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私は敵になりません! 作者:奏多
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そして王妃と会う

 王宮へ続く通路は、先ほどよりも広かった。
 二人並んで進むことができるし、高さもある。
 暗く、どこまで行けば出口にたどりつくかわからない場所を進むのはとても気が塞ぐけれど、少し広いというだけでもほっとした。

 何より、隠し通路を使えば敵に発見される確率は低い。
 魔獣と魔術に対応するための少数部隊だから、集団に責められるのに弱い。王妃の近くへ行くまでは、見つからずに無傷を通したかった。
 そうして私達は、無事に出口へたどり着いた。

「敵はいないか?」

 様子を探ろうとするレジーに、私は言った。

「あ、のぞき穴作る?」

 向こうの壁も石なら、簡単に穴が開けられる。
レジーに頼まれ、さっそくのぞき穴を二つほど開け、兵士さんが確認していざ城内へ。

そこは、国王の部屋だった。
 広い部屋の四隅に、装飾が施された両手を広げても囲めない太い柱が四つあり、そのうちの一つが隠し通路の出入り口になっていたようだ。
 装飾をすることで、継ぎ目をわかりにくくしていたらしい。

 部屋の中には誰もいない。
 絹や色糸を使って模様を折り出した掛布のある寝台と、テーブルに椅子。ソファ。長櫃やクローゼットという、一見しただけで美しい調度品がある部屋は、誰かが使ったように荒れていた。

「まず王妃がいる場所を探そう。できれば兵士を生け捕りにして、聞き出せたらいいんだけどね。もしくは……あるはずだった未来と同じ場所にいるのか」

 そう言ってレジーが茨姫に視線を向けた。

「私が見た未来では、王妃は謁見の間にいたわ。王都の壁周辺で戦っているのだから、同じ場所にはいると思う」
「それなら謁見の間へ向かいながら、途中で見つけた兵士を捕えて吐かせた方がいいでしょう」

 グロウルさんの提案で、進む方向が決まった。
 再び壁に穴を開けて様子を見て、私達は国王の部屋の外へ出た。

 王宮の中は意外なことに、静まり返っていた。
 侵略してきたルアインも、占領できているのはほぼ王都のみという状態だ。しかもファルジア軍はいつ王都に侵入してもおかしくはない。

 こんな状況なら、逃げようと王妃に勧める臣下とか、その時間を稼ぐために城の防備を固めるために走り回る兵士や、指揮をとる貴族の姿があったり、声が聞こえたりするものだと思ってた。
 ……うん、大河ドラマの影響かもしれない。落ちる直前の城の様子って、それしか連想できないから。

 だとしても、あまりに静かすぎて拍子抜けしてしまう。
 でも警戒は怠らない。
 敵だって侵入を警戒して、どこかに潜んでいるかもしれない。
 レジー達は慎重に周囲を探りながら進む。カインさんも万が一の場合に備えて、あちこちに視線を配っていた。

 国王の部屋は三階にあるらしい。
 謁見の間は二階なので、一度階段を降りる必要があった。
 階下を伺いながら進むと、二階と一階には衛兵がいたようだ。彼らはもう逃げる気らしい。

「王子の軍には魔術師が二人もいるんだろ?」
「魔術師くずれを沢山ぶつけても、だめだったらしいからな。逃げるしか」
「今なら大丈夫だろ。監視役の兵がいないから……」

 そこで彼らの声は途切れる。
 口を塞がれ、別なファルジア兵に剣をつきつけられて階下から見えない場所。私や他の人々が隠れた部屋に引きこまれる。

「叫べば殺す」

 そうグロウルさんに睨まれて黙った彼らは、どうやらファルジア貴族の兵だったらしい。
 ルアインに加担した貴族から、王宮に勤められると聞いて徴兵に応じたのだという。
 命さえ助けてくれるならと、彼らは王妃の居場所を告白した。
 王妃はやっぱり謁見の間にいるそうだ。

「王妃の他に兵は何人ぐらいいる?」
「たぶん何人かは……詳しくは、そこの担当じゃないので。ただ、ルアインから送られて来た奴隷を侍らせてるって話は聞きました」
「奴隷?」

 小声でつぶやいた私に、師匠がささやく。

「魔術師くずれにするためじゃろ」

 なるほど。沢山の兵で自分の周りの防御を固めない代わりに、魔術師くずれを常時作り出せるようにしているわけだ。
 たとえそれでも……と、私は不思議に思った。

 王妃は、何を考えているんだろう? 負けが込んでも彼女が逃げない理由がよくわからない。
 自分が王位についたと宣言したから? それとも、故国へ帰るわけにはいかないと思う理由があるの?

「王妃は……倒されるのを待ってるのかな」

 そうでなければおかしいぐらいで、ついつぶやいてしまう。すると茨姫が応じてくれた。

「私が一度見た未来では……。殺されても満足そうだったわ。おそらくアランを殺せば、ファルジアが混乱し続けるだろうってわかっていたのでしょう。王妃はたぶん、自分が死んでもそれでいいと思ったんじゃないかしら」

 悪役らしいといえば、らしいなと私は思った。
 そうまでしてファルジアに打撃を与えたいのは……敵国だからだろうか。

 とりあえず話を聞き出した兵士二人は、縛ってその部屋に転がしておき、疑問を引きずったまま、私はレジー達と移動を始める。
 二階は、やはり頻繁に兵士が行き来していた。

「こればかりは、駆け抜けるしかないですね……囮をしますので、その間に殿下方は先へお進み下さい」
「わかった」

 提案したフェリックスさんに、レジーは悩むこともなくうなずいた。
 フェリックさんが、五人の騎士を連れて階下へ突入する。
 階段から遠ざかって行こうとした敵兵三人をすぐさま制圧する。
 けれど追いかけた私達がフェリックスさんの横を通過した頃には、待機場所等にいたらしい兵士達が、近くの扉から出て来た。

 その数ざっと十人ほど。
 さらに階下からも兵士が上がって来ようとしている。
 私達を庇うように立つフェリックスさん達が最後尾について戦うが、これでは負担が大きい。

「キアラさん?」
「ちょっとだけ!」

 えい、と私は階段に穴をいくつか作る。兵が数人、それで転んだり、足が下にはまって怪我をして動けなくなる。
 そうして私は、カインさんに引っ張られるようにしてレジーの後を追い、開かれた大きな扉をくぐり抜けた。

 そこは謁見の間だ。
 中央に道を示すように敷かれた赤い絨毯。
 その先に三つの段があって、金で装飾された大きな椅子が置かれている。

 座っているのは、暗い緑の裾が広がらないドレスを着た赤茶色の髪の女性だ。
 名乗られなくても私は知っている。
 何度も夢で見た人――ファルジア王妃マリアンネ。
 痩せすぎとしか見えない彼女は、優雅に立ち上がってレジーに声をかけた。

「待ちわびていたわ。あなた方を殺せる日を」

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鳥かごの大神官さまと侯爵令嬢


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