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私は敵になりません! 作者:奏多
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トリスフィードへ向かうために

   ◇◇◇

 気づけば、レジーがずっと窓の外を見ていた。
 何を見つけたのかと、気になって側に寄ったアランは……そのことを後悔した。
 二階の窓からなので、全てが見えるわけではない。
 四阿の屋根も三分の一ほど彼らの姿を隠していた。
 ただ、一組の男女がそこにいること。かなり接近して座っているのが見えた。

「え……う……」

 実に気まずい。
 その二人が、知り合いどころか友人と呼べる間柄だったり、兄代わりにしてきた相手だったりするのもあったが……なにより隣に、レジーがいるのだ。

 ウェントワースが彼女を離した後、ややしばらく二人で話した後で四阿を出て行く。キアラが先頭を歩き、ウェントワースがその後に従う姿は、いつも通りの二人の様子に見えた。

 その間中、アランはちらちらとレジーの様子を伺っていた。
 レジーがキアラのことをことのほか気に入っていることは、近しい者の間では衆知のことだ。
 やみくもにそんな真似をするわけがないレジーのことだから、後ろ盾がないキアラを保護するためと、よけいな虫がつかないようにするためだとはわかっている。
 ただ、もう今となっては普通にキアラが好きなんだろうと思うのに。
 レジーは二人の様子をじっと見つめた後は、特に何も言わずに窓から離れた。

「おい……」

 思わず声をかけてしまったアランは、けれどそれ以上何を言ったらいいのかわからなかった。けれどレジーの方が振り返ってくれる。

「心配しなくても大丈夫だよ、アラン。今までもこれからもキアラはファルジア軍の魔術師なんだからね」

 例えキアラが誰を好きになろうと、自分が保護することに変わりはない。そういうことを言っているのだと思うが、アランはなにか非常にもどかしいものを感じた。

「でも、お前はそれでいいのか?」

 思わず尋ねてしまったら、レジーがふと困ったような表情になる。それから困ったように笑った。

「なんて顔してるんだよアラン。そんな風に、深刻になるようなことじゃないだろう?」

 さらりと言ってみせたレジーは、本当になんでもないような顔をしていたけれど。

「だけど嫌なんだろう?」

 言った瞬間、レジーがふっと表情を消す。けれど口だけは彼の感情とは裏腹な言葉を吐き出した。

「キアラが選択したのなら、私はそれでいいんだ」

   ◇◇◇

 祭りが終わった数日後。
 デルフィオンからの資金供与なども順調に進み、兵も再編されていく中、トリスフィードから偵察部隊が帰ってきた。

 彼らの報告によると、サレハルドはトリスフィード伯爵の城で支配体制を固め始めているようだ。
 サレハルドは北国だから、少しでも南の土地がほしいらしく。以前からトリスフィードやエヴラールの北辺の領地などを狙っていたりもした。
 だからルアインとの取り引きでも、トリスフィードを望んだのかもしれないとレジー達は言っていた。

 一緒にトリスフィードまで退いたルアイン軍の方は、船でデルフィオンの西にあるキルレア伯爵領とひっきりなしにやりとりしている、という。
 トリスフィードとキルレア二方向から、デルフィオンへ同時に攻め込む計画を立てているらしい。
 ただし、王都でも多少の混乱が起きているようで、すぐにルアインの軍をデルフィオンへ召集することができていないようだ。
 その理由が意外だった。

「王妃が戴冠? ルアイン国王が併合するのではなく?」

 アズール侯爵の問いかけに、偵察部隊を指揮していた騎士がうなずいた。
 偵察部隊が戻ってきての会議に、レジー以下将軍格の人々とプラス私と補助のカインさんに、グロウルさんが出席していた。
 一番末席で立って報告していた騎士は、報告を続ける。

「左様でございます。どうやら王妃が国主となって、従うファルジア貴族にはそのまま領地を据え置きにすることを約束し、ルアイン軍が討伐した領地についてはルアイン貴族に与えるようです」

「貴族達を懐柔するつもり……かな」

「しかし王妃が国主になるというのを、ルアイン国王が受け入れるか? 今までルアインは、どんな国であっても併合して自国に組み込んで来たんだ」

 レジーもアランも、推測を口にしてはやや困惑した表情になっている。

「……ルアイン国王と王妃の意見に相違が生じた、ということでござろうか」

「元から別々に統治する予定だった可能性もあります」

 エニステル伯爵の意見に、ジェロームさんが発言する。
 私は眉間にしわが寄りそうになっていた。
 先ほどまではレジーと顔を合わせにくくて、下ばかり向いていた。
 会わなければもう全然平気な気がしたのだけど、姿を見ると、どうしても挙動不審になってしまうので、冷静さを保ちたくて顔を見ないようにしていたのだ。

