挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
私は敵になりません! 作者:奏多
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

185/272

帰るべき場所 2

「死にたくなかったらどいて!」

 私はまだ周囲にいたサレハルド兵に叫ぶと、奥歯を噛みしめるようにして周囲の土に眠る魔力を一気に暴れさせる。
 周囲数十メートルと、帯のようなラインを描いてルアイン軍の方へと押し寄せるように地面が大きく波打ち、ゆらゆらとゾンビみたいに歩いていた魔術師くずれを飲みこんでいった。

 相手は風で土を吹き飛ばしたが、全てを避けきれずに足まで埋まった。
 私はさらに土の波を重ねて、その後ろに迫りつつあった、別の火だるまになった魔術師くずれともども雪崩のごとく押し流す。
 それで沈静化したので、今ので二人の魔術師くずれは力尽きたんだろう。

 周囲にいた兵士達は、隆起した場所から転がるように逃げ出して行っている。
 私がむちゃくちゃに動かして固めたせいで、周囲は岩と土の高波が固まったような有様になっていた。
 私の方は立っていられずに、側に隆起してできた土壁に背中をもたれて耐える。

 まだここで倒れるわけにはいかない。それにイサークに捕まった時よりはまだ余裕がある。
 視線を周囲に向ければ、ルアインの兵士は土人形(ゴーレム)に襲われ、逃げ惑ったところに歩き回るのも困難な状況を作られ、悲鳴を上げているのが見えた。
 そしてファルジアが、ルアインへ集中攻撃を仕掛け始めている。
 敵が戦意を失う状況を、見逃すレジー達ではない。サレハルドが呆然としている間に、そちらを片付けるつもりなんだろう。

 視界の向こうで、私が大きな魔術を使って魔術師くずれを埋めたせいで維持が難しくなったせいなのか、師匠を搭載した土人形(ゴーレム)が横倒しになった。
 そのまま手足をばたつかせて暴れながら、こちらへ移動しているようだ。土煙がもうもうと立ち上っている。
 でも師匠に操縦を任せている分だけ、ちょっと楽だ。

 私はなるべく土人形を崩さないよう、集中し続けながら警戒した。
 師匠をすぐに崩されてはたまらない。そちらへもサレハルドの兵が走っているので、イサークの部下が土人形(ゴーレム)が崩れたら師匠を回収するだろう。これだけ暴れたのだから、なんとしても私を抑えるための人質は欲しいはずだ。

 それよりもクレディアス子爵だ。
 土人形(ゴーレム)の様子から、私の力が弱ったと思ってこちらへ来るはずだ。そこを血祭りにあげる。
 そのために待つ。
 自分では魔術で攻撃できない子爵なら、私でもどうにかできるはずだ。先日はイサークに奪われ、今は師匠のせいで危うい目に遭った子爵は、全力で抑え込もうとしてきてる。
 けれど土人形(ゴーレム)と、地面の変化にだけ力を使って疲弊してはいても、まだ前回よりは耐えられる。……やっぱり治療が、けっこう魔力の限界値をがりがりけずっていたみたいだ。
 でも状態が良いわけじゃない。だから早く来い。
 じゃないと戦える力が無くなってしまう……と思っていたら。

「おい、キアラ! そこまでだ!」

 ぐいと腕を引かれて、その場に倒れ込むように座り込んだ。
 見上げれば、イサークが怖い表情をしていた。
 友軍にサレハルドが捕まえた魔術師が打撃を与えるのはまずいと思ったのだろう。それで私を取り押さえに来たんだろうけど。王様だから、ここに駆けつけるのはもうちょっと後だと思っていた。

「あの人形を止めろ」
「もう、私は操ってないわ。師匠が勝手に動かしているんだから」

 腕を掴まれていると、どうしても強引な口づけや拘束されたことを思い出して怖くなる。
 でもそれまでのことを思い出して、足が震えているのを気づかれないように、堂々と半分だけ嘘をつく。
 動かしてるのは師匠だけど、維持してるのは私です。

「クレディアス子爵が来て、お前を引き取ると息巻いてもか? これだけのことをしたら、俺としても引き渡さずにいるのが難しいぞ。俺の手に負えない状態だと言われたらどうしようもない」
「子爵は、今ここで私が潰す。サレハルドにとっても、悪い話じゃないはずよ」

 私の返事に、イサークが厳しい表情になる。
 魔術師くずれさえいなければ、操れる子爵さえいなければ、ファルジアはそれだけ有利になる。私が居なくても、十分にルアインとサレハルドを押し返せるはずだ。

「……無理やりやめさせられたいのか?」

 凄まれたって、もう私は数日前の何の抵抗もできない自分じゃない。
 怖いからこそなおさらに、戦えるんだっていう気持ちを思い出す。
 だからまっすぐにイサークを見返せ自分。

「止めない……むしろ捕えさせてもらうわイサーク。私は絶対、レジー達の敵には、ならないんだから」

 布靴だったから靴はあっさりと脱げてしまう。縛られた手を押さえられていたって平気だ。
 土に触れていさえすれば、銅鉱石や血がなくても魔術は使える。

 一気に土で作った檻で閉じ込めようとした。
 けれど勘の良いイサークはそれを避ける。
 ならばとこちらの地面を隆起させて間を開けても、すぐにイサークが追いかけてきた。
 足止めするために穴を作るも、上手く退いて落ちなかった。
 けれど私がかなり本気でイサークに攻撃しようとしているとわかったのだろう、彼の方もそこで一度足を止めた。

