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私は敵になりません! 作者:奏多
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もう一度戻れたら 1

 デルフィオンへ入ると、イベントが多くなる。
 デルフィオン男爵領奪還。そのためにルアインの兵を追い払っていくことが必要になるのだけど、その時に、デルフィオン男爵の弟を救出せねばならない。

 デルフィオン男爵の弟アーネストさんは、ルアインに従わない勢力をまとめている人だ。彼の協力を得ることで、ゲームでは戦いが有利になる。
 具体的に言うと、土地勘のあるアーネストさんのおかげで、敵の背後を突くことができる。
 戦闘時の攻撃力にも防御力にもプラス補正がつくのは、とてもうれしかった。なにせこの辺りから、もし私が敵だったら土人形(ゴーレム)との戦闘が待っていたのだから。

 そこでふと思う。
 魔術師くずれと戦っていて、まだ土魔術を使う相手ってほとんど会ったことがない。もしそんな相手とぶつかった場合、やっぱり土人形(ゴーレム)を使うのだろうか?

「ゲームの絵を見る限りは、私が作ってるのよりも小さめだったよね? 体長3~4メルぐらいだったら、ゲームみたいに倒せるのかな」

 確かにゲームの土人形(ゴーレム)は、キャラクターの二倍の大きさぐらいだった。私がいつも作っている10メル以上のものより、なんとかできそうには思える。

「お前の知ってる知識だと、あの土人形(ゴーレム)を倒せるのか?」
 独り言を耳にしたアランが訪ねてくるので、私はうなずく。

「HPが100だから、短期決戦を目論むなら弓兵使って二撃ぐらい入れてから、回避の高いアランと防御が高いカインさんやジェロームさんで力押し。レベル15とかあればそのメンバーで囲んで3ターンぐらいでなんとかなるかな」
「なんだそりゃ」

 アランと、その隣にいたカインさんが変な顔をする。
 うん、ゲームの数字で説明されてもわからないだろうなとは思った。

 ゲームで土人形(ゴーレム)一体を、なるべく短い時間で倒す方法である。
 他のゲームと違って、魔術師がほとんど出てこないゲームなもんだから、ゴーレムの防御力の高さがけっこう辛かったのを覚えてる。
 ただ土人形(ゴーレム)一体にそれだけキャラを集中させてると、他がおろそかになるので大変だ。
 そんなことを私は二人に説明した。

 この場にはレジーもいる。
 デルフィオンはルアインに侵略されたものの、男爵がルアイン軍を受け入れたために、カッシアとは状況が異なる。
 入念に斥候を送って、近隣の町や村の状況を確認する必要があり、もう一日デルフィオン領境の川辺にいることになっていた。
 その間にと、これからのことについてこのメンバーにて確認をしているのだ。

「お前の解説を現実に置き換えると、俺やジェローム将軍が指揮する兵の他に、弓兵で囲んで攻撃を加え続ければ、各々三度ほどぶつかった所で小さい土人形(ゴーレム)なら倒せるだろうってことか」
「うんそんな感じ。でね、もしかして練習で戦ってみた方が、いいのかなって」
 練習資材提供、私で。

「確かに、キアラさんと同じ魔術を使う者が敵に居ないとも限りません。その場合の対策を考えるのは有効かと思いますし、兵も慣れておいた方がいいでしょう」

 カインさんが、私の思いつきに同意してくれる。
 ……とはいえ、まだカインさんと一緒にいると、緊張した。
 もうギルシュさんは話をしたのかな。それともまだ聞いていない?
 だとしたら、やっぱり自分から話した方がいいのだろうか、と思う。カインさんは私が警戒しているのを察したのか、先日みたいなことはする素振りもないけれど……。
 私が悩んでいる間に、レジーが決定を下した。

「そうだね。味方としての魔術師に慣れても、エニステルやアズールの兵は、まだ魔術師くずれとぶつかっていない。いきなり未知の物と対峙させるよりは、ある程度安全がわかっている物で慣れさせるといいかもね。やってみるといいよ」

 そしてレジーの顔をちらっと見てしまう。
 アランと即席の訓練計画について話し始めたレジーは、使う土人形(ゴーレム)は一回につき一体で十分だろうとか、三回繰り返せば、見学だけになる兵士も十分に戦い方の想像がつくようになるという相談をしていた。

 ソーウェンから、彼は私に反対する意見を言わなくなった。
 何も言わないから、と言ったのは、あの夜だけのことだと思ったのに。
 私が止めれば止めるほどエスカレートする、とんでもない人間だからと、諦めてくれたのだろうか。
 とにかく、言いたくても言わないだけだろうというのはわかる。

 アランはソーウェンの戦いで、戦争を終わらせること優先! と決めて、他には口を出さないと決めているようだ。
 彼は、元から真正面から戦うのが性に合ってる人なので、むしろ魔術師の保護に関してある一定以上は気にしないと決めてから、すっきりしたように見える。

 そんな風に、言えないことができたり、踏みこめる場所が決まってしまった状況だけど、この場の空気は嫌じゃなかった。
 四人だけで集まって、何かの目的について話していると、ほんの少しだけ、教会学校を飛び出して旅をしていた時のような気持ちになる。

