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私は敵になりません! 作者:奏多
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ナザント砦の捕虜だった人

 ナザント砦を攻略したが、その後の処理の方が時間がかかった。
 投降してきたルアイン兵を砦から外に出したとしても、中に潜んでいないとは限らない。
 何人もの兵を使って一気に捜索し、ルナールやサーラを連れたジナさんとギルシュさんにも協力を頼んで、三時間程でその作業が完了した。

 私はそこで砦の中に移動した。
 敵が利用していた場所とはいえ、守備を固めるならやはり砦の中に居た方が安全だからだ。
 そんな私が、念のために建物の中に入れるぐらいに小さくなったリーラを連れて部屋にこもっている間も、レジー達は仕事を続ける。

 ルアイン兵の武装解除や、捕虜としてエヴラールへ送る算段など、面倒なことは沢山あった。
 一応、脱走や変に暴れられては困るので、私が土人形(ゴーレム)で作った窪みに、何分割かにして入れたので、見張るのはそう大変ではなかったようだ。
 そんな中に、件の捕虜になっていた人のことも含まれていた。
 彼が一体どういう素性で、人質になったのかを私が知ったのは、翌日の朝のことだった。

「ファルジアの近衛騎士隊長……?」
「国王陛下の……レジナルド殿下の叔父ですね。そちらの近衛騎士隊長だったようです。私も何度か顔を見ていたので、間違いありません」

 教えてくれたのは、カインさんだ。
 いくら見張りやすい場所に追い込んだとはいえ、元気なルアイン兵が三千人もいる近くなのだから、念のためついて歩いてくれている。
 なので私は、カインさんと一緒に砦壁の上を歩いていた。

 ここからだと、昨日土人形(ゴーレム)に作らせた窪みが俯瞰しやすい。どうなったか様子を見に来たのは、捕虜を後から追って来るベアトリス夫人の軍が合流したら、そちらに任せると聞いたからだ。
 下手をすると、パトリシエール伯爵と戦った後じゃないと、彼らをここから動かせない可能性もあるので、雨に備えて溝でも掘ろうかと考えていたのだ。窪みじゃ雨水が溜まり放題になってしまうから。
 そのついでにカインさんから報告として聞いたのが、昨日の捕虜のことだったのだ。

「どこかの領主貴族かと思っていました」
「私もです。昨日は髪も髭も伸び放題でしたからね。声は聞き覚えがあっても、誰なのかわからなかったので、身支度をある程度させたら、間違いなくご本人でした」
「声だけなら、上手く変えられる人もいますものね」

 この世界に整形技術などはないし、火傷等で判別がつかないようにさせる以外に、顔を誤魔化す術はない。だから身綺麗にさせたのだろう。
 ただ疑問がある。

「どうして国王の騎士隊長がこんなところに?」
「本人はシェスティナ侯爵領での戦いに、参加したのだと言っていました。国王が来られない代わりに、と。その後敗戦し、けれど国王が暗殺されたらしいと耳にして、エヴラールの殿下の元を目指そうとしたけれど、ここで捕まったのだと言っていましたが……」

 カインさんの語尾があいまいになる。彼も疑問には思っているのだろう。けれどはっきり疑っていると言わないので、あり得ない話ではないのだろう。
 念のため、尋ねてみた。

「近衛騎士隊長が、国王の側を離れて戦に参加するって、あることなんですか?」
「無いとは言えませんね。主が身動きできない場合に、代理として立つこともあるのが騎士ですから」
「なるほど。でも、疑っているんですね?」

 窪みに作る溝について考えをまとめた私は、カインさんと話ながら砦壁から降りる。
 城塞塔の中の階段を下り、砦の中庭に出た。

「捕虜にするより殺した方が面倒がなかっただろうに、と思ってしまうからですね。彼を手元に置くメリットがよくわからないのです。一応本人は、命乞いの際に近衛騎士隊長だと主張し、殿下と親しいので人質の価値があると主張したようです」

