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私は敵になりません! 作者:奏多
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デルフィオンの秋祭 2

「……ええと、仮装はちょっと遠慮させて頂いてですね」
「一部が敵対したり、難しい状況だったからこそ『関係が修復できましたよ』と軍の関係者がアピールしてくれるといいのだけど」

 すかさずエメラインさんがやんわりと反対意見を口にする。

「それ、もっと悪いじゃないですか。私が目立たないといけないのは、ちょっと……」
「一緒に仮装してくださらないんですか? 私、実は楽しみにしてたんです」

 断ろうとしたら、ルシールさんがしゅんと沈んだ表情でうつむいた。う……心が痛いんだけど。どうしたらいいのこれ。

「エイダさんも逃がしません」

 エメラインさんがさっと立ち上がって、離れようとしたエイダさんを拘束した。

「貴方にはぜひともこの祭に参加していただきたいのです。なぜならこの祭は、婚期を迎えた女性には別な意味があるのです」
「別な意味?」

 聞き返してから、私は思い出した。
 エヴラールでもそういったものがあった。
 近隣の村からも城下町に集まってきて秋祭りをしていたんだけど、祭りの間、男性から花か何かを贈られると告白をしたいって意味だとか。受け取ったらいいよって意味になるとか。そういう感じだった。

 概要だけ説明された私だったが、ベアトリス夫人と城下を回ってちょっと楽しんだ後は城に帰ったので、花を持ってる男の人をちらほら見かけただけで、どきどきな告白シーンは目撃できなかったのだけど。
 案の定、デルフィオンの祭にもそういうものがあるらしい。

「付き合いたいという男性は、女性にリボンを編んで作った腕輪を渡すのです。猫に贈った首輪の逸話に絡めているのですけれどね。そして男性達を引きつけるには、可愛らしさを見せつけることが必要です。猫の仮装はうってつけなのですよ」

 自信満々に主張するエメラインさんだが、彼女に限っては可愛らしさという単語がこう、そぐわない感じがするのはなぜだろうか。

「別に、不特定多数に見せつけなくても……」
「釣れる男は多ければ多いほど、こちらがより良い男を選べるようになると思うでしょう?」
「う……」

 その意見には、エイダさんも反論しにくいようだ。まさかエイダさん、釣りをなさったことがある?

「釣った相手が、食べる場所もない小魚ばかりでは意味がないでしょう。わたしが釣りたいのはただ一人だけで……」
「分家出身では、上を目指し過ぎても不幸になるだけだと思うの」

 反論は、エメラインさんがずばりと切り捨てた。

「そんなことな……」
「あるわ。だって王族なんて弓の練習一つ満足にできやしない。殿下の叔母上、ベアトリス様だって苦労したというお話を聞いたことがあるわ」
「いえわたしは別に弓なんて……」

 うん、私も弓の練習ができない苦労とか言われても、ちょっと微妙な気持ちになる。が、巻き込まれる方が怖かったので、ルシールさんに近寄って二人からなるべく遠ざかった。
 それに男の人を釣るとか、私には未知の領域すぎて入れないというか入りたくない。

「お、大人な話は私、まだ無理……」
「聞いておいた方がよくありませんか? というかキアラ様も成人済ではありませんか」
「ぐ……」

 ルシールさんに痛い所を突かれて、私はうずくまる。
 その間にも、エメラインさんの説得は続いていた。

「まぁ、幸不幸は別として、より多くの相手をめろめろにさせることは、とても重要だと思うの。だって小魚さえ釣ることができないのに、本命の大魚を釣ることができるものですか」
「……一理あるわ」

 どうしよう。エイダさんがエメラインさんに洗脳されつつある。
 このままでは私も確実に巻き込まれる。逃げられないのなら、何か別な解決策を……と思ったところで、私は長櫃の中に『それ』があることに気付いた。

「わ、私これにする」

 震える手で、急いで目的物を引っ張りだして抱きしめる。

「え、本当にそれでいいんですか? それは子供か、約束した相手がいるような女性が着るものなのですけれど」

 ルシールさんにびっくりされたが、これが一番いい。
 しかしルシールさんの反応を見るに、主張だけでは反対されて取り上げられ、別な物を着るよう強制されるだろう。
 取り上げられない方法は何か――着ることだ。

 私は素早くドレスの上から、引っ張りだしたそれを着こんだ。胴回りがだぼっとした形で余裕が沢山あったので、無事に服の上から装着ができてほっとする。
 これこそ私の救世主。背中にちっちゃい翼がついた猫の着ぐるみだった。
 前世の着ぐるみパジャマっぽいし、着たこともあるので抵抗感ゼロだ。しかもフードを鼻先まで降ろせば、顔も隠れる。完璧だ。