 一人きりで生きていこうと思って、馬車に飛び乗ってしまった私だったけど、思いがけず助けて庇ってもらえて、心の底からほっとしていた。
 だから受け入れてくれたみんながとても大切で。
 ずっとこんな時間が続いてくれないかと、前世の家族の夢を見ている時のようなことを考えてしまうのだ。
 そんなことはムリだと思うのに。

 それから一時間後、早速訓練が始まった。
 私が出した小柄な土人形(ゴーレム)でも、いざ剣を持って目の前に立つと、とても戦いにくい相手のようだ。
 最初だからと、攻撃側のアズール侯爵の騎士や兵士達の中にカインさんが混ざる。

「始めましょう、キアラさん」
 カインさんの掛け声に、私はとりあえず土人形(ゴーレム)を歩かせて彼らの元へ向かわせた。

 どすんどすんと足音も高らかに進む土人形(ゴーレム)に、アズール侯爵の騎士達は及び腰になっている。
 怖いのかな、と思った私は、とりあえず緊張をといてもらいたいと考えた。何をしようと考えた末に、ちょっと遊んでみた。
 手をばたばたさせながら一回転させてみたり、スキップさせてみたり。
 しかし兵士の皆さんは、緊張が解けるどころか理解不能と言いたげな顔をしている。
 失敗した?

「その珍妙な動きは止めてください。多分敵もやりません」
 あげくカインさんにズバリと指摘されて、私は反省した。

「ごめんなさい」
 謝ったその後は、カインさんの指導を受けて、敵らしく襲ってみたりした。
 スローモーションで手を振りおろして、攻撃側の人々が慌てて避けたりするのを数度繰り返した後、試しにとカインさんが攻撃を加えてきた。

 ……これ、クリティカルじゃないのかな。
 大上段から振りおろされた剣に、土人形(ゴーレム)の腕が一本分離されてしまった。
 え、ええええ? ゴーレム腕一本分って、HP何個分なんだろ。土人形(ゴーレム)って防御力結構あるし、それ越えての数字だから、攻撃力……なんかすごそうな。
 確かにこれ、デモだし。倒されるために出してるから恐ろしくイージーモードな敵だから、クリティカル出やすいとは思うけど。

 そんなカインさんの攻撃に力を得たのか、アズール侯爵家の皆さんも活気づき、一斉にたかるように攻撃を加えたので、私の土人形(ゴーレム)はすぐにHP限界を超えた。

 指令も出していないのに、土人形(ゴーレム)が崩壊した。
 今までこういうことがなかったけど、土人形(ゴーレム)を倒すとこうなるんだなーと私は思わず感慨深くその光景を見てしまった。

 さて、何度も同じように一方的なやられやくになるわけにもいかない。
 演習なので。
 だから次のエニステル伯爵家の皆さんには、ゆっくりめだけどがんばって攻撃してみた。
 先のアズール侯爵家の戦いを見ていただけあって、こちらの人々は、それほど怖がらずに土人形(ゴーレム)を攻撃できていたようだけど。

「ひるむでない!」
 もしかすると、背後で睨みを聞かせていたエニステル伯爵が怖かったせいなのかもしれない。

 三回目は混成部隊だ。
 こちらには一度体験したいと希望したグロウルさんや、再びフォロー役のカインさんが入って、他五名ほどの兵士や騎士さん達が戦うことになる。
 人数が多いので、私はやや大きめの土人形(ゴーレム)を用意した。

 それでも二度の慣れがあったからか、みんな怖気づいたりはしなかった。
 ちょっとゆっくりめではあるが、前二回よりもずっと土人形(ゴーレム)らしく攻撃してみる。
 時に兵士さんを持ちあげて悲鳴を上げさせてみたり。
 足を強く踏みだして、驚かせてみたり。
 大きく腕を薙ぎ払ってみたり。

 上手くみんなが避けてくれる上、グロウルさんがなんだか楽しそうだった。
 そんな様子に、私は気を良くして油断してしまったのだろう。
 連続で右手で彼らをなぎ倒そうとしたせいで、ちょっと疲弊した兵士さんを弾き飛ばしてしまった。

「あっ!」
 怪我をさせたいわけじゃなかったのに。
 慌ててゴーレムに受け止めさせようとしたが、それよりも先に、落ちる兵士さんを庇ってくれた人がいた。

 カインさんだ。
 地面に投げ出されそうになった兵士を受け止めたカインさんは、彼を庇って左腕を地面に擦ったようだ。

 私は喉の奥で悲鳴を上げる。そのとたん、土人形(ゴーレム)がもろりと崩れてしまった。
 けれど大事なかったようで、兵士もすぐに立ち上がり、カインさんも平気そうに歩いていた。

 もちろん戦闘演習はそこで終了だ。
 見学者は、むしろ最後の事故を見て臨場感を得たらしく、やや満足気だ。
 けれど私は達成感などカケラもなかった。

「ごめんなさい、カインさん!」
 駆け付けてすぐに頭を下げると、カインさんに笑われた。

「気にしなくてもいいですよ。手加減されていることを忘れて、こちらも油断していましたから。それより腕なので、ちょっと自分では手当がしにくいので、手伝っていただけますか?」

 被害者にお願いされて、私は勢いよくうなずいた。
 私が手当をする側だし。それにカインさんが何かを話したそうな表情をしていたから。

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