 ただし、とカインさんがため息交じりに、主塔の下の方へ視線を移す。
 つられて見れば、中庭に出てきたレジーを追いかける、一人の男性がいた。

「殿下、どうぞ私も戦場へお連れ下さい!」

 情熱的に訴えるが、

「君は長い間捕虜生活を送っていたんだ。体にも相当負担がかかっているだろうから、この砦で安心して休むといい。ああ、故郷へ戻っても構わないよ?」
「殿下!?」

 うん。レジーとは距離があることはわかった。
 そもそもレジーがあからさまな塩対応をしている。……と、そこで私は気づいた。

「カインさん。あの騎士隊長さんは、何年前から騎士隊長をやっていたんですか?」
「もう十年以上は」

 その答えで納得した。おそらくレジーはあの騎士隊長を信用しないだろう、ということを。
 なんとなく眺めていたせいだろうか、件の国王の騎士隊長が、私に気づいてこちらに走ってきた。
 カインさんがさりげなく私の前に出てくれる。おかげで国王の騎士隊長と、間近で接することはなかった。カインさんを見て、少し手前で相手が立ち止まったからだ。

「初めてご挨拶いたします、魔術師殿ですね? 実は折り入って話が……」
「むりです」

 私は何か言われる前に断った。

「は?」

 国王の騎士隊長は拍子抜けしたような声を出す。そこに、私の気持ちを察したカインさんが、断りを入れてくれる。

「殿下は魔術師殿に頼まれても、言を翻すようなお方ではありませんよ。むしろ魔術師殿に迷惑をかけるようなら、貴方を砦から追い出すでしょう。回りくどい手を使うよりは、殿下にお願いし続けた方が良いと思いますよ。それでは」

 カインさんは言うだけ言うと、私を抱えるようにして国王の騎士隊長から遠ざかった。
 振り返ってちらりと見た国王の騎士隊長は、呆然と立ち尽くしていた。
 少しは気の毒に感じたけど、傭兵を雇うぐらいのことならまだしも、騎士の士官のことについて私が口を出すべきでもないのだ。

 しかも積極的に近づきたい人ではない。
 十年前から近衛騎士をしているのなら、幼いレジーとも接しているはずだ。その彼が嫌がるのだから、原因があるはずだ。たぶん、小さな子供だったレジーに国王と一緒に冷たい対応をしていた人なのだろう。
 手のひらを返すような態度を、受け入れるのさえ嫌になるくらいに。

 それで国王の騎士隊長の一件は、私からは遠い代物になったはずだったのだけど。
 どうやらそれで治まらなかったと聞いたのは、二日後。夕食を一緒に摂ったジナさんとギルシュさんからだった。

「あの騎士隊長さん? 名前なんていったかなー」
「バージルさんていうらしいわよん? その人がね、どうも一緒に捕虜になったファルジアの兵士に悪評をばらまいてるのよ」
「どういうことです?」

 パンをちぎる手を止めて聞けば、ジナさんが顔をしかめた。

「殿下が冷たいって、自分達が可哀想だから、誰か殿下にとりなしてくれって言って回っているらしいの。このままじゃ行き場所がなくて、仕事を無くすからって」
「それはまた……」

 レジーの評判を落とす行為だ。士官先を変えたいらしいのに、嫌われる行動をとるのはどうしてなのだろう。
 疑問に思った私に、ギルシュさんが言った。

「そうねん……。彼としては、戦後のことを見据えて取り入ろうと策を弄しているのかもしれないし。悪評を立てられては困るからって、殿下が彼を配下に入れることを期待しているんでしょうねん」
「でも、総司令官の悪評を立てるだなんて……。手の一つではあるけれど、戦場で殿下の指揮を疑うきっかけになったりしたら、問題よ。というか、そんな手を使うような人だから、あの殿下は彼を遠ざけているのだと思うけど」

 とにかく状況を知ったジナさん達は、噂をばらまいている兵士にギルシュさんの相談室に案内し、他のファルジア兵が囲んだところでこんこんと諭したという。
 レジーのようなタイプには、うるさく付きまとうよりも、誠実に礼儀正しくして遠くからじっと見つめる方がより効果的だということも添えて。

「ま、一応納得してたみたいだし、これで収まるだろうけど、殿下に気をつけるよう言っておいてねん?」

 ギルシュさんがウインクをしてそう言った。

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