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私は敵になりません! 作者:奏多
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イニオン砦へ戻ったら

 ルアイン軍は、デルフィオン男爵の城へ向かって離れていった。
 ファルジア軍の方は、態勢をととのえたりするため、占拠しているイニオン砦まで戻ることになった。

 その撤収準備の間に……と、私は早朝にアレジア川の河岸へやってきていた。
 一緒にいるのは、カインさんと私が無茶しない要員エメラインさんと、戦闘後すぐで要警戒状態なのでジナさんとギルシュさんにルナール達もついてきている。
 あまり時間をかけられない。だけど、

「河川敷で疫病とか本気で目も当てられませんから」

 この世界は大変うれしいことに蚊はいないんだけど、やっぱり川の水にいろいろなものが流れるのとか、流れやすい状況とかはよろしくない。
 各町や村でも井戸を使っているとはいえ、川だって生活用水にしているのだ。下流で病気が蔓延したら、デルフィオン領の人々が困ることになる。

「さすがはキアラさんね。でもそのような知識、どこで仕入れたの?」

 初めてこれに立ちあうエメラインさんに質問されたが、これはどう説明しよう……。
 視線をさまよわせていると、カインさんが助け船を出してくれた。

「エヴラールへ移り住んでから、キアラさんは辺境伯の書庫で様々な本を読んでいたんですよ。おそらくそこに、そういったことが書いてあったのだと思います。ですよね?」
「あ、はい。そういうことです」

 そういうことにしたいと思います。
 うなずいていると、カインさんがやれやれといったように苦笑いする。助けてくれてありがとうございます。
 エメラインさんの方はそれで納得してくれたようだ。

「辺境伯家の書庫……。きっと古い記録などもあったのでしょうね」
「ええ。昔の辺境伯様の日誌とかもありました」

 実際にあれこれ読み漁ったので、そのあたりは嘘をつかなくてもぽんぽん言葉が出てくる。

「デルフィオンはエヴラールよりも歴史が浅いところがあるの。城の中の物も、一新されたりして……。古い記録が無いものもあったりして」
「どうして古い記録がないんですか?」

 辺境のエヴラールなら、戦火で焼けたとか、戦利品のごとくルアインの領地を取り込んで広がったり狭くなったりしていたりで、場所によっては歴史が浅かったりするようだけど。
 デルフィオンはファルジアの内側の領地だから、そういったことはないはずなのだが。

「デルフィオンは、元々はフェルグス侯爵領の一部だったの。けれどフェルグス侯爵が国王に離反したことがあって、家が取り潰され、時の国王の臣下だったデルフィオン家の当主などに爵位を与えて、侯爵領を分割して統治させることになったのよ」

 そんなデルフィオンの歴史を聞きながら、私は石で土人形を作り、川岸から少し離れた場所に遺体を集めて行く。
 川に浸かったままだった敵兵の遺体などもあったので、集めて一気に埋めることにしたのだ。

 一部、その方法が使えない遺体もあった。
 ちょっとくずれすぎてて……。川岸にそういった遺体が集中していることを考えると、原因は私だと思う。石の龍で思いきり轢いちゃったもんなぁ。
 あの時は体調悪化も手伝って、必死すぎてこんな状態になるなんてことも気づかなかった。

「ごめんね……痛かったでしょう」

 悪いことをしたと思っても、同じ状況になったら同じことになっただけだと思う。だから後悔はしないけれど、もっと苦しまないようにできなかったのかなと考えてしまった。

「あまり気にし過ぎるな。戦場で敵味方に分かれたら、仕方のないことじゃ。本意でない人間とて、覚悟はしておっただろう。それにもしお前が死んだ側だったとしても、相手が済まないなどとは思わなかっただろうて」

 一緒にいる師匠が、そう言って悪役みたいにくつくつと笑う。
 確かにね。
 たとえどんな理由があっても、兵士として武器を手に持ったら仕方のないことだ。わかっているけど辛い。

