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私は敵になりません! 作者:奏多
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茨に刻まれた未来 4

 薄暗い町の光景が、目の前に広がった。
 町は、戦いに巻き込まれたらしかった。
 人の叫び声が聞こえる。金属音が遠くからでも耳に響く。風に運ばれる血の臭いが鼻についた。
 そんな中で、黒髪のその人は血に塗れた剣を片手に私に言った。

「君を縛るものは、もうないはずだ」
「今更よ、どうにもならない。エヴラールに下っても私はただの大罪人だわ。だから殺してくれた方がいいの。今のうちに」

 けれど彼は私の言葉を拒否した。

「殿下はそれを喜ばない。あの方は……貴方のために」
「でもレジーにだって私を解放するのは無理だった! それにあの人はもういないのに、どうやって生きて行けばいいの?」

 私が叫ぶと、青いマントに黒髪の彼は表情をわずかに曇らせた。……彼も、私と同じようなことを感じたことがあるのかもしれない。
 そんな風に思った瞬間だった。彼の背後に風狼が迫る。
 殺させちゃいけないと思った。
 彼は、レジーが私のことを話すほど近しい人だったのだ。せめて私やレジーのことを覚えている人に、代わりに生きていてほしい。
 だから土人形を動かした。けど血の気が引く感覚に、土人形が維持できなくなる。

 見れば、路上で血にまみれて倒れていた男が起き上ろうとしていた。
 せめてその上に土が降り注げばいいと思った。一緒に風狼も埋めてしまえばいいと思ったのに、風狼は雪崩れ落ちてくる土砂を避けてくる。
 それなら自分が庇えばいい。そうして魔獣と一緒に土に埋もれてしまえばと思ったのに……。

   ※※※

「キアラっ!?」

 呼びかけられてはっと我に返る。
 一瞬、自分がどこにいるのかわからなかった。
 周囲は緑の深い木立だ。目の前には池があって。確かさっきまで茨姫がいて……。

 そして私は、背中をレジーに支えられていた。
 ……今のはなんだろう。
 何度か見た夢の続きみたいな、キアラ・クレディアスになっていたらあり得たかもしれない状況と、光景。
 でも私は眠ってたわけじゃない。まさかと思うけど……これは全部茨姫の記憶だった? 今回までは、茨姫に触れたりしたわけじゃない。なのにどうしてこんなものを見たんだろう。
 でも茨姫がいないのでは、よくわからない。とにかく一端置いておくしかないようだ。

「平気かい?」
「ごめん、大丈夫……なんか茨姫の魔術の影響なのかな。それにあてられたみたい」

 理由をでっちあげることにした。なにせ自分でも理由がわからないから、上手く説明できない。

「茨姫……ほんとにいなくなっちゃったんだね」

 池の前には、もう銀の髪の少女はいなかった。あのまま姿を消したんだろう。

「あれも魔術なんだろうね」
「たぶん……。それよりあの話って、茨姫のことかな」

 謎はまだ目の前に山積みになっていた。茨姫のことだけでもわからないことだらけだ。
 あの昔話も、言いにくくてわざと遠回しに話したような感じがしたけど、いつか全てを話してくれるんだろうか。

「かもしれないね。ただ、尋ねられた件については話したくないから、他の話をして時間を稼いだようにも見えたけど」

 レジーはそんな風に考えたようだ。

「それはちょっと意地悪な見方じゃ……」

 そう言うと、レジーが面白そうに口元に笑みを浮かべた。

「キアラに対しては斜めから推測するようなことはしてないけど。今もほら、私が心配で来てくれたんだろう?」
「う……うん」

 真正面からそう言われると、答えるのがちょっと恥ずかしくなる。
 でもレジーが嬉しそうな表情をするので、うんと言って良かったような気もする。

「……レジーこそ、私につつかれないように話をそらそうとしてない? 茨姫が、契約の石のカケラを使えるようにしたって言葉のこと、私忘れてないよ?」

 するとレジーはわかっているというように微笑む。

「どちらにせよ、ここではゆっくり話せない。まず砦に戻ろう」

 それは最もだったので、レジーと一緒に砦へ戻ることにした。
 待ってくれていたカインさんにも詳細を尋ねられたけど、正直他の兵士さんがいっぱいの所では話にくいので、説明を後にしてもらう。

