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私は敵になりません! 作者:奏多
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ジナの告解 1

「私はサレハルドの侯爵家の……庶子なの」

 ジナイーダというのが、ジナさんの正式な名前だという。
 彼女のお母さんは、ジナさんが10歳くらいの頃に亡くなったそうだ。お母さんは下働きの女性で、当主の手がついてジナさんを身ごもった。

 望まない関係だったが、悋気の強い侯爵夫人にことが知れたら殺されてしまう。当主に逆らえなかったのと同様、貴族が平民の女性を人知れず殺したところで、誰にも責められないのがこの世界だ。
 ジナさんのお母さんは侯爵家から逃亡し、ジナさんを生んだ後も隠れるように暮らしていたという。

 ただこのお母さんもなかなかパワフルな人で、元の出身が狩猟民族な村だったらしく、弓の腕を生かして生活し、時にはギルシュさん達の傭兵団とも関わっていたらしい。

 ……ここでギルシュさんとジナさん達が知り合ったようだ。

 そのおかげで『貴族の家で下働きをしていた女性』を探していた侯爵家は、なかなかお母さんを見つけることができなかった。
 しかしジナさんが10歳になる頃にお母さんが病に倒れた。
 お母さんの薬代を稼ぐため、ジナさんはそれまでに習い覚えた短剣や弓を扱うことで、仕事をしようとした。
 貴族の狩猟の勢子をしたのだが、それが運命の転換点になってしまった。

「私がね、侯爵家の当主に顔が良く似てて。しかも狩猟をする貴族の中に、その侯爵家当主がいたのよね」

 当主は愛情からお母さんを探していたわけではない、とジナさんは言う。
 おそらくは生まれた子が女子なら、早いうちに取り上げて夫人の子供として育て、手駒にしたかったのではないか、と。
 とにもかくも、運命の狩猟場でジナさんは当主の配下に見つかり、お母さんを治療する約束と引き換えに侯爵家に引き取られたのだ。

「幸いって言っていいのかな。侯爵夫人はもう亡くなってた。異母姉が一人いたんだけど、あの人は私がへりくだっていたら満足してくれたから、思ったほどいじめられたりはしなかったんだ」

 既に庶民らしい癖が言動に浸みついてしまっていたジナさんは、教育をほどこそうとした家庭教師に匙をなげられて以降、異母姉ナターリヤの引き立て役としてあちこち連れまわされることになった。
 そうして異母姉ナターリヤは、最良の物件を引き当てるチャンスに恵まれた。
 ジナさんよりも五歳上の、王太子エルフレイムの話し相手として、王宮に呼ばれるようになったのだ。

 更には、体が弱かったエルフレイムが静養として、侯爵家の別荘に滞在することもあった。
 そこに、第二王子のイサークもついてきた。
 それがジナさんとイサークやエルフレイム王子の出会いだったという。

「ナターリヤはエルフレイム殿下に夢中だったわ。あの人は最高の地位が大好きだったから。でもエルフレイム殿下はなんていうのかしら。慎ましい人だった。色々なことに自信が無くて。自分よりも体が強くて子供らしい行動をして大人から可愛がられやすいイサークに、劣等感を抱いてて。だから……わたしなんかに声をかけてくれたんだと思う」

 ナターリヤを常に持ちあげ、下手をすると使用人かと思うような真似までしていたジナさんに、エルフレイム王子は興味を示してしまった。

「たぶん、劣等感が強いあの人は、惨めな立場のわたしが相手だと安心できたんじゃないかな」

 自虐的なことを口にしながらも、ジナさんは懐かしそうに柔らかな表情をしてた。王子のことを『あの人』と言うからには、かなり親しくしていたのだろうに。

 エルフレイム王子が王宮へ戻った後も、彼はジナさんと話をする機会をどうにかして作りだそうとするようになった。
 15歳になる頃には、お互いに恋心を持っているのだと自覚せざるをえなかった。

