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私は敵になりません! 作者:奏多
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魔術について調べます

 この度、私キアラは改名しました。
 キアラ・コルディエと名乗ることになりました。
 思えば人生変転しすぎかもしれません。
 準爵士から、伯爵令嬢になった後、子爵夫人の予定を蹴って、現在辺境伯家で侍女になったんだから。

 ちなみに侍女になるにあたり、そこそこの家の娘だという背景がないといけないということで、辺境伯の遠縁の娘ということになってます。
 当のコルディエさんの家は、領地の南の山間にありまして、のんびり羊を飼ってると聞きました。
 ヴェイン辺境伯が手紙でその人の姪っ子ってことにしてくれ、とお願いをしてあるそうです。そのうち名前を貸してもらった挨拶に行きたいものです。

 さて、本日は侍女になって一週間目です。
 王姉にして辺境伯夫人であるベアトリス様にお目覚めを知らせ、ご要望にお応えして目覚めの水を一杯差し上げた後、朝の鍛錬に送り出……そうとして、剣を素振りするベアトリス夫人の近くで庭を十周させられるところから、私の朝の仕事が始まります。

 朝食を見守った後は、ベアトリス夫人は周辺の見回りに行くので、送り出したところでようやく私も朝食をとることができる。
 けど、一週間経ってようやく慣れたけど、初日と二日目ぐらいは走り込みした疲労で食が進まなかったわ……。

 その後、ベアトリス夫人の寝室を整えたりするのは掃除の召使いさん達の仕事なので手は出さず。
 暇になるかと思いきや、レジナルド王子付きの侍従さん達の交代要員として手伝いに行きます。
 というか、レジーに私がとある要望をしたことで、そういうことになったのだけど。

 レジーの部屋を訪問すると、彼は自分が王都から連れてきた護衛の騎士を連れて、辺境伯の城の城塞塔の一つ、西側のものへと向かう。
 そこは書庫になっているのだ。
 伯爵家にも教会学校にも書庫はあったが、辺境伯家のものは瀟洒でも落ち着いた雰囲気だった。飴色の木の壁と柱で支えられた吹き抜けのホールに、壁全体が書架で埋め尽くされている。
 湿気ないようにか、書架の合間に所々換気のための小さな窓もあるが、基本的には木の雨戸でしっかりと閉じられていた。
 明かりは中央の広いテーブルに置かれた燭台のみだ。

 ――調べたいことがある。

 エヴラール辺境伯の城へ入ったその日に、私はそんな切り出し方で、レジーに辺境伯の書庫に出入りできないか相談したのだ。
 実は切り出す前まで、どう説明したもんかとすごく悩んだ。
 素直に「魔法のこと調べたいんだけど!」とか言ったら、なんか企んでると思われたら怖いし。
 かといって「この地方の魔術師について知りたいんですよ、私のライフワークで、いつかまとめた本を書こうかと思ってましてね……」なんて言っても、まず信用されまい。魔術師について調べる理由があまりにも私にないからだ。

 と、そこで思い出したのが茨姫のくれたペンダントである。
 あの磨りガラスを丸めたような赤い石。無くすなと言われたものの、魔術師である茨姫が寄越したのだ。何か魔術と関わりがあるかもしれない。
 なのでこれを使うことにした。

 呪われた品じゃないのか調べたい、とレジーに入手経緯を説明したら、彼も難しい顔をして協力すると言ってくれた。
 きっと茨姫が「無くしたら大変なことになる」と言ったのを伝えたので、彼も何かしら魔術に関した品だと思って警戒したのだろう。
 おかげで石のことを調べるなら、きっと魔術関連だよね? という経緯で、そちらの文献を堂々と探すことができた。
 ……レジーまで参加するとは思わなかったけど。

 そして現在、毎日のようにこの書庫へ通っている。
 私としては、二日に一回ぐらいのペースで図書室に寄ってくれたら十分だったんだけど、レジーは「キアラは仕事があるから、じっくり読む時間がないだろう?」と気を遣ってくれたのだ。
 ……これは、茨姫に呪われたかもしれないとか、怯えた振りしたせいかもしれない。騙してごめん。
 でも代わりに、君や辺境伯が死なないようにできるか、がんばってみるよ!

 改めて決意しつつ、明るいとは言えない書庫の中で、燭台を引き寄せてじっと本を探す。
 さすがに「初めての魔術講座」とか、教科書的なものはない。だから歴史上で魔術師が出てくる本を探してまず読んだ。

 ……なんか「その時川の水が逆巻き」とか「森が一気に火を噴くように燃え」とか、前世の聖書っぽい抽象的な話ばかりだった。
 歴史書だから、もっと詳細なものがないかと期待したんだけど……。
 だから魔術師の手記みたいなのはないかと思ったが、そんなものが都合良く見つかるはずもない。
 むしろ書庫の二階部にあった、何代か前の辺境伯の記録の方に興味深い記述があった。

 ○月○日 魔術師ローファンに金16枚。緑閃鉱を10斤。
      かねてから懸念されていた樹妖の処分を依頼する。

 ○月○日 魔術師ローファンに金32枚。藍瑛鉱を30斤。
      急きょ必要になった、水害防止の対策を依頼する。
      近来稀にみる豪雨だった。晴れたらすぐ農村の被害を確認したい。

 この辺境伯は、どうも金銭出納帳代わりに日記を付けていたようだ。
 彼が統治していた時代は、魔術師が近くにいたらしい。度々、国境争いや災害、魔獣等の対処に手を借りていたようだ。

