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私は敵になりません! 作者:奏多
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遠くを見渡して

 翌日、私達はすぐに出発することになった。

 離宮まで急いで帰ってくるため、今回は少数精鋭だ。デルフィオンでアーネストさんの所へ向かったのと同じ、五十人ほどの集団と、サレハルド側の案内のための兵だけを連れて行った。

 なにせキルレア伯爵領方面から進んでくる軍のこともある。南へ進軍し、合流したところで早々にシェスティナ侯爵領へ入る予定なので、そちらも先に行動してもらいたい。
 だからアラン達にはサレハルド軍と南下を始めてもらい、私達は離宮からそちらへ合流することにした。
 兵も移動続きだから休ませたいのはやまやまだけど、できれば冬までには家に帰したいし、彼らも帰りたいはずだ。
 そして敵に無用な備えをさせないためにも、素早く攻略すべきだからだ。
 焦る程度には、最近風が冷たくなってきていた。
 私もデルフィオンでエメラインさんに見たててもらって、上着を身につけるようになっているほどだ。

 さて離宮までの道は、ほんの一日ほどだ。
 一度だけ野営して、次の日には到着できる。この野営も、冬に軍を動かせない理由の一つだ。
 ファルジアの冬はそれなりに雪が降る。北国らしく雪深い土地のサレハルドよりはマシだが。

 そんな野営の時、いつも通りカインさんが近くで夜番をしてくれていた。
 もちろんカインさんも他の人と交代するので、長く起きてはいないし、私も早々に起き出せば守ってくれる人の負担が軽くなるので、早寝早起きを心掛けている。
 それに風が冷たくなっている季節だから、いくら焚火を絶やさないとはいえ、夜に番をしてくれるカインさんの体調も心配になってくるので。

 ただこの日はやけに早く目覚めてしまった。その後も寝つけないので、一応空は明るくなっているのだし、野営している場所の周りを歩き回ろうとした。
 なら、とちょうどその時にいたカインの勧めで、木より高い土の塔を作って上った。

 太陽は見えないけれど、空は薄青く明るい。その下には、湖側へとなだらかな斜面を見せる丘陵や、点在する林が見えた。
 風景としては、デルフィオンの湖畔地方と同じだけど、元は自分も王領地に住んでいたことを思えば、遠くへ来たもんだとしみじみと感じた。
 元の家など、身に行くつもりもないけれど。
 悲しい記憶しかない場所に、望んで近づく趣味はないから。

「キアラさんが下りた後は、他の者が周囲を警戒するのに使えますから。このままにしておいてください」
「あ、わかりました」

 じっと遠くを見渡していると、カインさんが言った。

「朝には解体してもらわなければなりませんが」

 一緒に上まで登ったカインさんが、ふっと息をつく。

「どうしました、何か具合でも悪かったり……」

 カインさんはかなり頑健な人だ。そんな人が何でもないような時にため息をつくなんて、疲れているのか体調が悪いとしか考えられなかったんだけど。

「そういうわけではありませんよ」

 カインさんは子供にするように、私の頭の上に手を置いた。

「ただ高い場所から遠くを眺めていると、何もかも見通せるせいか、自分の考えごとも小さく思えるような気がして。……昔はそんなことは思わなかったのですがね」

 何か悩んでいるのだろうか。
 それを聞き出していいのかわからずにいると、カインさんが言った。

「私は多分、強欲なんですよ。全てを失いたくない。欠けた皿をいつまでも未練がましく見つめてしまうみたいに。……だから、家族を失ってもそこから歩き出そうと思わなかった。そう考えていたことを、キアラさんと一緒に過ごしている間に、気づくようになりました」
「でも、傷ついて当然じゃないですか。それは悪いことではないですよ」

 家族を失って辛くない人なんていない。時間や他に出会う人との出来事で、ちょっとずつ辛さが遠ざかるだけだろう。

「そうですね……今はそう思えるようになりました。昔はたぶん、それが悪いことのように感じていたんでしょう」

 カインさんが振り返って微笑んだ。

「あの頃の私は、キアラさんくらい若かったですからね」

 でも、とカインさんが続けて言った。

「むやみに周囲を見ないで突っ走ったからこそ得たものもあります。疑問を持たなかったからこそ、戦う術を磨くことに邁進できたのですから。だから……キアラさんも、誰かのために今そうしなければならないと思えたのなら、誰がどう感じるとか、後でどうなるのかとかを考えずに走ってみたらいいと思いますよ」
「カインさん……?」
「貴方は未来を知っているせいで、今まで真っ直ぐに走って行ったけれど、自分の心の赴くままといった行動はそれほどしていない」
「そうですか?」

 自分では好き勝手にさせてもらっているように思っていたので、首をかしげてしまう。カインさんは「わからないならそれでいいんですよ」と言った。

「突然変な話をしてしまいましたね。時々、貴方や殿下達を見ていると、兄のように色々と言いたくなる瞬間があるんですよ」

 それに、と続けた。

「貴方が前へ進むために必要な人を決めたのなら、誰を選んでも私は何も言いませんよ。ただずっと、守るのは私の役目です。それだけは忘れないでください」

 では、と言ってカインさんは先に下へ降りて行ってしまう。

「え……カインさん、まさか私の気持ち、知ってる?」

 誰にも言ってはいない。察しの良いレジーなら気づいてしまったと思うけど、むやみに彼と接近しているわけではない。それにわからないようにしていたつもりだったのに。
 すると、置き物のように何も言わなかった師匠が、ぽつりとつぶやいた。

「何かを感じたんじゃろうな。どうせ弟子は隠すのが苦手じゃからの。ヒッヒッヒ」
「……隠せていませんか?」
「お前にしては頑張っておるが。考えてみれば王子と同衾してみたり、微妙な部分で漏れておるじゃろが」
「あれは私の意識が無い間の出来事で……」

 心臓に悪いぐらい、驚いた。
 後からジナさんには、レジーも意識を失うように寝台の横で座り込んで眠ってしまったと聞いたけど。だから目覚めた時に、レジーが悪ふざけをした時だけ一緒に寝転がっていたようだ。
 それにしてはジナさんも全く焦った様子もなく、普通のことのように受け入れてたのが解せない。尋ねても「殿下がむやみに手を出すはずがないってわかってるからー」とニヤニヤしながら言われただけで。
 思い返していたら、師匠につつかれた。

「そもそもは、お前が王子の袖や手を掴んで離さなかったせいじゃろが。あやつもその辺りは目にしておったからのう。ウッヒョヒョヒョ」
「うう……」

 カインさんは私の側にいたのだから、見ていて当然だ。じゃあやっぱりそういうこと……なのかな。
 同じことを考えたらしい師匠が言った。

「あやつも、心の整理がついたのではないかの? むやみに代わりを持つことも、復讐を成し遂げることも、お前さんのことについても、多少なりと冷静に見られるくらいには」

 そうだといい、と思う。
 特に家族や復讐については、心の整理がついてほしい。ずっと思い悩んで、辛い気持ちではいてほしくないから

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