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私は敵になりません! 作者:奏多
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エヴラール辺境伯領と彼のこと

 茨姫の言う通り、森の中を100メル進んでから森の外の様子をうかがうと、馬車が見えた。
 ほっとしそうになるが、油断はできない。
 またパトリシエール伯爵の配下がいるかもしれないからだ。

 ウェントワース達もこちらが移動していることは分かっているので、もし安全ならば、誰か騎士が迎えに来るだろう。
 レジーにそう言われた私は、彼と共に森の中にしゃがんで待っていた。
 やがて枯葉を踏み分けて歩くような音が聞こえ、一人の騎士が現れた。

「お待たせしました。もうあの者はおりませんので、お戻り下さい」

 彼の先導で、私とレジーは馬車の中に戻る。
 すぐに動き出した馬車の中で、レジーがあれからどうなったのかをアランに尋ねた。

「パトリシエール伯爵の配下は、振り落とした? それとも捨ててきた?」

 にこにことした表情ながら、レジーが酷い二択を口にした。
 え、レジーってばもしかしてあのパトリシエールの配下のことすごく怒ってるの?
 アランは特に驚きもせず、普通のことのように受け止めていた。

「馬車の扉が開いたままだったから、振り落とせるかと僕も期待したんだがな。落ちなかったんだ。おかげで自分の足で馬がいた場所まで戻らせることができた。暴走中はたっぷり馬車の中にいたおかげで、キアラがいないことは確信できたそうだ。……ただ馬は雷草に怯えて逃げただろうし、あの男が馬を探し歩いた時に、レジー達とかち合わないかという所だけが不安だったが」

 するとレジーが楽しげにうなずく。

「騒ぎのおかげで、私達は悠々と隠れることができたよ。それに馬を探す方に忙しくて、こちらを気にする余裕もなかっただろうね」
「しかし急に雷草が騒ぎ出したのはなんでだ?」
「あ、はい。私が雷草を投げたからだと」

 私が手を上げて発言すると、アランにぎょっとされる。

「投げた!? おい、火傷しなかったのか?」
「ぱちっとしましたけど、森の中に一匹だけしかいなかったせいか、あまり痛くは……って、うわっ」

 身を乗り出したアランに、両手を引っ張られる。
 アランは私の手のひらを検分して、ほっとしたように手を離す。

「本当だ。何ともないな……」
「遠ざけたくて思わず投げたんですけど、一匹なら問題なかったですよ?」
「そうは言うがな。お前も一応女だろう。残るような怪我をするのは好ましくない」

 真剣な目でそう言われて、私は言葉に詰まる。
 ……くそう、さすが主人公だ。
 小物属性な自分には、この格好良さがまぶしすぎる。思わず顔をうつむけて「はい」と言ってしまう。
 しかし惚れる気にならないのは、ゲームで自分がアラン側としてキアラを何度も倒したせいだろうか。
 一番簡単な倒し方が、遠距離で茨姫の魔法で土人形にダメージを与えておいて、次のターンで刺しに行くことだったんだよなぁ。
 それはさておき、アランは座り直してレジーに話を振った。

「それにしても随分と戻ってくるのが遅かったな」
「ああ、途中で茨姫に会ってね」
「茨姫に!?」

 さらりと答えたレジーに、アランが再び立ち上がりかけるほど驚いた。

「おいレジー、怪我させられてないだろうな!? あの魔女は高笑いしながら棘のある茨で男を打ち据える怖ろしい奴だと聞くが……。しかも気に入らない男は頭から丸呑みするともいうぞ!?」

 おいおいアラン君。
 君、いずれ仲間にするかもしれない人に対して、そこまで言わなくても……。あと、嫌いな相手って誰も丸呑みしたくないと思うんだ。もし相手がバーコードな頭の中年貴族男性だったら、丸呑みしたくないでしょう?

「怪我してるように見える?」
「いいや」

 レジーは「問題なかったよ」とアランに言った。

「それで、茨姫はどんな奴だった?」
「なんかちっちゃくて可愛い女の子だったよ。僕等よりも二つか三つは年下の。だけど本人はずっと生きてるって言ってた」

 もうアランの興味は茨姫のことに移ったようだ。
 二人の話を聞きながら、私はポケットに突っ込んでおいたペンダントを手で探って握る。

 よくわからない石のペンダント。なんで茨姫はこんなのをくれたんだろう。
 理由は良く分からないものの、とりあえずレジーが対象範囲外だからと放り出されなく手良かった。うん。

 考えているうちに、その日の目的地へ到着し、私達は一泊した。
 その後の移動は、特に追手が再度やってくることもなく、順調に進んだ。
 五日後にはエヴラール辺境伯領に入り、翌々日には遠く丘の上に建つ辺境伯の城が見えてきた。

 よその領地の城を見るのは、初めてだった。
 灰色でごつそうとか。周りの木の大きさから考えてもけっこう広そうだとか、色々と推測しつつ馬車の窓から眺めていると、アランが自分に注意を向けるよう声をかける。

「これから我が城で働いてもらうにあたって、必要だろうから教えておく」

 そうして教えられたのは、エヴラール辺境伯領の状況についてだ。
 エヴラールは隣国ルアインと、その北にあるサレハルド王国と接する国境地帯を治めている。
 度々各国と衝突あったので、辺境伯家は王から軍総督の地位を与えられ、有事には多領からの応援で駆け付けた軍を統括指揮することができる権力を持っている。
 そのためファルジア王家の軍も、ほぼエヴラール辺境伯家が掌握していた。

