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私は敵になりません! 作者:奏多
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それからの1年

 魔術師くずれが死んだ痕跡……というのは、本当に「そうかもしれない」という感じのものだったらしい。
 砂が詰まった人の衣服。その近くに一つ、黒焦げになって形すらほとんどなくなった人の遺体を発見したのだそうな。

 けれど見つけるまでに何日もそこに放置されていたせいか、魔術師くずれの遺体だったのだろう砂は雨で流れ出て周辺の土に混じり、衣服も着ていた状態で砂になったのかどうかは分からない状態だったという。

 なのでさらに一か月ほど、私への引きこもり指令は続いた。

 それまでの三か月で領内の監視体制を強化していたヴェイン辺境伯は、一月の引きこもり延長期間の間に、不審者がいないことを確認した。
 それにより、発見された遺体が魔術師くずれのものだったのだろうということも断じられた。

 そこでようやく私の引きこもりは終わりを告げることになる。
 とはいっても、ベアトリス夫人の侍女が私の仕事だ。そして剣が使えない上、一人で馬にも乗れない私では、ベアトリス夫人の外出という名の領地や国境への見回りについて行けるわけもない。しかも冬まっただ中だったこともあり、今後も同じ生活が続くと思ったのだが……

「さ、キアラ。外に出ましょう!」
 雪が解けたとたん、ベアトリス夫人が私を城外の見回りに連れ出そうとした。

「えと、でも奥様と一緒にいて何かあったら……」
 もし運悪く襲撃されたら、今度こそ私は詫びを叫びながらエヴラール辺境伯領から出ていかなければならない。
 間違いなく自分に魔術の素質があるとわかっている私は、またパトリシエール伯爵に狙われるのではないかと、不安だったのだ。
 けれどベアトリス夫人は、からっとした表情で私に言った。

「大丈夫。むしろ元王女な私と一緒だからこそ、手を出せないでしょう。それに私の侍女なのですもの。使いに出す必要も出てくるでしょうし。それなら少しずつ城下の人間や守備隊の人間とも関わらなければね」
 そうしてベアトリス夫人や侍女のマイヤさんとクラーラさん、更にはお伴の騎士二名と外出することに相成ったのだ。

 私はマイヤさんの馬に同乗させてもらった。
 マイヤさんはベアトリス夫人の結婚前から側にいる人だ。商家の娘だったが、背が高くて力持ちだった。そんな彼女は、登城した際に父親を手伝って荷物を持っていた所を、ベアトリス夫人に見初められたという。
 ……さすがベアトリス夫人。剣を振るえそうな人かどうか、というのが侍女の基準なのは今も昔も変わらないらしい。

 凛としたたたずまいのカッコイイお姉様といったマイヤさんは、実に穏やかな人だ。私の質問にもゆったりと答えてくれる。
 そんな風に私は城下や国境の壁までを往復するのが日課になった。

 そうして一月経つ頃には、乗馬の訓練までさせられるようになり、更に三ヶ月後には自分の馬を与えられてベアトリス夫人に随行できるようになる。
 ……うん、そこそこ訓練を積まされました。足腰が筋肉痛で呻かない日はなかったほど。

 そうして出歩くようになると、私のことを城下の人々も見慣れてきたようだ。
 見回りのついでに害獣駆除もしてしまう夫人は、時々御礼に領民から贈り物をされることもある。そんな時は剣を持っていない小柄な私に話しかけやすいようで、

「剣のないお姉ちゃん、これ奥様に差し上げて。こないだ丸鼠を退治していただいたからねぇ」
 大人から言付けられた子供やお婆さんが、私に風呂敷包みに入れた果物なんかをくれる。
 最初は、一緒に随行する騎士達がやや緊張した眼差しを向けてきていたが、何事もなくなっていった。

