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私は敵になりません! 作者:奏多
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移動前に会議をします

 エイルレーンでの戦いを制した私達は、一度休息等の関係からデルフィオン男爵の城へ戻っていた。
 位置的にはすぐ南なので、移動には三日ほどしかかかっていない。

 馴染んだ男爵城にたどり着いただけでものすごく安心したのだけど、以前使っていた部屋に入ると、学校のない日曜日の朝のようにごろごろとしたくなった。
 でも寝転がっている暇は、ちょっとだけしかない。
 すぐに今後の方針について、打ち合わせなければならないからだ。

 トリスフィードでそれなりに時間がかかってしまった分、早く方針を決めて、出発する必要がある。
 本格的な冬が少しずつ近づいているからだ。
 外は長袖の上に、何かを羽織ると丁度いいくらいの気温になっている。
 ただ急ぐための策はあった。

 一時間ほど経った頃、いつもの将軍達とレジーの近衛騎士、私の補佐をしてくれるカインさんは以前も使った男爵城の会議室に集合した。
 前と少しだけ座る位置が違うのは、アズール侯爵がいないからだ。
 寂しさを感じながら、状況確認をした後で方針について話し始めたのだけど。

「援軍には以前より事欠かなさそうだね。日和見をしていた貴族家から、デルフィオンへ援軍の申し出の知らせが鳥でいくつか来ているよ。アーネスト殿に、サレハルドを旗下に入れたことまで喧伝してもらったけど、効果は上々みたいだね」

 どうやらあの戦の結果を、レジーはデルフィオン男爵のアーネストさん経由で、様子見をしていた領地にも知らせたようだ。

「だからデルフィオンの国境で待機している援軍には、そのまま西進してキルレアを攻略してもらう」

 そういえば、とレジーがグロウルさんに尋ねた。

「彼らはそろそろ湖に漕ぎ出した頃かな?」

 グロウルさんがうなずいた。

「エイルレーンに残されていたルアインの船を利用しまして、移動しているはずです」
「では彼らからの連絡を待ちながら、こちらも遅れて出発して追いかけよう。そうして直接湖を渡って、キルレアを通り越して王領地へ向かう」
「なんというか、本気で扱き使うんですな……」

 やや気の毒そうな表情をしたジェーローム将軍が、笑顔のレジーにそう言った。

「魔術師殿がそういう設定にしたからね。それにトリスフィードの一件を他の貴族達にも納得させるためにも、仕事をさせたということがはっきりわかるようにしてあげないといけないと思うんだ」

 さっきから言っている『彼ら』とは、イサーク達サレハルド軍のことだ。
 サレハルド軍には、そのままエイルレーンから船で王領地へ向かってもらう手はずになっている。
 そうして私達ファルジア軍に先んじて王領地のルアイン軍を掃討してもらうのだ。おかげで私達は、労せずして王領地から次のシェスティナ領へ向かうことができる、という筋書きだ。

 にしても、敗戦の末に負った協力するという条件だったけれど、私はこんな使い方をするとは思いもよらなかった。ファルジア軍と一緒に湖を渡るのだとばかり。
 イサーク達も、よもや単独で王領地へ放り出されるとは思わず、ぎょっとしていたのを覚えている。

 ……私はがんばってとしか言いようがなかった。
 間違いなく私が、死ぬぐらいなら私が扱き使うと宣言した結果なのだから。
 カインさんもレジーも、サレハルドの王が受け入れると決めたことなんだから気にするなと言うのだけど……。

「サレハルドはパトリシエール領まで下ってもらうつもりだけど、一時王領地で待機して、キルレア側から西進する援軍と合流してもらう。そこからシェスティナへ向かってもらおう」
「援軍の者達に、サレハルドの軍を任せても大丈夫でござろうか」

 エニステル伯爵が白い髭を撫でながら、懸念を口にした。
 確かに援軍の人はサレハルドと戦ったことはないだろうけれど、彼らが国内に侵略した経緯は知っているわけで。
 良い感情を持っていないだけならまだしも、協力するのが難しいような状態になっては困る。エニステル伯爵はそれを心配しているのだろう。

「問題ないよ。援軍の大将には、元王女のベアトリス辺境伯夫人に来てもらっているから」
「え、ベアトリス夫人が?」

 驚きのあまり声を上げてしまった私に、レジーがにっこりと笑った。

「辺境伯の怪我が快癒したらしいからね。それでも長旅をさせるのは心配だから、叔母上をお呼びしたんだ。最適だろう?」
「まぁな。サレハルド軍を上手く扱えて、集まって来る貴族もあの人の元の身分と血筋から、粗雑には扱えないからな」

 その息子であるアランが、しみじみとそう言った。
 ファルジア王家の王位継承権を持っているのはレジーとアラン、そして王女だったベアトリス夫人だ。打倒ルアインを標榜して動く貴族達は、ベアトリス夫人を粗雑には扱えない。サレハルドとやりとりするにも、合理的なベアトリス夫人なら、しがらみに囚われることなく采配してくれるだろう。
 しかもベアトリス夫人自身も、戦闘要員にもなれる人なので、その辺りも問題ないだろう。
 なるほどと思う私の横で、エメラインさんが珍しく目を輝かせていた。

「ベアトリス様が……」

 そういえば、ベアトリス夫人のこと尊敬しているんだった。エメラインさんにとってはアイドルのような存在なので、さぞかし会いたいに違いない。
 戦が終わるまでみんなが生き残っていれば、会えるだろう。

 それにしても、と私は思う。
 目をきらきらとさせながら、ちょっと斜め上を見上げて夢想に浸っているエメラインさんを、アランがじっと見ている様子に、私は視線を向ける。

 だけど最近、なんだか違う感じがするんだ。
 前だったら「おいこの変人なんとかしろよ」みたいに、私に目で物を言っていたアランだったけど、最近は「仕方ないか」と苦笑いする表情になっていた。
 エメラインさんも視線に気づくと「あらやだ」みたいにちょっと我に返る。

 私が捕まったりしている間に、色々とあったんだろうと思う。それで態度が近しいものになったんだと思うんだけど。
 何があったんだろ。

 なんにせよ会議はすんなりと進行した。
 シェスティナと王領地の情報は、レジーの近衛騎士の一人の故郷、タリナハイアの貴族軍二千が来たとともに、いくらか入って来た。
 王妃側は、ルアイン軍で王都を十重二十重に囲んでいるわけではなく、軍を二つに分けてシェスティナと半数ずつ割り振っているとのこと。

 王領地にはパトリシエール領の兵士とルアイン兵が駐留しているらしい。
 陸地を行くにしてもここは必ず通ると思ったからだろう。
 レジーとしては王領地は楽をさせてもらい、すぐにシェスティナへ移動したいようだ。

 話を聞きながら、私は王領地でのゲームのエピソードを私は思い出す。
 そこで戦闘もあるのだけど、茨姫に関するエピソードもある。茨姫を仲間にするために必要な物を、持ってくるというアレだ。
 レジーはどうするつもりなのかな。
 クレディアス子爵がいなくても何があるかわからないと思うと、茨姫がついてきてくれた方が安心なんだけど……。

 そういえば、万が一のためと思ってイサークにも王領地での戦闘について、ちょっとぼやかしながらも話したんだっけ。
 地理的に何度も行ってよくわかってるレジーの予測、という形で。
 当たらないかもしれないから、一応気に留めるだけのつもりで聞いて、という不可思議な私の話に、イサークは首をかしげていたっけ。

 とにもかくにも一週間後、私達も男爵城からほど近い港から、船に乗って移動することが決まった。

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