「それでは、魔術師様だとわからないのでは? しかも可愛いと言うより滑稽な……」
「目立たないからいいんですよ! 私は可愛さを求めてませんし」

 そんな話をルシールさんとしていたら、ついにエメラインさんに気づかれた。

「え!? キアラさん、いつの間に! もっと可愛いこれとか、あっ、こっちとか着せようと思っていたのに!」

 そんなことを言いながら、猫耳ヘッドドレスを横にいたエイダさんにつけ、ふわふわな灰色の毛皮でつくられたドレスを当てて、アピールしてくる。
 可愛すぎて着たくないです。しかもそのドレス、露出が多めで私にはハードル高いんですってば。

 けれどここにいたのでは、エメラインさんやルシールさんに着替えさせられてしまうかもしれない。
 もう衣装を決めたことにして、このまま逃亡しよう。そのまま明日までがんばってエメラインさん達と接触しなければ、この着ぐるみを私に貸すしかなくなるはず!

「とにかく私、これじゃないと着ませんからぁああ!」

 言い逃げ! とばかりに私は小広間を飛び出した。

「逃がしませんよキアラさん!」

 エメラインさんがやや遅れて追いかけてきた。しかもエイダさんとルシールさんまで。

「うわああん、これ着て参加するんだからいいじゃないですか!」
「目立たないでしょう! 顔も見えないだなんて、友好関係を見せびらかそうというのに、全く意味がないでしょう!」

「そういうのは、ギルシュさんか誰かにしてもらって! ギルシュさんの方が乙女だから、どんなふわふわ可愛いのでもイケるから!」
「サイズが合わない物しかないからだめよ!」

 私のナイスアイディアは、エメラインさんに即却下された。
 確かにギルシュさんは上背もあって幅も大きいから、既に作ってあるものでは合うまい。

「早くエイダさんもキアラさんを捕まえて! そうしたら免除してさしあげます!」

 エメラインさんの指令に、手を引っ張られて嫌々ついてきたようなエイダさんが、突然やる気を出して走る速度を上げてくる。
 ひぃぃぃ。
 後ろを振り向き、慌てて足を早めるけれど、着ぐるみの足部分が短すぎて速度が出せない。焦り過ぎてつんのめり、角を曲がったところで転びそうになった私は、ぎりぎり間に合ったエイダさんに首根っこを掴まれた。

「ぐえっ」
「わたしのために犠牲になってくださいな!」
「エイダさん良くやりました!」

 喉が閉まった私のうめき声、エイダさんの必死の叫び、エメラインさんの歓声。
 そこにかぶさるように声がかけられた。

「何をしてるの?」

 ……一瞬、私の頭の中が真っ白になった。
 目の前に、グロウルさんを連れたレジーがいた。
 レジーの方もあまりの様子に驚いたのだろう。珍しく目を見開いている。グロウルさんなどぽかーんと口を開けている。
 しかも私、フードがとれて顔を隠せていない。

 そんな私をひっつかまえていたエイダさんも、とんでもない場面を見られた羞恥が限界を超えたのか、顔色が悪い。
 あのエメラインさんでさえ、魔術師取り押さえ現場を見られるつもりは全くなかったのか、何も言えずに固まっていた。

「……ふっ、くくっ、あっはっはっはっは!」

 やがてその場に響いたのは、レジーの大笑いする声だった。
 というかもう、爆笑だよねそれ。
 いやひどい有様見せてる側だし、たぶん自分だってレジーの側だったら、大笑いするだろうけど。
 そんな風に大笑いするレジーを見て、エイダさんはすごくびっくりした表情をしていた。

「それはもしや、明日の祭の?」

 恐る恐る尋ねてくるグロウルさんに、ようやく冷静さを取り戻したエメラインさんがうなずいた。

「ええそうです。けれどキアラ様にはもっと可愛いものを着せるつもりで……」
「ははっ、それも随分可愛いけど……っ。似合いすぎキアラ」

 レジーはまだ笑いながらそんなことを言う。けどそれ、面白がってるだけだよね?
 あげく近よってくると、背中に落ちていたフードを被せてまた笑う。……何がしたいんだ。

「まぁ、親睦がんばって」

 手をひらひらと振って、レジーは立ち去った。どうやら助けてくれる気は全くないようだ。裏切り者め。
 しかしレジーの言葉で、私はあることを思いついた。
 ついついにやっと笑ってしまい。
 目が合ったグロウルさんに、なぜか怯えられた。

 その後、戻った小広間で私は自分の提案を語り、エメラインさんに納得させ。
 なぜかエイダさんは、私が着ている猫の着ぐるみをじっと見つめていた。

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鳥かごの大神官さまと侯爵令嬢


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