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私は敵になりません! 作者:奏多
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帰るべき場所 4

「レジー……」

 本来、彼はこんな現れ方をするような人じゃない。
 彼は王子で、国王がいなくなった今、唯一の直系として戦いながらも沢山の人に守られなくてはならない身だ。

 けれど触れたらさらさらとしているあの髪も、イサークを射抜くように鋭い視線を向ける青の瞳も、間違いなくレジーのものだ。幻じゃない。
 来てくれたという思いと、こんな危ないことをするなんてという気持ちが混ざり合う。
 そして本来ならこういう状況の時に真っ先に来るはずのカインさんの安否を考えて、私は唇をかみしめた。

 レジーとイサークが睨み合う間隙を突くように、サレハルドの兵達が駆け付けようとしていた。
 けれどすぐに矢の雨に進路を断たれ、ひるんだところへ斬り込んで行ったのは、見覚えのある人達だ。

「グロウルさん」

 レジーの騎士達。だとすると、みんな承知でレジーをここに連れてきてしまったの?
 どうしてそんな無謀なことをさせたのか。
 でも少数で突撃してきたんだろう。レジーを守るように囲む騎士や兵士の数はそれほど多くない。
 こんな追い込まれた状況で戦うレジーを見るのは辛かった。そんな思いをさせたいわけじゃなかったのに。

 その間にも、レジーとイサークの打ち合いは続く。
 レジーを守らなくちゃと、慌てて魔術を使おうとしたが、魔力を操作しようとした瞬間に血の気が引いたせいなのか、何かに気づいたイサークがレジーの剣を払った上で私を左腕で抱え上げてしまう。
 ぐったりとした私の首に剣の刃を当ててレジーへの脅しに使った。
 レジーは表情を消し、そのまま動かない。

「そんなにこの小娘が大事か、王子様は」
「キアラはか弱いんだ。早めに安全な場所に保護してあげた方がいいだろう? 貴重な魔術師に随分な扱いをしてくれたみたいだね、サレハルドの王。靴を履かせずに走り回した上に、痣ができるようなことをしないでほしいかったね」

 レジーの言葉に私は思い出す。
 しまった、魔術を扱うために土に触れたくて、靴を脱いで歩いたから足が土まみれ……。痣は土ねずみと転がったせいだろうか。
 とにかく今、思いきり多人数に膝下とはいえ足を晒しているのだ。指摘されると恥ずかしい。
 けど、そんなことは言っていられない。私が捕まっていたら、レジー達が動けない。こんな敵軍のすぐ側なのに。

「大人しくしていればいいものを、じゃじゃ馬が暴れるから痣なんて作るんだ。一応こいつの元夫候補からは助けてやったんだ。多少駄賃はもらったがな?」
「ちょっ、何を……!」

 なんてことを言うの! 元夫候補の件はさておき、駄賃って何!
 色々言いたいことが混ざったあげく、せっぱつまった事態に私は上手く言葉が出て来なくなって、最終的にイサークを罵倒した。

「イサークのバカ! 大バカ!」
「うるさい、黙ってろ」

 剣が首に押しあてられて、冷たい。

「しかし足手まといになるなら、俺は別にこの小娘の命など必要ないからな」

 イサークは鋭い目をレジーに向けている。
 私を殺してもかまわないって……本気なんだろうか。イサークの横顔からは、私には何も読み取れない。
 でもイサークは王としてふるまう必要があれば、あっさりとカインさんを殺そうとするような人だ。それを思い出せば怖くて、思わず体が震える。
 レジーは本気だと思ったのだろうか、取り引きを持ち掛けた。

「それなら、剣を捨てればキアラを解放するかい?」
「……剣を捨ててお前が代わりに人質になるっていうなら、交換してやってもいい」
「殿下!?」

 グロウルさん達が止めようとする。私は剣を捨てようとするレジーに、涙が出そうになった。
 どうにかしたい。けど魔術が……。今の状態じゃイサークの剣も変化させるのは辛い。……ってそれでいいじゃない!
 私はためらいなく剣の刃を握って自分から遠ざけようとした。ぐっと力を入れれば、すぐに皮膚が切れて血が流れる。

「何やってんだキア……ぐえっ!」

 驚いた瞬間にイサークが私から剣を離したので、その顎を狙って足を蹴り上げた。もしかしたら他人様に太ももあたりまで見えてしまったかもしれないけど、気にしていられない。
 イサークの腕が緩んだすきに、身をよじって地面に落下。痛い。
 痛みに呻きながらも、自分の血がついたイサークの剣を魔術で曲がりくねらせた。

