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私は敵になりません! 作者:奏多
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何があっても、あなたの敵にならないために 2

※少々怪我に関する痛い表現が出てきます(今さらですが)ご留意くださいませ
 王妃に魔術を使わせないため、せめて魔力の流れを断ち切りたい。

 ……そこで私は気づいた。
 王妃の意図したものと、同じ方向に魔力を操ろうとすると負けてしまう。でもそれ以外なら魔力を動かせそうだ。

「二度と、あなたを死なせない」

 口から、私自身の言葉がもれた。息を吸ってお腹に力を入れて、ぐっとある部分の魔力の流れを断ち切る。
 固くくぐもったような音がした。
 自分の口から出た呻きは、私のものだったのか王妃のものだったのかわからない。ただ痛い。
 力が入らなくなった腕を上げて、あり得ない箇所から曲がる腕を見て、王妃が悲鳴を上げた。

 これで王妃は魔術を上手く扱えなくなった。
 折れた腕で床に触れても、魔力の流れが阻害されて魔術を上手く操れないのだ。だって王妃は、まだ私じゃない。折れた腕では魔術が扱いにくいのだ。
 王妃が操っていた土人形も、動かなくなってぼんやりと立つだけになった。維持するだけで精いっぱいなのだろう。

 レジー達も私が何をしたのかわかったのだろう。
 驚愕に目を見張ったけれど、一気に攻勢に転じた。土人形を茨が拘束し、騎兵達が何度も刃を突き立てて壊そうとしている。
 でもそれじゃ足りない。

「これで、終わりに……」

 王妃が痛みと、私が身を切る選択をした衝撃で気がゆるんでいるうちにしかできない。
 私は側の石を操って剣の形にして、自分の心臓を貫こうとした。

「キアラ、だめだ!」

 レジーがこれ以上ないほど苦しそうな表情で、私へ駆け寄ろうとする。
 まだちゃんと、レジーは私のことを心配してくれているのがわかった。それだけで安心できる。

「もう十分……」
(十分なんかじゃないわ! 滅ぼすのよファルジアも、ルアインも!)

 心の中で、王妃が叫んでる。
 暴れ出したくなる気持ちを押さえつけた私は、自分を突き刺した。

 ……不思議と、痛みは感じなかった。既に王妃に少し乗っ取られかけているからだろうか?
 王妃が悲鳴を上げているのは感じた。

 ただ苦しい。
 息ができない感覚に怯えて、心が暴れ出しそうになる。
 もう他の人の声も聞こえない。
 視界も暗くなって……真っ暗な場所に閉じ込められたようになった私の前に、ぽつんと座り込んでいる人だけが見える。王妃だ。

(どうして……。なんで死ぬのよ)

 王妃がそう言うのなら、私は死んだのだろうか。

(もう少しで、ルアインもファルジアも壊せたのに……。全部貴方のせいで……)

 恨みごとを言いながらも、王妃は覇気を失ったような表情で涙を流すことしかできない。
 その理由は言わなくても伝わってくる。
 王妃はこのためだけに生きていた。自分の婚約者を殺した母国が滅びるよう、戦が起きた時のために魔術を使えるようにして。

 ……王妃が魔術師になれたのは、魔獣と契約の石を分け合った上でのことらしい。クレディアス子爵にその実験をさせ、何人も犠牲になったようだ。
 代わりに王妃は、魔獣の血を介在させなければ他人に魔術を使うことはできなかった。
 だからここでレジー達を待っていたのだ。

 魔獣の血が入り込んだので、王妃は私に憑依することができた。
 でも私を完全に支配できなかった以上、魔術が完成しなかった王妃は消えてなくなる。
 目の前にいる王妃の姿は、少しずつ薄れて行った。

(ただ復讐したかった。あの人のいない世界なんて全て滅べば良かったのよ)

