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私は敵になりません! 作者:奏多
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土ねずみの巣の中で

 毛皮に包まれたマシュマロに、抱きしめられているような感覚だった。
 不愉快じゃないのだけど、一体自分はどこに連れていかれようとしているのか。

 視界は暗くて何も見えないし、毛皮しか手に触れない。
 手も足も土に触れないので、抵抗する方法が限られる。
 こうなったらいよいよ指先を噛み切って血を使うかと思ったところで、キアラは少し明るい場所に出た。

 目がくらむほどの明るさではない。
 細い隙間からうっすらと入り込む光が、灰白い石灰岩に反射している。
 その中央に、銅色の石の小山ができていた。
 高さとしてはそれほど大きくはない。私が横に立ったら、腰のあたりぐらいの高さだ。
 ごろごろとした石がすそ野を作るなだらかな小山に、私はひょいと載せられた。

「いったたたた!」

 いくらなんでも石ころの山の上に座るのはキツイ。痛い。
 勘弁してほしいと思いながら降りたが、そうした当の土ねずみは、この部屋に居さえすれば問題ないのだろうか。私を山の上に戻そうとはしなかった。

「一体なんで……?」
 どうして自分がこんなところまで攫われてきたのだろう。
 首を傾げていた私に答えたのは、一緒にさらわれてきた師匠だ。

「くくっ、たぶんあれだ、ほれ、こいつらは魔獣じゃろうが。ウヒヒヒ。甘味の代わりに貯蔵されとるんじゃないのか?」
「甘味代わり? 貯蔵?」
 魔獣がなんでそんなものを……と思ったところでようやく気付く。

「え、土ねずみって、まさか私から魔力をもらいたくて、ここに連れてきたってことですか?」
 ルナール達氷狐が私に懐いたのは、魔力のおこぼれを欲しがってのことだ。それと同じことが土ねずみに起こっているようだ。

「そんな可愛い表現でええのかいのぉ。うけけ。なまじお前さんの力が同じ属性だけあって、あの狐どもより執着が酷いのではないかいな? 逃げたってどこまで追って来そうだのぅ」
「え、それは困ります……」

 土ねずみのフカフカ感は実に素晴らしかった。けれど、常に囲まれた上、彼らを引き連れていては、戦うことなんてできやしない。
 なんとか出なければ。
 幸いなことに鉱石が転がっているので、それを使って地上への道を作ろうと考えた。
 そうして地面に手を触れて魔力を扱おうとしたとたん。

 ぼふぼふぼふっ。
 その白い空間へ続く三つの道から土ねずみたちが走って来て、ラグビーのタックルのごとく私の上に折り重なっていく。
 一匹ならまだしも、十歳くらいの子供が六匹も七匹もとなれば、重くてたまらない。

「うぐぅぅ、死ぬ、圧死する!」
「おい、とりあえず力を使うのをヤメロ!」
「もうやめてますってか、使えませんよぉぉ!」

 肺が圧迫されて息苦しい。
 溺れた人のようにもがいた私だったが、土ねずみは全力ですりすりしてくるので逃れられない。
 魔力を使うどころではない。
 そのうち毛皮に覆われた暑さで、頭までぼんやりしてきたところで、助け手が現れた。

 キュイッ!
 チチッ!

 土ねずみ達が、突然可愛らしい鳴き声を上げて、私の上から飛びのいた。
 何があったのかとは思ったが、ようやくまともに呼吸ができるようになった私は、ぜいぜいと息をつくだけで精いっぱいだ。

 倒れ伏したままだった私を、誰かが抱き起してくれる。
 突然他人に抱えられて、驚いた。
 最近はボールのように受け渡しまでされたりするものの、相手は知り合いだったから、多少緊張したものの安心していられた。
 でも知らない人はさすがに怖い。と思ったが、その抱きしめ方に覚えがあった。目を瞬いて見上げれば、銀の髪の優し気な面立ちのレジーだった。

「キアラ、大丈夫?」

 やや焦った顔をするレジーが、ふっと横を見ると、私を抱え直して左手で払う仕草をする。
 彼の手の動きを目で追った私は、レジーの指先が土ねずみのお腹に触れたとたん、ぱちっと火花が散った。

 土ねずみは『キュイッ』と可愛い高い声で鳴くと、すぐさまレジーから離れ、通路の方へと逃げていく。そこから恐る恐る私達の様子を伺っていた。
 気付けば三つの通路全てに、そんな土ねずみがいる。顔が見えるだけで10匹はいるようだ。

