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私は敵になりません! 作者:奏多
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魔術師、捕獲します

 それからは、私の予想が当たったかのように、魔獣の動きが活発化した。

「矢を射ろ!」
 討伐に出たアランが命じると、彼の背後に並んだ弓兵が矢を放つ。
 木立に隠れるアラン達から放物線を描いて飛ぶ火矢が、少し離れた草原の空に浮いている空クラゲの一団に向かって行く。
 十匹はいるくらげ達は、その長い半透明の足で矢をたたき落としたりもするが、三分の一が火矢が当たって蒸気を上げながら落下していった。

 アランたちがいるのは、城から一時間ほど離れた場所だ。
 こうした討伐は、一週間に二度ほど行われるようになっていた。近隣の町や村から、魔獣が出たと報告がやってくるようになったからだ。

 討伐が終わらないうちにと、私はその様子から視線を離し、林の中を馬で走り出した。
 その後ろにいるのはカインさんだ。
 一ヶ月前のあの夜、魔術師を探すと言う私に『それが辺境伯家を守ることになりますか』と尋ねられた。うなずくと、カインさんは協力してくれると言ってくれたのだ。

 でも疑問だった。
 カインさんはアランにした話を聞いて、私を敵ではないと言ってくれた。だから私を信じてくれるとは言ったけれど、前世の話を荒唐無稽だとは思わなかったのだろうか、と。
 疑問をぶつけてみると、彼は言った。

「私の両親は、先のルアインとの戦で亡くなりました。あの時はルアインの巧妙な罠に気づかず、南のランドールに援軍を送っている間に不意打ちされたのです。その頃、皆はルアインがランドールに派兵した数を聞いて、辺境伯領には手を出せないと思っていました。しかも大雨で、ルアインへ通じる道が崖崩れで使えなくなっていたと聞いていたからです。それならば軍など通行できないと考えられていました。ルアインは、復旧工事にかりだした工員の振りをさせ、軍を伏せておいていたというのに。その策だとは気づかなかったのです」
 カインさんは苦い笑みを浮かべる。

「油断していたせいで、国境付近で採取に訪れていた民も、畑に出ていた者も巻き込まれました。だから私は、どんな些細な情報でも無視はしないようにしたいと思っているのです。実際に現在は、今までにない事態が発生しています。そこから考えても、あなたの警鐘を無視できないと判断したんですよ」
 カインさんなりに、状況から『万が一』の場合があるかもしれないと考えての判断だという。
 盲目的に信じられるより、確固とした理由を挙げてもらえて、私も安心した。だから喜んでカインさんの協力を受けることにしたのだった。

 私は林の中を、焦げたパンみたいに所々が濃い黒の馬を走らせる。その後から、カインさんの葦毛の馬が後を追う。
 そうでなければ見つけられないのだ――魔術師を。

 あれから一ヶ月、これを繰り返す間に、移動していても茨姫の石が伝えてくる感覚を受け取れるようになっていた。
 けれど毎回、察知したように魔術師だと思われる相手は移動して逃げられてしまっていた。
 しかも魔術師の近くには、大抵魔獣がいる。戦闘能力ゼロの私とカインさんの二人組だけでは、とても近づけないのだ。

 カインさん曰く『魔術師は魔獣を操っているのではないでしょうか』とのことだ。
 その予想は当たったようで、頻発しだした魔獣による町の襲撃と、魔術師の居場所は必ずぶつかる。
 カインさんは、それを辺境伯夫妻に報告した。その魔術師を倒せば魔獣の被害も収まるだろうと。おかげでカインさんが補助につき、私が魔術師を探すことを許可してもらえた。

 とはいえ、私が魔術師の居場所がわかるなどと、現時点で広く話せるものではない。
 期待させすぎて失敗した場合、そして魔術師くずれと誤解されて私が迫害されるのを防ぐため、辺境伯夫人などはとても心配して話を伏せ、危険を回避するために二人だけで魔術師を探すことを了承してくれたのだ。

 アランは……今はまだ、黙ってくれている。
 彼もいろいろと考えているのだろう。時折、物問いたげな視線を感じるものの、何かを言ってくることはない。彼の視線から敵意とかは感じないけれど、会話もほとんどなくなっていた。
 けれど私が身の証を立てるには、魔術師になるのが最速の道だった。それまでは、どんなに説明したってアランを納得させられる材料を提示できないので、何も言えない。
 根拠がないからだ。
 また根拠は待っていればやってくるが、それでは全てが遅すぎる。
 だから待っていてと願いながら、私は魔術師との接触を急いだ。

