挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
私は敵になりません! 作者:奏多
117/268

イニオン砦救出作戦 1

 囚われているエメライン・フィナード嬢とその他の子女達は、デルフィオン男爵城にはいない。
 そう知らせが来たのは、フィナード家に宿泊した翌日のことだった。

 意外に早かったのは、アーネストさんが予め連絡のための人を、ついて行かせたからだ。
違う場所に囚われているだろうと予想していたアーネストさんだったが、それはあくまで推測でしかない。万が一にも城に囚われていたにしても、そうではなかったにしても、増援や助けが必要だろうと考えてのことだったようだ。
 どうもアーネストさんは情報を集めたり、推測する方が得意らしい。

 城への突撃組も、さすがに猪突猛進におしかけたわけではなく、先に人を潜入させて中の様子を確かめさせたという。
 そしてここがデルフィオンである以上、下で働かされているのはデルフィオンの民だ。
 彼らの力も借りてすぐに調べがついたので、突撃組も早々に引き返しているという。

 それならばと、私達はアーネストさんが予想した場所へ向かうことにした。
 デルフィオン男爵の城から南の、イニオンという町。
 その近くにある砦だ。

 ルアイン側が掴まえているのは貴族の人質だ。場合によっては、当座の資金が厳しくなった時に、親族から身代金をとることもできる、人の形をした資産でもある。
 どういう使い方をするにせよ、当面の間はそれなりの生活をさせるはず。
 だけど閉じ込めて、容易には敵に奪われないようにしたいとなれば、男爵家の親族が反乱を起こした時、塔を一つ牢に改修したというその砦がうってつけだとか。

 地下牢じゃだめな理由は、衛生状況も環境も酷いので、女子供はすぐに死んでしまうからだ。
 エヴラールの地下牢は、結構良い方なのだとカインさんが教えてくれた。
 場合によっては、通風孔なんてのも無いらしい。そして年月が経てば経つほど……まぁ、酷い有様になるとか。考えたくないな、それは。

 そうでなくとも、貴族令嬢が牢に閉じ込められて、長い時間を過ごせるかどうか。
 そういうことを考えるに、ルシールさんではなく自らが囮になって捕まったらしいエメラインさんの、男気を感じる。小さな女の子に、地下牢よりマシとはいっても、牢獄生活はキツイだろう。

 行動予定が決まった後、速攻でその砦を落とさなければならない。と言ったのはレジーだ。

「人質を抑えていないと、デルフィオンに離反される可能性があるからね。軍を動かせばあちらも動く可能性がある」
 そのためにも、救出のためにしてはならないことがあると言う。

「キアラ、今回は砦を壊さない方向で」
「えっ?」

「ルアイン軍が私達を追いかけて攻めてきた時に、他の兵士や囚われていた人を守りにくくなるよ。君も戦闘直後に大規模改修は、難しいだろう?」
「そうですよね……。ああでも……難しいなぁ」
 思わず私は呻いてしまう。

 何事も、壊すのは簡単なのだ。そして魔力の使用量もそこそこで済む。
 しかし砦を壊さない――ようは城壁をくずさずに土人形等で対処するのは、けっこう大変だ。

 まず城壁の上にいる兵士。
 これをどうにかしないと、ファルジア軍の人が上から矢とか熱湯とか、恐ろしいことに煮え立った油なんてのまでぶちまけてくるのだ。
 ……毒攻撃したレジー、なんて例もあるのでほんとうに損害が怖い。

 それをなんとかするために、火も油もどんと来いな土人形(ゴーレム)を近づかせたいのだけど、私が乗ってたら私がいい的になる。
 剣で打ち落とそうなんてハイスペックな技など使えないし。
 あ、でもカインさんも今回は何も言わないだろうし、私も前よりずっと魔力の扱いも慣れてきたから、自分の血を混ぜたら遠隔操作は可能か。
 レジーには「私、レベルアップしたの!」とか言っとけばいい。

 でも近づいて、壁を壊さずに兵士を排除するということは、一人一人摘まむ? しかし私は遠くにいるわけだから、目隠ししてスイカ割りするレベルの難業だ。
 うーんと唸っていると、師匠が笑う。

「わしが生きていればのぅ……ヒッヒッヒ」
「え、師匠何かできましたっけ?」

「何を言っとる。わしの専門は風じゃろが。現役時代は空を飛んで移動もしたもんじゃ」
「えっ、なにそれうらやましい! 私も飛んでみたかった! なんで土魔法なのぉぉぉ!」

 頭を抱えてがっくりとうなだれると、師匠が勝ち誇ったように笑う。
 それと共に、くすくすと笑ったのはアーネストさんだ。

「魔術師殿は可愛いですね。まるで小さい男の子みたいなことを言うとは」
 最初はお世辞なのかと思ったアーネストさんの台詞だったが、

「うちの子も、男の子だったらと何度思ったことか……」
 どうやらエメラインさんのことを思い出したらしいです。というか、男の子みたいという辺りで娘のことを思い出すって……。いよいよ私の中のエメラインさんへの期待が高まる。