 そんな見回りも、冬が近づくと少しずつ減っていく。

 辺境伯領付近は積雪がそこそこある地方なので、まずルアインも進軍して来ないらしい。ということで、ベアトリス夫人の見回りは天気の良い日に二日に一度となった。

 穏やかな日が続く中でも、私は魔術のことを忘れてはいなかった。
 切り札は必要だ。けれど一人で書庫の本を見るわけにもいかず、手をこまねいていた。

 そんな折、辺境伯夫妻とアランは王宮へ行った。
 新年祝賀の宴に出席するためだ。
 アランはレジーと会うのが楽しみだったのだろう、隠しきれないうれしさを顔に浮かべていた。
 残された私は、たまに話すようになった召使いのおばさんたちと、城内や城下の話をしたり、一気食いをした後から「それで食事、足りるのか?」と尋ねてくるようになった料理人見習いのハリス君と話したりして、過ごした。

 やがて帰って来たアランは、レジーからの手紙を預かってきてくれていた。
 そこにはレジーが魔術について探ろうとしたところ、王家で雇っていた魔術師がいつの間にか辞去していた。なので、使いをやって茨姫に接触させたらしい。

「え……うそ。そこまでしたの!」
 私は読んですごく驚いた。一体誰を突入させたのかと思えば、茨姫の好みは十二歳以下男子発言を聞いていたレジーは、しっかりと森の近くの村の子を使い、茨姫接触に成功したそうだ。

 ……釣ったのか。茨姫を。
 きっとか弱い男の子の「茨姫様ー」という呼びかけに、茨姫もほいほい出てきたに違いない。

 そうしてレジーが尋ねたのは
『魔術師になる方法と、魔術師も最後は砂になるのかどうか。パトリシエール伯爵が飲ませたようなもので、魔術師を作ることはできるのか』
 というものだ。

 茨姫の返事というのが『何のために石をあげたと思ってるの? とキアラに言って。あと、絶対その石以外を使わないこと』だった。

 ごめん、わけがわからないよ。
 レジーもこればかりは自信なさそうに『これで分かる?』と書いてきている有様だ。
 とにかく、茨姫にもらった石さえ肌身離さずにいれば、諸々のことはなんとかなりそうな感じだ。それに好物のショタを鑑賞する機会に恵まれた茨姫が、嘘を言っても仕方ない。
 なにせ茨姫はお使いの少年に森の中に生える高価な薬草やらをお土産に持たせ、森の入口ではらはらしながら待っていたレジーの使いの騎士を驚かせたらしい。だからとっても喜んでいたはずなのだ。

 そして魔術に関する情報はこれ以上手に入らなさそうだ。
 茨姫が石を持っていればいいというのだから、どこかで必要な時に、役に立ってくれて、魔術師になる必要があった時にも利用できるのだろう。

 その後、春になってから一週間だけエヴラール辺境伯領へ滞在しに来たレジーも、同じ結論に落ち着いたようだ。

「茨姫も、理由があって言えないことがあるようなんだ」
 内密の話だからと、私はレジーに連れられて城外の小高い丘の上に来ていた。
 露出した岩の上に二人で並んで座ると、彼が一年と数か月の間に急成長したことがわかる。

 足が長い。去年は既に私より頭半分背が高かっただけなのに、立ち上がって並べば私の顔はレジーの胸あたりまでしかない。私だって少しは身長が伸びてるのに。
 銀の髪も前より伸びた。顔立ちも鋭角的になってきて……以前の天使みたいな美しさから、神像の美しさに移行した気がする。
 おかげで彼の雰囲気も大分大人びたものになっていた。元から落ち着きのある人だったので、尚更だ。

 アランも成長痛らしきものに悩まされながらぐんぐん伸びていったので、ある程度は想像していたけれど……なんだろう。初めて見る人みたいに感じてしまって、なんだか気恥ずかしくなる。

 実は出かける前から、なんだか調子が狂って困っていた。
 だって、二次元世界の綺麗さを3Dにしたらこんな感じ、みたいな人が「やぁキアラ」と気軽に私の名前を呼ぶのだ。
 多少引き気味になるのは許してもらいたい。
 アランは毎日会うせいで慣れてたけど、それでも横顔なんかに時々ハッとさせられるのに。

