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私は敵になりません! 作者:奏多
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魔術師との遭遇

 私が戻った時には、まだレジーの食事は済んでいなかった。
 そりゃそうだよね。王子様がシチューを皿に口つけて胃に流し込むわけがない。
 ついでにメイベルさんも未到着だった。これで結果を聞き損ねることはないだろう。

 待っていると、メイベルさんが急ぎ足でやってきた。
 ノックをしたら、中から出てきた給仕が食事が終わったことを教えてくれたので、メイベルさんと私は食堂に入る。
 立ち上がったレジーに、メイベルさんが報告した。

「残念ながら、ご同行は危険すぎるとのことで遠慮なさっていただきたいとのことでした。ただ辺境伯はその魔術師を城の牢に入れるおつもりのようで、その際にならば殿下が見ることも可能だろうと仰っておられました」
「ありがとうメイベル。なら、辺境伯が戻ったら教えてほしいな」
「かしこまりました」

 メイベルさんがおじぎするその時に、レジーの視線が私に語りかけてくる。『これでいい?』と。
 もちろん、私が単身ついていくのはレジーよりも許可されにくいだろう。だから、会えるのならばどんな方法でもかまわない。
 うなずくとレジーもうなずきを返してくれた。

「その時にはキアラも連れて行きたいんだ。調べ物に関係しそうだから、手伝ってくれてる彼女にも見ておいてもらいたいんだよ」
「キアラも……ですか」

 私も一緒と言ったことに関しては、メイベルさんも驚いたようだ。
 けれど彼女はレジーの要望に添うようにすると言ってくれる。おかげで、その時にベアトリス夫人がいたとしても、レジーが呼んでいるのでということで私を連れ出してくれることになった。

 とりあえず打ち合わせは終わったので、レジーは迎えに来た騎士と共に中庭へ向かった。小競り合いの多い時代の王子らしく、剣や乗馬の訓練を欠かせないらしい。
 私はベアトリス夫人が帰るのを待ちがてら、部屋の様子を確認しに行こうと考えた。
 そこで、不意にメイベルさんがつぶやいた。

「殿下はよほど、貴方を信頼されているのですね」

 ため息混じりの声に、私は冷や汗をかく思いで姿勢を正した。
 う、これってあれかな。
 王子が出会って間もない、どこの馬の骨どころか……な私と親しくしていることを、良く思ってないってことかな。

 これ以上レジーに近づかないようにと言われたらどうしようか。
 魔術のことが調べられなくなって、レジーを救う手段を探しにくくなってしまう。
 いよいよとなったら、解雇されるのを覚悟した上で、何か手がかりがありそうな茨姫の所へ突撃するしかない。
 もう一つだけ、確実に魔術を学べる環境を思い出すが、それはできればやりたくない。
 悩みで頭がパンクしそうになっていた私だったが、

「信じられる者が増えたことは、本当に喜ばしいと思っていますよ」
「えっ」

 メイベルさんの言葉に、思わず疑問の声を上げてしまう。
 するとメイベルさんは、困ったような顔をして笑った。

「貴方を疑ってはおりませんよ。殿下もうかつに危険な者を傍に置かないでしょうから。貴方も子供だからこそ何のしがらみも考えることなく、ただ殿下という同じ年頃の子として仲良くなったのでしょう。殿下は今までそういったことなど望みようもないお立場だったので、嬉しく思っておりますよ」
「あの、それは王子だからですか?」

 自分を支持する家の子とだけ仲良くしなくちゃいけないとか。そういうことだろうか。

「それもありますが、複雑な生い立ちのせいでもあります。なにせ殿下は、今の陛下にとってはご養子になりますので。お立場が複雑すぎて」
「確かに……」

 レジーは、現王の兄の子供として生まれた。けれど現王の兄が王太子時代に早世したため、まだ幼かった彼は、まだ世継ぎなど居なかった現王の子となったのだ。

 ゲームはそんな複雑な事情はなかったな、と思う。
 最初から居ないキャラにもしそんな設定があったとしても、わざわざストーリー中に話題にしないだろうけど。
 けれど現王にはまだ子供がいない。
 唯一の跡取りとなるのだから、血が繋がっていなくともレジーのことを無下にしないと思ったが……そこで、レジーの『優しくない家族』のことを思い出す。