 記述から、どうも魔術師は鉱石を必要としていたらしい。一斤は金貨16枚分の重さなので、ローファンさんは依頼料の何分の一かを鉱石として要求していたと思われる。
 多分、魔術に使うような気がする。でもここに書かれている短い補足説明では、推しはかるにも材料が足りなさすぎる。
 加えて、魔術師の記述はほんのわずかだ。それを見つけるのも結構骨が折れる。
 そして読める時間は限られていた。

「殿下、昼餐のお時間です」

 静かに扉を開いて書庫に入ってきたのは、レジナルドの侍女兼乳母のメイベルさんだ。
 老齢という年齢ではない彼女だが、医療や栄養状態の関係でこの世界での平均寿命が60歳ということもあるせいか、御年57歳だがやや年老いて見える。
 でもそこがまた落ち着きと頼れる感じを醸し出していて、ふくよかな体型と相まって『お母さん』ぽい人だ。
 メイベルさんは優しく促す。

「本日はヴェイン辺境伯様の同席はございません。急ぎ捕らえた者の検分に行かねばならないということでした」
「辺境伯が自ら? そんな大物の犯罪者って……盗賊団の首魁とか?」

 本を閉じたレジーの問いに、その本を書架に戻しながらメイベルさんが首を横に振る。

「なんでも、魔術師くずれのようで。捕らえた村の自警団員ではどう始末したらいいのかわからないようですよ」

 魔術師!?
 私は立ち上がりかけた。

 ぜひ会いたい! 話を聞きたい! くずれでもなんでもいい。魔術を使ったから警戒されたのなら、魔術のことについて知っているってことだ。なら、魔術師になる方法も知ってるはず。
 レジーも同じ事を思ったのだろう。

「それ、私がついて行くことはできないかな?」

 さらっとメイベルに要望する。
 しかしすげなく却下されるだろうと私は思った。なにせ王子様だ。危険だから捕らえたのだろう魔術師に近づけさせたくはないに違いない。
 が、とても予想外なことに、メイベルさんは一呼吸分ほど考えた末に言った。

「一応ヴェイン辺境伯様にはお伝えしてみましょう。まずは昼餐のために食堂へお移りくださいませ」
「宜しく頼むよ」

 え、メイベルさん止めないの!? と驚きながら、私も移動する。
 今の私は侍女役なので、レジーを食堂に送り届けるお伴をした後、私は使用人用の食堂になっている厨房横の部屋へ向かった。
 魔術師に会えるかもしれない好機を逃したくないので、鍋と大きなボールの中に入れて置いてある食事を全部一皿に盛る。

 それを見ていた料理人見習いが目を丸くしていた。
 変かな? パンと小さなトマトみたいな物の上から野菜の具だけシチューをどっちゃりかけただけですが。ああ、パン用の皿あるから使うと思ったのね。

 でも驚いた顔をするだけで彼は目を逸らす。
 仕方ないよね。一週間ですぐみんなと親しくなれるほど、私も交流が上手いわけでもないし。まぁ一ヶ月後ぐらいには、挨拶くらいはできるようになりたいものだ。

 私は手近なテーブルにつくとパンを口に詰め込むように食べ、スプーンで残りのシチューを一気にかきこんだ。
 お行儀が悪いのは承知してるんだけども、流し込むように食べないと、とてもメイベルさんが返事を持ち帰るのに間に合う気がしなかったんだよね。
 こんな早食いする人を見たことがないのか、隅っこに三人で固まって食べてた召使いのおばちゃん達がぎょっとした顔でこっちを向いていた。

 ちなみに味は普通。
 前世と比べて香辛料系がほとんどないせいか、不思議なハーブ風味シチューになってるけど、今世ではこの味付けに慣れ親しんでいるため、懐かしい家庭の味として感じられる。
 約一分ぐらいで食事を終えると私は立ち上がり、下膳台に皿を置く。

「ごちそうさまでした」

 まだ鍋の横に立ったままだった料理人見習いの少年に言うと、私は急いで食堂を出て行く。

 扉を開ける前に、少年が「おいハリス、遅せぇぞ! なにぼんやりしてる!」と誰かに怒鳴られてたのが聞こえたが、彼は大丈夫だろうか。


*******
 キアラが食堂を出ていった後のこと。

「ハリス! なに油売ってやがった!」

 怒鳴る料理長に、料理人見習いのハリスは呆然とした表情で言う。

「奥様の侍女が……早食いしてました。流し込むように……」
「はぁ!? 奥様の侍女さん方なら、骨付き肉をむさぼり食う奴だっていただろうが」
「いえ、新しくはいった、あのちっちゃくて筋肉とかなさそうな人です。奥様の侍女って、みんなそんな人ばっかりなんでしょうか?」

 料理長は「類友じゃね?」と心の中で思ったが、口には出さなかった。

「……早く慣れろ。他の侍女も早食いしてたって聞いたことがあるしな。奥様はそういう野性的な一面を見抜いて侍女にしたんだろうよ」

 一方、食堂の隅では召使の女性達が頭を寄せ合ってひそひそと話し合っていた。

「ありゃー、あの子1分だった?」
「おどろいて測りそこねたよ!」
「前に見たのが確か4分の子だったかねぇ」
「あの水のように流し込む技術。あれが勝利の秘訣なんだろうね」

 奥様の侍女達の食事時間ランキングを作って遊んでいた。

「しかしなんで他所から来た子を侍女にとりたてたかと思ったよ」
「お行儀のいいお人形さんみたいだったから、一家離散した商家か田舎貴族の娘が、何かの伝手でとりたてられたのかと思ったよ」
「やっぱり奥様基準の選考だったんだねぇ。よく初対面で、早食い王者になれそうな子を見出したもんだよ奥様は」
「やっぱ王女様ってすごいんだね」

 そんな会話が繰り広げられていたのだった。

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