「でも結ばれるわけがないのよ。王太子殿下と貴族令嬢でも庶子じゃね。……でもあの人は諦めきれなかったみたいで。それから何年も婚約を拒否し続けていたんだけど、状況が許されなくなって。とうとう別な公爵家の令嬢と婚約することになったの。イサークが誤って王位についてしまわないように」

「え? でもイサークって次男……」
 それに今回彼が王になったのも、王太子を幽閉した上で強引に即位したという状況だったはず。

「そこにルアインが関わってくるの」
「ルアイン?」
「彼の髪の色を知ってるでしょう? あれは母親がルアインの王女だったからよ」
 エルフレイムとイサークも異母兄弟だった。

「ルアインって国はけっこう苛烈な国なのよ。王女を政略のために結婚させて、油断したところを襲撃するの。で、その王女をまた別な所へ嫁に出す、なんていうのを平気で繰り返すのよ。もちろん嫁にもらう側には拒否しきれない理由をつけてね」

 イサークの母王女との結婚が持ち上がったのも、サレハルドと国境線の争いがあってね。その折り合いをつけるためのものだったらしい。
 というか状況からすると、サレハルドの王妃が亡くなって間もなくそれをふっかけてきたので、ルアインからすると王女を嫁に出すために問題を引き起こしたのではないかとサレハルドでは思われていたようだ。

 一方のイサークの母も、四度目の結婚で疲弊していた。
 三度目の結婚では夫にルアインへの八つ当たり交じりに折檻をされたこともあって、ルアインのたくらみも話し、大人しく王宮の隅で過ごしているからどうか追い出さないでくれと泣くような有様だったとか。

 でもそのおかげで、サレハルドはルアインの無茶な要求を避け、喧嘩を売られても退けることができたらしい。
 心身が疲弊していた王女は早くに亡くなったが、その前にサレハルド王との間に、イサークが生まれたのだ。
 けれどイサークもまた、戦争の火種になりかねない子だった。

「ルアインがイサークを王に押し上げる恐れがあったの。イサークが成人してからはサレハルド国内に圧力をかけてくるようになって。兄のことを慕ってたイサークは、どうにかして王冠から遠ざかろうとして、わたしに婚約をもちかけてきたの」
「こんや……え、まさか婚約がだめになったって、相手は」
 婚約でいざこざがあって婚期を逃したと言っていたけど、まさか。

「そう、イサークなの」
 ジナさんが苦笑いする。

「庶子と婚約してしまえば、誰もイサークを王になんて推せなくなる。イサークは兄を守るために私と婚約したの」

 それで一度は、もろもろのことが治まった。
 国王も内部貴族の反乱――一部地域の出身者が、度々お互いの猟場に関して諍いを起こすのだ――を抑えるためや、国外に波及しないためにルアインに借りをつくることが多く、あまり刺激したくなかったようだが、諦めてエルフレイムを王太子とした。

「イサークとは別に恋愛感情はなかったんだけど、エルフレイムを助けるためにっていう気持ちだけは同じだったから。それなりに仲良くはやってた。だけどエルフレイムの婚約者が亡くなって……」

 それは事故だったといわれている。
 彼女は逃げた猫を追いかけて、自分の城の城壁から転落して亡くなったのだ。
 その後すぐに、エルフレイムにルアインから婚姻の打診があった。

「国王陛下は元々気弱な方で。当時頻発した魔獣被害でルアインにまた借りを作ってしまったこともあって、すぐ屈してしまったの。婚姻を受け入れると決めたせいで、一番ショックを受けたのはイサークだったと思う」

「お母様の国の方が来るのに?」
 尋ねた私に、ジナさんは苦笑して首を横に振った。

「小さい頃からルアインを敵視する貴族からは、敵国の手先みたいに言われてたものだから、イサークのルアイン嫌いは相当なものだったの。あげく兄王子の即位を脅かすことになるのも、ルアインの血が流れているからだし」

 とにかく、このままでは国が乗っ取られてしまいかねない。
 だから、イサークは婚姻を受け入れる理由を壊すことを計画したのだという。
長くなったので二分割で、残りは明日更新を予定しています。

下記も連載しています!
鳥かごの大神官さまと侯爵令嬢


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