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私は敵になりません! 作者:奏多
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流れつく場所は 2

※イサーク視点です
 クレディアス子爵が死亡した。
 その報告は、イサークの元にももたらされた。

「キアラがやったのか? 傍に寄るとキツイって話だったのに、やっぱ根性あるなあいつ」
「根性とか言ってる場合ですか?」

 イサークの隣で騎乗して戦況を見ているミハイルが、ため息まじりに言う。
 戦闘は押しつ押されつの膠着状態だった。
 お互いに到着して間もない。そしてファルジア側は、こちらに準備などさせないつもりで剣を向けてきた。

 応戦したルアインとサレハルドだが、数だけならイサーク達の側が多い。だから押し返すことはできたのだが、相手の退き方がおかしいと思って兵の歩を止めさせてみれば、ファルジア側はちゃっかりと軍馬を刺し貫くような、斜めに突き出した石棘の柵を作って兵で周囲を固めて隠していたのだ。
 間違いなくあれはキアラが作ったものだろう。魔術師便利すぎる。

 文句を言っても始まらないので、わざわざそこへ突撃する必要はないとルアインと二手に分かれて挟撃を狙うことにした。
 ファルジアはもちろん、中央に割り入ってルアイン側から撃破をしようとした。サレハルド側が『ある程度』戦況が決まったら降伏すると言ったからだ。


 実はこの戦の前に、イサークはあの銀の髪の王子と会っていた。
 レジナルド王子が部下を先回りさせ、途中で近くを通る村の人間に、イサークへの伝言を託していたのだ。
 会うのはイサークとしてもやぶさかではなかった。
 自分と接触を持とうというのだから、ジナかキアラから、イサーク達がいずれファルジアに下るつもりがあると聞いたんだろう。それなら、サレハルドのことを交渉する端緒を掴んでおきたいし、戦況についてこちらが退く時期なども餌に、ある程度の情報を引きだすこともできる。

 イサークは翌日、周囲へ哨戒に出かける兵について行った。
 時々そうしてイサークがうろつくことはあるので、一日ばかり遠出をしたところで、ルアイン側にもファルジアと接触するつもりだと気取られることはないだろう。
 途中で哨戒のサレハルド兵達と別れて合流する時間を決めた後、イサークは二時間程かけてデルフィオン領に少しだけ踏み入った川辺へ到着した。

 場所ははっきりと定まっているわけではなかった。お互いに人目を忍んでいるので、目印を置くのも付けるのも避けるべきだった。
 だからイサークは相手の姿を探しながら川を下りはじめ、ややあって、さかのぼる形で進む彼を見つけた。

 ファルジアの王子レジナルドは、近くで見ても肖像画を描いたら女性達が欲しがりそうな顔立ちをしていた。キアラもこの容姿にころっといったのかと考えつつ、立ち止まって馬を降りると、ついてきた三人の兵に馬を連れて下がるよう指示する。
 それから彼に声をかけた。

「よぉ。俺に用があるって言うから、来てやったぞ」
「応じてくれて感謝する」

 そう言ったファルジアの王子レジナルドは、自分も連れてきた騎士達を離れさせてイサークの傍まで来た。
 単騎で敵の王に近づくというのに、口元の笑みは消えない。一筋縄ではいかない人間だ。普通、敵味方で剣を交えた上、これからまた戦をしようという相手と話す時に、恐怖で笑うしかないという場合を除いて、にこやかにしていられるものではない。

「手短に頼みたいんだが。俺もあまり離れてると不審に思われるんでな」
「こちらも長くは話せないよ。あまり時間をかけると君のことを殴ってしまいそうだから」

 表情も変えずにそんなことを言ってくる。

「でも、まずはキアラがそちらに滞在中、危険人物から救ったりしてくれたことには礼を言うよ」

 しれっと続ける言葉を聞いて、嫌味か、と苦笑いする。クレディアス子爵との諍いのことは聞いているんだろう。
 だが、この感じだとキアラは『あのこと』はレジナルドに話さなかったようだ。
 まぁ、言い難いだろうなとは思う。一方でイサークは、気づいていないらしいレジナルドを見ていると、少し愉快な気分にもなった。

「そのキアラと、うちで雇っているサレハルドの傭兵から聞いたんだ。サレハルドが、途中でファルジアに負けるつもりだって。それなら、話し合えることがあると思ってね」

 予想通りの内容に、イサークもうなずく。

「いいだろう。お前は次でトリスフィードについては決着をつけたいんだろう? 他の予定が詰まってるからな」
「ご明察だよ。まずは条件を話し合うべきだね」

 それからは細かいことについてやりとりをした。
 こちらの要求。ファルジアが譲れないもの。
 レジナルドは、かなり詳細なことまでジナから話を聞いていたらしい。ジナ達、そしてあの保護者のギルシュからも信頼されているのだろうが、ちょっと悔しい。でもおかげで、話がかなり踏みこんだところまで進んだ。
 ……これで、後を任せるミハイルも少しは荷が軽くなるだろう。
 話し合った末に、レジナルドがつぶやいた。

「……君は本当に、死んで王を辞めるつもりなんだね」

 真剣なレジナルドの表情が、まるで本当に敵国の王の命を惜しんでいるみたいでうろたえる。だからイサークは言ってしまったのかもしれない。

「お前はせいせいするんじゃないのか? そうそう、キアラにはキスした件については謝らんと言っておいてくれ」

 一瞬だけ、レジナルドは絶句したように目を見開いた。

「クレディアス子爵のせいだけにしては、反応がおかしいと思っていたんだ。君のせいだったのか」

 それから薄らと笑みを浮かべる。

「……本当は殺したくなかったんだけど、手加減が必要ないみたいで良かったよ。できるだけ苦しみ抜いてもらいたいね」

 ただ、とレジナルドがつけ加えた。

「キアラがそれを許してくれるかどうかは別だけどね。君の希望についても、だけど」

「お前の部下みたいなもんだろ。なんとかしろよ」
「組織として立場を決めなくちゃいけないからそうしてるけど、彼女は善意でついてきてるだけだよ」

 レジナルドの言葉に絶句すると同時に思う。
 だからか、と。
 本来なら無我夢中で戦って戦後に悩むような『人を殺す理由』が手に入らなくて、人を殺すのが怖いなんて言っていたのは、それも原因だったんじゃないのかと。

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