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私は敵になりません! 作者:奏多
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エイダさんの処遇

 戦闘が終わった。
 エイダさんの周囲からも、騎士や兵士達が居なくなった。
 それを確認した私は、急いでエイダさんに土人形の手を差し伸べた。

「エイダさん、こっち! あの、早く隠れましょう!」

 助けてくれたとはいえ、エイダさんはアズール侯爵を殺した人だ。
 ちょっと離れた場所に獰猛な大ヤギと、騎乗したエニステル伯爵の姿が見えるので、近くにいるのはエニステル伯爵の兵ばかり。アズール侯爵家と親しくしていた関係上、エイダさんを見逃してくれるかどうか怪しい。
 下手をすると話も聞いてくれない可能性がある。

 声をかけられたエイダさんの方は、ハッとした表情になった。そうして背後を振り向く。
 視線の先を見れば、そこには茨姫が立っていた。
 銀の髪の茨姫は、余裕を感じさせるゆったりとした足取りで歩み寄りながら、エイダさんに言った。

「運んでもらいましょう? 私達が隠れられる場所へ」

 エイダさんは素直にうなずき、茨姫と共に土人形の手に乗ってくれた。
 二人を両手で隠すようにして持ち上げた私は、そろそろと移動する。途中、野営地近くでエヴラールの騎士と会えたので、レジーとアランに伝言を頼んで、最も人がいないだろう野営地の向こうへ移動する。
 敵の襲撃を免れた場所は、安全だからこそ人が来ないだろうと思ったのだ。
 そこでエイダさんと茨姫を降ろした。

 私も地上に降りて土人形を崩す。
 エイダさんは、夜襲に参加するという形でここに来たからか、黒っぽい衣服の上からルアインの黒いマントを着ていた。パッと見、黒いドレスの茨姫とお揃いに見える。表情は固くて話しかけ難いけれど、でもこれは言わなくてはならない。

「あの、エイダさん」

 声をかけると、エイダさんはびくっと肩を震わせる。どうやら、エイダさんは緊張で頬が強張っていたようだ。怒ったりしているわけじゃないんだなと私はほっとして、そのまま話した。

「トリスフィードでは、助けてくれてありがとう」

 ずっとお礼を言いたかった。あの時、クレディアス子爵から酷い目に遭わされずに済んだのは、エイダさんのおかげだ。
 するとぽろっとエイダさんの右目から涙がこぼれる。

「え、えっ! どうしたの、何か私変なこと言った? どこか痛かった?」

 慌ててエイダさんに近づいて、ぱたぱたと肩や腕に触れて確認すると、エイダさんがうつむいた。

「あ、あのごめんね。勝手に触って……」

 そうしていたら、茨姫が呆れたように言った。

「貴方は素直になるべきだと言ったでしょう? 子供じゃないんだから、拗ねたり八つ当たりしたり泣いたりして、相手がどこまで我慢してくれるのか試すのは止めなさい」
「わ、わかってるわ!」

 お母さんみたいなことを言う茨姫に、エイダさんは焦った表情になると、私を見て、またうつむいて、それから口を開いた。

「貴方が……無事で良かったわ」

 最初の言葉を吐き出した後、エイダさんは堰を切ったように話し始めた。

「わたしずっと、自分じゃなにもせず何も知らないようにしてること、見ないようにして……全部貴方のせいだって思おうとしてた。魔術師にされたのも、あなたのせいだと……。茨姫が教えてくれたわ。元々、契約の石を密かに採掘するための偽装をするために、わたしの父が狙われていたの。脅す材料として、わたしは目を浸けられていたらしくて」

 エイダさんは、何かをこらえるようにぐっと唇を引き結んでから続きを口にする。

「本当なら、王妃達の仲間に監禁されるはずだったらしいわ。そのままだったら、わたしは死んでいただろうって、茨姫に教えられて」

 エイダさんは、シェスティナ侯爵の城で茨姫に会ったそうだ。
 そうして本来辿るはずだった未来を教えられて、エイダさんは本当にそうなるはずだったのか、茨姫の言葉を疑って確認したらしい。

「パトリシエール伯爵は、その予定だったと認めたわ。だけどあなたが逃げたことで、契約の石の確保が重要になって……。結果的に魔術師になれたから、死なずに済んだの」
「契約の石……」

 エイダさんの告白内容に、ああそうか、と私の中で欠けていたパズルのピースがはまる感覚があった。
 だから、ゲームの時には魔術師くずれが大量に出てくることはなかったんだ、と。
 パトリシエール伯爵達は、脅す材料として確保したエイダさんを死なせてしまった。そのせいで、彼女のお父さんは手を貸さなかった。おかげで契約の石を大量に確保できなかったんだろう。
 採掘できる場所は秘密裏に行動できない所だったに違いない。その時のパトリシエール伯爵達は、ルアインの侵略を隠すため不審な動きをしないことを選んだんだ。

