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私は敵になりません! 作者:奏多
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王領地の不審な場所

 湖岸では、船が近づいていると知らせを受けて来たんだろう。イサークが待ち構えていた。
 まずはレジーやアラン達と挨拶をしたイサークは、次にそれよりも後ろにいた私に気づいて声をかけてくれる。

「よおキアラ!」

 その様子が、カッシアやイニオン砦の時みたいに気軽なものだったから、懐かしくなって、ついあの時みたいに返事をした。

「無事で良かった。怪我はない?」
「お、心配してくれんのか? だまし討ち戦でやられるわけがないって」
「でも流れ矢とか……」
「俺は王様だからな、他の奴らが気にしてくれるんだよ」

 あっけらかんと笑うイサークを見てると、そういうものなのかなという気はしてくる。
 確かにレジーだって、常に誰かが周りを固めてるんだよね。
 そう思ってたら、さらに話そうとしていたイサークの肩にレジーが手を置いた。

「ああ、イサーク殿。早く今の状況についての説明が聞きたいな。砦の中に案内してくれるだろうね?」

 微笑んではいるけど、なんかレジーの目が怖い……。
 対するイサークも、にこやかな表情でさらりと言う。

「なんだキアラに近づけたくないってか?」
「君は前科者だからね」

 前科という言葉にどきっとする。
 意識しないようにしてたのに……犬にかまれたと思って。だけどレジーがその件について口にすると、罪悪感が湧いて来る。

「いやだね、心の狭い男は」
「心が狭くなるようなことをするからだよ。堂々と教えておいて、今更知らないふりもないだろう? キアラ、おいで」

 レジーが呼ぶので、私は素直にそちらに近寄る。するとレジーがするりと腰に手を回してきた。

「えっ、あれっ」

 ちょっと待って、今結構な人の前でこんなことすると思わなかった!
 なのにグロウルさんは平気そうな顔をしているし、フェリックスさん達騎士も普通にしている。アランまで放置してサレハルド側の将軍と話をしているし、ちらちらこちらを見ているのは、ちょっと遠くにいる平の兵士ぐらいだろうか。
 後ろにいるカインさんがどんな顔をしているのかは怖くて見れない……。
 けれどレジーは全く気にしていなかった。

「私が保護者になっているわけだから、キアラに近づける人間も私が口を出すのが当然だからね。さ、案内してもらおう」

 微笑みを消さずにそう言ったレジーは、イサークが呆れたような顔をして先導し、砦の中へ案内する間も、私の手を握って離さなかった。
 砦の入り口にも中庭にも、整列したサレハルドの兵士達がいたけれど。
 半歩遅れて歩く私は、どう見えてしまったのか……。

 実に恥ずかしかった。
 それでも手を振り払えない。できればずっと繋いでいたいからだ。
 手を離したのは、砦の中に入ってからだ。
 寂しいのにほっとした。
 やっぱり人の目があるところでずっと手を繋ぎ続けるのは、抵抗がある。だって恋人同士というわけではない。表向きには、友達のように仲が良い王子と魔術師だから。
 でも手を離す時に、レジーが耳元で囁いた。

「ほんとは離したくないけどね」と。

 おかげで手を離されても悲しくはなかったから……なんだか、全て見通されているような気持ちになる。
 それも安心できたりするんだけど。
 カインさんが、なんだかこの間からちょっと様子がおかしい。だからどう見えているか気になってしまう。
 ただレジーが離れた後で、私の護衛でもあるカインさんが「防犯のためには、あれは有効だったでしょうから、気にしない方がいいですよ」と言ったので、カインさんもそういう方向で捉えてくれていると思うのだけど……。

 とにかく現状についての説明と、これからの方針についての打ち合わせだ。

 イサークは砦を奪取後、すぐに王領地内部に斥候を放っている。もちろんルアイン兵の衣服を着せたままで。
 帰ってきた者の報告によると、元々王領地にいた代官は、ルアインが王領地に攻め入る前にパトリシエール伯爵の手の者によって殺され、兵のほとんどがシェスティナ侯爵領での決戦のため、西へ引いたようだ。
 その後、湖畔以外の二つの砦はパトリシエール伯爵の私兵が一つ、ルアイン軍が一つを占拠しているという。

「ただ一個、変な場所がある」
「変な場所かい?」

 聞き返したレジーに、イサークが困惑した顔をしていた。

「砦みたいな壁で囲まれた館に、パトリシエール伯爵の兵が出入りしていた。ついこの間まで頻繁にな。あと、お前達が倒した魔術師の男。あいつも立ち寄っていたようだが」
「クレディアス子爵も……」
「場所はここだ」

 ファルジア側が渡していた地図の、ある一か所をイサークが指差す。
 その場所を見て私は気づいた。

 ……茨姫を仲間にするため必要なものが、ある場所だ、と。

 そこにクレディアス子爵が出入りしていた。パトリシエール伯爵の兵も。
 ゲームではそんな繋がりの話など一切出てこなかった。一体どういうことだろう?
 王家がクレディアス子爵と密約を結んでいたらしいことはわかっているけれど、そこにパトリシエール伯爵が絡んでいたのか。
 確かにクレディアス子爵が王妃の仲間になった経緯も、詳しくはわからない。私が夢で見た一回目の殺されてしまうキアラの人生でも説明されなかったし、そんな所へ連れて行かれたこともなかったから。
 でもそれを調べたら、何かがわかるかもしれない。
 クレディアス子爵を倒したとしても、まだ王妃達が何かを隠している可能性もある。

「今は誰もいないからな。俺たちもそこは放置している」
「そうか……」

 つぶやいたレジーは、私を振り返る。
 クレディアス子爵が関わっているのなら、魔術師が判断する範疇のものだと思ったのだろう。

「あの、できればそこを調べに行きたいです。魔術に関わるもので、王妃達には不可解なことがありすぎて。その理由を知る手がかりがあるかもしれません」

 レジーはうなずいた。

「わかった。許可しよう」

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