 さて、今回アランが領地に帰ってくることになったのは、勉強より優先しなければならないような緊急事態になったわけではなく、むしろ領地が安全になったからだという。
 しばらく前はルアインからの盗賊団が出入りして、辺境伯家の分家の屋敷が焼打ちに遭ったりと、不穏な状況だったそうだ。なまじ大人数ではない上、複数の集団があちこちで活動するため、辺境伯領の軍も後手に回りやすかったそうな。

 それがルアインがいずれ侵略するための斥候代わりではないかという話が出て、暗殺の危険も考慮されてアランは遠くの教会学校へ避難させられたようだ。

「だが、別に僕が強くないわけじゃないからな? 一か所に一族の人間がいたら、万が一の場合に誰か一人でも生き残らせることができなくなるからだからな?」

 アランは自分が保護される立場になったことが嫌だったようで、やたらと私に念押ししてきた。
 こっちとしては、お、おう……としか言いようがないが。
 反抗期に入ってるはずのお年頃のアランに、お父さんお母さんは心配だったんだよとか年下の私が言ったら、拗ねかねないからね。

 思えばアランは突撃型主人公だったな……。
 ゲームの性質的に戦闘回避はできないわけで、殲滅しろ! なノリでゲームを進めるしかないんだけども。なにかあっちゃ「よし戦おう」て言っちゃうの、リアルじゃ結構怖いかも。

 あ、思い出した。
 アランて序盤でお父さんとか亡くしてるんだよね。城が襲撃されてさ。でも助かったのって、突出して城から離れた場所にいたからで……。

 ん? んんん!?

 ちらちらと記憶が浮かんでは消える。
 何かを思い出しそうになったんだけど、アランの話を聞かずにいるわけにもいかず、その場ではとりあえず保留にする。

「一応、族は捕えて処分したと聞いている。だから問題はないと思うが、城の外に出るようなことがあれば十分気を付けろ。ただでさえうちの城は国境に近いからな」
「わかりました」

 うんうんとうなずく。
 その後の注意事項といえば、アランのお母さんが王姉だという既に知っている情報と、ついでにお母さんはたいてい国境警備に出てるという話。

 ……え、辺境伯夫人て武闘派?
 もし仕事がアランのお母さんに関わるものになったら、あちこち連れまわされるかもしれないと言われて真っ青になる。
 しかも貴族令嬢として数年間を過ごした私は、問題がなければアランのお母さんが監視がてら手元に置く可能性が一番高いという。

 ううぅ。体力とか微妙なんだよ私……。
 辺境伯夫人付きになっても、城に引きこもる方向でなんとかならないものかと小さな声で言えば、アランも「まぁ、お前の場合は体力で侍女に引き抜くわけじゃないからな……」と答えた。
 体力で侍女に引き抜くって、そこが既におかしいよ!?

 そっちに気をとられているうちに、辺境伯の城へ到着した。
 ゲームでは綺麗な筆致の絵で描かれていた城壁の門は、石のごつごつとした表情や見上げるばかりの高さに威圧感がすごかった。
 鉄で作られた重たい門が開かれると、千人で走り回っても十分に広いだろう空間の向こうに、館がある。
 石の階段を数段備えた玄関ホールの扉が開かれ、出迎えに来たと思われる人々が姿を現す。

 両脇に並ぶのは使用人だろう。炭染めの淡いグレーの衣服を着ているので、ともすると城の石壁に溶け込んでしまいそうだ。
 中央に立つのは、濃緑色の上着を着た中年の男性だ。上背と肩幅がある彼は、アランが成長したらこうなるだろうという顔立ちをしていた。彼が辺境伯ヴェイン・エヴラールだろう。

 隣にいる黄色い橡色の派手すぎないドレスを着ているのが、辺境伯夫人にして王姉のベアトリスに違いない。ベアトリスの背後には二人の侍女が控えているが、どちらも背が高くて……見間違えでなければ、剣を下げている。
 うん……体力や剣技で採用したのか、夫人の傍にいるために習得したのかわからないけど、アランの言ったことは本当だったと納得できた。
 ベアトリス夫人自身も、辺境伯ヴェインよりは小柄だが、走り込みとかしてそうな雰囲気だ。

 馬車が止まると、騎士達がアランとレジーを降ろし、私もエスコートしてくれる。
 いよいよ辺境伯との最初の挨拶になるのかと、私は話が自分に流れてくるまでじっと待つつもりで、アランの後ろにいた。

 その時、なぜかレジーがアランより一歩前に出る。
 すると辺境伯達が一斉に膝をついた。
 レジーに向かって、だ。

「ご無事にお戻りになられて、宜しゅうございました、レジナルド様」

 辺境伯が様付け?
 それを受けたレジーも当然のことのように受け取った。

「私のわがままを聞いて下さってありがとう辺境伯。またしばらくここに滞在させて頂くよ」
 明らかにレジーが上の地位にあるような対応だ。
 一体何で? ぽかんとする私に、ウェントワースさんが後ろから小声で教えてくれた。

「まだお聞きではなかったのですか?」
「え……」

 ウェントワースさんは気の毒そうな顔をする。

「レジー様は、ファルジアの王子レジナルド様でございます」

 聞いた瞬間、私は両手で自分の口を必死で押さえた。さもなければ「はああああっ!?」と大声で叫んでしまいそうだったのだ。

 同時に、自分の脳裏によみがえった絵がある。
 ゲームのオープニングでほんの数秒だけ、辺境伯の城が襲撃されたその時に、主人公アランが失った友人の様子が出てくる。

 サレハルド王国との緊張状態を鑑みて、先方と会談をすることになったため、代表として来ていた王子レジナルドだ。
 襲撃のさなか、彼を庇った辺境伯が殺され、そしてレジナルド自身も遠くから射られた矢に傷つき、その後斬りつけられて死んでいく。

 そのレジナルド王子の髪は、確かに銀色だった。

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