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私は敵になりません! 作者:奏多
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閑話~生贄を呼ぶ鳥~

王妃のターンです
「どういうことか、説明をお願い致します!」

 ルアインの将軍デイミアンとその副将達が謁見の間に押しかけてマリアンネ王妃にそう言ったのは、理由がある。

 ファルジア王国を併合するため兵を送り、国王を殺して王都は奪取したものの、王子レジナルドが軍を率いて情勢が覆されようとしていた。
 そのためエヴラールが死守され、当初のルートでは兵を送り込めなくなった上、他二つの領地からもルアイン兵は追い払われてしまったのだ。
 ただ夏前には、ルアイン国王ベルンハルトはもう一度兵を派遣していた。サレハルド経由で兵を送ってひとまずは安心できるかと思ったものの、やがて知らされたのはデルフィオンの陥落だ。

 ルアイン国王は、ファルジアを落とすのは厳しいのではないかと考え始めた。王位継承者を殺してしまえば、ファルジアの貴族達も従うだろうと考えていたが、マリアンネは王子を討ち漏らしてしまったのだ。
 ただ今のうちなら、ルアイン王国は王妃となったマリアンネにルアイン側も騙されたことにできる。
 マリアンネ王妃さえ殺してしまえば、だが。

 しかし手を引こうと検討し始めた時に来たのが、マリアンネ王妃自身が王位を宣言したという話と、王妃からの手紙だった。

《王子さえ殺せば、ファルジアは瓦解します。当初の予定の通りに進められるでしょう》

 魔術師を召し抱えたという王子を倒すのは、難しい。けれどマリアンネは策があると書き送って来た上、それはベルンハルトとしても良い策のように思えたのだ。
 マリアンネが主導した、という形で事を進めたなら、後に失敗をしてもマリアンネ王妃に責任を押し付けることはできる。

 決断したベルンハルトは、マリアンネの要望通りの兵を送った。サレハルド側から陸路を使って移動しては遅くなってしまうので、船を使ってだ。
 ルアインのベルンハルト国王から兵を預かって来たのが、デイミアンだった。

 船旅を終え、王都に直接やってきた彼だったが、すぐにマリアンネの命によって兵を取り上げられた。
 全てファルジアのパトリシエール伯爵の元へ送り込むのだという。
 マリアンネの要望を受けて連れて来たのは、ルアインに征服された東国出身の奴隷達だ。
 おかげで直属の配下が少なく、ファルジア側のマリアンネ王妃の配下に下った貴族の兵によって抵抗もできないまま、奴隷達は戦力としてシェスティナに連れていかれた。
 これでは何のためにここまで来たのかわからない。

「マリアンネ様、貴方が私を指名されたのだと伺いました。国王陛下もそれを加味して私をここへ送り込まれたのですし、私もファルジア軍と戦うつもりで参ったのです。これでは動けぬではありませんか!」

 ずっとこの王宮で、吉報を待てとでも言うのか。
 デイミアンに押しかけられたマリアンネの方は、玉座に足を組んで優雅に座ったままだ。慌てもせず、側に置いた鳥籠に手を伸ばしながら、応じた。

「貴方には、重要な役目があるからお呼びしたのですわ、デイミアン将軍。それに、あの奴隷達は将軍が管轄していらっしゃった地。奴隷達を動かしたいとなったら、貴方に頼むのが一番ですもの」
「確かにそうですが……」

 ルアインの東にあった国を攻め落としたのは、デイミアンだ。海に接し港を持つあの国は、どうしてもルアインが欲しがった場所の一つでもある。
 そのままデイミアンが統治を代行していたのもあって、確かに奴隷を戦力として使いたいのなら、彼を動かした方がたやすいのは確かだった。

「あとは貴方に、どうしても教えて欲しいことがあって、ここへ来ていただきたかったの」

 マリアンネは鳥籠の扉を開けた。
 中に入っているのは、翠の鳥だ。マリアンネが抱えなければならないほどの大きさで、長い尾を引く姿が優美だ。

「マリアンネ様に教えるとは……っ?」

 語尾が動揺で跳ね上がる。
 籠の中に手を差し伸べてマリアンネが鳥に餌を与えようとすると、鳥は鋭い嘴でマリアンネの指ごと餌をついばんだ。
 嘴の先が突き刺さり、ひっかかれて、マリアンネの指からはすぐに血が滴る。

「マリアンネ様!?」

 思わず駆け寄ろうとしたデイミアンに、マリアンネは落ち着いた声で尋ねた。

「ルーティス様の無実を、証言して下さらなかったのはどうして?」
「え、ルーティス……」
「私の元婚約者。今からだと大分昔になってしまうけれど、貴方の副将として傍にいた人よ。忘れてはいないでしょう? 私達、一緒に何度も遠乗りに出かけたではないの」

 マリアンネは淡々と言葉を紡ぐ。

「けれどあの方は、婚姻前に私を汚そうとした、国同士の契約を妨害しようとしたという理由で、処刑されたのよね? 貴方はその時、ルーティス様が貴方と一緒にいた間に、私と二人だけになる時間はあったと証言した。どうして?」

 デイミアンはぐっと唇を引き結んだ。
 だが、それをマリアンネに言うわけにはいかない。
 彼女は、婚約者だったルーティスが敗戦の責任を問われて処刑されるのを止めるため、ファルジアに嫁ぐという条件を飲んだのだ。

「お兄様は、ファルジアに負けた腹いせが足りなかったの?」

 マリアンネは兄である、国王の差し金だという前提で話す。鳥に自分の指先から滴る血を舐めさせながら。

「ベルンハルト陛下が、アルノルトお兄様を邪魔に思っていたのは知っていたわ。優秀な弟が、自分の立場を覆すかもしれないことを恐れたのでしょうね」

 マリアンネの言う通りだ。
 以前のファルジアとの戦いで、ルアインは侵略を阻止された。
 けれど唐突に侵略を決めたのは、半分ほど自分よりも民や貴族からの人気が高かった王弟アルノルトを、密かに抹殺するための舞台が必要だったからだ。
 そうして王弟アルノルトは、勝てるわけのない戦いに身を投じるしかなく、ルアイン内部の人間によって、交渉によって引き分けができるだけの条件を整えることも阻止された。

 その頃、マリアンネの婚約者だったルーティスは、アルノルト王子の親友でもあった。
 弟であるアルノルトを排除したものの、有能なルーティスが自分に反意を持たないわけがない、そんな考えに怯えた国王ベルンハルトは、何としてもルーティスを処刑したかったのだ。
 そしてデイミアンは、いつわりの証言と引き換えに将軍位を得た。

「さぁ仰い。ルーティス様を見殺しにしたのはなぜ?」

 ずっと鳥を見つめていたマリアンネが、駆け寄ろうとしたまま足を止めたデイミアンを振り返る。その後ろにいた副将達をも見すえ、笑った瞬間。
 鳥が、籠の中から飛び立った。
 その姿が爆発するかのように巨大になり、空気を引き裂くような鳴き声を上げる。
 同時にデイミアン達は、目の前に迫る炎の渦を見た。
 それが彼らの、最後の記憶になった。
活動報告に書籍の特典情報を追加しました

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鳥かごの大神官さまと侯爵令嬢


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