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私は敵になりません! 作者:奏多
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消えた選択肢

※途中からキアラ以外の視点になります。
 内心で首をかしげながら歩きながら、ふと私は後ろを振り返る。

 土人形の残骸の土の山と、その周囲の紅葉し始めている木立。
 そこから広がる、うねるような丘陵地帯。そこにもそもそと密集する、サレハルド軍やファルジア軍の天幕や焚火の煙。
 更に先に見える、青い湖。

 ――その景色が、一瞬ぶれる。

「え?」

 いつの間にか、穏やかな風景は消えてしまった。
 周囲が剣戟の音と、鬼気迫る表情で剣を振り降ろす人々の姿で埋め尽くされる。
 何が起こったのかわからない。とにかく逃げようと思った瞬間、私の視線が彼を見つけた。

 今はここにはいなかったはずの、レジー。
 青のマントを翻しながら剣を振るう彼の周囲には、自分の体を凍り付かせ、正気を失った顔で泣いたまま迫る魔術師くずれ達の姿。
 氷の刃を受け止めるレジーに、炎が迫る。
 辛うじてかわすした彼を、風が斬り裂いていく。
 倒れたレジーを、助ける人の姿はない。フェリックスさんも、グロウルさんも倒れて、他にも誰だったのかわからない黒焦げになった人が転がっている。

 レジーを攻撃していた魔術師くずれが、さらさらと砂になって死んでいく。
 その砂を踏みしめて進み出たのは、意識なくぐったりとした私の首を鷲掴みにした、クレディアス子爵だった。
 その背後には、複数の槍で串刺しにされたカインさんの姿があって。

 私の足が震え始める。
 笑い声を上げたクレディアス子爵は、私を放り出すとレジーに手を伸ばす。
 呻きながらも起き上ろうとしていたレジーは、クレディアス子爵の指先がその左肩に触れた瞬間に、砂になって崩れた。

「なん……」

 何これ!? どうしてこんなものが見えるの?
 やだ。なんでレジーが死んじゃったの?

「うそ、うそうそ」

 思わず顔を覆ってその場にしゃがみ込む。

「キアラさん!?」

 カインさんの声が聞こえた。
 呼びかけてくるけど、でも、カインさんもさっき死んで……。

「キアラさん、どうしましたか?」

 肩を強くつかまれて、私はハッと『戻った』ような感覚になる。
 顔を覆っていた手を離して見上げると、カインさんの心配そうな表情が見えた。
 周囲に視線を向ければ、元のように穏やかな風景が広がっている。それを確認してから、もう一度カインさんを見て、

「……生きてる」

 つぶやくと、カインさんが安堵したように息をついた。

「どうしました。急にまた、何か思い出したんですか?」

 前にも同じように、白昼夢を見て私が右往左往したことがあったからだろう。同じ状態なんだとカインさんは思ってくれたようだ。
 でも、いつもとは違う。キアラが死ぬ運命だった物語の続きじゃなかった。
 明らかに今、キアラ達が進んでいるはずの道の途中で、違う分岐があった場合の記憶だ。

「何……これ」

 体が小さく震える。
 自分に何が起きているのか良くわからないことが、とてつもなく不安だった。
 でも、そう。可能性があるとしたら。

「ループ?」

 今見てしまった白昼夢は、レジーがもし魔術を扱う術が無かったら、あり得ることだ。レジーに魔術が扱えたら、クレディアス子爵の力で灰になることはなかった。レジーの左腕に魔力を流したら、魔術が発動するはずなのだから。

 じゃあ私は、何度かキアラとしての人生を繰り返してるの?
 でも何度ループしているの?
 敵魔術師だった頃と、今に近い自分と、二回?
 でも敵だった時のことは詳細に覚えているらしいのに、レジーが死んでしまう時の自分のことを、今まで全く思い出さなかったのはなんで?

 ただ何となく感じることはある。
 私はたぶんあの戦いで、レジー達と自分が死ぬはずだった未来という選択肢を乗り越えたのではないか、ということだった。

   ◇◇◇

 彼女の目覚めを促したのは、魔術の効果のせいなのか、それとも和やかな鳥のさえずりだろうか。
 視界に飛び込んでくるのは優しい薄青の空と、木々の緑だ。

 起き上った彼女は水筒の水を一口飲みこんでから、銀の髪を近くの川で染めた。
 濃い茶の色粉を浸みこませ、しっかりと編みこんでおく。
 手を洗った彼女は、近くに繋いでいた馬に乗った。
 街道を進むが、土が慣らされた道は彼女の記憶通りにしっかりと踏み固められていた。
 やがて丘の上の、景色が開けている場所へ出る。
 ラクシア湖畔は静けさの中にあった。けれど以前のような景勝地らしさは陰りをみせている。
 草原が広がっていた場所は踏み荒らされ、木もなぎ倒されて燃えた形跡があった。
 辺りに漂う焦げ臭さは、そのせいなんだろう。
 さらに先へと小さな道で馬を進ませる彼女に、ちょうど行き合った農家の女性が「あれまぁ」と声を上げる。

「女の子が一人で、こんなところまで? ちょっと前に戦があった場所なのに」

 目を丸くする農家の女性は、戦があったと言いながらも落ち着いた様子だった。そして彼女の髪色についても、特に驚いた様子はないので、きちんと染めることができているんだろう。
 そんな農家の女性に彼女は尋ねた。

「戦は、いつ終わったのか聞いても?」
「一週間前よ。驚くことにサレハルドの軍を降伏させたのよ。つい昨日かしら、軍もデルフィオンのお城に戻ったから、すぐに私達も家に戻れて良かったわ。今はデルフィオン新しい男爵様の兵が、この辺りにいたルアインの残党を追い払ってるから安全だろうけど、あんたみたいな小さい子が一人で馬に乗るなんて、どうしたの?」
「親戚の家まで用事があったの。それで、ファルジア軍の方は大丈夫だったの? 王子様が討たれたとか、そういうことはなくて?」

 彼女の問いに、農家の女性が笑う。

「あっはは! 多少大変だったらしいけどね、なにせ王子様が雷の剣を操って、ルアインの増援までも倒したんだよ! きれーな紫色の雷が船に落ちる姿は、遠くからでもよく見えたもんさ。それに魔術師様もいるからね。荒らされた草地も慣らしていって下さったから、春には放置しておいても戻るだろうし、腐敗したら片付けるのも厄介な敵兵の死体まですっきりと埋めていってくださったしね」
「そう……教えてくれてありがとう」

 礼を言って、彼女は馬を再び歩かせた。
 農家の女性からかなり離れたところまできて、ほっと息をつく。

「今度こそ、誰も死なずに進めたのね」

 本来なら。
 トリスフィードで捕らわれたキアラは、炎の中で火傷を負い、ファルジア軍にすぐ戻ることなどできなかった。その間にファルジアは追い込まれる結果になる。
 そこでキアラが助かった場合でも、クレディアス子爵に対抗しきれず、ルアインの援軍に押されて後退。その時に捕まったキアラを助けようとして、クレディアス子爵がレジナルドを殺していた。

 彼女の知っている未来は、少しずつ前進している。
 二人が死なずにいられる世界であるように。
 だからこそ追いかけなければならなかった。

「待っていてキアラ……これが最後だから」

 つぶやいた彼女は、ぎゅっと唇を引き結んだ。

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