 だけどそんな気持ちも、王妃の行動の不可解さに吹き飛ぶ。
 最初から王妃がファルジアを治める予定だったのなら、もっと何か別な方法を使うのではないだろうかと思ったからだ。

 例えば現王の暗殺。
 多数のファルジア貴族を懐柔していたのだから、ルアイン軍が侵攻してくる前に国王を暗殺して、レジーがエヴラールへ来た隙にでも戴冠を強行することもできただろう。
 そもそもルアイン軍に国土を蹂躙させる必要があったのかどうか。
 何か理由をつけてルアインの貴族を兵とともに呼び寄せて、城だけ占拠するという手もあったはず。
 レジー達もそう思うからこそ、困惑しているのだろう。

「そのためキルレアに兵が集まらないようで、ルアインの兵はデルフィオンへの攻撃がこのまま延びれば、トリスフィードで冬を越すことになるかもしれないと、笑い話に興じておりました」

 騎士の報告が終わると、ややあってエニステル伯爵がつぶやいた。

「やるなら今……でござろうな。気が緩んでいるこの時、援軍がすぐにやって来られないこの機を逃すのは、いかにも惜しい」

 無言のまま、私を除いた一堂に会した者たちがうなずく。

「件のトリスフィード出身の女性からの情報はいかがでしたか」

 アズール侯爵の質問に、レジーが答える。

「多少は情報を聞きかじったようだけれど、そう多く知っているようではなかったみたいだ」
「左様でございましたか……」

 アズール侯爵はエイダさんの情報を頼りにしていたのか、残念そうだった。

「後はトリスフィードの彼女の家が治めていた辺りまでの、道案内くらいしかしてもらえなさそうだし、デルフィオンに一時預けていく方が彼女のためにもなると思うのだけど」

「お預かりすることに問題はありません。また、デルフィオン領北辺の、トリスフィードへ行き来していた者をこちらで道案内に雇いますので、そのあたりについても問題ないでしょう」

 レジーの案に、新たにデルフィオン男爵となったアーネストさんがうなずく。

「それにデルフィオンとしても、このまま殿下の軍が離れてしまっては、サレハルドに攻め入られて元の木阿弥になる可能性もあります。できれば北のトリスフィードを平定していただければと思っております。そのためにも兵を多数拠出したいのですが、キルレアのこともありますので……」

 キルレア伯爵領のことがある。
 そちらへの防御を固めなければ、兵数が揃わなくとも落とせるとばかりに、ルアインが攻め込んできてしまうだろう。

「そちらの防衛に関しては、私も理解しているよデルフィオン男爵。それよりも双方に振り分けできる実数が知りたいな」
「はっ。キルレア側には私が二千を率いまして、境を封鎖する予定です。トリスフィードへはエメラインを将としまして、三千を」

「防衛側が手薄だな」

 アランが腕を組んだ。

「追って、協力領地からの増援も来る予定だ。そちらが到着するまでに二週間ほどかかるが、増援の五千をそちらに向かわせた方がいいんじゃないか?」

 アランの提案にレジーがうなずく。

「では準備を整えるために三日。その後出発し、最初はトリスフィード南端の砦ゼランを目指す」

 これで方針が決定した。

 準備が三日ということで、各自が自軍に連絡を行うためにデルフィオン城の小広間を出ていく。
 私も遅れながら小広間を出つつ、悩む。

 トリスフィードはゲームで、ルアインに抵抗を続けていた領地だ。
 王都への道筋から少々外れたところにあるので、ルアイン軍もデルフィオンを占拠できれば進軍に問題がなかったからだろう。
 そのためトリスフィードでの戦いに関しては、完全にゲーム外の出来事だ。
 ということは私にも戦闘に関する知識がないわけで……向かう前から、なんだか怖い感じがする。

 それに相手はルアインだけではない。サレハルド軍とも戦わなければならないのだ。
 またイサークとも会うのだろう。

「殺さずに済む方法なんて……」

 どんなに考えても思いつけない。
 それなら、知り合いを殺す覚悟をしなければならない。

「あの人は敵。あの人は敵……」

 私は心の中で何度もそう唱えながら、唇をかみしめた。

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