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私は敵になりません! 作者:奏多
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エイルレーンに流れる血 4

 クレディアス子爵の表情は、怒りというより、悔しそうといったほうがいいかもしれない。

「王子まで、魔術師に……」

 光に驚いて一時退いていた兵士達が、双方ともに競り合いを再開する中、忌々し気に呻く。

「王子まで、攻撃の手段を持っているというのに……っ」

 独り言を口にして、ぎりぎりと奥歯を噛みしめるクレディアス子爵に、私は困惑する。
 どうやらレジーが魔術師になったと勘違いしているようだけど、何をそんなに悔しがっているんだろう。そう思ったら、師匠がつぶやいた。

「なるほどな……あの子爵は、少々例外な魔術師だったということじゃな」
「例外?」
「戦うために使えるような魔術を、持っていないのじゃろ。こうしてやたらと魔術師くずれを操れるのと関係あるんじゃろな、ヒヒヒ。おそらく、魔力を取り込むのは得意なのじゃろ。だからこれだけの魔術師くずれを操れるほど契約の石を取り込める。だがそれを外に向かって、魔術として発動できないんじゃろな」

 それならクレディアス子爵が、ゲーム戦場に出てこなかった理由もうなずける。
 ゲームでは大量に魔術師くずれなど出てこなかった。ということは、契約の石を大量入手できなかったからで、自由に使える肉盾がない状態で戦場へ行けば、あっさり死んでしまうだろう。
 今回はそれができるから出てきたのだろう。私の代わりに、エイダさんという魔術師を手に入れたのに。

 そのエイダさんは、子爵と一緒に動いていると思ったが姿がない。
 ほっとしつつも、アラン達の方にいるのではないか。ファルジア軍にこれ以上損害を与えたら、アランやレジー達でもかばいきれなくなるんじゃないかと不安になる。
 けど、全部今ここでクレディアス子爵を倒さなくては何もできない。

「なぜ王子ですらが……。私にその力があれば、アンナマリーをこの手でずたずたにできたというのに」

 子爵の元奥さんへの恨みが半端なさすぎる……。
 彼女になぞらえてる私のことも、今度こそ惨殺しかねない気がする。

 クレディアス子爵が一歩前へ踏み出した。
 レジーが剣を構え、斜め前に茶の髪のサイラスさんが出る。
 また魔術師くずれを呼び寄せるのかと思ったが、クレディアス子爵にそのそぶりはない。なのにもう一歩、二歩と進んでくる。
 その足で、砂になった身代わりの魔術師くずれの死体を踏みながら。

 レジーがもう一度剣先をクレディアス子爵に向ける。
 彼も子爵が飛び道具のような魔術は使えない、と気づいたんだろう。
 だけど何か変だ。クレディアス子爵には戦う術がないのに、どうして前に進むの? 怒りに我を忘れてる?
 そうしている間にも、レジーが魔術を放つ。
 彼だけだと威力は小さいけれど、接近しているので十分当たる。
 けれどクレディアス子爵の目の前に、再び魔術師崩れが出てきて砂になってくずれた。
 それだけならまだしも、レジーが何かに気づいたように飛びのいた。

 その時、クレディアス子爵を守ろうとレジー達との間に飛び込んできたルアイン兵が、もろりと砂になってくずれる。
 魔術師くずれじゃないみたいなのに、なんで? 疑問を抱くのとほぼ同時に、師匠が何かに気づいたように叫んだ。

「おい、もっと離れるんじゃ!」

 目の前の出来事が信じられず、呆然としている間にも、レジーとフェリックスさん、サイラスさんが後ろに下がった。

「師匠、あれは」

 師匠が嫌そうな声で答えた。

「おそらく、あの子爵は魔力を相手に与えることができるんじゃろ。魔力を与えすぎれば、何ものであっても姿を保てん。魔術師よりもいとも簡単に、体内の魔力が暴走する」

 契約の石に耐えられないということは、魔力の荒れに耐性がないというのと同じだ。
 納得しつつも、これでは魔術でも攻撃できないし、近づけない。
 あげくレジー達が引いたことで余裕ができたのか、生き残っている魔術師くずれ達の動きが組織だったものに変わる。
 一斉にこちらへ向けて魔術を放ち始め、私はとっさに土の壁で炎と風を遮った。
 けれどその壁も、クレディアス子爵が近づくともろくも崩れてしまう。
 それに勢いづいたルアイン兵も、ファルジア兵との戦いにやる気を出してしまった。

「もう少し下がろう」

 私達の傍まで戻ってきたレジーが、私の手を引いて下がらせる。

「くくっ……。人の物を奪って満足か、王子よ」

 クレディアス子爵が笑いながら近づいてくる。
 私、別に貴方のものじゃありませんと言いたかったが、たぶんクレディアス子爵はまともにこちらの意見など聞く気はないだろう。
 しかもそのまま、不可思議なことを口にする。

「だが王子もおかわいそうな方だ。多少はご同情申し上げる。なにせ知らぬうちに母親を生贄にされて、死に目にすら立ちあえなかったのだから」
「生贄? 母が?」

 レジーも初耳だったのだろう。いぶかしげな表情になる。
 でも生贄って、最近になって誰かから同じ単語を耳にしたような?
 それを私が思い出す前に、クレディアス子爵がさらに魔術師くずれをこちらへ向かわせてくる。

 カインさんとフェリックスさんが左右へ走り出した。
 飛んでくる炎や剣のように伸びる氷を避け、手に持つ槍で魔術師くずれ達を突き刺し、離脱する。
 魔術師くずれ達は炎と氷柱に取り込まれるようにして息絶え、砂になった。

「レジー!」

 この距離では、レジーだけの力では届かない。手を伸ばした私に気づいたレジーがうなずく。
 けれど彼に寄り沿うようにして肩に触れた私を見て、クレディアス子爵は唸り出した。
 近づかなければと思ったらしいサイラスさんが槍を投げつけたが、子爵に届く前に砂になってくずれてしまった。
 レジーは剣先を子爵に向ける。

「キアラ」

 呼ばれて、私はレジーの肩に置いた手から魔力を流した。
 ほんのわずかに顔をしかめたレジーの手から溢れた光が、空気を紫電となって剣を這い、空気を震わせて轟音をたてながら、一直線にクレディアス子爵へ向かう。
 襲い掛かった雷は、子爵の目前で立ち消えた。

「……どうして」

 思わずつぶやく私の横で、レジーも眉をひそめた。
続きは明後日までお待ちくださいませ

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