「ご家族も……配慮はしてくれないのですね」

 優しくない家族ならば、レジーのことを思って、安心して付き合える相手を選別することもないだろう。
 私のその一言で、メイベルさんも私が何らかの事情を知っていることを悟ったようだ。

「殿下は本当に、貴方に色々とお話になっておられるのね」

 ふっと息をついたメイベルさんの肩から、力が抜けたように見えた。
 そして彼女が色々と語ったのは、もしかするとメイベルさんもずっと誰かにこういう話をしたかったのかもしれない。

「レジナルド殿下は陛下の兄君のご子息でした。当時王太子でいらしたので、兄君がそのまま即位をしていたら、レジナルド殿下は陛下よりも継承権の序列が上になっていたでしょう。けれど父上を亡くし……お母上はその後、悲しみのあまり王城から離れた別な館で静養中に滞在中に行方不明となられ、殿下一人が残されました」

 実の父母を失った時、レジーはわずか5歳だった。

「けれど先代王であるお祖父様がいらっしゃるうちは良かったのです。殿下を可愛がり、庇護してくださいました。けれどあまりに庇護が厚いので、叔父である今の陛下の継承順位が危ぶまれるのでは、と噂が立ちました。そのため先代王は、レジナルド殿下を陛下のご養子とされたのですが……この経緯から、まだ幼いレジナルド殿下を敵視することもありました」

 おいおい……と私は呆れそうになる。
 継承順位が変わることを嫌がったから、養子になったんだろうに。それでもまだ『怖いんだよー』と幼児をいじめっ子扱いですか……。

 そうして幼少期のレジーは、先代が連れていかなければ誰も関わって来られない、強制ぼっちの状態になりかけたとのこと。
 みんな先代さんとは仲良くしたいけど、今の王様を無視することもできないしで(だって先代が亡くなったらご利益が無くなっちゃって、不利な状況になりかねないから)困った末に、先代さんがいる場所でだけ交流するのが関の山だったらしい。
 とんでもない幼少期を過ごしたんだなと、私はレジナルドに同情した。

「やがて陛下も妃を娶られましたが、消耗戦になりかねないルアイン王国との戦を回避するための政略婚です。王妃はもちろんこちらに歩み寄ることもありませんし、殿下に対しては、今後自分が子を成してもレジナルド殿下が阻害要因になりますので、母として慕える状況ではありませんでした」

 そうしてレジーは優しくない家族とばかり関わる生活を続けていたのか。
 針の筵だな……。似た者同士だって雰囲気は感じていたけど、本当に恵まれてなさすぎる。

 ただ王妃との婚姻で良かったこともあったらしい。
 現在の陛下も、ルアインに国が乗っ取られることだけは良しとはしていなかったのだ。
 そこで継承者にルアインの血を入れたら問題になると考え、レジーを継承順位一位からは変えなかった。そして貴族たちの結束を強めようと、王子との交流を勧めるようにもなり、貴族達も王妃を警戒する者はレジーの側についたようだ。
 その最たるものがエヴラール辺境伯だ。

「こちらは王姉であらせられるベアトリス様がいらっしゃいますし、ベアトリス様は以前より不憫な身の上のレジナルド様を気に掛けて下さる方。幸いアラン様との仲も良く、そのため度々こちらへ滞在なさるのです」

 とはいえ、王子という身の上では気ままに交流するわけにもいかない。それを承知しているレジーも、近しい親族でもあるアラン以外とは、あまり深くは関われなかったようだ。

「貴方は身の上の関係上、すべてのしがらみを断ち切った状態なのも望ましかったのかもしれませんね。……できる限り、殿下のお味方でいてほしいと思っていますよ」

 メイベルさんはそう言って話を終えた。
 彼女の声音から、けっこう切実な気持ちなんだろうなと私は感じた。
 今は味方になってくれる人がいる。政治情勢がそう動いたからね。けれどその人達はみんな、情勢が変われば好き嫌いに関わらず離れてしまう相手だ。
 ……信頼できるわけがないよね。

