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私は敵になりません! 作者:奏多
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戦の後でするべきこと 3

 レジー達の話し合いが終わったのは、それからしばらく経ってからのことだ。
 その間にご飯を食べたりできたので、私も時間がもらえて助かった。おかげで寝起きの時よりもずっとしっかりと歩くことができる。
 私はレジーやアラン、カインさんと一緒にイサークの部屋を尋ねた。見届けてもらうためにも、ジナさんとギルシュさんにもついてきてもらう。

 部屋に入ると、イサークは寝台に横になっていた。
 あの時、さすがに魔術を使いすぎた後だったせいなのか、イサークの全ての傷を塞ぎきれなかったようで、イサークはまだ寝台の住人のままだった。
 怪我のせいでまだ熱もあるんだろう。顔が赤くて憔悴したように見える。

 それでもちゃんと生きていたことにほっとする。
 降参せざるをえない状況を作ったというのに、あくまで自害しようとした人だ。ちょっとでも動けるようになったら、すぐに人の目を盗んでトライする可能性もあったから。

 イサークの側には、疲れた表情のミハイル君の姿があった。
 ミハイル君は私の顔を見ると、苦笑いした。……イサークを生きながらえさせても、ミハイル君はそれで良かったらしい。
 あれだけ仲良くしていたんだもの。死んで欲しいなんて思っていなかったんだろう。
 しかし無理に止められたイサークは別だったようだ。

「余計なことしやがって……」

 灰色の目で睨まれる。不愉快だという気持ちがこもっているのを感じて、思わず身をすくめそうになった。でも怪我人相手に押し負けてるようじゃ、自分の意見を受け入れさせるのは難しい。
 レジー達は私が自分でできると信じてくれているのか、何も言わないで見守ってくれている。
 その信頼に応えるためにも、一度奥歯を噛みしめて、お腹にぐっと力を入れてイサークを見返した。

「余計なことじゃないわ。イサークの目的はわかってる。だけど私達ファルジアにとって、イサークが死ぬよりも生きている方が良いと思える利用方法を思いついたから、って言ったらどうする?」

 イサークが嫌そうな顔をする。

「死なせないための方便を思いついたってことか?」
「ちゃんとイサークが嫌がりそうなことだから、安心してくれていい。他の人も、聞けばこれがサレハルドの負債支払いの一環だってわかると思う」
「どういうことだよ」
「強制労働してもらうの」
「は?」

 イサークが目を瞬く。

「この後、私達はキルレアを攻略しつつ、パトリシエール領北の王領地を奪還するの。その露払いをお願い。ファルジアの軍が、自国の民と争うのは最小限にしたいから。サレハルドとの方が、あっちも戦いやすいでしょう?」

 驚いてたイサークの表情が、困ったようなものに変わる。

「戦の負債を、戦って返せってことか?」
「それで良い戦果を挙げてくれれば、いくらか賠償金を下げられると思うよ」

 横からレジーがにこやかに答えた。

「君はルアインと合同とはいえトリスフィードを侵略しているし、伯爵の一族も殺してしまっている。賠償金だけで済ますにはけっこうキツイところだし、君が死ぬというのは、ファルジアの民を納得させるためには良い手だとは思ったけどね」

 それ以上に、とレジーが続けた。

「正直、君がある程度背負って死んだところで、綺麗なサレハルドを次の王にプレゼントすることなど不可能だ。トリスフィードの民からは今まで以上に恨まれるだろうし、ファルジアとの行商路としてもトリスフィードは使えなくなるだろうね」

 なぜなら、トリスフィードの民がサレハルドの商人を徹底的に嫌うだろうからだ。
 エヴラールでも同じことが言える。ヴェイン辺境伯やアランが理性的な判断をしたとしても、ある意味ファルジアとの交流は官民ともに茨の道を通らなければならなくなる。
 ……私はそこまで考えつかなくて、レジーにそう教えてもらったんだけどね。そこは内緒だ。今もわかった風な顔をするようにしている。

「道が困難になれば途絶える。途絶えたら、また行き来しやすい方へ流れるんじゃないかい?」

 ようは、ルアインの側に流れるだろう。今まで戦った意味がなくなるよね? とレジーは言う。イサークもある程度は考えていたんだろう。苦虫を潰したような顔をしていた。

「ある程度は予想している。対策についても考えてはいたが」
「でも私は戦後の苦労を、軽減する機会をも提供しようと言っているんだ」

 レジーが清々しい笑みを浮かべてみせた。

「キアラの提案は合理的だと思うよ? 賠償額は君が死ぬ場合以上に削れるかもしれない。そうしてもいいと、他の将軍達の了解は得ている。ついでに恩を売って、今後の苦労も軽減できるんじゃないかな?」

 聞いていたイサークは、小さく唸る。

「だからって、ファルジアも俺たちが粛々と従うなんて思わないだろ? あっちに寝返る不安があるってのに、大人しく戦わせるか? だから降伏した上でファルジアを戦で援助する方法については検討したが、考えから除外したんだ」
「それについては考えがあるわ。ね、師匠?」

