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私は敵になりません! 作者:奏多
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流れつく場所は 1

※エイダ視点です
 エイダはじっと薄暗い幌馬車の中で、膝を抱えて座っていた。
 戦場の悲鳴や吹き鳴らされる合図や、剣戟の音が聞こえてくるけれど、じっと動かない。
 子爵に蹴られた時の怪我のせいで動きにくいと言って、戦場に出ないことにしたからだ。

 クレディアス子爵も、エイダを動けないようにさせることはできるけれど、無理に戦わせることなどできないので、エイダを自由にさせることにしたようだ。
 一度は脅されたけれど、一番の標的だったキアラを間近で見たからだろうか、エイダには幸いなことに、クレディアス子爵の目は完全にあちらに向かっていた。おかげで脅しは口だけで、特に何かされたということはない。
 そうなって初めて、クレディアス子爵は脅す以外の方法では、無理やりエイダを戦わせられないのだということに、ようやく気づいたくらいだ。

 今、エイダはほっとしていた。
 反抗したら、どんな目に遭うかと思った。だからキアラを助けながらも、彼女が憎いと叫んで、嫉妬にかられた女のふりをしたけれど。
 キアラが死にかけたことで、エイダが嫉妬心から行動したことも疑われなかったので、キアラには近づけないよう監視されたりもしたけれど、それ以上は特にひどいこともされなかった。そんなことで、味方についている魔術師に離反されたくない、というのがルアインのアーリング伯爵の内心だろうけど。

 結局はぎりぎりでサレハルドの王達が間に合い、キアラは炎の中でもなんとか助け出された。
 サレハルドの王に抱えられたキアラを見たエイダは、心に達成感が満ちていた。
 なぜかはわからないけれど、やりたいことをやったという実感があった。
 ただほんの少し……自分も助けて欲しいと思わなかったわけでもない。
 そんなこと、望むべくもないってわかっている。
 ファルジア軍に自分が行っても、侯爵を殺してレジーを殺そうとしたエイダは処刑されるか幽閉される。それしかありえないから。

 ……死ぬのは嫌だった。
 だから脅されたら従ってきた。
 なのに今回だけは、どうしてか戦場へ行くことを拒否したくなった。嘘をついてまで。
 クレディアス子爵がキアラを殺すことに気を取られていなければ、酷い目にあったかもしれないのに。

 その時思い出していたのは、炎に取り囲まれて倒れているキアラが、自分に微笑みかけた顔だった。
 汚されたくないのなら、きっとそうしたいだろうと思った。自分が助けようとしたことを知られないようにできるのは、それぐらいだったのもある。
 一方で、エイダは自分だったら死にたくないだろうと考えた。今でもまだ幸せになりたい。けれど王子は手に入らないとわかっている。
 だけどキアラは本当に喜んでいたのだ。

 王子に愛されてるという実感があるから、王子を裏切らずに済むと思ったんだろうか?
 わからない。けれど、あれからエイダは、クレディアス子爵に嘘をついて従わないという行動ができるようになった。

 でもこれ以上どうしたらいいのかわからない。
 本当は逃げたいけれど、行き場所がない。だからじっとしていた。この戦いが終わったら、エイダが連れていかれる場所が決まる。
 そう思っていたのだけど。
 息せき切ってやってきた騎士が、馬車の幌を上げて叫んだ。

「魔術師殿! ここから移動します!」
「え……負けたの?」

 急いで移動させられるとしたら、勝ったわけじゃないんだろう。
 その予想は当たったのだが。

「子爵がお亡くなりになりました!」

 ずっと聞きたかったその言葉に耳を疑ってしまう、ずっと悩まされ、早く死んでくれることを待ち望みすぎたんだろうか。信じられなくて戸惑う。

「まだ交戦中ですが、王妃様より万が一の場合には魔術師殿を安全な王都へ戻すよう仰せつかっております」
「王妃様が……」

 エイダは迷った。迷いながらも、自分では決められずに騎士に手をひかれるまま馬車を降りる。
 外へ出ると、確かにまだ戦闘は終わっていないようだった。
 まだ競り合っているようだが、遠目にも押し負けているように見える。
 ファルジア側よりも数が多かったはず。耳にした他の策から考えても、こんなに早く押されるとは思わなかったので意外だった。
 あの子爵が死んだ、というのもエイダは信じられないような気持ちだ。だから騎士に確認してみた。

「子爵は……どうやって倒されたの」
「詳しいことは近くにいなかったので不明ですが、ファルジアの王子と魔術師が倒したらしいと」

 キアラがやったのか。
 その時、レジナルドが魔術を一部使えるなどと思わなかったエイダは、彼女がやったのだと思った。
 クレディアス子爵を師として魔術師になったわけではないけれど、ある程度影響を受けて苦しんでいたはずのキアラが、それでも子爵を倒したのだと思うと、エイダは胸躍るような気がした。

 でも子爵がいないのなら、エイダはこのまま逃げてもいいのではないだろうか。
 そこに、丘の上から走って行く一団がいた。青い旗とマント。ファルジア軍だ。
 その中にふと、エイダは見知った顔を見つけた気がする。

「まさか」

 エイダは騎士の手を振り払って、小走りにそちらへ近づく。
 小さくても間違いない。あれは、エイダが殺しかけたフェリックスだ。
 あれからそれほど時が経っていないのに戦場に出られるのは、何か特殊な薬でもファルジア軍にはあるのだろうか。
 とにかく生きていてくれて嬉しい。だけど。

 エイダの足が止まった。
 やめておけばいいのに、と言ったフェリックス。忠実に王子の命令に従って動く彼は、エイダが攻撃してこなければ自分も攻撃する必要などなかったのに、と言いたかったのだと思う。
 そんな彼が自分を見つけたら。処刑すべき敵魔術師として、王子の前に突き出すのではないだろうか。それが怖かった。

 甘いことを考えがちなキアラは、エイダを庇うかもしれない。
 けれどエイダが契約の砂を飲むと言って脅しても切り捨てた王子は……きっと聞き入れてはくれない。
 フェリックスにもう一度剣を向けられるのは嫌だ。

 だからエイダは、もう一度自分を連れ出そうとした騎士の元へ戻ることにした。
 まずは戦場を離れて……それから考えようと思って。

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