 でも、そんな『あったかもしれないこと』を茨姫はどうやって知ったのだろう。
 今はそれよりも、エイダさんのことだ。
 こうしてエイダさんが魔術師になったということは、人任せにせず、エイダさんが逃げられないようにするために、クレディアス子爵との結婚で縛るつもりだったんだろう。
 その時にクレディアス子爵が、たまたま契約の石を彼女で試そうとしたのかもしれない。だとしたらエイダさんは、やっぱり死ぬ可能性があったはずだ。

「でも、魔術師になりたくなかったでしょう? エイダさんが理不尽な目にあったと感じていたことに、魔術師になることも含まれていたんだと思うの」

 私は後から、彼女が貴族令嬢だったことを知った。
 なら、魔術師として戦場へ連れていかれたり、戦わされることも負担だったはず。それなら魔術師にされた原因は私だったと、恨んでしまってもおかしくない。
 けれどエイダさんは、苦いものではあったものの笑みを浮かべた。

「……あの子爵がいなくなって、しばらくはどうしていいのかわからなかったわ。言うなりになって流されて、戦場で人を殺したり、アズール侯爵も焼き殺してしまった。もうファルジアで生きていける場所はないからって。だけど、茨姫が教えてくれた」

 エイダさんはちらりと茨姫を横目で見る。

「魔術師なんだから、逆に自由に生きていけるはずだって。油断しなければ、一人旅をしたって山賊や盗賊も倒せる。誰にも邪魔されないだけの力があるんだって。その上で、貴方が一番したいことは何? って聞かれて」

 そこでようやく、エイダさんが顔を上げた。先ほどまでの不安そうな表情が、ようやく消えている。

「わたし、死にたくない。死ぬよりは魔術師になってでも、生きられた方がいい。ただ平民の生活なんてしたことないもの。このままじゃ飢えて死ぬか、目立つから外国へ行って魔術師として暮らすかどっちかしかない。そう言ったら、茨姫がファルジアで魔術師としてじゃなく、普通の人として生活できる案があるって言うから、言う通りにしてついてきたの」

 茨姫は、あの大人びた笑みを浮かべてエイダさんの話の続きを引き取った。

「提案をしに来たの。エイダの身の安全と生活を保障してくれるなら、私はファルジアの味方をして従軍して戦うわ。エイダは戦争に参加しない。どう? それに今回のエイダの援護も、少しは交渉の材料にできると思うのだけど」
「あ、なるほど」

 ぽんと手を打ちたい感じだった。
 確かに新しい魔術師を召し抱えられるのなら、引き換えにエイダさんを見逃すのも、他の将軍達だって同意するだろう。

「確かに、それが一番だろうね」

 ちょうどそこに、レジーが到着したようだ。
 途中から話を聞いていたんだろう、即決する言葉を口にしながら馬に乗って現れたレジーは、アランや騎士達を引き連れて来ていた。

「魔術師が味方に加わるからと言っても、エイダ嬢については軍にいない方がいいだろう。軍内で軋轢を生んでは、戦力が拡充されても兵が上手く動かなくなる可能性があるからね。アランもそれでいいかい?」
「僕も納得はできたから問題ない。アズール侯爵家はこれからも王家の近くにいる家だからな、今後のお前に対して隔意を持たれないようにするためにも、それが一番の策だろう。で、どうする? このままどこかの領地に隠すのか?」

 エイダさんを今のうちに移動させるべきだと思ったのだろう。アランの問いに、レジーが言った。

「エヴラールかデルフィオン。どちらかなら融通が利くと思う。個人的にはデルフィオンを勧めたいかな。君が魔術師で敵だったことを知っている者もいるけど、デルフィオンは半数がルアインに味方をした経緯がある。その分だけ、エイダ嬢に対しても寛容だと思うよ」
「エメラインも嫌とは言わないだろう」

 アランがうなずくと、エイダさんもそれならと決めたようだ。

「とりあえず、デルフィオンでお願いします」

 その言葉を受けて、レジー達は指示を出す。
 エメラインさんとデルフィオンの騎兵が十数人やってきた。取引に納得はしてくれるだろうけれど、それは上層部だけで済ませたいのが、レジー達の考えだ。エイダさんの姿を見せてしまったら、アズール侯爵家の騎士達が黙っていられないだろう。なのですぐに移動させることにしたのだ。
 デルフィオンの騎士と同乗したエイダさんに、レジーが近づいた。

「エイダ嬢。君には随分迷惑もかけられたが、感謝もしている。キアラを助けてくれてありがとう」

 そう言ったレジーを見て、エイダさんは目を見開いた後、はにかむような表情を見せた。

「光栄です、殿下」

 短く返した言葉に、何がこもっていたのかを私が知る術はない。ただエイダさんが、とてもすっきりした表情だったのが、印象に残った。

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