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私は敵になりません! 作者:奏多
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痕跡が示すもの

 驚いたものの、レジーはそれ以上何も言わない。
そこへ、グロウルさんが持ってきていた冊子を差し出した。
 一冊だけとあるページを開いた状態で。

「これはおそらく……クレディアス子爵による魔術師を作る実験の犠牲者になった者の一覧です」
「そんなものがあったのかい?」
「燃え落ちた部屋の中に、残っていました。火を放ったことで安心して確認しなかったのかもしれません。何かの要素で上手くこの冊子が収まっていた机が焼け残ったようです。開いた場所をご覧下さい、殿下」

 グロウルさんが指である箇所を指し示す。
 それを見たレジーは、一瞬だけぐっと眉間に力を入れたことがわかった。すぐに平素の態度に戻る。

「王族らしい名前がけっこう並んでいるね……。多少この状況は予想していたけれど、名前が無いのは、名づけられもしなかった子供なのかな。年が書いてある」
「このページの辺りは、昔からの記録を整理したもののようです。なので一時に十数人を殺害したわけではないのでしょう。近年に近いもので、おそらく攫ってきたと思われる女性達の記録はもう一つの冊子の方に、まとめてあるようです。それでも、走り書きのようなものですが」

 グロウルが説明すると、レジーが見ていた冊子を閉じて他の騎士達に回す。

「私が見た方は、王族かクレディアス子爵家の近親者のようだね。パトリシエール伯爵が関わり始めたのは、十二年ぐらい前なんだろうね。エフィア・パトリシエール……おそらく伯爵の親族で、この子がカメオの持ち主だろう」
「……魔術師殿が見つけた装飾品のことを考えても、二人ともにパトリシエール伯爵が関わっていそうですな」

 グロウルさんの言葉に、レジーがうなずく。
 その時カインさんの元に片方の冊子が回って来たようだ。中を見たカインさんが、小さく呻くような声を出す。知っている人の名前でもあったのだろうか?

「どうしました、カインさん」

 ささやき声で尋ねた私に、カインさんが冊子を渡してくれる。中を見ればわかるということなんだろう。
 私がページをめくる間にも、レジーがグロウルさんに答えていた。

「あの後のルアイン戦後……、いくらパトリシエール伯爵家がルアイン貴族と縁続きだとはいえ、ルアインとの交渉などを任せるのは妙だと思ったんだ。一代前の伯爵の時には、ルアインに与したせいで冷遇されていたはずだからね。でも、私の祖父の代で急に優遇された理由に納得できた気がする」
「というと?」
「パトリシエール伯爵は、一度妻を亡くしているんだ。王族の、公爵家の体が丈夫ではない女性だったみたいで、十二年くらい前に死別していたそうだけど。……そうか」

 何かをレジーが納得したらしいその時、私はカインさんに横からページをめくってもらい、ようやくその記述にたどり着いた。
 そこには確かに、エフィア・パトリシエールの名前と、十二歳という年齢が記されていた。

「エフィア……」

 王族の母を持つ。十二歳。しかもカメオの隠し場所を知っていた。

「茨姫が、エフィアという子なのかもしれない」
「まず間違いないと思うよ」

 私の独り言に応じたのは、レジーだった。
 銀の髪は王族から生まれる。直系の場合が多く、二世代目以降は極端に少なくなるようだけど、このエフィアのように三世代目くらいなら生まれる可能性は高い。

「髪の色もそうだけどね。茨姫がこの建物に隠されていたものに執着があって、しかも遠くない過去のものなら、彼女は……何百年も生きてきた魔術師ではなく、魔術師になってしまった子供の可能性が高いだろう」

 確かに、エフィアの知り合い等だったとしたら、隠し場所を知っているのはおかしい。エフィア自身か一緒に指輪を埋めた人物でしかありえない。

「でも、子供のままの姿ってことがあるのかな?」

 膝の上に乗せていた師匠に「どうです?」と尋ねてみる。

「魔術師じゃからの。どんな能力があるのかはわからんから、そういう事象があるとしても納得できるというものじゃ。それにのぅ、森からずっと出なかったのじゃろ?」
「そういうことになってるらしいけど……」
「クレディアス子爵の元で魔術師になったせいで、奴から逃げるために森に潜み、何百年も生きていると噂を流したとも考えられるじゃろ」

 師匠の意見に、レジーがうなずく。

「やっぱり、エフィアって名前の子なのか……」

 ともすれば、養女の私とは義理の姉妹にあたる人だったのか。だから私に親切にしてくれたのかな?
 そう思いながら冊子にまた視線を落とした私は、エフィアの下に書かれた名前に目を瞬く。
 どこかで聞いたことがある、と思った。
 姓がなく《リネーゼ》とだけ書かれている人物の記述。年齢は二十四歳だ。でもこの冊子には王族かクレディアス子爵の親族などの貴族の名前が記載されているという。

 エフィアを魔術師にしようとした場合、一番騒ぐのが母親だろう。十二年前にその母親が亡くなっているのなら、エフィアはその後に魔術師にされたはず。
 十二年前。その頃の王族なら、五歳だったレジーもいくらかは知っている人かもしれない。

 そこで私は、レジーが驚いた表情と一緒に、レジーが五歳の時にいなくなった人のことを思い出す。その人の名前は……。
 思わずレジーの方を見た。

「とにかく目的物は見つけた。もし茨姫がなかなか行動せず、現れてもすぐ消えてしまったのがクレディアス子爵がいたせいだとするなら、彼の死亡とこの装飾品を渡すことで、協力を求められるかもしれない。アラン達と合流してから、使者を出そう」

 レジーは話をまとめて立ち上がったところだった。
 そこでグロウルさんが、気づかわしそうな表情で言った。

「どちらにせよ、今日はここから動かない方がいいでしょう。比較的無事な部屋もあります。そこを使ってお休み下さい。野営よりは私達も屋根と壁がある方が、楽にすごせますから」
「……そうだね。わかった」

 うなずいたところで、すかさずフェリックスさんが私に頼んでくる。

「三階の使用人部屋は、重要物がないと思ってなのかあまり破壊されていません。他の用事があるので、すみませんが殿下と一緒に魔術師殿もそちらで食事の時までお待ち下さい」

 カインさんもそれに同意して、グロウルさんと一緒に私をレジーと一緒に三階へ追い立てた。
 一緒に冊子を預けられた私は、どうしてみんながそんな行動をするのかわかる。

 ……レジーのことが心配だから。
 でも彼は『部下』には気持ちをさらけ出さないから、私に任せられたんだと。

「仕方ないね。みんなの邪魔にならないように引っ込んでいよう」

 苦笑いするレジーも、それを感じていたんだと思う。三階への階段を上がってすぐ、私の手を引いて適当な一室に入った。

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