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復讐のメシア
作:クガネ



5:謎の二人組


 白銀の世界にか弱そうな少女と、巨漢と言える中年の男が居た。
 少女は碧眼でボブの淡い金髪に、一部分だけ三つ編みをしている、雪と同化してしまいそうな白い肌の可憐な少女だった。白色の生地に淡い緑色の模様のインバネスコートを身にまとい、不思議な青い石が先についた杖を持った神秘的な風貌だ。
 驚くことに側頭部に普通の人間の耳がついていない。まるで魚のエラのようなそれが耳の代わりについている。
 まるで太陽の光を反射する海原のような鮮やかな青色だ。
 その左耳に、杖の先端についた石と同色のピアスをつけている。
 男の方豊満な――肉付きが良すぎる体を、気候に似合わないノースリーブのベストで羽織り、迷彩柄の七分パンツをはいただけの寒そうな格好をしている。
 ハゲていて、黒く目尻が垂れ気味な目をもった、愛想の良さそうな三十路くらいの風貌だ。
 耳はいたって普通だ。

「どうしてなの! ここにメサイア様が降臨なさるって予言したじゃないの、あの魔女! 痕跡一つないじゃない!」

 儚げな印象がある美少女は、雰囲気とは正反対のきつい口調で憤慨した。

「落ち着けって、レイ。もしかしたらオイラたちの到着が遅すぎたんじゃねぇのか? というかお前だって魔女だろ」

 男は少女を宥めるように諭した。レイと呼ばれた少女は気を抑えることなく目を三角にして地団駄を踏んだ。

「やっと"奇跡"が起きたっていうのに! あんたがデブでノロマだからよ、ゲオルグ……うひゃあ!」
「おい、どうした!?」

 三回足を踏んだ後、レイは片足を大きな穴につっこんだ。どうやら昨晩に降った雪に表面だけ穴が隠されていたようだ。
 そこにレイは運悪く体重をかけてしまったらしい。

「手を貸して。 気が利かないわね!」
「どうやらノロマなのはオイラだけじゃないみたいだな?」

 動きにくそうに暴れるレイを見て、ゲオルグは声を上げて笑いながら手を差し出した。
 レイはゲオルグの態度に腹を立ててゲオルグの手を叩き、それからそれを支えにして穴から出た。

「何なのよ、この穴」
「ちょうどヒト一人入れそうだな」
「あんたは無理よ」
「お前は身長が足りないんじゃないのか?」
「うるさいデブ」
「このチビめ」

 お互いを貶しあっているが、この二人にとってはそれが普通だった。
 ちょうど青年くらいが収まりそうな穴を見て、レイが何かを思い出したようにアッと声を上げた。

「ここって、たしかメサイアの像が建てられていた場所じゃない?」

 この極寒のワイール地方は大昔、今ほど雪は降らなかったらしい。その時期にメサイア像が建てられ、現在では厚い雪に埋められているらしい。
 近年、ワイール地方は温暖化の傾向にある。
 そのため降雪量も積雪量も少ない。
 近辺の村人が雪に隠れなかったメサイア像の頭部を発見し、考古学者が検証した結果、ミルタニア最古のメサイア像だということがわかった。
 しかし雪に埋まり、下手をすれば像が壊れる可能性があるため掘り起こすことは許されていない。大変貴重なメサイア像の存在は、バルツの村人以外、一部の者――それこそ政府の高位にあたるいわゆるエラい人しか知らされていない。
 レイはそのメサイア像を検証した考古学者――魔族の女性の弟子であり、部下だった。
 魔女の学者はある程度の未来が判る先見の能力を有しており、像のモデル、メサイアがこのワイール地方のバルツ村付近に、再び降臨するであろうと予言したのだった。
 このことは、政府には伝えていない。レイたちは魔女に命じられ秘密裏にバルツにやってきたのだった。
 政府にかぎつけられる前に、見つけてしまおうという意図だ。

「誰かがメサイア像を掘り起こした……? 英雄ではなくて泥棒が居たみたいね。罰当たりだわ」

 何故かメサイアを神聖視するレイが、重罪だといわんばかりに憤慨する。

「そうだな。いや、でも、まさか……な」
「何よ?」

 歯切れ悪くぶつぶつ言い出したゲオルグを、レイは訝しげな表情で聞き咎めた。

「メサイア像自体が動き出した、とか?」

 ゲオルグは少し口を開くのを戸惑って、自信なさげに突拍子もない仮説を説きだした。
 レイは目を見開き、一瞬考え込むような仕草を見せたあと、鼻で笑う。

「そんなことあるわけないじゃない」
「メサイアが再臨すること自体有り得ないだろ。千年以上前の英雄が」
「でもあの女の予言はたしかよ。確かにそうね、有り得ないことじゃないわ」