「げっ! このじゃじゃ馬!」
「……こっちは、素手でか弱いんだもの、なんでもありでしょ!」

 息苦しさが増す中で私が言い返す間にも、レジーさんがすかさず斬り込んでいた。
 剣を間近につきたてられてひるむイサーク。あげく矢まで射られている。
 けれどサレハルドの兵も、矢やレジーの騎士達が押さえを破って押し寄せようとしていた。その中から、グロウルさんがレジーの援護に回る。

 私は少しでも遠ざかろうとした。息が切れて、熱が上がったようにふらつくけれど、少しでも逃げなければレジー達の足手まといになる。
 そんな私を、誰かが抱きかかえた。
 一瞬、イサークかと思って身を縮めた。他の人だったとしても怖くて、思わず逃げようとした。
 けど、急いでいてもどこか丁寧な抱え方に覚えがあった。近づいた時に鼻をくすぐる匂いに、日の光の暖かさと懐かしさを感じで胸がいっぱいになる。

「キアラ」

 間違いなくレジーだった。
 そう思ったら力が抜けて、とたんに涙が出そうだった。

「もう少し我慢していて」

 言われた瞬間、レジーは私を肩に抱え直して剣を振るう。
 飛んで来た氷の塊を薙ぎ払ったのだ。
 振り返るようにして見れば、サレハルドの兵とは別に、また魔術師くずれがこちらへ向かってきていた。

「殿下!」
「こちらは気にするな、撤収を優先する!」

 グロウルさん達と言い合う間にも、吹雪が襲い掛かる。
 全力で魔術を使っているのか、目の前が見えないほどの白い粉雪と風だ。しかも寒い。まともに服を着こんでいないせいで余計に寒くて死にそうだ。

 この吹雪のせいで余計に乱戦になったようだ。
 白い風に紛れるようにサレハルドの兵が現れ、レジーは何人かの兵士を切り捨てた。
 相手の動きよりもレジーの方が早くて、剣を振りかぶったまま倒れたり、こちらに気づいた時には首を斬られている。
 さらに吹雪の外からはこちらが見えているのだろうか、風に負けずに飛んで来た矢が、一人を射抜いた。撤退の援護をしているんだろう。
 と、そこで私はこのまま立ち去れない件を思い出し、レジーに訴えた。

「あの、ごめんなさい。師匠がさっきの土人形(ゴーレム)に乗ってたの。このままだと……」

 私はサレハルド側に連れ戻されるつもりだったんだけど、それだと師匠をサレハルドに回収されてしまったら別れ別れになってしまう。あまり距離が離れてしまったら、師匠の魔術が解けてしまいかねない。

「わかった。そっちもなんとかできると思う」

 そう言ってくれたレジーは、自分の騎士が踊り出てきて先導しようとするのを押し留めて言った。

「私は大丈夫だ。皆このまま吹雪に乗じるように。魔術師くずれはサレハルドに押し付けておくんだ。だがキアラの師がさっき崩れた土人形と一緒のようだ。アランの方が近いから、報せてくれ」

 レジーの指示に、騎士はうなずいて吹雪の中へ。
 そうして私に指示した。

「少しだけ、魔術が使えるかい?」
「うん」

 何かに必要なんだろう。私は疑いもなく、周囲の土を動かそうとした。
 とたん、再び土ねずみにレジーごと抱えられた。2・3匹で寄ってたかって周りを囲み、とある方向へ押しながら誘導しようとする。
 わかった、そっちに土ねずみの巣の入り口があるんだ。人間にはわからなくても、魔獣には巣の場所の方向なんかが感覚でわかるんだろう。それを利用したんだ。
 レジー達が現れたのも、土ねずみの穴を利用してのことだったんだろう。
 そうして移動を始めた時、どこからかつぶやきが聞こえた気がした。

「……幸せになれ、キアラ」

 イサークの、声のような気がする。
 今になって、どうしてそんなことを言うの? それとも今のは幻聴?

 疑問に思ったけれど、問い返すことはできない。
 押されるまま走るレジーに抱えられて、私は顔に吹き付ける吹雪に目を閉じてしがみついて。
 やがて唐突に、浮遊感に襲われて悲鳴を上げた。
話が長くなって書ききれなかったので、明日また続きを投稿します。

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