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私は敵になりません! 作者:奏多
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エイルレーンに流れる血 3

 グロウルさんは兵達の動きを統括するために動けず、レジーについて行ったフェリックスさん達に任せながらも不本意そうに苦い表情をしている。
 カインさんはじっと私の側を離れず、けれどその行方を時折目で追っていた。
 私も止めるわけにはいかず、ただ祈るしかない。

「お願い、お願い……」

 死なないで。
 でも倒さなくちゃいけない。そうじゃなければ、この後何千人という兵が魔術師くずれとクレディアス子爵に殺されてしまう。
 でも私にできることは、術を維持し続けながら待つことだけ。

「信じるしかなかろ。最初から隠し玉を使うわけにはいかんし、効果的な使い方をすると決めたのはあの王子だ」

 師匠の言葉に、私は唇を噛む。
 レジーは雷の魔術を手に入れたけど、ここぞという時にしか使用できない。
 本当は魔術師くずれともども、クレディアス子爵も一撃で倒したかった。けれど、子爵が何か回避策を持っていたら困るのだ。
 試した後で、動きが鈍ったレジーと子爵の力で身動きがしにくい私が固まっていては、守る側にも負担になる。
 だから信じて待つ。師匠の言う通りだ。

 待つのは辛い。
 だけど私もずっと待たせていたんだと、その立場になって気づく。
 レジーは彼にしかできないことがあるから、乱戦の中にわざと飛び込んだ。私も自分にしかできないから、守りたいからと前に出ようとしてきた。
 それが間違っているわけじゃない。今でも必要だったと思う。

 けどお互いに辛かったんだということを意識して……なおさらに辛くなった。
 今も、一気に押しつぶしてしまいたい。けれどそれができない。油断を誘うためにも、こちらが余力を残していることを知られたくないからだ。

 じりじりとした気持ちで、レジーを見つめる。
 レジー達は兵士達の援護をするように魔術師くずれを倒しながら、前へ進んで行く。
 慣れていても、風や炎を避けるために近づけずにいる兵士達をよそに、一瞬の隙をついていく。

 見ている私の方が怖くて、肩に力が入るけど、レジー達は何の気負いもなさそうな自然な動きでそれをやってのけていく。
 ゲームだったら攻撃力が違う、なんて表現をするしかないんだろう。

 鮮やかで、一人倒した後は無事な兵士達を引き連れて前へ堂々と進むレジーに、クレディアス子爵も目を向ける。
 遠くても、レジーを睨みつけているのがわかる。
 その時、カインさんにささやかれた。

「キアラさん」

 うなずいて私は術を解いた。
 騎士のみんなや兵士達が頑張った分、魔術師くずれの数は十人を切っていた。こちらの負傷者もかなりの数になったが、かなり戦いは楽になっている。
 エヴラールの兵士達などは、動けるようになった魔術師くずれを、わざと敵陣営に移動させる作戦に出始めた。

 カインさんが手を差し伸べて、立ち上がらせてくれる。
 そうして支えるようにして移動した。
 魔術師くずれが倒された分だけ、前線は丘を少し下った場所へ移動している。
 けど、魔術師くずれが怖くて近づかなかったのだろうルアイン兵が、外を回り込むようにやってきていた。
 グロウルさんはそちらの対応に、後方の兵を回していた。

 私はグロウルさんの傍まで近づいて行く。レジーとクレディアス子爵の会話が耳に届くようになった。

「王子殿下が単独で出てくるとは、よほどファルジアは人手が足りないのですかな」

 普通の兵士達を盾にするように、やや後方に引きながらクレディアス子爵が言う。

「大事な魔術師を取られないよう、守る必要があるからね。……例えば、既に妻を娶ったというのに、逃げた娘を追いかけ続けている未練がましい男から」

 レジーは笑みすら浮かべてみせていた。
 そんな彼に斬りかかって行く兵士達を、フェリックスさんやサイラスさん達が返り討ちにしていく。
 レジーも合間に一人、無表情のまま喉を狙って串刺しにした。

「うちの魔術師にかなり迷惑をかけたそうだね? 捕虜の扱いがなっていないと聞いた時は、こんな風に殺してやりたいと思ったほどだけど」
「……そちらこそ、結婚が決まった娘をたぶらかしたのではありませんかな? 世間を知らない貴族の娘が、一人でエヴラールまでたどり着けると思いませんが。誘拐と言って差し支えないでしょうな」

 クレディアス子爵の頬が、怒りのせいかひきつっていく。

「誘拐? 人聞きの悪いことを。彼女は結婚を強要されても、愛情を期待できない養父では相談もできずに泣くしかなかった。でも彼女は弱くはなかったんだよ。たとえ私達と会わなくても、一人で生きていけた。助けられたのは私達の方だ」

 助けられた、というレジーの言葉に、私は泣きそうな気持ちになる。
 いや、クレディアス子爵のせいで体調が安定しないからか、本当に涙が滲んできた。でも周囲の様子を見ないわけにはいかない。
 目をこすっていると、カインさんが支えるように肩を掴んでくれる。
 さらに子爵に近づいたレジーは、笑って言った。

「そのキアラが安心して生きて行くためにも、ルアイン軍を引き入れるような裏切り行為をした罪を償わせるためにも、君は討ち取らせてもらう」
「……若造が……」

 怒りに我を忘れたんだろう。
 クレディアス子爵は完全にレジーに気を向けてしまった。私への制約が薄れたのを感じる。
 私は素早く作業を行った。

「レジー!」

 名前を呼びつつ、地面を動かす。
 クレディアス子爵とレジーの間に、無数の土の柱を立ち上らせる。一斉に倒れさせていくそれが、子爵に近づくと結束が崩れてもろもろと降り積もって行く。
 舞い上がる土煙の中、レジーとフェリックスさんが飛び込んで行く。

 視界の悪さを利用して、そのまま倒せたら良し。そうでなくとも、視界を遮ってしまえばクレディアス子爵が魔術を使っても、レジー達がかわせる確率は上がる。
 子爵を保護しようと、ルアイン兵達も間に割り込もうとしてきた。

「殿下をお守りせよ!」

 グロウルさんの号令にファルジアの兵も動き出す。
 一方で、魔術師である私へ向かってくる兵もいて、レジーの側へ近づいて様子を見ることはできない。
 気を揉みながら、カインさんに庇われつつ、自分を防御するために小さな術を重ねたその時。

 ――大きな光が、薄れた土煙をも吹き飛ばした。

「……やった?」

 レジーの雷? それともクレディアス子爵も、何かそういう魔術を使ったの?
 その疑問はすぐに晴れる。
 ようやく見えたのは、煙をたなびかせる剣を持つレジーと、少し離れた場所に立つクレディアス子爵の、服の一部が焼け焦げた姿だった。

「おのれ……」

 クレディアス子爵がつぶやく。
 レジーの雷の剣が発動したのは間違いない。けれど大きなダメージを与えることができなかったようだ。
 見れば子爵の足下には、操って呼び寄せたらしい魔術師くずれが倒れていた。それも数秒の後に、さらりと砂に変化してくずれる。

 けれどクレディアス子爵の表情は、それまで以上に険しいものになっていた。

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