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私は敵になりません! 作者:奏多
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デルフィオンの秋祭 1

「どこに?」
「わたしの部屋までお願いできるかしら?」

 言われるまま、私はついていくことにする。
 エイダさんも特に用事があるわけではなかったのと、あれからすぐレジーを追いかける気にはなれなかったのだろう、一緒に行くことにしたようだ。

「私は遠慮した方が宜しいですかね?」

 気を遣って離れようとしたカインさんだったが、エメラインさんに止められる。

「実は、荷物を運ぶのを手伝っていただけると助かるのですが。お時間があればで宜しいのですけれど」
「いいでしょう。わかりました」

 護衛どころか荷運びに使われることになったカインさんだが、しかし重い荷物があって、私やエイダさんの参加が必要って一体何をするんだろう。

「何か整理するような作業なんですか? エメラインさん」
「ちょうど明日なの」
「明日って何がです?」
「デルフィオン特有の、秋のお祭があるのよ」

 ファルジアに限らず、この世界ではおおよその地域で秋祭りを行う。
 一番麦などの食料が豊富なのもあって、この時期に豊穣を祈る祭りをするようになったのだと思う。後は他の村などとの交流を行うこともあり、出会いの場にもなるようだ。

 幼少期はそんなことも知る機会がなく、伯爵令嬢時代も逃亡防止のため外に出したくなかったのか全くそういったものには関わらなかったので、エヴラールで初めて実際に見ることになった。
 テレビゲームのような娯楽がほとんどないこの世界のこと、エヴラールには奇抜な人が多くて普通に生活していても楽しかったが、やはりお祭りというのも面白かった。
 けれどデルフィオンでは少々変わっているものになるという。
 そして仮装するのだとか。

「この地方の言い伝えでね、魔獣の子供を拾った人の話が基になっているのだけど」

 傷ついた暗翼猫の魔獣の子供を拾ったとある村人がいた。
 怪我が治る頃には魔獣もすっかり村人に懐いていたが、だんだんと大きくなって隠しておくことが難しくなった。
 なので近くの森の中に暗翼猫を置いてくるしかなかった。

 それから数年後、デルフィオンに村人に懐いたものとは別の魔獣が発生した。
 村も襲われそうになったその時、助けてくれたのは何倍にも大きく成長した暗翼猫で、その右前足の指には、村人があげた首輪が填められていた。

 という鶴の恩返し系の逸話を、エメラインさんが語ってくれた。
 以来、暗翼猫のために村全体がお礼に貢物をして、暗翼猫は村人が亡くなってからも村を守ってくれたらしい。
 暗翼猫がいなくなった後も、縁起担ぎとして年に一度魔獣に貢物をするようになり、やがて暗翼猫役の仮装をする者が現れて……という感じで、仮装する人にお菓子をあげるお祭りになったそうだ。

 説明を聞いて思った。
 なんか秋祭りとハロウィンが混ざったみたいなやつ? と。

「殿下方からも、祭を行ってもいいと許可を頂いたの。ルアインの占領下でも規制はされなかったみたいで、町でも準備をしていたみたいだから、今になって止めたら不満が出るだろうし、そのまま実行した方がいいだろうって」

 説明を受けながらエメラインさんの部屋へやってくると、ルシールさんが待っていた。

「お姉様、おおよその物は中に仕舞いました」

 ルシールさんは部屋の中央にデンと置かれた長櫃を二つ指さす。私の足から肩近くまでの長さがある木の箱だ。平民はこれを椅子代わりにしたり、もっと大きなものを寝台代わりにする。

「中に何が入っているんです?」
「仮装道具よ」
「え、仮装?」

 まさか私やエイダさんも、仮装要員として呼ばれたのかな?

「このお祭りでは、女性側が暗翼猫の仮装をするの」
「今では色々な仮装を楽しめるように、猫っぽくて背中に羽があればそれで良し、という感じになってますけれど」

 エメラインさんの言葉を、ルシールさんが補足していく。
 試しに中を見ると、猫耳がついたケープが出てきた。背中には小さな毛皮で作った翼が縫い付けられている。なるほど、女の子っぽい仮装だ。

「まずはこれを、他の女性が集まっている場所へ運びたいんです」

 近くの小広間へ運ぶのだと聞いて、カインさんが一つを持ち、私やエメラインさんとエイダさん、さらに私が庭石を変化させた石人形でもう一つを持って運んだ。
 両手に作った指をわきわきさせてから櫃を担いだ石人形の姿に、エイダさんがぎょっとした顔をしていたので、ちょっと笑ってしまった。

「な、なによ。魔術を使うにしても、変な動作させるから驚いただけよっ」

 可愛くない物言いだけど、顔を真っ赤にして泣きそうな表情をするので、全く威圧感などはない。

「驚いた様子が可愛くて」

 素直にそう言うと、エイダさんは慌てたように目をさまよわせて、うつむいてしまった。
 それにしても、

「二つとも、魔術でなんとかしたのに……」
「そこまで重くはありませんよ。階段の登り降りまでしろと言われたら少し考えましたが、行き先はすぐ近くですからね」

 後ろに続くカインさんを振り返ると、なんでもないことのように言われてしまった。けっこう大きいし重たいんだけどすごいな。
 ルシールさんも同じように思ったらしい。

「お兄さんすごいです! 私もお手伝いできたらいいんですけれど……」

 背丈の関係でお手伝いを断ったのだけど、ルシールさんは何も持っていないことが後ろめたいようで、そう言いながらカインさんの側をちょろちょろと歩いては、自分も少しは支えられないかと思っているようだ。
 しかしカインさんは肩に担いでしまっているので、なおさらルシールさんの手は届かない。仕方なく、カインさんの横を早歩きしてついてきているのが可愛い。
 カインさんも小さな子がくっついてくるのに慣れている人なので、櫃を運びながら穏やかに応じている。

「もう少し大きくなったら、思う存分お手伝いしてください。それまでは年上の者がしていることを見て学んでおけばいいんですよ」

 ……亡くした弟さんのことを思い出しているのかな。
 そうこうしている間に、すぐ目的の小広間に到着した。
 扉を開いた中には、城勤めの人なのだろう年若い女の子が沢山いた。お祭りの準備のため、本人たちが持ち寄った布などを広げたり、縫ったりしている。
 部屋の中央には衝立なども置いてあり、仮装の試着もするつもりなんだろう。

 この後は役に立てないだろうからと、カインさんは櫃を扉近くに置いて立ち去った。
 その時ちゃんと師匠も預けたので、他の女性達のプライバシーもしっかり守れるはずだ。

「さぁ、選びましょう! 私達が使わないと決めたものは、他の方に貸すのよ」

 エメラインさんは長櫃を部屋の中ほどまで引っ張って行くと、蓋を開けて中から衣装を取り出し始める。

「毎年の行事なので、同じ仮装ばかりをするのもなんですし、道具や衣装を貸し借りすることが多いんですよ」

 ルシールさんがにこにことしながら仮装道具を取り出して見せる。
 猫耳のヘッドドレス、猫耳のヘアバンド、それらに派手にレースがついたものや、硝子を宝石に見立てて飾ったものとか……。
 え、仮装って……そういうこと? わりと本気で派手なハロウィン仮装を猫系限定でやるの?

 驚きながらも私は、心の隅で納得していた。
 なるほど。これは女の子だけ仮装するわけだ、と。
 カインさんに猫耳とか……ちょっと気の毒すぎるし、何かの罰ゲームみたいだもんね。
 でも私だって仮装で目立つとか、猫耳をつけて人前に出るとか、あまりしたくないんだけど。
 しまった。……どうやって断ろう。

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