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私は敵になりません! 作者:奏多
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シェスティナ平原の会戦 2

 私はカインさんに同乗させてもらい、弓兵の戦車の近くへ移動した。ここからなら様子が良く見えるからだ。
 そして地上に降り、銅鉱石の場所を探す。先ほど斉射や退いている間にも、弓兵にいくらかばら撒いてもらっていたのだ。
 良い位置にあるのを確認し、術を実行した。
 まず奴隷達の後ろにいる、槍を持った歩兵達の足下に段差を作って転ばせ、引き離す。

「ごめん、落ちて!」

 続いて奴隷達は怪我させるのを覚悟で、穴の中に落とした。

「キアラさん、そのままでは矢などで殺される可能性が」
「わかりました!」

 手っ取り早く、私はその上を石壁で覆ってしまう。突然暗い穴に閉じ込められて驚くだろうけれど、緊急避難なので我慢してほしい。
 それをルアイン軍の三つの部隊全てに行おうとした。

 レジーが奴隷の救出を私に指示してくれたけれど、ファルジア側も背後のルアイン兵に隙を見せるわけにもいかない。だから弓兵はまだ矢を射ている。
 時間が経つほど命を失っていく奴隷が増えて行った。三つ目の部隊の奴隷達を穴の中に閉じ込めてルアイン兵から引き離したけれど、半数が生き残れたかどうか。
 前線はそのまま乱戦になっていく。奴隷達を失っても、ルアインの前線の歩兵は進んで来た。

「キアラさん、後ろの部隊を優先しましょう。あれも全部、前に奴隷を歩かせて使っています」
「わかりました」

 ルアイン軍は前の部隊を追いかけるように、全体でこちらへ向かっている。その先頭は、先ほどと同じような奴隷と歩兵の構成になっているらしい。
 前線の兵士の後ろで、件の戦車を一つだけ残して改造した高い台に上がった私は、同じように対処しようとした。

 奴隷になっている人達がむやみに死んでいくのは辛い。ファルジア側の兵士も、人を盾にされると様々な意味で戦いにくく、命を落とす原因になる。何より弓を射させても、ルアイン兵に当たらないのならば意味がないのだ。
 ルアイン兵が減らなければ、パトリシエール伯爵を倒したことにならない。
 けれど数が多すぎた。

「……一体、どれだけの人数を連れて来たんでしょうか」

 それから三つの部隊の奴隷達を隔離した後、カインさんがそんなことを言うほどの数だった。パトリシエール伯爵は、全ての歩兵部隊に同数の奴隷を伴わせていたからだ。
 視線の先に、そんな敵部隊がざっと十は確認できた。

 元々パトリシエール伯爵の軍は兵士等を合わせて二万ほど。奴隷が一万という話だった。
 だからこそこちらが布陣した場所に突撃させて来させることで、戦列を伸ばさせ、中間から後半を私が一気に潰し、置き去りにされた前線部の奴隷達を懐柔し、残るルアイン兵を降伏させて終わるつもりだったのだ。

 状況は常に後方に伝えられ、前線には何度も騎兵隊が斬り込んでいく。
 レジーやアランは、こちらがむやみに殺せば奴隷達がやる気になってしまうことを危惧しているようだ。懐柔することで突き崩せるはずの一万の兵が、全てこちらに敵対心を持つことになれば、やっかいな肉の盾ですらいてくれなくなくなってしまうからだ。

 奴隷の心理まで気にするのは、敵が大量の契約の石を持っている、という事情もある。クレディアス子爵がいなくとも、あれさえ使えば魔術師くずれは作りだせる。
 こちらが押されている様子なら、奥の手は使って来ないだろう。その隙に私の魔術と軍勢で畳みかけるのなら、魔術師くずれを大量に発生させることはできない。けれどルアイン軍の劣勢が続けば別だ。
 まず最初に魔術師くずれにされるのは奴隷だろう。奴隷を保護するのは、潜在的にやっかいな敵を封じ込めることにもなるのだ。
 でも限界はある。

「カインさん、そろそろばら撒いてもらった石が、足りなくなりそうです」

 どういう魔術を使う時にせよ必要だろうと、弓兵に頼んで戦場にばら撒いてもらった銅鉱石が残り少なくなって来た。

「あと二部隊でいったん引き揚げましょう。ここが潮時です」

 うなずいたその時、近くの前線へ向かう騎兵が駆け抜けて行った。
 この前線が崩れてしまったら、私も戦場から遠ざからなければならなくなってしまう。だから助けが来たと思ったのだけど。

「キアラさん!」

 急に腕を引かれた。石壁に叩きつけられるようにして、壁とカインさんの背中に庇われる。
 最初は軽い鉄の音が続いて、噛み合う刃の重たい金属音が響いた。
 私を背にしたカインさんが、ぐっと腕や肩に力を入れるのがわかる。
 何があったのか、状況がわからなければ動きようがない。だから私はカインさんの横から向こう側を覗いたのだけれど。

「えっ……」

 カインさんと剣を交えていたのは、ファルジアの騎兵だった。馬には乗っていないから、飛び降りるようにして台の上に上がって来たのだろう。

「恨みはないが、死んでもらう魔術師!」

 しかも相手に見覚えがあった。
 一度剣を引いて再び切りかかる騎兵の剣を、カインさんは圧倒的な膂力で弾き飛ばし、腕を切り裂いた上で鎧の隙間に剣を突き刺した。

「まだしゃべれるでしょう。どういう理由でこんなことをしたのです。元王の近衛騎士のバージルも貴方の仲間ですか?」

 剣で貫いたまま、カインさんが問いかける。
 そう、私を狙ったのはバージルさんと一緒に囚われていた、兵士だったのだ。
 けれど彼から話を聞き出すことができなかった。
 痛みなのか、何か理由があってなのか、苦悶の表情を浮かべながらまだ自由だった左手で腰にあったナイフを抜いた。気づいて身を離そうとしたカインさんの隙をついて、兵士は自分の首にナイフを突き刺し、そのまま絶命してしまった。

「なん……」

 なんでこんなことを? 私を戦場で殺しかけたら、処刑されてもおかしくないと思ったから?
 やや呆然としかけた私を、カインさんが抱えるようにしてその場を離れさせた。

「とにかく一度引きましょう、キアラさん。ここでは守りが薄すぎます」

 異変に気づいた兵士や騎士達が集まってきて、カインさんの指示を受けて四方八方へ散って行く。
 主戦力と言ってもいい魔術師が前線を離れるのだ。戦い方を変える必要がある。
 同時に、レジーの方にも暗殺の話が伝えられたはずだ。
 でも待って。私を襲ったのがバージルさんの仲間なら、バージルさん自身はどうなんだろう。味方? 敵だとしたら、誰を狙う?

「カインさん、レジーの方にはもしかして……」
「同じことを私も考えています。先に連絡も走らせていますし、グロウル達もいます。問題ないと思いますが、急ぎましょう」

 カインさんは私を待機させていた馬に乗せ、レジー達のいる場所へと向かった。

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