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私は敵になりません! 作者:奏多
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イニオン砦の戦闘後

 レジー達が砦を制圧するまでの間、私はさすがにカインさんから止められて、城内の乱戦に加わることはなかった。

 ……まぁ、結構疲れていたから、途中でへばって足手まといになるだろう、というのも大人しくしていた理由の一つだ。
 師匠にも「そろそろマズイじゃろ、イッヒッヒ」と言われたし。

 人質になっていた女性達を守るため、私は城塞塔の扉を全て石壁で埋め、カインさんと一緒に塔の上から状況を観察していた。
 その間女性達はというと、一か月近く暮らしていた牢の各部屋へと戻ってもらった。
 やはりルアイン側も彼女達にすぐ死なれたり病気をされては困るからと、出入り口は鉄格子ながらも、必要な家具や寝具を提供はしていたようで、2~3人ずつの相部屋だったが、きちんと休めるように物が揃っていたからだ。

 レジー達が攻めてきたことで、ルアイン側は彼女達を一階の牢に集めていたらしい。
 万が一人質が奪われそうになった場合、誰か一人を魔術師くずれにして、対抗する予定だったようだ。
 それを止めていたのがエメラインさんだったとか。
 詳しいことまでは話せなかったが、概要としてはそういうことだったらしい。
 色々とまだ気になることはあるけれど、彼女達と話し合うのは後にするしかなかった。

 まずは戦が終わるのを待つしかない。
 私は城塞塔屋上の、矢はざまから様子を見ることにした。
 必要なことだったけれど、私は見たことを少し後悔する。
 砦の中へ入ってからは、敵味方が入り混じる乱戦になっていた。
 広い戦場とは違って、建物の中で息絶える人の姿というのは、日常生活に近い感じがするせいでまた違った凄惨さに……忘れかけていた怖さを思い出しそうな感覚に、少し身震いする。

 青いマントの兵士も、黒いマントの兵士も血にまみれて倒れ伏し、壁に寄りかかって座ったまま息絶えていく。
 ルアイン兵の中には、デルフィオン男爵家の兵もいるだろう。
 同じ国の人が戦ってしまっていることを思うと、もう少しどうにかできなかったのかと、そんなことを思ってしまいそうになった。

「目を閉じて、休んでいてもいいんですよキアラさん。私が見ていますから」
 カインさんがそう言ってくれるけれど、私は首を横に振る。

「大丈夫です。むしろ……どうして私、こんなにも慣れるのが遅かったんでしょう」

 戦争に行けと言われれば、怖いとは思うだろう。
 殺されたい人など居ない。けれど殺すことそのものをためらったままの人は、兵士にもいないように思う。
 この世界の人が、戦うことに、疑問を持っていないからだろうか。
 でも私だって、ルアインと話し合いをもったからといって、軍を引いてはくれないだろうとわかっている。
 要求を通すためにも、力を示すしかない。侵略された立場では無視されてしまうから。そのための戦いで、必要で、だけど時々苦しい。
 まるで目の前にいる、もう一人の自分を殺しているみたいで。

「ずっと、私達があなたを止めていたせいでしょうか。ある意味、貴方に慣れさせないようにしてしまっていたのかもしれませんね」
 カインさんはそんなことを言う。

「逃げてほしいと言い続けていたら、戦うことをためらっても仕方ないでしょう」
 本当にそうだろうか、という気持ちもある。けれど気遣ってくれているのだろうカインさんに、そんなことは言えない。

 そして戦いが終わるまで、一時間ほどかかった。

 直後に、私はまずギルシュさんの襲撃に遭った。
「んまあキアラちゃん! 怪我はしていない? 大丈夫ううう!?」

 主塔の旗が変わったのを見て、城塞塔から降りた私は制圧を指揮していたグロウルさんの元へ報告と状況を聞きに行ったところだった。
 横からすっ飛ぶように走ってきたギルシュさんにぎゅーっとされ、肩を掴まれて前を確認される。次にくるりと後ろを向かされて、そっちも怪我がないのをざっと確認された。
 そのとたんにギルシュさんは「いいわよん」と言ってどこかへまた走り去る。

 あっけにとられていたグロウルさんに聞けば、どうもギルシュさんは縫いの技量を見込まれて、怪我人の看病の方へ回っているらしい。
 ジナさんもそっちの応援をしているようだ。怪我の血止めや打撲や骨折部の治療に、氷狐達を使っているんだとか。

