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私は敵になりません! 作者:奏多
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攻撃の開始

 お互いの哨戒が、川の上流から移動してくる援軍を見つけたところで、戦闘が開始された。
 敵も川を船で下ってくるファルジアの援軍のことは、察知していたらしく、最初からそちらにあたるべく、軍を分けて配置していた。

 やや上流で待機していたルアイン軍が、下って来る船に向かって一斉に矢を放つ。
 ファルジアの貴族連合軍は、街道へ続く橋の前を占拠していた。
 援軍に合わせて前進して来たファルジア軍に矢を放つ。
 けれど私達の方も、矢が届かない距離で一度停止した。

「じゃ、先に魔術を……」

 ひとまず撹乱のための土人形を作ろうとしたところで、敵軍の矢が止んだかと思うと、誰も御者台にいない馬車が複数、こちらに向かって来る。
 荷台には何人かの人を乗せていた。

「何だろう」

 首をかしげる私とは違い、近くでそれを目を凝らしてみていたアランが、軍に指示を出す。

「矢を射ろ! 馬ごと殺せ、たぶん魔術師くずれだ!」

 前方に固められていた突撃部隊より前に、急いで弓兵が出て来て矢を射始める。
 三台の馬車は馬が矢に射られて、川を渡った場所で止まる。
 残りの四台はファルジア軍に近づいたところで馬が倒れ、乗せられていた人達が、横転した馬車から投げ出された。

「兵士じゃない……」

 地面に無抵抗なまま投げ出された人達は、鎧も、所属国がわかるマントも身につけていない。それどころか、黒っぽい衣服の召使いらしき女性までいた。
 明らかに非戦闘員だ。
 彼らは痛そうに叫びながら起き上るものの、すぐにその体が炎に包まれる。間違いなく魔術師くずれにされたのだろうけれど。

「兵士の士気を下げないためだと思います。おそらく自分の家で雇っていた召使い達を、生贄にしたんでしょう。戦っている者から生贄を選ぶことになっては、いくら金を払っても逃亡者が出ますからね」

 カインさんの推測にぞっとする。

「ルアインも、無理やり罪人を作って魔術師くずれにしておったが……。兵士の士気は保てるじゃろうが、こりゃ相手もここで果てる気かいな?」

 師匠がカインさんの話に、自分の意見を口にした。

「え、どうして?」
「貴族は元から使用人を人扱いしない奴がいるもんじゃが、ファルジアの場合は他とは少し違うじゃろ。周囲の国との小競り合いが多い分、自分の領地の人間や民にそむかれては、勝てないとわかっている。非戦闘員を無理やり戦場に放り込むような真似をすれば、とても貴族として生きて行けないのではないか?」

 ああ、と私は思い出した。
 ずっと前、ジナさんに『ファルジアの騎士はお行儀が良い』と言われたことを。
 師匠の故郷だったサレハルドや他の国だと、もっと貴族も騎士も粗雑なのかもしれない。

 今の所サレハルドの騎士さんとは交流もないし、私が脅している側だから怯えられているので、粗雑なことをされることもないので、よくわからないけれど。

「王子が勝利を収めた後、王妃に加担した罪を問われることを恐れて、ここで散るしかないと追い詰められたのかもしれませんね」
「それならば、後のことを考えなくともおかしくはない、か」

 師匠とカインさんの会話で、王妃に味方した貴族達も負ける覚悟はしていることはわかった。そのせいで、なりふり構わなかったことも。
 それよりも、気になることがある。

「でも、全員が火属性ってあるのかな……?」

 今までの魔術師くずれと、やっぱりどこか違う。パトリシエール伯爵を倒した時にも思ったけれど、今回は人数も多いのに。
 魔術師崩れ達は、矢の雨の中で何人かは倒れ、そのまま砂になってしまう。
 けれど矢をも燃やす強い魔力を持った者が、ファルジア軍の方へと走り始めた。
 しかも、後からも魔術師くずれを乗せているのだろう、馬車がまた走ってくる。

「キリが無い」

 舌打ちするアランに、私は言った。

「予定通りに行っていい? アラン。土人形を出して途中の魔術師くずれも倒すわ!」
「そうだな……遅らせるのもマズイ」

 アランはうなずき、新たな指示を兵に出す。

「魔術師の土人形に続いて突撃!、土人形がうち漏らした魔術師くずれは、槍を持つ人間が始末しろ! それ以外の奴は距離をとれ!」

 私は土人形を三体作る。
 今回は師匠を使わず、遠隔だけで操作した。
 二階建ての家ほどの高さがある土人形が走り出す。ロイン川にかかる橋を通り抜け、途中にいた馬車を踏み潰させた。

 木が壊れる音が響くと、思わず肩が震えた。
 相手は、戦うために戦場にやってきた人じゃない。なのに殺さなくてはならない。それが辛い。
 でも昔とは違う。彼らはもう助からないことも、この戦いを長引かせるほど被害者が増えることもわかっているから、ためらったりはしない。

 土人形はそのまま敵陣へ駆け込んで、敵兵を踏み潰し、蹴り飛ばしていく。
 ルアイン軍と違って、敵となったファルジアの貴族軍は私と戦ったことがない。土人形の突撃に逃げ惑い、ルアイン軍よりもたやすく数を減らしていく。

 土人形を追いかけるように、アランが軍を突撃させた。
 四人ほど残ってしまった魔術師くずれは、予め敵も出してくると考えて備えていた兵で討ち取っている。

 敵の貴族軍は土人形に混乱させられ、そこに攻め込まれて浮足立つ。けれど、なかなか後退していかない。
 当初の予定通り、私はもう一つ下流側に橋を作った。
 突撃させる兵の数を増やせるし、撤退させる時にも利用できる道として。
 けれどそこで、アランが渡河を停止させる。

「来た! 魔獣だ!」

 指さした方向に見えたのは、炎をまとった尾の長い巨大な鳥の姿だった。

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