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私は敵になりません! 作者:奏多
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合流と再会と 2

 立ち止まったベアトリス様は、その場で一礼する。

「お久しぶりでございます、レジナルド殿下。エヴラールとベルトラ、アーバインからの援軍を預かって参りました」

 親族だけど、ベアトリス様は辺境伯夫人の身分に下りた人だ。
今は国難で王族が少ないから、元の立場を使ってあちこちに働きかけたりしてるけれど、レジーに対しては基本的に臣従している側としてふるまう。

「ここまで長旅をしてきて下さってありがとうございます、叔母上。辺境伯の様子はいかがですか?」
「傷はすっかり癒えております。できれば自分がこちらにはせ参じたかったようですけれど、お役目がございますから。殿下もご健勝でなによりです。我が息子はお役に立っておりますか?」

 ちらりとベアトリス様が視線を向けると、アランがますます緊張した様子で、背筋を伸ばした。久しぶりの親子再会だから、もっと喜んだらいいのにと私は不思議に思う。

「度々面倒事を引き受けてもらって、助かっていますよ。貴方の側から引き抜くようなことになってしまったキアラも」

 レジーがそう言ったところで、いよいよベアトリス様が私に目を向ける。

「あなたも無事で良かったわ。戦場にろくに剣も使えない女の子を同行させたのかと思うと、やっぱり不安で」

 微笑むベアトリス様の表情は、エヴラールで見送ってくれた時と同じように慈愛にあふれていて、私は思わず涙腺が緩みそうになる。
 思わずベアトリス様へ一歩踏み出そうとしたけど、右手をレジーに掴まれて、驚きに肩が跳ね上がりそうになった。

「……!」
「ご安心下さい叔母上。彼女に関しても目を届かせるようにしております。一度は戦場で敵に捕まってしまったこともありますが……」

 叫ぶのは堪えた。
 だめだめ。悲鳴なんて上げたら、レジーが私と手を繋いでることに気づいてない人にまで、知らせることになってしまう。
 冷汗をだらだらと流しながら耐えたのだけど。

「二度と奪わせはしません。大切な人ですから」
「……!」

 再び私は絶叫しかけた。
 みんなの前でなんてこと言うの!? っていうか、その戦力として大事なのかどうか曖昧な言葉選びをしてても、ちょっと目を瞬いたベアトリス様が、私の手をレジーが握っていることに気づいて注目してしまってる!

 そして今になってわかった。
 こんなやり方をするなら、確かに私が黙ってたって構わないわけだ。手を繋いでる姿を見せてしまったのだから、ベアトリス様は今の言葉が極めて私的な意味だと理解しただろう。
 ベアトリス様もニヤニヤしてる……。

「後で、今までの話を沢山伺わせていただきたいわ。もちろん、魔術師様にも」

 その言葉を聞いて、ようやくレジーが手を離してくれた。
 がっくりと肩の力が抜けた私は、ふと横を見た時、やっちまったな的な表情をしてこちらを見ているアランと目が合い、うなだれそうになった。
 どうやらこうすることを、アランは知っていたらしい。そのせいで他人事なのに緊張した顔をしていたのだろう。
 でも知っていたなら、教えて欲しかった……。


 翌日、ようやく私はベアトリス様と話す時間を持つことができたのだけれど。当然ながら色々と尋ねられることになった。

「それで? なんて告白されたの? どういう状況で?」
「ええっと……」
「私、予想がつきますわベアトリス様。きっと捕虜になった後ですわ」

 援護射撃をしてくるのは、ベアトリス様についてきたマイヤさんだ。この二人の攻撃から逃れられるはずもない。
 そして味方になってくれそうな師匠は、マイヤさんがいると聞いたとたん、部屋に置いて行けと言われてしまったのでついて来てくれていないのだ。……変な衣装着せられるのが嫌だったのかな。戦時だから、マイヤさんもそこまで色々と持ってきてはいないと思うのだけど。

 マイヤさんもベアトリス様同様、髪を結んで騎士服を着ている。戦う気満々と言うか、落としきれない血の跡があるので、斬り合いは経験済みと見た。
 とりあえず私はしどろもどろながらに話した。
 ベアトリス様はレジーの親族だし、二年もお世話になった人達だ。二人はニヤニヤしながらも嬉しそうに聞いてくれた。
 それでも、レジーが先に付き合っている話をしてくれたおかげで、あまり根掘り葉掘り聞かれなかったので、助かった。
 ベアトリス様は、そんなレジーの行動を微笑ましそうに思い出しながら言った。

「あの場で自分が先に話すように仕向けておくことで、貴方が質問攻めされないように守ったのね、あの子。それに私が貴方達の様子から察した後で説明するのも、やりにくかったでしょうし」

 確かに、ベアトリス様が到着した日は後で三人だけになるような時間もなかった。話をするより先に、ベアトリス様が私とレジーの様子を知ることになってしまう。その状態で説明するのは、さすがに宜しくないだろう。
 むしろレジーとは二人だけで話す時間が持てたはずだから、それでとレジーも考えたのだろう。
 ベアトリス様はふと息をついた。

「随分と貴方に入れ込んでいるのはわかっていたけど……。はっきりと大事なものを作らない子だと思っていたのよね、レジナルドは。両親のことがあるから、なおさらにね。でもそのままじゃ生きて行くのは苦しいだろうって思ってたから……誰かを好きになって、大事に思ってくれるようになって良かったわ」

 そう言われて、私はどう返していいのかわからず、困ってしまってもぞもぞしていると、ベアトリス様が続けた。

「しかも魔術師が相手なら、レジナルドのお母様のようになる心配も低いでしょうしね。貴方は、戦えるから」
「あ、リネーゼ王妃様のこと……」
「聞いたわ。リネーゼお義姉様のことは残念だった。私にも良くしてくれていたから。……我が父ながらどうしてそこまでこだわったのか。それに、お義姉様の大丈夫だという言葉を、信じすぎた私も……。だから」

 ベアトリス様が私の手を握った。

「このままずっとあの子の側にいてくれるのなら、何かあったら言うのよ? 魔術でもどうしようもないことがあると思うわ。もちろん、この戦争が無事終わってしばらくは、誰もレジナルドや貢献者である貴方を批判できないでしょう。そこだけは、あの子が王位につくタイミングとしては良いのだけれどね」

 確かに、この戦争に勝てたらレジーは英雄だ。国を解放した王子に、従わない貴族はまずいなくなる。その後の施政でよほどのミスをしなければ、ルアイン軍やマリアンネ王妃達を打倒した成果は、いつまでもレジーに味方してくれるだろう。


 ベアトリス様達には一日だけ休息してもらった。
 その後、私達はシェスティナ侯爵領の平原へ向かった。
 夏に、国王の軍がルアイン軍に敗退した場所。そしてパトリシエール伯爵が待ち構えているだろう場所へ。

 本当はイサーク達が戻って来るのを待ちたかったが、パトリシエール伯爵領へ移動して戻って来るのには少々時間がかかるようだ。
 二日ほど遅れるということだったので、私達は先行することにしたのだった。

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鳥かごの大神官さまと侯爵令嬢


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