「あ、なるほどー」
 うなずく私に、カインさんからそちらへ行ってはどうかと言われたが、私は首を横に振った。
 怪我の手当てが上手いわけではないので、それならけが人を運ぶ手伝いをしようと思ったのだ。
 さきほど戦況を観察しながらじっとしていたおかげで、魔力も安定しているように思えたので。

 報告のたぐいをカインさんに任せ、私は近くの壁を材料に、紙人形みたいな石人形(ゴーレム)を作りだした。
 石人形(ゴーレム)の背丈はカインさんやグロウルさんよりも高いので、大柄な人も楽々運べるだろう。

 長時間剣を振り回し、走って移動したりを続けていた兵士さん達は、無事な人も疲れていただろう。
 喜んで私の手を借りてくれたので、石人形(ゴーレム)を四体ほどに増やしてけが人を抱えて、ギルシュさんのいる砦の広間と他の場所を何度も行き来した。

 持つのは石人形(ゴーレム)だけど、付き添って歩いたのでけっこうな運動量になった。
 体力的にきつくなったところで一度休んだ頃には、砦の中の掃討も終わっていた。
 そうして体力無しの私は、休めそうな場所に案内してもらったとたん、ご飯も食べずに眠り込んでしまったのだった。

 どうやらその間に、レジーの軍を追ってきていたアーネストさんやルシールさんと、フィナード家に集まっていたデルフィオンの兵士達が合流してきていたようだ。

 ようだ、というのは、私が到着現場にいなかったので、伝聞で知ったからだ。
 魔力を思ったより使いすぎたのか、昼近くになってようやく目を覚ましたせい。
 一人だけこんな時間まで寝こけていたのかと思うと恥ずかしかったが、周囲も魔術師はそんなもんだろうと思ってくれていたらしい。
 そろそろ食事をした方がいいと、起こしてくれたジナさんがそう言ってくれた。

「ルナール達もね、あまり力を使わせると半日以上眠ってるわ。今日は面倒見のいいリーラと戦闘で消耗してたルナールがぐっすりで。サーラが二人を看てるのよ」

「あ、そういうものですか……。魔術師になった後とか、熱出して寝込んだりもしたんですけど、ただ眠ってるってこと少なかったものですから、そういうものだとは思ってなくて」
 答えながら、ジナさんが持ってきてくれたスープとパンだけの食事をさっさと食べてしまう。

「お前の魔力が多いからじゃろ、ククッ」
 横から意見したのは師匠だ。
 師匠は窓際に座らせている。食えもしない食事の前に座るなど、拷問かと言われたので。

「それで、アーネストさん達はどちらに?」
「今、レジナルド殿下とお会いになってるはずよ。男爵のお嬢さんは、人質になってた人達のところにいるみたい」

「あ、そういえば人質になってた方達、お世話とか大丈夫なんでしょうか」
 そもそもは分家とはいえ貴族に連なる家の人だ。自分達だけで何でもこなすのは難しいだろうに。

「大丈夫みたいよ? ここで働いてた人達もいるから」
 そういえば急襲したようなものだから、砦には内部で掃除や料理などをしていた非戦闘員も残ってたのだろう。

「その人達は、無事だったんですか?」
「非常事態って鐘が鳴らされてすぐ、地下室に隠れたらしいわ。元はデルフィオンに所属していた兵士も、その人達が隠れるのに協力したみたいだし」
「そうですよね……」

 非戦闘員がその場にいたら、巻き込まれても文句など言えないのが、この世界での戦争だ。
 同国人なら、お互いに助けようとするだろう。けれどそのデルフィオンの兵達の方は……。無事に投降とか、逃げるとかできていたらいいなと思う。

 けれど私に、その全てを救い出すことなど不可能で。
 せめて最初に城壁の上から移動させた兵士達の中に、そういったデルフィオンの人がいたらいいと思う。
 たぶんレジーなら、忘れずにルアインの兵士とは分けて考えてくれていると思うんだけど。
 でも敵味方で戦っちゃったら、何か罰とかあるんだろうか。

 どうなるのか知りたかった私は、食事を終えるとすぐにレジーを探すことにした。

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