 レイは苦い顔で言った。彼女は師の能力は確固たる物だと信じている。身を持って体験しているからだった。

「なあ、レイ。聞いていいか?」
「何よいきなり」
「どうしてそんなにメサイアを絶対視するんだ?」

 ゲオルグの問いに、レイは怪訝な顔をして彼を睨みつけた。そしてそっぽを向くとこう答えた。

「あなたには関係ないわよ」

 出てきたのは拒絶の言葉だった。
 ゲオルグは彼女の態度を見て、答えてはくれなさそうだと判断し、深く追求はしなかった。
 ゲオルグがレイについて知っていることは、大分昔からあの魔女の弟子であることと、調子はキツいが根は優しいことだけだった。
 それでもゲオルグは、レイの事を仲間だと思っている。
 彼女にどんな過去があろうとも。

「手がかりが少なすぎるわ。政府の配下だっていうキマイラ研究所に行きましょう」
「どうするんだよ! 政府に関係してるのはあの人だけでオイラたちは部外者だぜ? 相手にされないんじゃないのか?」

 あの人とは、レイの言う魔女のことだ。
 魔女は優秀な学者で、非常に賢い。故に政府から絶大な信頼を得ている。
 反面、謎が多く得体が知れない存在とも認識されているため、信頼されるが信用されていない。

「行ってみなくちゃわからないわ」
「ツテでもあるのか?」

 ゲオルグの問いに、レイはあっさり返した。

「そんなものあるわけないじゃない。とにかく行くわよ」

 ゲオルグもレイも、魔女から多少は政府の情報を聞かされている。
 だが、あちら側はレイたちの存在を重視していないため、レイたちを相手にもしないだろう。
 ただ、政府と一言でまとめるにしても部門が複数あるため、各々色合いが違うはずだ。
 キマイラ研究所は間違いなく技術部門の配下。そしてこのあたりに施設を構えているのなら、メサイア像の存在を知っているはず。
 メサイア像を検証した考古学者のあの人の名を知っているはずだ。
 しかし、相手にしてもらえたところで、自分たちにとって不利益なのではないのか。

「それじゃあ、メサイアの存在を政府に知らせてしまうんじゃないのか?」
「聞き方に気をつければいいのよ」
「聞き方……?」

 ゲオルグにはレイが何を考えているのかわからなかった。
 説明を促すと、レイは呆れたようにため息をつく。

「メサイア像が盗まれた、協力してほしい。こう言えばいいわ」
「そんなこと聞いてどうするんだよ。そもそも研究所で何を聞く気なんだ?」
「わからないの?」

 間違いなく自分より年上であるゲオルグを、あからさまに見下すようにレイは言う。

「私の読みではメサイア像を盗んだのは、研究所の人間よ!」
「はあ?」

 ゲオルグは驚きのあまり、声を裏返した。
 レイと行動を共にするなかで、このようなことは多々あった。なにかしらの疑問を、自分では考えられない答えでレイは解決してゆく。
 魔女としての先見の才能の片鱗なのだろうか。
 その命中率の高さからゲオルグは、レイの読みを頼りにしていた。

「でもどうしてそんなことを?」
「学者ってのは賢いけれど、貪欲な知的好奇心の持ち主なのよ。そんな奴らが最古のメサイア像をほっとくかしら?」
「それもそうだが」

 キマイラ研究所というからには化学に精通しているだろうことは確か。しかし考古学とは分野は違うのではないのか。
 そうゲオルグが唱えるも、レイは納得しなかった。

「学者なんて、みんな同じよ!」

 レイはそう言うが、ゲオルグは納得がいかなかった。自分の直感が違和感を告げている。

「しかしなあ……」
「あなたの勘はアテになるけど、考えていたって仕方ないじゃない」

 研究所はメサイア像の何らかの異変を知っているに違いない。
 メサイア像の事について問えば、相手は何らかのアクションをとるだろう。動揺すれば読みは当たり。冷静に対応されたら、ハズレだ。
 どちらにしても魔女に結果を報告し、今後の命令を待てばいい。

「まずはバルツ村の酒場に行きましょう。こういうところには自然と情報が集まってくるものよ」
「賛成だ。腹も減ったし」
「あなたは食べ物が目的でしょう」

 ――ぐぅ。
 腹の虫が鳴った。

「ちょっと!」
「いや、お前だろ」

 鳴ったのはレイのお腹だった。












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