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私は敵になりません! 作者:奏多
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リアドナ砦の小戦闘

 翌日、軍はさらに北へ移動した。
 領境近くには、砦が少ないらしい。トリスフィードはサレハルドの国境に近いため、北側に砦が集中して建造されたそうだ。
 それでも南に何もないわけではない、侵略されてどうしても後退しなければならない時に逃げ込んだり、戦線を維持するための砦が作られている。

 エイダさんの故郷、トリスフィードの中でエイダさんの家が預かっていたリアドナという地域にも砦があるらしい。
 かなり昔に築かれたが、最初に想定した使われ方をしたのは過去数度だけだという。

 砦の北、少し離れた場所に町があり、分家のエイダさん家族は町の方に館を建てて暮らしていたのだとか。
 エイダさんの両親が生きているかどうかはわからないが、侵略時に少しでも抵抗をしていたら、統治の邪魔になると判断されて殺される、というのがルアインのやり方だ。

 エヴラール軍が目指しているのは、そのリアドナ砦だ。
 そこにはサレハルドとルアインの兵が500人ほど駐留している。
 情報をもたらしたのは、領境で捕まえたルアイン兵だ。巡回をしてファルジア軍を警戒していたルアイン兵達は、その砦を拠点にしていた。

 彼らが出発する前までは、どうやらサレハルドの王イサークがいたようだが、巡回へ出発する直前にはトリスフィード伯爵の城へ行ってしまったようだということまではわかっている。
 レジー達は警戒しているようだが、私はそれならまだイサークとぶつかるのは先延ばしされたのか、と内心で息をつく。

 そんな様子に、カインさんが気づかないわけがない。

「先日から、何を思い悩んでいるんですか? キアラさん」

 砦に近づいたので、いつも通りカインさんの馬に乗せられた私は、背後からそう尋ねられてしまった。

「デルフィオンからトリスフィードへ入ってから、ひどくなりましたが……。イニオンの砦にいた頃からですよね? クレディアス子爵のことですか?」
「う…………」

 多少は、クレディアス子爵のことも不安に思っている。どう倒すか、見通しが立たない相手はやっかいだから。
 でもある程度の計画というのは私も持っている。近くでも力が衰えないものを使えばいい。
 何となれば、ジナさん達の力を借りようと思っている。リーラ達魔獣は、クレディアス子爵の契約の石の力になど左右されないから。

 問題はクレディアス子爵の魔術が何なのか、だけだ。魔術を使うよう仕向けて、わかったら倒す。それ以外にない。
 私としてはイサークの方が問題だ。
 デルフィオンの一戦からすると、彼は普通にレジー達を攻撃してくるだろう。

 けど、私は。
 魔術が必要だと、レジーを助けなければとなった時に、イサークを殺す決断ができるのかどうか。

 カインさんに打ち明けて、後押ししてもらうことも考えた。私が戦うのは怖いなどと嫌がったら、カインさんはそうしたくなるような理由をくれるだろう。
 でも相手はカインさんが恨んでいるルアインではないとはいえ、サレハルドもファルジアと何度か戦ってきた国だ。

 ……やっぱり、敵国だからと思うかも。そんな気がする。
 でも、私がイサークと相対した時にぼんやりしてしまった時に、事情がわからなかったらカインさんも戸惑うだろうか。
 迷った末に、私は言った。

「……そうです。どう倒そうかと考えてみても、結局は相手の戦い方がわからないとどうしようもないなって」
「大丈夫ですよ。何かあっても、私が守りますから」

 カインさんは優しい言葉をくれる。それがとても申し訳なかった。


 リアドナ砦へ近づくと、砦の様子がようやく目で確認できた。
 斥候の報告を私も教えてもらっていたが、トリスフィードにサレハルドが攻め込んだ時、ルアイン側の魔術師くずれの攻撃で壁が一部崩壊させられたらしい。
 さすがに全てをすぐに修復できなかったようだが、元の半分ほどの高さまでは復旧していたようだ。

 ただ、壁を壊したのは土魔術を使ったわけではないらしい。
 火魔術なのか、爆発で壊したような痕跡が、砦の防壁のあちこちにあった。

 そのことに私は違和感を覚えた。
 こんなに沢山壊せるほど、何人も魔術師くずれを使ったのだろうか。

 疑問に思いながら、私は周囲に魔術師の気配がないことを確認する。
 エイダさんがいるのはわかっているので、それ以外の場所から感じないので大丈夫だ。

 そうしてリアドナ砦の前に布陣した軍の端で、レジーの求めに応じて土人形を作成した。
 今回は敵の数が少ないので、急いで攻略してしまいたいらしいので、砦の修復しかけの場所を、蹴って壊し直す。

