挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
私は敵になりません! 作者:奏多
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

216/277

戦の後でするべきこと 2

「なるほどね……」

 とりあえずもう一度起き上ってみた私に、ジナさんがニヤっとしながら言った。

「キアラちゃん、誰が一番か決めたのね」
「いいい、一番?」
「殿下のこと、好きだってわかったんでしょ?」

 ジナさんの直球な質問に、私はしどろもどろになる。

「あの……えと……。なんでそうお思いに?」
「そりゃ、あれだけ接近してじっと逃げないでいればねぇ? 他の人だったら、あんなに大人しくしてたかしらね?」

 う……何も言えない。確かにこれが他の人なら、急いで離れようとして寝台から転げ落ちるとか、そういう別な醜態をさらしていそうだ。
 口ごもる私を見る、ジナさんのニヤニヤが大きくなる。

「ちょっとこのままでいいかもとか思ったんでしょ? ねー師匠さん」
「全くじゃ。弟子は寝とぼけておるわ、あの王子は相変わらず人の目を気にしないわ……」
「ひゃっ、師匠!」

 声も出さなかったから気づかなかったんだけど、師匠が枕の下から這い出すようにのそのそと現れた。……ちょっ、どうしてそんなところに潜んでるの!?
 そしてお馴染みの素焼きの陶器みたいな師匠の顔まで、ジナさんと一緒ににやにやしているように見えるのはなぜ。

「ほんと殿下、人がいても恥ずかしがらないですもんね……あれ、絶対そのうち人が見てる前でやらかしますよきっと」
「やらかすなんて意識が、あの王子にあるもんかいな。ヒッヒヒ」
「ああ……わかります。周囲に誰がいたって、馬がいっぱいいるぐらいの感じで存在を無視されそうですね」

 しかもレジー、酷い言われようだけど……反論できない。ジナさんが見てても、すんごい平気そうっていうか普通そうだったもの。

「まぁ、一応理性は保ってたようだがのぅ……イッヒッヒ。最初は二人仲良く力尽きておったし」

 力尽き……って、そうか。
 私が手を離さないついでに、一緒にいたレジーも練習以上の魔力を使うことになって、眠っていたと言ってた。その時のことだろう。

「あの、師匠……レジーは平気そうです?」

 お互い、この戦いでかなり魔術を使うことになるだろうとは思っていた。けれどルナール達に補助してもらってまで、魔術を使わせるとは予想していなかったんだ。
 あげくレジーは剣でも戦っている。
 師匠の目から見て、大丈夫そうか聞いておきたかった。

「通過するだけじゃからの。それでもある程度の影響はあるが、しばらく犬どもがくっついたり、手を甘噛みしておるうちに引いたようじゃな」
「犬じゃなくてキツネですって師匠」

 私はレジーの状況に安堵しつつ、話題が逸れて良かったと思いながら起き上る。
 勢い良く跳ね起きなければめまいはしないようだ。良かった。
 眠っていたから寝間着姿だったので、さっさと着替えてしまう。
 するとジナさんが切り出した。

「キアラちゃんに御礼を言いたいと思ってたの。イサークを助けてくれてありがとう」

 両手をぎゅっと握られて、深々とお辞儀するみたいにそこに額をつけるジナさんに、私は慌てた。

「私が勝手にやったことなので、そんなお礼なんていらないですよ!?」
「でもキアラちゃんじゃなかったから、止められなかったわ。わたし達が止めたって真面目に聞いてもくれなかったし、戦況を変えたって自殺しかねないって思ってたの」

 イサークが自分に剣を突き刺した時、やっぱりかと思ったらしい。意見を押し通すために、イサークは無茶もやらかす人だから、と。

「イサークを止めるには、どうしようもない状況に追い込むか、死にそうになるのを助けるしかないって思ってた。だからキアラちゃんに頼むのは、申し訳なかったの。こんな風に倒れてしまうってわかっていたから……」
「私も、イサークがあそこまでするとは思いませんでした……」