 そんなだから、馬に一緒に乗ろうといわれた時は、自分一人でも大丈夫と言えるようになっていて良かった。
 この岩に腰掛ける時も、距離をとろうとしたのだが、それはレジーにあっさりと間を詰められていた。

 一年ちょっと前に、茨姫の森で並んで座ったときと変わらない距離。
 だけどそれが心の底をかすかにくすぐる。
 それを悟られないよう、私は平気そうな顔を装って返事をする。

「縛られてるっていうと、魔術師には何か制約があるとか?」
「そうみたいだね。でももらった石があればと言うのだから、何かあっても酷い事にはならないと私も思うよ。……それで、キアラは魔術に手を出さずに大人しくしていたんだろうね?」
「う、うん。ていうか調べようもないし」
 大人しくしているというより、手も足も出ないというのが正しい。
 じつはこっそりと魔法が使えないかと試してみたが、魔法の技名を口にしても何も起こらず、しかもマイヤさんに目撃されるという恐ろしい黒歴史を刻んでしまったのだが、絶対レジーには言わない。

「そう? アランからも一応暴れてないとは聞いているけど……心配なんだ」
 レジーは表情を曇らせて私を見下ろしながら、岩についていた私の手に自分の手を重ねる。

 うぉぉ。レジーよ、これ、すごく恥ずかしいんだけど!
 だって離れてはいるけど、君の護衛騎士二人がこっち見てるんだよ?
 二人の視線から隠れるように手に触れるとか、何この秘密の関係っぽい感じ! 

 春の陽射しに照らされても、生ぬるい温度にしかならない岩と違って、レジーの手が温かい。
 そのせいで心臓がばくばくした。
 全力疾走したみたいに脈拍が激しくて、なんだかめまいがしそうで、錯乱しかけた私はつい素直に尋ねてしまう。

「それで、えっと、レジー、この手は……なんで?」
「ああ、確認だよ」
「何の!?」
「君はまだ知らなくていいよ」
 何その意味深な言葉! 意味深だってのはわかるけど、訳はまったく分からないんだけど!

 しかも質問を逸らすように、レジーはその後城へ戻ることにしてしまった。
 レジーの滞在は一週間だったので、あまり長く話すこともできずに彼は去っていった。

 けれどさすが頭の良い人だ。
 この往復路で、二つ貴族家を訪問して味方にしてしまったらしい。聞けばゲームで中立だったがために、容赦のないルアインの侵攻に後れをとって滅亡した家だった。
 もちろん王宮にいる間に、それなりに旗色を鮮明にさせるための種をまいていたのだろうが、それでも中立の方針を貫いていた家の意見を覆させたのだ。私にとっては魔法のような所業としか言いようがない。
 一体どうやったのか、今度会った時に聞こう。って……

「あと、半年?」
 レジーが死ぬ運命がめぐってくるまで、あと半年しかない。
 次に彼がやってくるのも、ゲームの通りならば半年後になる。
 そう思うと焦りが心を支配しはじめて、たまらない気持ちになる。

 でも私にできることは、茨姫を信じてペンダントにした件の赤い石を身に着け続けることぐらいだ。
 魔術師になる方法についての問いにも、まとめて「持っていれば大丈夫」と言うのだから、この石が魔術師になる時にも必要なのだろう。そして死についても関係するため、砂になって死ぬのかという問いにもはっきりとは答えなかったのだと思う。

 なんにせよ、最も強力な情報源である茨姫からもこれ以上聞きだせないとなれば、私はじっと待つことしかできない。エヴラール領を勝手に出ることもできないのだから。
 せめて、その時が近くなったら気を付けるよう知らせるべきことをリストアップしてみて、辺境伯に渡せるようにしておいた。

 そして初夏。
 今まで何事もなく過ぎたことで、誰もが油断していたのかもしれない。
 ベアトリス夫人に同行して、領地の北にある辺境伯の分家を訪ねていた私は、そこで新たな事態に出会うことになる。

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