「……近いです!」
 報告すると、警戒のためにカインさんが馬を下りて近づくよう指示してきた。
 不意打ちするために、馬にくくりつけていた道具を持ってゆっくりと近づいていく。カインさんは毛糸の束を。私は水筒を二つだ。
 人数は二人きり。戦闘ではお荷物に近い私がいるので、魔術師を捕まえる方法は相談して決めていたのだ。

 20メートル先に行ったところで、林の倒木に座る一人の老人の後ろ姿を見つけた。
 どこかの世捨て人かと思うような砂色の足首まである貫頭衣を身につけた上から、闇に紛れることを考えてか、黒っぽいマントとフードを羽織っている。杖は側に立てかけてあるが、まっすぐな枝を切り出した、しっかりとT字の持ち手がある歩行用だと分かる杖だ。
 老人の視線の向こうは木立が開けていて、暴れる空クラゲと宙を舞う火矢が確認できた。

 私は心の中でガッツポーズをする。
 この老人は、一ヶ月探し続けた魔術師に間違いなかった。感覚を頼りに追いかけて、魔獣に襲いかかられて逃げながらも、三度ほど遭遇している。
 今老人の側に魔獣は何もいない。遠く隠れた場所にいることと、アラン達が魔獣に集中していることで、安全だと思っているのだろう。
 もう一つ有利な点は、魔獣を操っているせいなのか、こちらにまだ気付かないでいてくれていることだ。

 私はカインさんとうなずきあう。
 そして数秒後、カインさんが投網を投げた。

「ぬお!?」
 驚く魔術師だが、川魚用とはいえ身体を覆うほどの大きさの網にやすやすとかかる。しかしそれだけではだめだ。魔術を使って網を破ろうとする老人に、近づいた私は大きめに作った水筒の水をばらまいた。

「冷たっ」
 老人が悲鳴をあげるが、かまいはしない。
 仕上げに私は、もう一つの水筒のなかから掴みだしたものを、老人に投げつけた。

 木漏れ日を受けて、きらきらと輝く葉。その下にくっついている球根みたいな身体と顔。根っこを嬉しそうにばたばた動かすのは、雷草だ。
 暗い場所に閉じ込められていた雷草は、陽の光に喜んでパチパチと放電しつつ落下する。
 そして着弾。

「ぎゃあああっ!」
 目には見えないものの、老人の身体に水を伝って電気が走ったようだ。
 悲鳴をあげた後は、ぐったりとそのばに倒れ込む。 
 魔法を使えない私が、唯一思いつける攻撃法だ。しかも一匹分ならば死ぬまい、むしろほどよく老人を身動きできなくしてくれるであろうと思ったのだが。

「……死んだわけじゃ、ないよね?」
 私が問いかけると、カインさんもちょっと不安そうだった。
 とりあえず一緒に感電して動かなくなった雷草を、適当な枝を拾って遠くへ放り出し、安全を確認した上で、網を使って老人を拘束した。

 その間、老人が呻いていたので生きてはいるようだ。
 ようやく身動きをとれなくしたところで、カインさんに老人に剣を突きつけてもらい、ゆさぶって起こすことにする。

「起きてくださーい。おはようございまーす魔術師さん?」
 どう呼びかけていいのかわからなかったのでそんな言葉になってしまったが、老人は無事に目を覚まし、目をかっぴらいた。

「何じゃ貴様等!」
「あなたを捕獲した者です」
 真正直に言えば、カインさんが「そういう言い方は……どうなんですかね」と呟いていた。
 一方の老人は、私の顔に見覚えがあったようだ。

「ふん、この間もわしの魔獣にちょっかいかけておった奴らだな? 覚えておるぞ、あれは三日前のことじゃった。ヒヒッ」
 枯れ枝みたいな魔術師は、奇妙な笑い声を漏らした。

「この老いぼれを捕まえて、魔獣をけしかけるのを止めさせようっていうのかいな? ヒヒヒ」
「いいえ。魔術師になる方法が知りたいんです。答えてくれませんか?」
 私が言うと、予想外の言葉だったようで、老魔術師は一瞬だけ目をみはった。

「ほう、お前さんは若い身空で砂になって死にたいのかね? ヒヒッ」
 え、魔術師になろうとしただけで、砂になって死ぬの!?
 私の動揺を察したように、魔術師がにやりと小悪党みたいな顔で笑う。

「魔術師になれる者などそういないのだよ。たとえ師が導こうとも、半数は砂になるのじゃ。全ては契約の石に己が耐えられるか耐えられないかでな……イッヒッヒ。まだ先の人生が長いだろう嬢ちゃんにはできまいよ。だから魔術師になろうなんて者は、もうそれ以外に生きていく道がない人間ばかりじゃ。ウヒヒ」

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