 向き合って対峙すると、やっぱり足が震えそうになる。
 ただでさえ、先日力で押さえつけて来た相手だ。しかも私は、一人きりで誰かと戦ったことがほとんどない。
 しかもイサークは結構強い人だ。王様がそんな技量なんて必要……なのか。ここは紛争が多い世界だから、どうしても上に立つ人間にも能力の高さが要求されるんだから。

 その王を助けるために誰かが来たらどうしようかと思ったが、サレハルドの兵士は、こちらを遠巻きにして動かない。
 師匠という呪いの人形が暴れ出したことに加え、魔術師にむやみに攻撃していいのかわからないのか、それともイサークが退くように指示したのか。
 でも一斉に攻撃されると辛いので、そこは助かったと思った。
 同時に……イサークが、私を特別扱いしていることを感じる。
 だって今みたいな宣戦布告、他の人が聞いたらすぐさま刺殺されかねない。
 イサークは自分しか聞いていない状態にしておいて、私に許す猶予をくれているんだろう。

「お前、本当に黙らせるぞ?」

 イサークが剣を抜いた。おそらく私に怪我をさせて止めるつもりなんだろう。この状態で斬りつけられたら、さすがに私も土人形(ゴーレム)を保っていられないどころか、何もできなくなる。
 私は歯噛みした。
 本気でかかってきたイサークに対抗するなら、私も彼を捕えるなんてことを言わずに、殴り倒すぐらいの覚悟が必要なんだろう。
 確かにイサークにはひどいことをされた。けれど彼が救ってくれたこともあった。そして彼は、私を殺したりはしなかった。今だって、それとなく私を保護しようとしてくれている。

 だから憎めない。憎みきれない。
 私には……イサークを殺せない。だから殺さずに、足止めをしようとしたのに。
 しかもイサークにかまけていたら、子爵に対抗する力が足りなくなる。焦った私だったが、

「……ひゃっ!?」

 何か柔らかくて重たいものがすごい勢いで突っ込んできた。
 しかもそれは私を突き飛ばすんじゃなくて、抱え込んで隆起した土の上からごろごろと転がる。

「ひええええっ!」

 こんなのは想定してない! 一体何!?
 私はぐるぐると回転して目が回ったところで、そのどこか覚えがある物体から解放される。ただでさえクレディアス子爵の圧力で弱っていたところに、これは効いた。
 ……もう少しで吐きそう。これはもう、師匠内蔵の土人形(ゴーレム)も瓦解してるんじゃないだろうか。

 でも確かめる暇なんてない。よくわからないけど、イサークからは遠ざかったはずで。
 こんな好機はない。
 逃げるためにも、私は走った後みたいに息をつきながら立ち上がって、ようやく自分にぶつかったものの正体を知った。
 キュッと鋭く鳴いた生き物……ハムスターを巨大化させたような土ねずみだ。

「ここって生息地だったの?」

 土ねずみの巣でもあったのだろうかと思ったが、そんなわけはない。いたら、この間リアドナ砦で土人形を使った時にも出てきたはずだから。
 とにかく土ねずみは私に危害を及ぼさないのはわかっている。だからサレハルドの軍から離れようと走り出したら。再びふわっとした感触に包まれて、揺さぶられながら移動することになってしまった。
 揺らされて具合は悪いが、自分で走るよりもずっと早い。だからじっと我慢する。

 しかし逃げられたのもそれほど長い間ではなかった。
 悲鳴のような鳴き声を上げて、土ねずみが倒れる。
 抱え込まれていた私は、再び腕を引っ張り上げられて、後ろから抱えられて拘束された。
 一匹の土ねずみが、血を流して倒れていた。思わず私は目を背けそうになる。
 他の土ねずみはこちらを向いて、低く身構えている。
 でも軍の後方にあった木立の中まで移動していたみたいだ。周囲にサレハルドの兵の姿はない。

「何だこいつは……」

 私を背後から拘束したイサークの方は、土ねずみなんて初めて見たんだろう。困惑しながらも土ねずみに対して剣を構え直している。
 そのイサークの左右にも、土ねずみがいた。

 そこに笛のような音を立てて飛び込んできた矢が、イサークの足下に刺さる。
 それと同時に動く土ねずみ達。
 イサークは、一斉に襲い掛かる彼らを剣で斬りつけて退けた。柔らかな小麦色の毛に散る赤い血に、私は息を詰めた。
 ただイサークも背後からの一撃を避けるのは骨だったようで、大きく体が傾いた。後ろから拘束されていた私も振り回される。

 それでも、土ねずみの攻撃に続いて斬りつけられた剣を受け止めた。
 その表情が楽し気に歪む。

「卑怯だなファルジアの奴は」
「これぐらいは戦術のうちだろう? 自分の弱さを、卑怯という言葉で誤魔化すのは良くないよ、サレハルドの王」

 イサークと剣を交えていたのは、長い銀の髪を結んだ人――レジーだった。

cont_access.php?citi_cont_id=214034477&s
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