局良い顔をしなかったレジーだ。大怪我を負って帰ったら私も怒られるだろう。

 お互いにレジーにお小言をもらうのが嫌な者同士で合意する。ただ少し人数を減らしてもらい、5騎を借りることにした。魔術師を守る敵兵も5人なので、その人数がいれば十分だろう。

 私達は、すぐに崖を迂回して街道へ向かう。
 その間にアランは攻撃準備を整えていた。
 崖下に数人が袋の中身を撒き、弓兵は弓に矢をつがえ――一斉に射た。

 放物線を描いて落下する弓矢に、さすがに魔獣たちも気がついた。
 風狼は一斉に弓を放ったアラン達へ向かって走り出し、空クラゲはふわふわと移動を開始する。

(やっぱり警戒されてるか……)
 さすがに兵士達は、老魔術師を置いてはいかなかった。私達が不意打ちで老魔術師を捕まえたことがあったので、また狙ってくると考えたのだろう。
 裏をかくには、時期を見定める必要がある。
 離れた場所で馬から降りた私達は、木立に隠れて敵の様子を確認する。

 先行していた風狼達は、すでに崖下に迫っていた。そのまま登って来ようとしたところで、風狼達が逡巡したようにその場をうろつき始めた。
 彼らが気にして匂いを嗅いだりしているのは、肉である。
 ここまで兵達に運ばせ、先ほどアランがばら撒かせた物である。
 やがて風狼達は、アラン達の元へ急行するよりも、食事を優先させることにしたようだ。

「おい、なんで狼どもが動かないんだ?」
「わしゃちゃんとやっとるわい!」
 老魔術師と行商人風の恰好をした敵兵達が、この事態に騒ぎ出す。

 それを見た私は、しめしめと思った。
 私は魔獣が操られているとわかって、その理由を推測していた。
 たぶん魔獣は魔術師くずれと同じように、あの赤い飲み物を飲まされたのだ。そして師弟関係と同じ制約に縛られて彼らは従っているのではないか、と。

 なら、どうして魔術師くずれのように砂にならないのか。それは魔獣が元々魔術師のような存在に近いからだと思う。契約の石を体内に取り込まなくても、魔術を使える身体なのだろう。
 だから砂になって死ぬことはない。けれど同じ石を取り込んだ魔術師の命令を聞くようになるのではないか。
 けれど少量の契約の石では、師弟関係のような強制力を持たせるのは難しいはずだ。それなら……生きていく上で必要な欲には、勝てないのでは?

 予想通り、狼達は食欲を優先した。
 ていうか魔物だからって、食事のこととかあんまり気にしてなかったのでは。狼のがっつき方がすごい。あまり大きくない肉の塊を飲みこんでしまっている。
 ある程度食べた所を狙って、アランがまず矢で攻撃を加えた。
 肉につられて油断していた狼が数匹、矢が刺さって動けなくなる。

 しかし攻撃されたことで、狼達の気持ちが食欲から逸れた。崖を駆け上がり、アラン達に襲い掛かろうとする。
 風の力を使って飛び上がった狼達は――飛び上がりすぎてアランたちの頭上を越してしまう。
 風狼自身もぎょっとしたように足をばたつかせ、それでもなんとか着地したが、動揺して行動が遅れたことで、アラン率いる兵士達への対応に遅れが目立つ。

「上手くいきましたね」
 カインさんのささやきに、私はうなずいた。

「こんなドンピシャだとは思いませんでした」
 種明かしをすると、肉の中に鉱石の粉やカケラを入れていたのだ。

 風を起こす魔術を使うため、時折魔術師が媒介として利用する流晶鉱だ。この知識を得たのは、エヴラール辺境伯の城の書庫にあった、何代か前の領主の日記からだ。

 魔術師が集めていた魔獣にはパターンがあった。
 全て風を起こす属性のもの。風狼、空クラゲ、どちらもそうだ。
 そして風狼は、この鉱石が採掘される近くに生息している。風狼は定期的にこの石をかじって、風を起こす力を維持しているらしい。
 そこで考えたのが、魔獣達に媒介となるこの鉱石を過剰摂取させることだ。
 取り込みすぎた魔術を使う媒介。そのせいで魔術が暴走するのではないかと思ったのだ。

 でも失敗する可能性もあった。
 その時には魔獣の数だけ減らし、一度退却。それからもう一度態勢を立て直してアタックすることにしていたのだが。
 予想通りの結果に、私の口角が上がる。

 風狼の様子がおかしいことを見て取った老魔術師は、空クラゲを急いで向かわせた。
 しかしそちらには粉にした流晶鉱をばら撒く。これの用意に、一番時間がかかったかもしれない。崩れやすい鉱石で助かった。

 浮く力に魔術を利用していたのだろう空クラゲは、高さを調節できずに空高く舞い上がりすぎたり、地面に設置するほど降りてきたりと、こちらも混乱していた。
 接近戦を挑むには、長い触手や棘が怖い空クラゲだが、そうして混乱しているおかげで、弓兵達は次々と射落とすことができている。

 落ちたクラゲはばたついていて、止めを刺すにはさらに矢を射なければならない。けれどアランはそちらではなく、浮いているものを射落とすことを優先させていた。
 完全に倒せなくとも、無力化できればそれで十分だ。
 この状況に、真っ先に焦ったのは老魔術師だった。

「わ、わしゃ逃げるぞい!」
「おい!」
 反転して駆け去ろうとした老魔術師を、兵士の一人が捕まえる。

「契約が違うだろうが!」
「これは契約違反じゃないわい、また魔獣を集めてここまで来ればいいんじゃろが? ヒヒッ」
「しかし本隊の行動に間に合わない!」
「だが手駒が足りないのは事実だ……」
 一気に混乱し、敵は逃げたい者と逃げるわけにはいかない者とに分かれて言い合いをはじめた。

 私達はそこへ突入する。
 間近まで迫ったところで気付いた敵兵が剣を抜くが、もう遅い。
 カインさんの一閃で斬り伏せられる。
 血しぶきに私はひるみそうになるが、今度こそ魔術師を倒すのだ。
 歯を食いしばる間に他の四人の兵士も、一緒に行動していた騎士によって倒された。

 あっという間の出来事に、老魔術師は呆然とした表情をしていた。
 けれどくっと笑い声を漏らす。

「ヒヒッ。これは僥倖じゃな。おかげでわしは自由の身だ。ウヒヒヒ」
「……どういうこと?」
 カインさんの後ろから尋ねた私を見て、老魔術師は目を瞬く。

「ほう、こないだの嬢ちゃんか。ウヒヒ。もう敵対する必要もなくなったからの、教えてやろう。わしは自病のための薬と引き換えにこの仕事を受けたんじゃ。その際の契約で、エヴラールの城を攻めることと、こいつらを傷つけちゃならんと言われてたんだがの」
 そう言って老魔術師は、近くに倒れた敵兵の一人の荷物を取り上げる。

「この薬さえあればいいのよ。もうお前さんたちの敵にはならん。さらばだイッヒヒヒ」
 笑う老魔術師が浮かび上がる。風の魔術だ。

「ま、待て! そんな理屈が通るか! 自由にさせておいたら城を攻めるつもりだろうが!」
 こちら側の騎士が叫んだが、老魔術師はヒョッヒョッヒョと笑うばかり。

 しかしその笑い声が唐突に途切れた。
 飛来した矢が老魔術師の肩に突き刺さったのだ。

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