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私は敵になりません! 作者:奏多
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一人だけじゃできないこと

 三日ほど経った午後、トリスフィード内へ入り込んでいた偵察部隊から報告が入った。

 ルアインは本格的に援軍を呼ぶことにしたらしく、占領している王領地とのやり取りが激しくなったようだ。
 ルアインの援軍は、あと一週間ほどで王領地を出発してくる見通しらしい。
 デルフィオンと接するキルレア伯爵領には軍を配置しているので、王領地に駐屯していた兵の大多数をトリスフィードへ送るとか。
 数としては8000ほどにはなるだろうと、レジー達は予想している。

 サレハルドは損耗が激しくないので、援軍は呼ばない方針のようだ。
 負けるつもりなんだから、わざわざ増強するわけがないよね。

 それを受けて、ルアインとサレハルドは軍を西のラクシア湖の近くへ移動することにしたらしい。
 レジーもファルジア軍をそちらへ向かわせることにした。
 敵軍が肥大化する前に叩くためだ。
 相手が進軍してくるのを待っていては、湖の側からデルフィオンに再度侵入されてしまう。

 アラン達もその案に同意し、翌日ファルジア軍はリアドナ砦を引き払った。
 動かせる負傷者は既にデルフィオンに送った後だったし、行軍中で身軽だったこともあって、準備はすぐにできた。
 フェリックスさんもこっそり行った治療の甲斐あって、二日前には歩き回れるようになっていた。それどころか休まず従軍するという。

「殿下に頼まれたころがありますので」

 微かに微笑みながらフェリックスさんはそう答えた。

「それに魔術師殿のおかげで、動くのには支障なくなりましたから」
「そうですか……」

 心配だけど、フェリックスさんのような大人が決めたことだ。レジーも動けると判断したから、フェリックスさんに何やら頼みごとをしたのだろうと思うし、言葉を飲みこむ。
 そんな私に、フェリックスさんは尋ねた。

「エイダ嬢が、あなたを助けたと聞きました」
「はい。そのせいで、エイダさんは子爵にひどく折檻されて……」

 今でもあの時のことを思い出すと、身震いしてしまう。
 エイダさんは私の心を守ろうとしてくれた。イサークを呼んだはいいけれど、間に合わないと思う状況だったからだろう。

 あの後、ミハイル君がエイダさんを見かけたそうだ。しっかりと立って歩いていたから、おそらくは打撲だけで済んだのだろうと言っていた。
 私はすごくほっとした。貴重な戦力でもある上に支配下に置ける魔術師を子爵も手放したりはしないと思ったけれど、さらに八つ当たりをされるかもしれないと不安だったから。
 怯えた顔になってしまったのか、付き添っていたカインさんが私の肩に手を置いてくれる。

「そうですか……」

 私の言葉に、フェリックスさんは少しの間考え込むように目を閉じた。
 そもそもエイダさんは、町中で会った時はフェリックスさんに怪我をさせた自分に戸惑い、後悔して泣いているように見えた。
 思えば、エイダさんと一番関わった人はアズール侯爵かフェリックスさんだろう。
 最初からだますつもりで関わったアズール侯爵は殺してしまったのに、フェリックスさんを殺せなかったのは……どうしてなんだろう。

 フェリックスさんに対しては、エイダさんも多少なりと言い合いをしていた。だから近しい間柄になったようには思えないけれど、意見をぶつけ合うということはエイダさんも本音を出していたということなんだろう。
 だから敵地で孤独な気持ちになっていたエイダさんには、フェリックスさんとの会話が大切な繋がりに思えたのかもしれない。
 同じことを私にも感じてくれたから、あの時は助けてくれたんだろうか。

 一方のフェリックスさんは、エイダさんに助けられたことを知ってどう思ったのだろう。
 心の内を尋ねるわけにはいかない。

 そしてフェリックスさんに何かを頼んだらしいレジー。
 彼はエイダさんをどうするつもりなんだろう。全く関係ないことをフェリックスさんにさせようとしているのかもしれないけれど。
 私はもしかするとと思いながら、フェリックスさんにお願いした。

「もし……機会があったらでかまわないんです。エイダさんにファルジアに戻るよう呼びかけてもらえませんか? もしかしたらエイダさんは、逃げることを諦めているかもしれない。だから背中を押してあげてほしいんです」

 口を動かしながら考えていたのは、茨姫に触れた時の白昼夢のことだ。
 あの夢の中の自分は、エイダさんのような状況だった。だとしたら、逃げても無駄だと思っている可能性がある。それをどうにかできるとしたら、少しでもエイダさんが心を預けられる人じゃないだろうか。
 それはレジーか、フェリックスさんなら、と思うのだ。

「もし会えたらでかまいません。お願いします」

 深く頭を下げると、フェリックスさんがちょっと慌てた。

「魔術師殿、そんなことをされては困ります」
「でも、無理なお願いをしているんです。大丈夫だと思っても、実行した時に何か問題が起きて、また怪我をしてしまうかもしれません」

 だから平身低頭するのは当然と言うと、フェリックスさんは困ったように笑う。

「魔術師殿が気にすることではありませんよ。実行しようと思うなら、そう判断した私の責任になるだけです。それに、しないかもしれないですからね」
「ほらキアラさん、そこまでにしましょう。それ以上はフェリックスを困らせることになりますよ」
「……はい」

 カインさんに促されて、周囲から視線を集め始めていることに気づいた私は、フェリックスさんの側を離れた。

 それでもまだ、私は何かしなければならないような気分になってしまう。
 茨姫に触れた時の白昼夢が、今までよりも鮮明だったせいだろうか。心にこびりついたように頭から離れない。

 ――あれは、一体何なのだろうか。

 ゲームのキアラが戦場に現れ出すデルフィオンまでやってきたから、自分がそういう状況だったらと考えてしまって、そんな夢を見るんだろうって思っていたけど。
 やっぱり何かおかしい。
 夢にしては……あまりにもそれぞれのつじつまが合いすぎる。

 レジーと王宮で出会う夢を見た。
 そのレジーと王宮で過ごす夢も、レジーが死んだと聞かされて、指輪をした彼の指を渡された夢を見た。
 その後魔術師として戦わされたらしい私が、殺してくれるのを期待して、憎々し気に私を見ているアランの前に立っている夢もあって、そこには茨姫もいた。

 そしてこの間のものだ。
 あれは、アランに殺される前にあってもおかしくない。……そして亡くなれば、アランが悲しみ叫んでも仕方ない相手だった。
 夢ってもっと混沌としたもののはずじゃない? 全てが綺麗につながっている夢を見続けることなんてあるんだろうか。

 そうやって考え込んでしまったせいだろう。カインさんが立ち止まり、相変わらず彼の袖を摘まんでいた私は我に返る。
 どうしたのかと見上げると、尋ねられた。

「何か気になることがあるんですね」
「え……あの、そんな大したことじゃないんです」

 思わずそう言って誤魔化そうとしてしまった。だってカインさんには、言い難い。
 すると一度は黙っていてくれたのだけど。
 部屋に到着したところで袖から手を離した瞬間、カインさんが私の手を握った。
 思わず肩が跳ねてしまった私を見て、彼がふっと息をついた。

「キアラさん、なんとなく今のうちにどうにかしておいた方がいいように思えるので、言いますが」

 そう前置きをしたカインさんが告げた。

「私と、距離を置きたくなりましたか?」

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鳥かごの大神官さまと侯爵令嬢


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