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私は敵になりません! 作者:奏多
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合流と再会と 1

 ナザント砦を摂取したのは、万が一のための拠点を持つためだ。
 二万はいるはずのルアイン軍と戦った後、こちらが引かなければならない事態になったら、守りやすい拠点が必要になる。
 それに補給拠点等も必要だ。こちらも二万を越える軍で戦うことになるので、補給線もかなり伸びている。シェスティナを攻略するにあたって、集積場になる場所が必要だった。

 早急に物資を運び込み、砦を使えるように整える一方で、レジー達はシェスティナ侯爵城へ偵察部隊を派遣した。
 先方からの妨害を考え、情報の拾い漏れがないようにかなりの数を出発させたと後から聞いた。
 というか、本人がそう話してくれた。
 砦のレジーの部屋で、隣り合うように座りながら。

 レジーが占有している主塔の部屋は、簡素ながらも綺麗に磨かれた木のテーブルに、木でできた三人は腰かけられそうなベンチがあった。もちろんクッションなど無いんだけど、戦時の砦にそんなものだ。
 わたしはレジーとそこに並んで座っているのだけど……私の右手を、レジーが握ったままだった。

「レジー、あの、手……」
「まだだめだよ。慣れるまでね」
「慣れ……」

 時々、手を繋がれたことはあった。でもこんなに長々と、握られ続けることはなかったので……恥かしい。
 なにせここには、侍従のコリン君がいる。彼の方はあまりこちらを気にしないでいてくれてる……というか、美しく見なかったことにしてくれている。その表情を変えずにいられるテクニックを伝授願いたい。どうしたら何事もなかったかのように、お茶を出したりできるのか。

「あの、恥ずかしい……」

 小声で訴えると、レジーが普通に握っていただけだったのに、指を絡めてくる。
 肌がこすれるくすぐったい感覚に、腰が浮きかける。すかさずレジーが引き止めるように「離してあげないよ」と念を押してくる。

「どうして意地悪するの」

 涙目で言えば、レジーに悲しそうな表情で「嫌?」と聞かれてしまう。
 ……正直に言えば、嫌じゃない、嫌じゃないの。好きって思ってもらえてるんだってわかるから。でも人前では恥ずかしい。
 私、いつになったら慣れられるんだろうか。
 思わず遠い目をしてしまう。

 実はレジーの手が空く時間ができた一昨日から、同じことを繰り返されている。
 とにかくお茶を飲む時でも手を離してくれない。仕方ないので私は左手でカップを手にした。
 旅の空の下なので高級な器ではないらしいけれど、まっさらな白い色が綺麗だと思う。これは王子用にコリン君が死守し続けている陶器のカップだ。
 中に入っていた薄紅色のお茶が無くなる頃、ようやく私の手が解放されそうな話が飛び込んできた。
 ノックの音にコリン君が扉を開けると、中へ入って来たグロウルさんがレジーに報告した。

「ベアトリス様が率いる、エヴラール他からの援軍が間もなく到着されます」
「もうすぐそこに?」
「砦まで三十分ほどの距離だと」

 質問の答えにレジーはうなずいた。

「出迎えに、門の傍まで行こう。キアラも」

 促したレジーがようやく手を離してくれたので、私もほっとしながらついて行った。
 規模が大きくはない砦なので、門の側まではゆっくりと歩いてもすぐに到着してしまう。
 先に報せを受けていたのか、アランやエメラインさん、ジェローム将軍やエニステル伯爵もその場に揃っていた。

 門は既に開け放たれている。
 砦に入り切らない多くの兵が砦の外で野営しているのだけど、門から続く道は空けられている。
 そこを粛々と進んでくる一軍の姿は、先頭にいる人の姿がほとんど判別できるぐらいまで近づいていた。グロウルさんがレジーをあまり待たせないように、知らせてくれたんだろう。

 もう何か月も会っていなかった、懐かしいベアトリス様の姿が見える。
 髪を首元で結んで、カインさん達と同じエヴラールの騎士服を着て、騎乗している。毎日のようにエヴラールの城と国境を駆けまわっていた姿を思い出させて、私はなんだか胸が詰まるような感覚になった。

 きっとアランはもっと嬉しいだろう。
 そう思って横を見ると、なんだか固い表情をしていた。妙にレジーのことを気にしながら。
 不思議だなと思っていたら、レジーが小声で隣にいた私にささやく。

「そういえば君のこと、ベアトリス叔母様に話していいかい?」

 言われて私はおろおろとする。

「え、ええっと」
「不思議に思われて問い詰められる前に、言っておいた方がいいと思うんだ。伯母様は今の時点で私にとって一番の近親者だから」

 ……そうだった! 生き残っている、レジーに一番近い親族ってベアトリス様だ! 確かに『彼女を紹介します』と言う相手ではある。
 でも、そんなこと言われると変に緊張してしまう。
 まさかこんな戦場で、好きな人のお家に訪問してびくびくしながら家族に挨拶するなんていうイベントが起きるとは思わなかったんだもの!
 あれ、でも。

「黙ってたら……だめなの、かな」

 付き合っているだけだから、言わなくても……とすごく後ろ向きなことを提案すると、レジーが楽し気に微笑んだ。

「とりあえず話すのは私がするからいいよ。今のところ、君は黙っていてくれればいいんだ。決して否定せずに。いい?」
「う、はい」

 どうやら話さなくてもいいらしい。
 でもそう言われると、やはり何か言わなくてはならないのではないかとそわそわしてしまう。落ち着かない。でも黙っていてと言われた以上、何も言わない方がいいのだろうか?
 そんな話をしていると、とうとうベアトリス様が門を潜ってレジーの前にやってきてしまった。

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