 次に砦の上から矢を射ようとしていた十数人の兵士を地上へせっせと移動。その間にジェロームさん率いるリメリック侯爵領の兵が先行し、突撃していく。
 続けて、私は他の進入路を作ろうとした。いくらなんでも一か所だけでは足りないだろうと、もう一つ壁に穴を開けようとしたのだけど。
 それよりも先に、中に入ったはずのジェロームさんの部下が飛び出してくる。

「ルアイン兵が、砦後方から逃げて行きます!」

 どうやら、早々に砦を捨てることにしたらしい。
 近くにいたアランが舌打ちした。

「やけに弓兵が少ないと思ったら、そういうことか……。レジナルド殿下に伝達! 後方へ回って逃亡する兵の掃討を依頼!」

 アランの側にいた、伝令兵が走り出す。
 間もなくレジーやアズール侯爵達の軍が動き始めた。
 私はとりあえずアランとジェロームさんの行動に付き合うことにする。土人形がどたどた走り回ったら、移動する兵士さん達を踏み潰しかねない。

 ジェロームさんとリメリックの兵が戻ってくるのを確認してから、レジー達を追った。
 レジー達の方は砦後方に回った後、しばらくしてからさらに北へと移動を始めた。

「取り逃がしたからか?」

 首を傾げるアランと共に、私達は軍の後方にいるデルフィオンのエメラインさんの軍に追いついた。

「キアラさん、無事でしたか」

 なんだか心配されていたようで、エメラインさんが馬を駆って私のところまで下がって来てくれた。
 そこにアランが割り込むようにして尋ねる。

「おい、後ろから逃げた奴らはどうした?」
「それが、どうも戦闘直後には逃げ始めていたルアインの部隊があったようなんです。彼らがまっすぐにリアドナへ向かったので、殿下方はそちらに本隊が隠れていると考え、先に対処することにしたようです」

 エメラインさんが報告すると、アランがうなずいた。

「先にルアイン軍本隊に伝達されて先手を打たれるより、一度脅しをかける気か?」

「そうですね……リアドナはそれほど大きくはない町だということですし、潜んでいるとしても多数ではないでしょうから、砦周辺の安全を確保するためにも必要だという意見を殿下が入れた結果のようですね」

 そこで私が気になったのは、町のことだった。

「リアドナの町って、まだ人がいるんですよね? でもサレハルドの占領下ってことは味方扱いで、特にルアイン兵が変なことをしたりしないですよね?」

 占領下とはいえファルジアの民だからと、粗暴なことをしないかと心配になったのだ。

「わかりませんよ。ルアイン側も、抵抗したとかそういう屁理屈をつけて虐殺することだってあり得ます。しかもファルジア軍がすぐ側にいるとなれば、軍と呼応するために民がルアイン兵を背後から襲ったと言ったら、とても信憑性があるでしょうね」

 カインさんの言葉に、私は思わず想像して怖くなる。

「レジーならそれくらい想定してるだろ。だから威圧のために近づくだけで済ますつもりなんじゃないのか?」
「おそらくはそうでしょう」

 アランの推測にカインさんがうなずく。
 なら、すぐにどうこうという事態にはならないかも、と思った。

 そしてリアドナの町が見える街道でレジーが行軍を止め、アランと共にリアドナの件について報告しようと、レジー達の所へ向かった時だった。
 再び軍が北上を始めた。

「なんでだ!?」

 疑問を口にしたアランが、走って行ってどこかへ走ろうとした騎兵を捕まえて問いただす。
 どうも、リアドナの町からファルジア軍に、救援を求める人がやってきたらしい。
 求められたなら、行かないわけにはいかなかったようだ。
 それでもレジーは慎重だった。

「逃げ込んだのが三百人ほどなら、全軍で町の中に閉じこもる必要はない。町中へ入る部隊と、町の前で待機する部隊、町の周辺を警戒する部隊に分ける」

 そう言って軍を分け、町中で動きやすい人数だけで侵入することにしたようだ。
 間もなくアランの元にも伝達がやってきて、私はデルフィオンとエヴラール辺境伯軍とともに、町の手前で待機と警戒をする方に振り分けられる。
 大人しく従うことにした私は、食料などを積んだ馬車をデルフィオン側が囲むようにして守りを固めるのを見ながら、魔術の気配を探ろうとしていたのだが。

「エイダさん!?」

 荷馬車の中から飛び出した人がいた。
 軍の中でドレスを着ているのは、私かエイダさんしかいないから、間違いなく彼女だろう。

 彼女は一心に、町へと走って行った。

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鳥かごの大神官さまと侯爵令嬢


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