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私は敵になりません! 作者:奏多
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茨姫と記憶 3

「貴方を動かすためには、前世の記憶を思い出してもらう必要があったわ。できれば魔術師になる前に。でなければ貴方は自由に動けないし……」

 茨姫はじっと私を見る。

「たぶん別な世界で生きていた貴方なら、もっと別な方法を考えてくれるかもしれないって、そんな風に期待したから」

 確かに、私に前世の記憶がなければ、今の状況にはなっていなかっただろう。逃げても無駄だと思って、同じような人生を辿ったに違いない。

「私は、生まれたばかりの貴方を探した。まだ小さい頃から記憶があった方が、貴方が前世の自分に近い性格になるだろうと思って。だから申し訳ないんだけど、家に忍び込んで貴方に魔術を使わせてもらったわ。家を探す方が苦労したわね」

 茨姫はまだ二歳くらいの私に憑依魔術を使い、眠っていた記憶を掘り起こした。
 だから私には、物ごころつく前には前世の記憶があったのか。

「エフィアからもらった魔術にはね、完全に過去に戻ってしまう魔術と、短い時間だけ過去に戻る魔術があるのよ。エフィア自身は短時間だけしか移動できなかったみたいで、そのせいで彼女は逃げられなかったのだけど……私は、十年以上遡れた。だから過去を変えると決めた時、私は起点になる時間を決めて何度か試行錯誤しては、あの森の中で記録をつけていたわ」

 茨姫は、失敗したもの。成功できそうなもの。次どうするのかを書いては過去へ戻り、経過を見るためそのまま未来までの時間をすごしては戻ってを繰り返したようだ。
 正直、私だったら頭がおかしくなりそうだ。
 それでも茨姫は何度も試行錯誤し続けた。全ては、我が子レジーを救うために。

「貴方とレジーが思いがけなく森へやって来た時は、驚かされたわ。暗くて悲壮感しかなくて痩せこけていた貴方しか見たことがなかったから、一瞬、誰だかわからなかった。でも記憶の中の貴方よりずっと健康そうで、前向きな目をしていて……しかももう、レジーと出会ってくれていた。これならきっと、助けてくれると信じたわ」

 茨姫に微笑まれ、私は気恥ずかしくてうつむいてしまう。
 大したことは出来てないような気がするし、まだまだレジーを完全に助けたことになったのかはわからないし。

「期待通り、レジーの運命は変えられた。でも生き残ったあの子は、まだその先でも死ぬ運命が続いていた。……二度目はキアラ、貴方が助けてくれたわ。矢で射られたレジーは契約の砂のせいで死んでもおかしくはなかった。貴方のとっさの思いつきがなければ」

 私もあの時、この先もレジーを守らなければならないと焦った。
 国境を越えたルアイン軍から守っただけではダメだったのだと。王子なのだから、暗殺されてもおかしくないのだと心に刻んだ出来事だった。

「そして三度目は、エイルレーン。クレディアスから逃げるため、貴方は大けがを負い、続く戦闘に参加できずに、レジー達はデルフィオンで命からがら撤退を余儀なくされるはずだった」
「だから……助けてくれたんですか」

 エイダさんの放った炎に焼かれる寸前で、守ってくれた茨のことを思い出す。

「そう。その後貴方はあのイサーク王に逃がされたけれど、クレディアスの魔術について誰も知らなかったせいで、レジナルドは砂になり、貴方は殺された。……ある意味、クレディアスが出て来なかった時よりも早く、ファルジア軍の負けが決まったような状態になるはずだったのよ」

 私は唾を飲み込んだ。

「あの後、白昼夢みたいなもので、私がクレディアス子爵に殺されて、レジーが砂になる光景を見ました。あれは……茨姫が見た『起こるはずの光景の記憶』だったんですか?」

 茨姫はうなずく。

「多分そうね。貴方が魔術師になる時に使うように渡した契約の石。あれは、私がクレディアスからの影響から逃れられないかと試行錯誤していた時に、改めて取り込んだ石と同じものなの。そのせいで、私の魔術で見た過去が貴方にも伝わってしまうみたいね」

 やはり茨姫の記憶で、あれは起こるはずの光景だったのか。

「……そろそろこの話を止めましょうか。レジーには聞かれたくないわ」
「え、でも……」

 レジーにこそ、茨姫の正体を明かすべきなのではないだろうか。
 いなくなってしまった母親を探して、諦めて、そして自分を見離したのではないとわかって、苦しがっていたレジー。彼にお母さんは……ちょっと変則的な形ではあるけれど、生きていることを教えてあげたい。
 でも茨姫は拒否した。

「だめよ。せめてこの戦争が終わるまでは。私が動きにくくなってしまうもの」
「まだ何か……あるんですか?」

 この先の戦いで、どうしても茨姫が介入しなければならないことが。そのために、このタイミングで私達の仲間になったのではないだろうか。
 そもそも王妃とアランが相打ちになると言っていた。戦い方も知らなさそうな王妃がどうやって? と思うし、アランが倒されるだなんて一体、どんな酷いことになるのか。
 怯える私に、茨姫は苦笑いした。

「大丈夫。必要なことは私から話すわ。それで……たぶん、大丈夫なはず。だから内緒にしてねキアラ」

 茨姫がそう言った直後、外で茨が無くなったらしく、カインさんが声をかけてきた。

「キアラさん、もうお話は終わったのですか?」
「あ、はい。終わりました」
「殿下が来ています」

 レジーの方も、戦後の処理が終わったみたいだ。

「私が自分で説明するわ」

 茨姫が答え、立ち上がり際に「黙っている約束、お願いね?」とささやいて天幕を出てしまう。
 慌てて私も後を追った。

 外へ出ると、レジーが茨姫の参戦の申し出を受け入れることを、他の将軍達も了承したこと、密かにではあるがエイダさんのことも了解させたことを話していた。
 茨姫はそれでいいとうなずき、彼女自身のことについては、実は『元王妃リネーゼ』だということは話さず、魔術が二つ使える特殊な魔術師だということ。
 しかも、未来が垣間見えるのだと、魔術について嘘を説明していた。

 現状、すぐに伝達することを済ませたので、後は明日に、ということになった。
 むしろ明日、日が昇った後にも襲撃が来る恐れがある。野営地は少しだけ後退させることにして、早く兵を休ませることをレジー達は優先し、私達にも早く眠るようにと言ったレジーは、足早に立ち去った。

 そこに、お母さんがいるとは思わないまま。

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