「え……レジー、どうして」
 そのどうして、には色々な意味が総括されていた。
 どうしてレジーがここにいるのか。他の騎士達はどうしたのか。
 何より、左の指先から火花が出たのは、一体どうしてなのか。

「今のはちょっとした手品だよ。雷霆石(らいていせき)をソーウェンで手に入れて持ってたんだけど、彼らはそれが苦手だったみたいだね」

 尋ねられたレジーは、やや苦し気な表情で微笑んで答えてくれた。けど……。
 どこか誤魔化してる、と感じた。
 レジーは本当のことを言ってくれてない気がする。
 そもそも雷霆石は、確かに落雷が多い場所とか、雷草の群生地とかに多い代物だけれど、そんな簡単に火花が散る作用があっただろうか。

 でも追及したところでレジーは教えてくれないだろう。しかも私じゃ、気のせいだとレジーに言いくるめられてしまうのは目に見えているので、口をつぐんだ。
 納得できたわけではないので、ついレジーをじっと見てしまう。
 私と目が合ったレジーは、

「キアラ、心配しないで」
 視線を避けるように私の頭に、頬を摺り寄せた。

「ひゃっ……」
 抱えられている状態は慣れたものの、顔をこんなに近くまで触れさせると、さすがに恥ずかしくなる。
 顔にあたる上着は、夏を過ぎてから下に着こむようになった鎖帷子の硬さを感じた。
 レジーにくるまれてしまったような感じに、思わず息を止めそうになるが――

「ふぃー。助かったわい。このわしの新しい体まで、壊れてしまうかと思ったわ」
 一緒に土ねずみに圧殺されかけた師匠が、短い手で頭をかいた。
 師匠の言葉に、レジーが応じる。

「無事でしたかホレスさん」
「ウヒヒ。口先だけ気遣ったフリをしおって、見せつけてくれるのぅ」

 見せつける、という言葉に、抱きしめられたままの私は慌てる。
 師匠に見られていることをすっかり忘れていた。それもこれも、やたら接触の多いレジーに、慣らされてしまったせいかもしれない。
 慌てて離れようとするけれど、レジーは離してくれない――どころか「動かないで」と注意してくる始末だ。
 そうしておきながら、レジーは師匠に何でもない様子で返す。

「心から気遣ってますよ。キアラの保護者同士ですからね、私達は。貴方が欠けたらキアラが泣くでしょうし」
「お前さん、清々しいほど自分の欲求に素直な奴だのぅ……」

 呆れた、と言わんばかりに師匠が肩をすくめる。
 が、私にはなんだか意味がわからない。

「で、うちの弟子は土ねずみにさらわれてきたが、お前さんは一人で飛び込んだんかいな?」
「私の方は巻き込まれたようですね」

 レジーが苦笑気味に話してくれたところによると、キアラを狙うように大量の土ねずみが地面の下から現れたのだという。その数十数匹。
 土ねずみたちはキアラを攫った直後、馬を降りて追いかけようとした騎士達を突き飛ばし、その途上にいたレジーは、巻き込まれるように土ねずみと一緒に穴の中に落ちたようだ。

「でもおかげで、巣の中にやすやすと入ることはできたから、キアラを探すこともできたし。追い払う方法も見つけたから、助けることもできて良かったよ」
「……お前さんが居て良かったのは間違いない」
 渋々といったように、師匠がレジーの言葉にうなずく。

「とりあえず、レジーが土ねずみを追い払えるのなら、地上に戻れるかな? また連れ戻されたりしなきゃいいんだけど……」
「試してみるしかないね」

 そう言ったレジーがようやく私を離してくれたので、立ち上がる。
 ほっとしながら、どこの通路が一番土ねずみ率が低いのだろうと見回した私は、ようやくそれに気付いた。

 通路近くにやってきた土ねずみが、いつの間にか一人の女の子を抱えていた。
 いや、女の子を抱えた土ねずみが、他のねずみと入れ替わるようにして、前へ進み出てきたのか。

 女の子は黒茶色の髪の上半分をまとめて幅広の緑のリボンを結んでいて、共布だろう緑のドレスを着ている。年は十二歳くらいだろうか。
 成長したら艶っぽい美人になりそうな、目の下に泣き黒子がある子だった。
 無表情なその子は、腕に抱えていた麻袋をぽいとそのあたりに放り投げる。
 すると土ねずみが彼女を離したので、慣れた様子で着地し、淡々と尋ねてきた。

「初めまして。お二人はどこのどなたでしょうか?」

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