 待っていましたとばかりに答えた私は、師匠に振る。

「キシシシシシ」

 連れてきていた師匠が、奇怪な笑い声を上げる。

「なるほど。わしを使ってサレハルドの奴らを怯えさせるってことかの」
「怯える姿を見せたら『あ、この人達って呪いに弱いから、従っちゃうんだろうな』って納得してくれるんじゃないかな。それを伝え聞いた人も、可哀想な集団だから逆らわないんだなってわかってくれると思う」

 するとイサークが、げっそりとした表情になった。

「おい……サレハルドの評判が落ち過ぎだろ……」
「それで最終的に侵略国ではなく、共闘した国として扱われるならマシじゃないの? 貴方が守りたいものは、自分の名誉じゃないんでしょう? それなら、もう一つぐらい可笑しな泥を被ってもいいと思わない?」

 いち早く交流を回復させるなら、イサークは生きて泥を被る方法もある。むしろその方が、王様の失策で国民が酷い目に遭った国、という言い訳の仕方もできるだろう。
 だから、そろそろ説得されてほしいと思って一生懸命に主張していたら、くくっとイサークが笑い出す。

「お前、けっこう貧乏くじを引きたがる奴だよな」
「貧乏くじ!?」
「可哀想なフリをして、同情を買えってことだろ? その場合苛める人間はお前ってことだ」
「う……」

 そうだ。これって、ファルジアの魔術師にサレハルド軍が呪われて、いいように操られろってことだから……。
 私、回避したはずなのに、悪の魔術師っぽくなってない?
 ついでに私のイメージも落ちるってことでは。
 改めて気づいて「うぬぬぬ」と唸っていると、イサークが笑いながら「いいぜ」と言い出した。

「え?」
「お前の提案に乗ってやる。おいミハイル。これから俺とうちの軍はみんな、魔術師様に呪われた可哀想な立場になったんだ。しっかりとファルジアの人間に、兵が怯えるように上手くやれよ」

 イサークに命じられて、ミハイル君は微笑んだ。

「貴方の死んだ後の始末よりは、簡単な仕事ですね」
「そうか?」
「葬列を連れて帰るより、汚名を少しでも返上できるからと説得する方が楽ですからね」

 それでは、とミハイル君は早速連絡するために退室して行った。

「詳しい話は後で詰めよう。君も回復するための時間が必要だからね」

 レジーもそう言って部屋を出ようとするので、私は呼び止めて聞いた。

「私が早く治してしまったら、だめ?」
「それは止めておいた方がいいね。君がある程度怪我を治療することはできると兵達も知っているし、君が倒れるから限界があるのもわかってる。でも繰り返して見せてはいないから、そう頻繁に使える代物じゃないと思ってるだけだよ。あっさり治していたら、君が命を削るかもしれない真似をしているんだってことを、忘れる者も出てくる」

 レジーの考えには、イサークも賛同した。

「そのうち魔術でどうにかできるんだからって、仲間を助けてくれと直訴してくる奴も出てくるぞ。その時お前が限界に来ていて、死ぬ可能性があるからと断ったらどうなる? 理解していても、身内を失ったら、逆恨みしかねない。だから出し惜しみできる状況ならやめとけよ」

 治療対象者本人にまで言われて、私は納得した。
 人の要求はエスカレートしやすい。良かれと思ったあげくに、いつか私が逆恨みで刺される要因を作りかねないのでは、止めておいた方がいいだろう。
 少なくとも王都を奪還するまでは、誰かに殺されるような要因を作るべきじゃない。

 納得してみんなで部屋を出た。
 その後は私も病み上がり状態だから休むことになり、またジナさんがついてくれた。

「キアラちゃんありがとうね」

 また御礼を言われたので、私はにっこりと笑って言った。

「これで、戦争が終わったらサレハルドへ帰ってから、エルフレイムさんに会えますよね、ジナさん」
「え?」

 ジナさんが目を丸くする。

「だってエルフレイムさんは、まだしばらく王様にはならないんです。王様のお妃様じゃなければ、ジナさんだって貴族の令嬢生活を何年も送ったんですから、きっと貴族の奥様の生活にも耐えられますよね?」

 仮にも、王子の婚約者をしていた人だ。
 本人の言う通りに、貴族生活が全くできなかったわけがない。王妃にならなければ、心理的負担も重くはならないだろう。

「何より王様があれですから。きっと率先して、面倒事は変更してくれるでしょう?」
「キアラちゃん……」
「だから、幸せになるために挑戦してみてくれたらいいなって。どうですか?」

 最終的に決めるのはジナさんだけど、エルフレイム王子との結婚を考える上で、一番大きな壁になるものはイサークに押しつけた。
 ついでに他の壁があっても、面倒見の良いイサークは配慮してくれるだろう。
 これなら、幸せを諦めなくてもよくなるんじゃないかと思う。
 ジナさんの目がうっすらと潤む。

「計画をイサークから知らされた後ね、エルフレイムから一度手紙をもらったの。本当はイサークが全てを持って死んだ後も、自分は幽閉先を出たくはない。でもあいつが命を捧げてまでルアインの影響を払拭したのに、自分だけ逃げるわけにもいかないって。だけど王妃は持たないって……」

 イサークのお兄さんは、そういう形でジナさんへの気持ちを表したかったんだろう。
 だけどもう、無理をする必要はなくなったはずだ。

「もう一度、話してくるね」

 会わないと言っていたジナさんが、そう言ってくれて私はとても安心した。

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