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私は敵になりません! 作者:奏多
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シェスティナ平原の会戦 5

「襲撃です、起きて下さい!」

 カインさんの声に、私は飛び起きた。
 確かになんだか外が騒がしい。まだ夜は開けていない時間だ。暗い。
 天幕の中に飛び込んできたカインさんの姿が、月明かりのほのかな光と一緒になんとか見える。

 私は急いで起き上ると、師匠をいつもの場所にひっかける。戦時なので衣服を着たまま眠っていたので、準備は靴を履いて師匠を持てば準備は完了するのだけど。

「とりあえず安全が確保できる場所まで移動します」

 カインさんはそれでもまだるっこしかったようで、私の手首を掴んで急ぎ足で歩き始めた。
 外へ出ると周囲の騒ぎが良くわかる。
 周囲を取り囲んでいたエヴラールの騎士やジナさん達は出払い、離れた場所から剣戟の音と声が届く。

「敵に接近されていたんですか!?」
「接近されたことには気づいたので、応戦はできたのですが、敵がやっかいな方法を使ってきたものですから」
「やっかい?」

 質問した私に、カインさんが暗闇の中で馬を歩かせながら、珍しく嫌そうに答えた。

「夜の襲撃は、こちらが気づかないうちにできるだけ接近して一気に押してくるか、闇夜に紛れられる少数で行うものです。今回は、二つを合わせたような……」

 敵が大人数でやってきたので、気づくことはできたらしい。
 哨戒の兵を倒されていた上、月明かりが弱い日だったので発見が遅れたものの、迂回して森の側から接近していた敵を見つけ次第、レジー達は反撃を行った。
 ただ、ここでも敵は奴隷を使ってきたのだ。

「暗い中では、前線にいる味方を誤って殺しかねないので、不意打ちをする際には少数で突撃します。けれど敵は、奴隷を使いました。自分達の前に奴隷を立たせて突撃すれば、敵は奴隷を先に攻撃することになります。その隙に敵を殺せばいい。もしくは間違って切りつけても、目の前にいるのは奴隷か敵だという状況を作って、闇夜の中を突撃してきたのです」

 敵は、とことん奴隷を使い捨てにする戦法で、ファルジア軍を戸惑わせたようだ。
 そういった奴隷を盾にした襲撃部隊が何重にも攻撃をしかけてきた上、本隊も迫っていることで、対応が遅れているようだ。
 それでカインさんは、私を戦場から遠ざけて戦いやすい場所へ移動するために来たらしい。

「確かに土人形(ゴーレム)を出しても、暗いと障害物を作るだけですし……」

 人の大きさ程度の土人形(ゴーレム)では焼け石に水だ。巨大土人形(ゴーレム)でも、暗い中では上から見下ろした時に判別がつきにくいので、味方を踏み潰しかねない。

「なので殿下が、キアラさんには敵の本隊の方を攻撃させた方がいいと。ここなら前線から離れています。土人形(ゴーレム)を作って、移動しましょう。地上から離れていた方が、キアラさんの無事も確保しやすいはずです」
「わかりました」

 言われて、私は巨大土人形(ゴーレム)を作成する。
 土人形(ゴーレム)の肩にカインさんと一緒に乗り、ファルジアの天幕がある方向を迂回して敵軍がいる場所へ進んだ。
 レジー達は、相手の姿が見えるように周囲に火を放ったようだ。近くの林が燃えている。きっと、後で私が消火することを見込んでいるんだと思う。信頼が心地いい。

 ファルジアの野営地の近くでは乱戦になっていた。
 白い氷狐の姿が見える。ジナさん達もあちらに出ているんだろう。

 ……この時、私達の側に味方すると決めた元奴隷の人達も、前線に立っていたようだ。
 後方のルアイン兵ごと氷で足下を固めて、先行部隊にいたジナさん達はそのままその先へ行く。
 その後次の部隊がルアイン兵を倒した後で奴隷達を解放しつつ、仲間に呼びかけさせて抵抗しないようにするという形で、奴隷達をまず戦場から遠ざけた。
 ルアイン側の奴隷達の中には、ファルジア側の仲間の呼びかけで、隙を見て逃げてくる人も多く、やがてルアインの奴隷を盾にする作戦は瓦解。
 改めて普通の戦闘に突入した頃には、周囲が炎で照らされているせいで夜戦の意味が薄くなっていた。

 でもここで、ルアイン側はとうとう魔術師くずれを出してきた。契約の砂を塗った矢を射て、敵味方関係なく無差別に、先頭集団の兵を魔術師くずれにしようとしたのだ。
 そんな細かな動きまでは、その時の私にはわからなかったけれど、魔術師くずれが現れ始めてファルジア側が引き、戦闘が膠着状態になったことは上から確認できた。

 私は早くルアインの本隊を叩きたかった。
 そうしたらルアインは撤退するしかなくなる。
 むしろ、エヴラールでの戦いのように、パトリシエール伯爵達を踏み潰してしまえば、ルアイン軍は瓦解するかもしれない。

 だけど暗すぎて、パトリシエール伯爵がいそうな場所がわからない。
 ルアインの黒いマントで上手く鎧などを覆って移動しているので、他の兵も見つけにくく、移動して確認してみたら、遊撃兵だったとか。攻撃しようと思ってカインさんに止められ、奴隷達の集団だとわかったりということが何度か繰り返される。
 それでも少しずつ、ルアインの後方部隊を倒していくけれど、他の兵は森の中へと移動してしまった。

 その時だった。
 森の一画に、炎の柱が吹き上がった。

「魔術師くずれが!?」

 そう思ったが、場所がおかしい。前線から離れた森の中でそんなことをする意味がなかった。
 しかもその炎の柱は増えていく。旗を立てるように。

「エイダさん……?」

 こんな風に、炎の魔術を使える相手を、私はエイダさんしか知らない。彼女は、何かの意図があってやっているんじゃないだろうか。

「彼女がいるなら、どちらにせよパトリシエール伯爵達もその近くにいるでしょう」

 カインさんの助言に、私は土人形を移動させた。
 そしてもしかしたらと思う。エイダさんは、攻撃すべき場所を知らせてくれているんじゃないだろうかと。
 ほのかな月明かりでも、あちらからは星空を背にした巨大土人形の姿はよく見えるはずだから。
 やがて、五つ目の炎が吹き上がる場所へと到着した。

「エイダさん!」

 身を守るように炎の輪で自分を囲んだ、エイダさんの姿がよく見える。
 けれどルアイン兵達が、槍を投げてエイダさんを攻撃しようとしていた。

「やっぱり教えようとしていてくれた!?」

 だから攻撃されているのだろう。敵に心臓部を晒すような真似をしたからだ。
 もっと驚くことに、近づく槍や兵士を、突然生えた茨が絡めとって動けなくしていく。
 茨姫が、エイダさんを助けている。
 どういうことかはわからない。けれど考えるより先に、ルアインの中枢を叩かなければ。

「早くなさいキアラ!」

 ほら、エイダさんもそう言ってる。
 微かに聞こえたエイダさんの声に、私はうなずいて近くの騎馬隊を土人形で蹴散らした。
 そこは、間違いなくルアイン軍の中枢だったようだ。
 後で死体の中からルアインの将軍を見つけることができた。

 ただパトリシエール伯爵だけは逃してしまった。
 ルアインの将軍と手分けをするふりをして、少数の騎士と残った兵を連れて、シェスティナ侯爵城へと逃れて行ったのだった。

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