 前世じゃ、あまりそんなことはなかった。
 多少、主力グループに睨まれるのが嫌だからとか、そういう人達に同調しておかないとハブられるからと曖昧にしておくとか、ってこともあった。
 けど、でもそれが自分の家庭環境にまで影響することはまずなかった。
 家は家、学校は学校だからね。

 あ、家庭環境まで影響する場合ってのはあれだ。社宅で親が同じ会社の人と顔を突き合わせる生活で、上司が自分や親を嫌っていた場合ならそうだよね。
 レジーの状況はそれと近いのかな。
 なんにせよ、どこにも逃げ道がないというのは苦しいものだ。だから枠外の私の存在を、メイベルさんも快く思ってくれたのだろう。
 レジーも私がイレギュラーだからこそ、哀れに思って助けてくれたのだろうか。だとしても、その分くらいは彼に返すことができたらと思う。

「レジーは友達だから、なにかあったら助けますよ。なんたって命の恩人みたいなものですから」

 そう、例えば二年後。
 決定的瞬間が来るのを防げなかったとしても、私は手段を探すだろう。

 さて、レジー達を守るために手に入れたい情報源は、それから一時間ほど過ぎた頃に城へ到着した。折よくベアトリス夫人が巡回から戻り、食事と着替えを済ませてくつろぎ始めた頃だった。
 メイベルさん自身が私を迎えに来たので、ベアトリス夫人もちょっと驚いたようだ。

「レジナルドが魔術師に興味を持ったの?」

 うちの甥っ子、今度はプラモに手を出したの? みたいな調子で尋ねたベアトリス夫人に、メイベルさんは曖昧な笑みを浮かべた。

「先だって茨姫とお会いになられたことで、興味を持たれたそうです。度々キアラと共に書庫で文献を調べておりましたよ」
「それではさしずめ、キアラは研究助手ってことかしら? 良いでしょう、その件に関してはレジナルドにキアラをお貸しするわ。私も見に行こうかしら」

 快諾してくれたベアトリス夫人とともに、私は城門へと移動することになった。
 万が一のことがあってはいけないと、ベアトリス夫人は玄関ホールの階段の上から見下ろすことを選択。レジーも同じようにすることを約束させられたので、自由な身の私だけがするりと階下へ降りた。

 魔術師を警戒して、階段前や扉の前には衛兵たちが集まっていた。
 その隣にちょこんと立っていると、なぜかぎょっとされた。きっと侍女なんて仕事をしている人間が、わざわざ危険な相手を近くで見るために、傍まで来ないと思っていたのだろう。
 レジーにも『あまり勧めたくない』という視線を向けられたが、もし何か知りたいことへの鍵を見逃してしまったら、それこそ後悔する。
 どうしても見つけ出したいのだ。魔術師になる方法を。

 今か今かと待っていると、外へつながる大扉が開かれた。
 重厚な黒樫の扉の向こうから現れたのは、ウェントワースさん達騎士が二人。
 それから色あせたマントを着た泥酔中みたいな男を両脇から支える兵士が二人。最後にヴェイン辺境伯と残りの騎士だ。

 たぶん、この酔っぱらって道端で寝転がっていそうな男が、魔術師くずれなのだと思う。
 正直、魔術師らしさがあまり感じられない。
 短く刈った後でそのまま伸ばしたような髪は、農村を歩けば同じような人を何人か見つけられるだろう普遍的なものだ。衣服も、生成りのシャツの上にくたびれたこげ茶のジャケットやズボンを身に着けていて、町に住んでいる人間とそう変わりはない。

 でも何かひどく気になる。
 ずっと見ていると、なんだか胸の辺りが苦しい。どくどくと脈が速くなっていく気がする。
 風邪を引いて具合が悪い時に少しだけ似ている。寒気がする。けれど頭だけはすっと冷えていくようだった。
 同じ魔術師のはずなのに、茨姫にはそんなことを感じなかった。
 どうしてだろう。私は訳がわからないまま、その場に座り込みそうになるほどの気持ちの悪さに耐えていた。

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