挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
私は敵になりません! 作者:奏多
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

104/277

デルフィオン領境戦1

「サレハルドか……」

 そうつぶやいたレジーが座っているのは、馬車の隣の席だ。
 デルフィオン男爵の軍が来たことを受けて、翌日には私達ファルジアの軍も出発していた。
 私の乗った馬車には、他にもアランが座っている。後はいつも一緒の師匠だ。彼らは通常の軍議の他に、打ち合わせるべきことがあるからと言って、馬車の中に集まっていたのだ。

「やっぱりサレハルドがどう動くかわからないな」
「それでも、敵の配置がキアラの記憶と一致するみたいだし、そこは楽かもしれないぞ」

 レジーの懸念に対して、アランが私の記録冊子を開きながら応じている。
 ゲームの記憶と同じだったことは幸運だ。
 行動を起こすタイミングが違うから、全く当てにならないかと思っていたからだ。

「だとすると、森林地帯での戦いになるんだよね」

 デルフィオンとカッシアとの領境近くには森林地帯がある。
 木を避けながらの移動になるので、障害物を一つ二つ隔てても攻撃できる弓兵が、とても厄介な敵になる戦場だ。
 兵を進めたと思ったら、その間に弓兵が逃げて、重装歩兵が前面にでてくるので叩くのに時間がかかるのだ。しかも叩いている間に歩兵の後ろから弓兵が射てくるという、二重攻撃がくる。

 ゲームでも味方のHPがカリガリと削られた戦場で、ちょっと苦手だった。
 しかもゲームなら回復薬を使えばいいけど、現実ではその分だけ兵士さん達の命が削られるのだと思うと、余計に恐ろしい。
 でも私がそれを知っているからこそ、レジーは味方の被害が少ない策を考えていてくれているはずだ。
 出発が慌ただしかったので、まだ正式な配置こそ指示はしていないけれど、私の意見を聞いた後で、敵の配置予想を参考に軍の編成を考えると言っていたので、とても期待している。
 多分私が考えて実行していた兵の配置より、レジーの方がより良い方法をみつけられるだろう。

「サレハルドの軍はトリスフィードにいるはず。ソーウェンが近いのにそうしないということは、私達に出てきて欲しいんだろうな」
「……デルフィオンを前面に押し出して、威力偵察みたいなことするつもりで、か?」

「でなければサレハルドも来ないだろう。彼らも、次に戦うかもしれない私達の様子を見たいんだよ。ちょうどいい噛ませ犬がいるのだから、使わない手はない」
「デルフィオン男爵の軍と、ルアイン軍が混合で来るのは予想できたことだからな。あそこは領地は小さいが、ちょうどトリスフィードとソーウェン、カッシアと接する土地だ。そこを押さえたんだから、有効利用したいだろう」

 デルフィオン男爵の軍は、私達の軍の力量を図るため、前面に出されるのだ。ゲームでもデルフィオン男爵軍の兵を倒すと、ルアイン兵は逃げてしまうのだ。あからさまに利用されてる状況だ。
 そう考えると、デルフィオンは結構酷い扱いを受けているように思える。
 ゲーム同様に言いなりになってしまっているのは、やはり男爵の娘が囚われているのだと考えていいだろう。

 けれどデルフィオン男爵は、娘のために、自領地の民や兵を消費しているのだ。そのせいで彼は、民達に延々と恨まれ続けることになるのだ。
 ……親としてはこの上なく子供を愛していて、優しい父親なのだろう。個人的には、そんな父を持ったデルフィオン男爵の娘が羨ましくなる。

 けれど彼は領主なのだ。
 貴族は世襲だし身分差があるから、税を取り立てる相手としてしか民のことを認識していない人の方が多い。
 その民の方は、領主が自分達の生活を守ることができない、むしろ利益を無視して破たんさせようとしている場合、反旗を翻すこともある。なまじ戦争の多い時代なので、領主や王に求められるのは、自分達が住む場所を戦火から守る力や才覚なのだ。
 だからレジーも、ルアインを撃退できなければ、民によって国を追われることになるだろう。
 ゲームでアランが王位についた理由もそこにある。
 強さが大事なのだ。

 デルフィオン男爵も、圧倒的な勢いで不意をうたれただけならば、まだ同情の余地もあっただろう。ルアインに与しても、市井の人々の生活が守られたなら、そう不満は出なかったと思う。
 でもデルフィオン男爵は自分の感情を優先させて、いたずらに領民を消費しようとしていた。私の記憶の中にある男爵と同じように。

「とにかく、ここで兵を削られるわけにも、態勢を建て直し始めたカッシアを攻撃されるわけにもいかない」
 レジーはそう言って、私に視線を向けてきた。

「そこでキアラに聞きたかったんだけど、君って木をなぎ倒すことってできる?」
「なぎ倒す? できなくもないけど」
「どれくらいの範囲で? 方法は問わない。ただ無理をしない状態で、だけど」

 方法を問わないといわれて、私は考える。
 木をなぎ倒すというと、また土人形(ゴーレム)を使って踏み倒すことになるだろうか。でもべきべきやってたら効率が悪そうな気がする。
 木を掘り起こすというと、ショベルカーだろうか。それもちまちまやることになるので、時間がかかりそうだ。
 おそらくレジーは作戦に使いたいのだろうから、あまり長くかかる方法は遠慮したいことだろう。

 掘り起こせば木は綺麗に避けられる。とすると、地面が隆起すればいい? でもどれくらいの範囲でできるだろうか。
 ソーウェンで、地面を砂にした時は結構な広範囲だった。幅だけで100メルぐらいあったと思う。
 あれと同じことをしようとすると、血を用いないと辛い。けれど血を使ってでも実行しようとするのは、師匠には止められそうだ。

 通常の術の使い方で疲弊するようなものは、多少操りやすくしたところで、かなり体に負担がかかるのだといわれている。
 しかも戦場でそんな術を展開したら、うっかり不意打ちされた時に魔術で対抗しようとして、力を使いすぎてしまって七転八倒するはめに陥るだろう。
 とすると、あの時使っていた土人形を出さないと考えた上でなら、同じくらいの範囲はなんとかなるのか?

「そこそこの幅の道を作れって言うなら、200メルとか行けると思う。もっと広範囲ってなると、休みながら何回か繰り返すか、土人形に走り回らせた方が早いかも」
 私の回答を聞いたレジーは、少し何かを考えるように目を閉じてからうなずいた。

「うん、ありがとう。現地で何か頼むかもしれない」
 作戦に使えるかどうか検討してくれたのだろう。勝つために。

 私はそれがうれしかった。頬が緩むのを抑えるのが大変なほど。
 魔術を使って戦いを最短にすることができれば、レジー達が危険な目に遭うことが少なくなるのだから。

cont_access.php?citi_cont_id=214034477&s
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