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復讐のメシア
作:クガネ



7:容疑者


 酒場でルイージャ婆さん、そしてヴォルフと別れを済ませ、俺は何故か謎の美少女とメタボリック症候群な男に連れられ、バルツ村を出た。
 ――どうしてこんなことに?
 俺は籠の中のウサギガメにルイージャからもらった赤い草――バルツ草をやりながらため息をついた。

「さっさと歩きなさい」

 少女が俺を急かす。可愛い顔してかなり強烈な口調だ。俺は警察に補導される容疑者の気分になり、少女の威圧的な態度に逆らえないでいる。俺は何でも人の言うことを聞くようなお人好しではないが、行き先がキマイラ研究所らしいので大人しくついて行っている。
 傲慢な態度の女をたまに禿頭の男がフォローしようとするが、年齢はともかく力関係は少女の方が上のようで、まったく役にたっていない。
 未だかつてないほど自己中心的な女だが、女故に手が出せない。
 女は傷つけない。それ、俺のモットー。
 そうそう。名前を紹介し忘れてたな。
 金髪碧眼の少女がレイ。肥満体質の禿頭がゲオルグだそうだ。
 女は傷つけない。とか言っちゃってる俺だが、そんなことを言ってる場合ではなくなった。
 レイとかいう女――メチャメチャ強ぇ!
 研究所があるバルツ村の南の渓谷に向かう途中、幾度となく得体の知れない怪物に襲われた。
 怪物はポリクエに出てくるようなファンシーでちょっぴり怖いモンスターではなく――イオンハザードとかバイオレッドヒルに出てくる障害のようにグロテスクかつホラーな外見の魔物だった。
 俺は逃げ腰でノアから貰った剣を振り回していたが、レイやゲオルグは臆することなく魔物を撃退していく。
 レイは神秘的な杖を取り出し、何やら呟くと巨大な炎が敵を襲い、一瞬で消し炭にした。
 ゲオルグはというと、なんと素手で殴りつけたり蹴ったりして敵をノックアウトしていく。
 二人とも、見た目に反して強かなようだ。

「うぶへぁ!」

 レイたちの豪傑っぷりを眺めていたら、イエティみたいな魔物にぶん殴られた。
 仕方ないので、鞘から剣を抜かずに魔物を殴る。
 実は殺すのには抵抗があった。例え相手が、俺を殺す気でいても。

「大丈夫かぁ!?」

 ゲオルグが慌てた様子で聞いてきた。

「たぶん……」
「足引っ張らないでよね! 燃えろ!」

 レイが最後の魔物を片付けた。
 すげーな本当。
 魔法なんて実際にあったんだな。最初は感動した俺だったが、レイが目の前で魔法を使って敵を亡き物にしていくうちに恐ろしさを感じるようになった。
 "あちら"に魔法があったらかなりの脅威だっただろう。
 人を簡単に殺せるし、殺しても証拠は見つからない。
 あまり良いもんだと思えなくなっていた。
 敵の大半はレイが撃退した。おかげで周囲に敵影は一切ない。一桁か二桁かってくらいの数はいたのにな。
 何で今まで俺が魔物に出会わなかったのかほとほと不思議だ。
 そう感じるほどに生息する魔物の数は多い。

「さっさと行くわよ。容疑者くん」
「なんなんだよ? 容疑者って!」
「とぼけないで」

 さっきから同じように罵られているが、俺には何のことだかさっぱりだ。
 レイが軽蔑を含む目つきで俺を睨んだ。

「メサイア像を盗んだのはあんたなんでしょ!」
「――!」

 一瞬息が詰まった。レイがメサイアという単語を出した瞬間、ドクンと胸が強く脈打った。
 やましいことがあるわけじゃない。俺にはなんのことだかわからない。
 なのに、この胸の奥に潜んでいたようなひっかかりはなんだ?

「動揺したわね。肯定したも同然よ」
「ちげぇよ!」
「言い訳しないで。私は不正と言い訳が嫌いなの」

 立派な事をはっきり言うのはよろしいが、勘違いも甚だしいぞ!

「だいたい何なんだよ! メサイア像なんて知らねーぞ!」

 怒鳴るように訴えるも、レイに無視され無駄に終わった。げんなりする俺にゲオルグは肩を叩き、後少し辛抱しろと頼んだ。
 疑われている。
 信用されていない。
 それだけはわかった。
 気分が良いものではないが、俺は無実だ。
 それにこの二人なしでは研究所までたどり着けなかっただろう。俺一人だったら、今頃魔物の胃袋の中だ。
 むしろラッキーだったと考えればいい。