 と同時に、空を飛ぶ師匠を想像した私。
 どうしても老人が空を飛ぶというより、土偶が空を飛ぶ光景になってしまう。
 それにしても師匠を飛ばすのって良さそうだなあ。
 師匠って中空洞に作ったからか、結構軽いんだよね。小型犬並みの重さ。

 だから師匠の頭にプロペラ付けて飛ばす……というのも考えたけれど、どうだろう。
 ラジコンの飛行機とかヘリコプターとか、ドローンみたいな感じになるのだろうか。
 でもずっとプロペラ回すんだよね? 私の手が届かなくなったら回らなくなって、落ちてくるんじゃないだろうか。

 そんなことを考えつつ、まずは戦力を確保するために、まず私達はファルジア軍の本隊へ戻った。
 本隊は、じわじわとデルフィオン男爵の兵とルアイン軍が駐留する砦の近くへ移動してきていた。
 ほぼ予定通りの位置だったので、見つけて合流するのは楽だった。
 そして警戒しつつ、アランの方もむやみに攻撃を仕掛けることもなかったようだ。

「やるなら安全策を採るのが一番だ。攻城戦をお前無しにやるだなんて、兵達の損耗が高すぎることをしていられるか」
 言われた私は、ちょっとじーんとしてしまった。
 私、役に立ってたんだなと実感できたから。

「うん、砦を襲う時には精いっぱいがんばって、破壊しつくすから任せて!」
「おい破壊しつくすって……」
「キアラさん、ちょっと単語の選び方が……」

 珍しくカインさんが困惑した表情で私を止めてきた。
 しかし時すでに遅し。近くを通りがかったアズール侯爵がそれを聞いてしまっていた。

「な、なななな」
 立ち止まったアズール侯爵は、ばっと両腕を天に掲げる。

「やはりファルジア王家への神の加護は厚かったのですな! こんなにも我が軍に惜しみない貢献を約束する魔術師など、滅多にないことです! だというのに王子殿下の傍には、その意を受ければ即願いをかなえる、戦女神が舞い降りたのですからな!」

「えっと、あの……」
 戦女神とかものすんごく恥ずかしいのですが。

「キアラさん、ちょっ、急いで離れますよ!」
 カインさんがものすごく焦った顔で、私を小脇にかかえて走り出した。

「うげ、苦し……!」
「お前のせいだ、耐えろバカ!」
 一緒に走り出したアランに怒られる。
 私は一体何の虎の尾を踏んだというのか。
 その間にもアズール侯爵のボルテージは上がっていく。

「さすがは神に選ばれし銀の髪の王の末裔! このファルジアの地は、銀の髪の王が統べるべしという神の意思を感じますぞぉぉぉ!」
 周囲にいた兵士は、誰もがわき目もふらずにその場を逃げだした。
 離れたというのにはっきりと聞こえるのだから、側にいたら耳が痛くてたまらないだろう。

「ああ栄光のファルジアあぁぁぁ!! ……あぐふっ」
 けれどアズール侯爵の歓喜の叫びはすぐに立ち消えた。
 遠くにいたはずのエニステル伯爵が素早く駆け付け、持っていた杖で殴り倒したのだ。

「お前のその癖は、なぜゆえに治らぬ。それがしの耳が遠くなっていたからいいようなものの、戦闘以外で兵士を負傷させるでない。……全く、つまらぬことに杖を使ってしもうた」

 そう独白すると、エニステル伯爵は何事もなかったように立ち去った。
 取り残されたアズール侯爵は、大声に耐性がある部下によって、どこへともなく連れ去られていく。
 その姿が見えなくなったところで、ほっとした空気が軍の中に広がっていった。
 カインさんもため息をつきながら私を降ろした上で、説明もしてくれた。

「アズールは、エレミア聖教の信者が最も多い土地です。そもそも我が国に限らず、古参の国は皆、神のお告げを夢で見た王が、その土地に国を作ったということで、王家が国を統べる理由付けをしていたものです。他の領地などでは、武力の強さが王家への信頼や忠誠の根拠となっていますが、エレミア聖教信者のアズールの人々は、今でもその神から王位を約束されたのだということで、ファルジア王家は銀の髪の王が統べるべきと考えているのですよ」

「なるほど……だから、あんなにヒートアップ……」
 今後は、もう少し公爵を刺激しないようにしようと思いつつ、私は息をついた。

下記も連載しています!
鳥かごの大神官さまと侯爵令嬢


cont_access.php?citi_cont_id=214034477&s
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