 そんな気持ちは理解できる。
 私も一度目の時は、自暴自棄になって何もかもどうでも良かった。だから言われるがままに、レジーが大切にしていたものにまで攻撃してしまった。

 一度目の私は、カインさんを死なせてしまって、ようやくクレディアス子爵を殺しても心の中に何も残らなかった。
 せめてアランに殺されて、彼の憎しみを受け止めることしかできないと思った。

 ……私は弱かったんだ。
 自分で反抗する方法もあったはずなのに、怖くて従っていた。レジーが現れてからは、依存してしまった。そのうちに死ぬ決断でさえ、レジーがいないとできなくなってしまった。
 でも今は違う。

「貴方は自分のやりたいことを貫いた」

 そう伝えると、王妃が困惑したような顔で私を見上げた。肯定されるとは思ってもいなかったんでしょう。

「でも貴方は、自分が弱くなる方法を選んだの」

 王妃が自分の願いを叶えるためにするべきことは、これじゃなかった。

「貴方は、婚約者を守るために直接ルアインの王を殺すべきだった。婚約者と一緒に戦って、国を自分のものにするべきだった。そうしたら、貴方の婚約者は今も生きていたかもしれない」

 失敗するかもしれない。それでも王妃が戦いを避けなければ、可能性がまだ残っていたと思う。国を滅ぼそうとするぐらいの気概があるのなら、そうできたはずだ。

(う……)

 王妃は自分の顔を覆って、泣き崩れる。

(そんな……だって)
「わかってる。思いつかなかったのよね。この世界で生きている私達は、誰かに従うことに慣れ過ぎていて、自分の手で実行することを忘れてしまいがちだから」

 私が反抗できたのは、前世の記憶が蘇ったおかげだった。自由で、従うかどうかも自分次第だった世界で生きた記憶があったから。
 言われた通りの場所に嫁ぐよう育てられた王妃は、嫁げという命令に従うのが当然だと、そうすれば簡単に婚約者を救えると思ってしまったのだ。

(私があの人を救えなかったのは、嫁いだせい? 兄を……殺せば良かった?)
「私も、一度目の時にレジーを守れなかったのは、誰かに助けられるのを待ってばかりだったからよ」

 彼を殺す命令をした王妃を、ずっと恨んでいた。でも助けられる可能性があったのに、私が戦わなかったのも事実だ。

「いずれルアインは滅びるわ。だからもう眠っていいのよ。もう、貴方の敵はいない。貴方はもう、目的を果たしたも同然なのよ」
(目的を果たしても、あの人はいない。……そんなことわかってた。だけど気づきたくなかった)

 王妃が手を下ろして、私を見上げる。

(貴方は、やり直せたのね。羨ましい……)

 私に向けた王妃の感情は、複雑なものだった。拭えない悔しさの中に、理解者を得た安堵がにじんでいた。
 でもやり直せた私を憎らしいと思っていて、手を伸ばしてくる。

(せめて貴方ごと滅びることができるのなら、諦めがつくかもしれない)

 王妃が私を道連れにすることで、達成感を得ようとするのは理解できる。王妃の計画を潰すきっかけになったのは、私だ。私さえいなければ、エヴラールでレジーをあっさりと殺せたのだもの。
 でも、どうせ私は王妃と一緒に消滅する。

「心臓を突き刺しちゃったはずだし、傷薬じゃ治すのも難しそうだものね」

 自分が死ぬというのに、なんだか妙に未練が無い。どうしようもないってことがわかっているからだろうか。

「それに、目的は果たしたから」

 この戦争でレジーを死なせないこと。ファルジアを勝たせること。どちらも叶えた。
 だから伸ばされた王妃の手を、避けなかったのだけど。

「貴方は死なせない、キアラ」

 茨姫が現れて、王妃の肩を背後から掴んだ。
 どうして茨姫がと思っているうちに、茨姫が掴んだ場所から王妃が石に変わって崩れて消えてしまう。
 そして唐突に、痛みを感じた。

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