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私は敵になりません! 作者:奏多
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ナザント砦攻略

 翌朝、イサーク達が出発した。
 その翌日には私達、ファルジア軍も出発。
 目指すはシェスティナ侯爵領境の北西部にある、ナザント砦だ。

 砦までは万を超す大所帯で、街道をじりじりと西へ向かって進んだ。おかげで馬車が使えるので、私はレジー達と一緒に移動時間をやり過ごすおしゃべりをしていた。
 何日も気を張って行動していたら、さすがに神経が擦り切れてしまうし、斥候を先行させながら、兵達も休ませつつの進軍なので、目的地到着まで時間がかかるのだ。

 そうしてナザント砦のことを聞いていた私は、ふと疑問に思った。
 思えば、今まで砦戦は何回も経験しているわけだけれど。普通はどう攻略するものなんだろう。
 カインさんに尋ねてみると、

「使者を送って、投降を求めるのが第一段階ですね。拒否されたら包囲して、門を壊して突破するか、内部に人を侵入させるか。失敗したらあちらが干上がるまで待つことになりますね」
「干上がるまで……」
「あまりに砦の主が強情だったりすると、餓死寸前で内部で反乱が起こることも」
「うわぁ」

 想像するだけでぞっとする。
 餓死寸前とか、経験したくない……。

「あとは殿下がカッシアでやったように、毒物を使うか」

 そういえばカッシア城内のルアイン兵は、毒でほとんどが倒されていたんだった。
 するとレジーが言った。

「でも、そろそろこちらの勢力の方が大きくなったんだから、一応投降を呼びかけてみるかい? クロンファードなんかは、援軍を呼べばルアインの方が有利だったから、まず聞きはしなかっただろうけど」

 そもそもクロンファードでは、ルアイン軍もこちらの姿を確認してすぐに軍を展開したので、投降どころの話じゃなかった。

「あれもキアラさんがいて、ほとんど一瞬で制圧できましたからね。ただ、キアラさんには投降を呼びかける方がキツイことになる場合も……」
「え、どういうことです?」

 投降の呼びかけで、どうして私がショックを受けることになるんだろう。わからなくて首をかしげていると、レジーが教えてくれた。

「交渉決裂した場合……もしくはこちらに受け入れない姿勢を見せつけるためにね、使者の首を切って寄越す場合もあるから」

 ぞっとした。思わず自分の首を手で覆ってしまう。

「や、やだって言うだけじゃだめなんて……」
「大丈夫。やるとしても矢文にするよ。うちの大事な戦力が怯えて使えないと困るからね。期限を設けて待つことになるけど」

 怯えた私の頭を撫でて、レジーが言う。

「三日ぐらいでしょうか」
「こちらとしてはそれぐらいでと思うけれどね。一週間ぐらいはかかりそうな気がするよ。それだけの期間閉じ込められて、援軍が来なかったらようやく諦め始めるんじゃないかな。でもその前に決着をつけたいけれど」

 レジーは「冬が近いからね」とつぶやく。
 来週になれば、じわじわと気温が下がって行く。
 シェスティナで戦うにも、移動などで最速でも一週間ほど必要になるだろう。そこから王都へ向かうには、さらに一週間ほどかかるだろうか。
 一番いいのは、降伏を促した時にすぐルアイン軍が白旗を上げてくれることだけど。
 と、そこで私は思いついた。

「あ、じゃあ土人形に行かせたらどうかな?」
「は?」
 カインさんが目を丸くした。


 五日かけて王領地の山間の街道を抜け、やってきたシェスティナ侯爵領。
 一応、街道の領境はルアイン兵が通せんぼをしていたけれど、一万の軍どころか土人形を先頭に立たせたら逃げて行ったので、悠々と通り抜けてきた。

 そこからまもなく、ナザント砦へと到着した。
 ナザント砦は規模が小さい、一重の砦壁で囲まれたものだった。砦にいる人数は、おそらく三千ほどと斥候から推測が伝えられている。
 砦にいるルアイン兵の役目は、ファルジア軍が接近して来たら規模等をシェスティナ侯爵の城へと連絡すること、そしてファルジア軍の進軍を足止めすることだろう。
 時間が延びれば延びるほど、ルアイン側は反撃の機会を得ることができるのだから。