 あの時は、イサークが何を考えているのかわからなかった。
 ただ混乱して、止めることしか考えられなかったけど、落ち着いて思い返す余裕ができた今なら、少し理解できる気がする。
 イサークはルアインからの裏切った恨みと、それしか方法がなくて同意して自害した王様を惜しんだ人の恨み、そして国を乗っ取られないためとはいえ、負けるつもりの戦に引っ張って来てしまったサレハルドの兵からの恨みまで自分に向けさせて、滅ぶことで大事なものを守ろうとしたんだ。
 国と、お兄さん。そしてジナさん達を。

 だから彼は死ななければならなかった。誰かが殺してくれないのなら、彼は自分で己を殺すしかないと思ったんだろう。
 沢山の人の荷物を死の世界まで運び去ろうとしたイサークが、私の荷物を持とうとしたのも、そのついでだ。
 わかったけど、今でもやっぱり嫌だと思う。
 だって私の持っている考え方では、そんな死の選び方を理解できないから。

「気にしないでくださいジナさん。私がやりたいって思ってしたことです。ジナさんがいなくても、知り合いが死ぬのはどうしても辛いから、やっぱり私はわがままを言ってイサークの怪我を治したはずです」

 それを聞いたジナさんは、困ったように笑った。

「それね、最初聞いた時は戦う時に辛い思いばかりで、キアラちゃんが持たないんじゃないかって心配してたけど。おかげであいつは生き残ったんだから、そういう巡り合わせのためだったのかなって、ちょっと思うよ」
「巡り合わせ……」
「運命っていうべきかな? イサークの運命がまだ先まで続いてたから、キアラちゃんと会ったのかもしれない」

 そう言って私の手を離したジナさんは、とてもほっとした表情をしていた。

「そういえばこの後、ジナさん達はサレハルドへ帰るんですか?」

 ジナさんは首を横に振る。

「正直、最初からそうしたくないなって考えてたの」
「でもイサークのお兄さんと……」

 結婚するはずだったのでは。前に聞いた話では、イサークがそういうことにする計画を立てていると言っていた。

「もう無理よ。だって私、イサークとの婚約を取りやめにした後、家を飛び出したんだもの。もう貴族令嬢でもないし、平民の傭兵よ? そもそもエルフレイムが王になるのなら、なおさら結婚なんて無理だわ。軍や兵が納得しても、貴族達がうなずかないでしょう」

 そこは私も気になっていた。
 王様と結婚する相手が、貴族の令嬢でなくてもいいんだろうかと。

「あ、でも養子とかはどうなんですか?」
「たぶんイサークはそういう準備もしてたと思う。たぶん父親の家に交渉済みなんじゃないかな……。でも気質的にね、私ってやっぱり貴族生活とか無理なのよ。しかも王様の隣にいるなんて……。好きだからって我慢しても、破たんするのは目に見えてるわ。こればっかりはどうしようもないと思うの」

 貴族と平民では、生活習慣の違いも大きいし、していいことや悪いことの基準が変わってしまう。だから生きづらくなると二の足を踏むのは当然だと思うし、我慢し続けても、その先で破たんしてしまう不安もあるだろう。

「結婚できないからって愛人なるのは絶対嫌だし。それぐらいなら離れていい思い出にした方がマシよ。なのに武勲を上げれば行けるだなんて、イサークの考え方がおかしいのよ。男が功を上げて爵位をもらうのとは訳が違うんだから」

 ジナさんはそう言いながら笑う。

「だからね、もし殿下方がまだ雇い続けてくれるなら、キアラちゃんたちに最後まで付き合おうかと思って。その後は、普通に傭兵団の村に帰るつもり」

 ジナさんが離れていかないと知って、私はほっとした。
 でもやっぱり、ジナさんが自分の恋を諦めてしまうのを聞くのは辛い。
 だからこそ、これからイサークを説得しなくてはならないと思った。

cont_access.php?citi_cont_id=214034477&s
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