 そういった遺体はその場にて埋める。集めた遺体も、広い穴を作って一気に埋めた。
 河川敷の林の中に、ぽっかりと大きな盛り土ができる。
 そこに、逃げ遅れたり偵察のために潜んでいる斥候を警戒して巡回をしていたのだろう、兵士が通りがかった。彼らは私達の様子を見て話をしている。

「あれ……何してんだ?」
「さっき将軍様達が言ってただろ。魔術師様は疫病の発生を嫌って、魔術の儀式を毎回行うんだって」

 なんかもう、私の魔術儀式として定着しつつあるなこれ……。
 いっそのこと魔術的な理由でやった方が勝てるとか、適当にオカルトな理由をでっち上げた方が浸透しやすいのかもって気になってきた。

「でも敵だろ……?」

 どうしても敵を埋めることは、抵抗が強い人が多いのだ。砦で困惑していた大声のアズール侯爵もそうだった。
 打ち捨てられて腐って行く、惨めな姿を晒させることに意味を見出してしまってるのかもしれない。
 ただ見回りをしていたのは、エメラインさんの父アーネストさん配下の兵士だったようだ。

「でもさぁ。俺たちもアーネストさんが男爵に従ってたら、敵側で死んでたんだよな……。だったらせめて埋めてもらえた方がいいだろうな」

 一歩間違えたら、同じ運命になっていた。
 それは今回領地内で敵味方に分かれてしまったデルフィオンの人だからこそ、思うことなのかもしれない。
 けれど少しでも、自分だったらこうしてもらいたいって形でもいいから、埋めることに同意してくれる人が増えたらいいなと思う。

 気づけば、てしてしと慰めるように師匠が私の脇腹を叩いていた。
 ……うん、ありがたいけどこそばゆいよ師匠。


 その後、イニオン砦までは二日かけて戻った。
 怪我人も運ばなくてはならないし、兵士達も一戦終えた後で疲弊しているので、ゆっくりと進まざるをえないからだ。

 砦に到着すると、アラン達は予め決めていた通りに兵達を移動させたり、作業を開始させていた。
 何の作業かといえば、兵の大半が外郭と内郭の間に天幕などを立てて、そこで寝泊まりすることになるからだ。
 本来の砦にある部屋等への収容人数がそれほど多くないので、そうしないと壁の内側に全員を収容できないので、仕方ない。

 沢山兵がいるのは戦力として安心できるけれど、こういう時は人数が多いと結構大変だと思う。
 私も天幕を張らないで済む場所を作ろうかと申し出たんだけけど、子爵のせいで体調崩した後だからと却下された。

「お前は自分のことを万全にしながら、何か対策でも考えてろ」

 とアランに門前払いされたのだが、私はどうしても諦められなかった。
 門の側とか結構不安でしょ。
 だから勝手に、そこに石づくりの小屋とか増設しようとしたんだけど。

「キアラ?」

 なぜかレジーに見つかった。

「休むように言ったはずだよね? あまり時間を置かずに会議もするから、一緒に行こうか」

 笑顔で手首を掴まれて、牽引されてしまった。

 その途中、内側の砦に入ったところで、砦の様子が少し変だなと思った。
 敵襲もなかったはずなのに、居残っていた側の兵士達がやや不安げな、困惑したような顔の人がいる。
 そうしてレジーの部屋に到着するより先に、アズール侯爵から早めに状況確認をしておきたいので、と早々と会議に召集された。

 そこでは戦の経過などの説明で、ほとんどアランやエニステル伯爵、そしてアーネストさんが話すことになった。
 デルフィオン男爵のヘンリーさんは、一応直前まで敵対していたことなどが絡んで、今回の会議には出ていない。
 最後に、私は砦にいる兵の様子が変だった原因を知った。

「ボヤ?」

 聞き返すレジーに、砦を預かっていたアズール侯爵がうなずいた。

「どうも兵士同士で喧嘩があったようでしてな。それが殺人事件にまでなったようでして……」

 深夜に燃えた砦の一画は、冬の備えである薪などを入れておく場所だったようだ。
 まだ秋にさしかかったところなのと、戦で余裕がない状態だったのもあり、そこにあった薪の量こそ大したものではなかった。
 けれど焼け跡から、兵士の遺体が出てきたのだ。

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