 ファルジア軍としても、砦のルアイン兵を無視して行ってもいいのだけど、かならず後方から攻撃してくるだろう。それから対応するという手もあるけれど、降伏させられるのなら、その方が手っ取り早い。
 まずは教科書通りに砦を包囲した。
 そしてレジーが、投降の使者について私の案を承認してくれたから実行したんだけど。

「うっくくくく」

 実物を見たとたん、久々にレジーの笑いの発作が来た。
 グロウルさんも頬がぴくぴくしてる。アランは「本気かよ……」とげっそりした顔をしていたが、エメラインさんは喜色満面だった。

「さすがはキアラさん! わたし、こういうのを期待していたのです!」

 エメラインさんはお気に召したらしい。
 その他の人々の微妙な表情と、あっけにとられる兵士の皆さんを背後に、使者にした土人形その1と、土人形その2が砦へ向かって進む。
 その2には、私と一緒にレジーが左肩に、最大時の半分以下には小さくなったリーラが右肩に乗った。

「と、投降の使者、だと!?」

 何も言っていないのに砦壁の上の兵士達がそう叫んだのは、土人形その1の胸に、しっかりと『投降を呼びかける使者です』と大きく刻んだからだ。
 わかりやすくてとてもいいと思ったし、レジーとカインさん、師匠も賛同してくれた。
 一応使者と書いているせいか、ルアイン兵達は攻撃していいものかどうかわからず右往左往していた。

 そこに手を差し出す土人形その1。
 悲鳴を上げたルアイン兵だったが、ぽとりと落とされた投降を呼びかける書状に、土人形の姿を見て砦壁の上にやってきた騎士が気づき、びくびくしながら拾って行った。
 ちなみに書状には、すみやかに回答をするよう書かれている。

 土人形その1の少し後方で待機しながら、私はじりじりと待つ。けれど十数分後に返ってきたのは、矢の雨だった。
 私はリーラが吹雪で矢を遠ざけてくれる間に、土人形その2を少し後方に下げ、土人形その1に砦壁をがりがりと手で壊させた。

「壊れる! 壊されるー!」
「矢が効かない!」

 土人形に一生懸命矢を射るけれど、ちょっとの矢では土人形は倒れない。
 門へ向かってガシガシと、積まれている壁の石を崩していく。
 そのうちにルアイン兵が逃げて行く。勇敢そうな騎士が土人形に剣を突き立てるけれど、巨大になればなるほどHPが高くなる傾向がある土人形は、それぐらいじゃびくともしない。
 そろそろ降参してくれるかなと思ったのだけど、敵は意外な手に出た。

「ひ、人質がどうなってもいいのか!」

 土人形が抉っている場所が門のすぐ上まで届いた頃、砦壁の無事な場所に、数人の騎士が一人の男性を連れて上がってきた。
 どこかに閉じ込められていたのだろうか。髭も伸び放題で髪もまとめられていない。服は生成の簡素な上下だけで、裸足なのは見えた。

「誰かわかる?」
「遠くてちょっとわかりにくいけど、砦に駐留していた騎士じゃないかな。平常時は領主ではなくて、騎士が管理してることが多いからね。……とりあえず近くに来ないと重要人物かもわからないな。力を貸してもらってもいいかい?」
「うん」

 土人形の頭の横で立つレジーの、左肩に触れる。
 彼が左手に持つ剣の先を砦に向けたところで、力を流した。
 力を渡した後、それを使うのはレジーだ。彼の剣先から放たれた雷は、まっすぐに人質だという男性を掴んでいる騎士達を打ち据えた。
 悲鳴を上げて離れたところで、砦壁の破壊を中断した土人形その1が、一人で立ち尽くす男性をあっさりと握って確保。

 人質も失ったナザント砦のルアイン軍は、それでもぐずぐずとしていた。
 けれど人質の男性をファルジア軍に預けた後、もう一度砦壁を破壊しはじめた土人形その1が門を蹴りとばしたその時、ようやく白旗を掲げたのだった。

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鳥かごの大神官さまと侯爵令嬢


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