 そうして砦へ入ると、大きな動物がそこにでんと鎮座していた。
 噂には聞いていたけど、本当に大きな……氷狐になってしまっているリーラだ。

「ほー」

 思わずそんな声を出して、リーラを眺めてしまう。
 リーラの方は私の方へ歩いてくると、ふんふんと頭あたりの匂いを嗅いでから、肩の上に顎を置いた。
 というか、大きくなりすぎて肩重っ……。
 でもこの懐かれている感じがとても嬉しい。可愛い。思わずリーラの頬や顎下を撫でてしまう。ああ、幸せ。

「ああキアラちゃん丁度良かった」

 側にいたジナさんも駆け寄ってくる。

「この子の体、本当に大丈夫なのかな? わかる?」

 飼い主として気になっていたんだろう。リーラの体に問題が無いか心配になるよね。
 しかも原因が、どうやら私の血のせいだと師匠に聞いた。
 リーラが巨大化前に、私の血が混ざったカインさんの血のりがついた服を舐めて巨大化したっていうのを聞いて、師匠はそう断定したらしい。

 ――取り込んだ弟子の魔力が大きすぎたんじゃろ、イッヒッヒヒ。

 と笑っていた。どうも魔獣は、魔力を吸収しすぎると巨大化してしまうことがあるらしい。

「ちょっと確認してみます。リーラちょっと大人しくしててね」

 本人に断って、リーラの体の魔力を感じ取ろうとしてみる。
 うーん……。魔力が滞っているような感じもないし、リーラも辛そうじゃないから体は問題ないように思うんだけど。
 ただ何となくあったかい。魔力の循環を感じていると、その波に自分の心まで揺られているような気がして、なんか、うとうとと眠ってしまいそう。
 その眠気がとても魅惑的だったけど、危ないので探るのは中断する。

「とりあえず体に問題はなさそうです」
「そう、良かった」

 ジナさんはほっとしたようだ。少しでも役に立てたみたいで、私も嬉しい。

「もう戻らないかな……。故郷に帰ってもこれじゃ家に入れられないから、ずっと外飼いにするしかないかなぁ」

 ジナさんは巨大化してそこに困っていたようだ。確かに、今まで建物の中で一緒に暮らしていたわけで。今もリーラは砦の中庭に陣取って寝起きしているようだ。

「魔力を使いまくれば、縮む可能性はあるだろうがのぉ」

 師匠の言葉に、ジナさんが考え込む。

「次の一戦でどうにかできるかなぁ」

 その言葉に私は胸を突かれたような気持ちになる。
 次の一戦。今度こそ子爵を倒さなくてはならない。
 でもイサークはどうするんだろう。早々に降伏でもしてくれたらいいんだけど。
 ジナさんに降伏を促す良い方法がないか、聞くべきかもしれない。でも秘密裏に連絡をとるのは難しそうだ。

「あの、キアラちゃん……」

 そこでジナさんが、私に声をかけてきた。

「サレハルドのことなんだけどね」
「私も、その話をしようかと思っていました。けど……」

 迷った上で、ジナさんに近寄って小声でささやく。

「イサークと秘密裏に打ち合わせるなんて難しいですよね? 上手く、早めに降伏してくれた方が、お互いにむやみに戦わずに済むと思うんですけれど」
「うん……そうだよね。……わたしも少し考えてみる」

 話しかけて来たのはジナさんなんだけど、それだけを言ってジナさんはうなずいて離れてしまう。
 ……どうしたんだろう。何か他にも話したかったけど、私が遮っちゃったのかな?
 後で聞こうと思いながら、私はレジーと砦の中に入った。

 とにかく考えることがありすぎる。順番に処理しながら頭の中の整理をしなくちゃいけないと、それだけを考えていた。

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鳥かごの大神官さまと侯爵令嬢


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