「あんたらは、研究所の人間なのか?」

 気になっていた事だ。
 答えたのはゲオルグだった。レイは見向きもしない。ま、いいけどな。

「オイラたちは、ある人に言われてここに来たんだ。というか、お前こそ研究所の職員じゃないのか?」
「ちげーよ!」
「もしくは研究所にメサイア像を運んでくるように頼まれた……とか」
「違うな。そもそもメサイア像ってのが何なのかわかんねーし」
「レイ! どうする? オイラたち人違いしちまったみたいだぜ」

 何故か動揺しだしたゲオルグが、早口でレイに問いかける。

「そんなの演技に決まってるでしょ」

 しかし一言で両断されてしまった。
 俺はそんなゲオルグを見てちょっと切なくなった。

 しばらく進むと雪景色に同化するような白い建物が見えてきた。バルツ村の家ような木製ではなく、冷たそうなコンクリートでできた建物だ。
 正面にある入り口は鉄製の観音開きの扉。その隣には呼び出し音らしき赤いボタンがある。これさえなければ病院のようにも見える。

「ここが研究所ね。なんでこんな田舎に建てたのかしら」

 レイが扉の真正面に仁王立ちして、建物を見上げながら言う。
 ってーかなんでこの女はいちいち態度がでけーんだよ。
 レイに対してゲオルグがぼんやりとした口調で答えた。

「オイラの推測じゃあ、ここの所長が雪遊びが好きなんじゃないかなぁと」
「どんな所長!?」

 不穏な話を聞いてきたばかりだからそうは思えんのだが。

「こんな小僧にメサイア像を盗ませるよう依頼するぐらいなんだから、お金に困ってるのかしら」
「小僧ってなんだよ! そして俺は無実だ!」

 どうやら俺はキマイラ研究所の人間に、メサイア像を盗んでくるよう依頼された犯罪者ということになっているらしい。

「ま、そんなこと言ってられるのも今のうちよ」

 レイは自信ありげにそう言いながら赤いボタンを押した。するとブーッという機械音が扉の向こうから聞こえてきた。
 ピンポーンとかじゃないのか? 呼び出し音だよなこれ?
 しばらく待っていると扉が内側に開き、中から黒髪の青年が出てきた。白いシャツに黒色のネクタイをピシッとつけた白衣の男だ。典型的な下っ端研究員Bさんといったとこだろう。
 しばらく個性的な奴らを相手にしてきたから、こういう普通さにはなんかホッとする。

「何かご用ですか?」

 彼が丁寧な口調で問いかけてきた。うーん。思ってたより対応は厳しくないな。てっきり
「関係者以外は立ち入り禁止なんとかかんとか!」とつっぱねられるもんだと思っていた。
 悪いイメージしかないのだがホントはそうでもないのか?
 いや、まて。考えるんだ俺。こういう人畜無害そうな奴が、実は腹黒いこと考えてる組織の幹部で、下っ端のふりして俺たちに近づこうとするスパイだったりするんだ。
 ってこの展開はポリクエの最新作にあったな。
 ゲーム一本に影響されすぎだろ俺! 現実を見るんだ!
 ――よく考えたらたかが下っ端Bに構えすぎだな。

「なにぼーっとしてんのよ!」

 あれやこれや考えていたら、いきなりレイに頭を殴られた。しかも拳で。繊細そうなナリしてんのに、中身は獰猛なツキノワグマのようだ。
 一日も経っていないのにゲオルグはこのやりとりに慣れてしまったらしい。フォローをしてくれなくなった。なんか可哀想なものを見る目で俺を見てくるぞ。

「見放された……」
「大丈夫ですか?」

 下っ端研究員Bが心配そうに尋ねてきた。厳しい状況の最中に優しくされると涙を誘う。

「あなたも応接間に行きましょう。疲れているでしょう?」
「へ?」
「あなた聞いてなかったの? 所長に会わせてくれるそうよ」

 展開が読めねぇ。いったいどう話をつけたらそうなるんだ。所長って、一番偉い奴だろ?

「話は聞かせてもらいました。研究所から逃げ出した動物を連れ戻してくれたそうですね。ぜひ、所長から礼をしたいと」

 あーなるほど。そういう展開ね。ウサギガメについて話したとき、レイは興味無さそうに聞いてたくせにネタにしやがったのか。そのウサギガメはというと――!

「……」
「どうしたのよ。そのすごい汗」レイが言う。
「なんでもねぇよ!」
「なんでそんなに怒ってんのよ!」
「怒ってません!」
「わけがわからない」

 レイは首を傾げると白くて長い廊下を進み始めた。清潔そうな廊下だ。だが、かえって不気味でもある――ってそんなこと考えてる場合じゃない!
 ――ウサギガメ……どこ行ったアイツ!?
 籠の中を覗いてみれば、もぬけの殻。あの珍獣はどこにも居ない。
 あるのはさっきやったバルツ草の食べかす。
 どーすんだ?
 重役に会う前からピンチじゃね!?












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