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4:鎖じかけの凌辱魔または爆音による鮮血のはじまり
 
 「ああっ、凄くいい。」

 厚子は喘ぎ声をあげた。

 激しい震動で快感は更に高まった。

 興奮と共に心拍数も上昇していく。

 厚子は冷たく冷えた床の上の健太の上で行為に及んでいた。

 熱い汗が火照った肌を伝わり、コンクリートの床に落ちる。

 不気味な廃墟の魔力だろうか、不思議と誰かに見られるという恐れは感じていなかった。

 むしろこの雰囲気が厚子を更に興奮させていた。

 暗い照明に照らされた厚子の体は魅力的な体つきをしていた。

 全身が快楽の網に絡め取られているようだった。

 意識が何度も飛んだ。

 体の中心を熱い棒が貫き、そして厚子は絶頂を迎えた。

 同時に別の尖った物が体を貫いた。



 彼は不思議そうにそれを眺めていた。

 コンクリートに横たわっているそれは肌色をしていて、激しく動いていた。

 2つの物体から構成されているそれは、全体から水滴が滴り落ちており、オレンジのようにみずみずしく、つやつやしていた。

 何かとてもうるさい音を出しており、それぞれの上部と下部に穴が空いており、そこから一定の間隔をあけて音が出ている。


 彼は10秒間それを眺め、それからゆっくり3秒ほどかけて首を傾げた。

 すると色がない彼の瞳にほんの少し変化が起きた。

 まるで、冷たい銅が炎に焼かれていくように。

 突然彼は右腕に持っていた凶器を両手に持ちかえ、腰の辺りに構えると勢い良くトリガーを引いた。

 乾いているが僅かに湿っている音が辺りに響いた。

 もう一度トリガーを引く。

 乾いた音は響かず、代わりにエンジンの爆音が辺りに轟いた。

 その凶器からは音と共に白煙が吹き出している。

 彼が持っているのはチェーンソーだったが、ただのチェーンソーとは形状や機能が大きく異なっていた。

 まず目を引くのは小型の冷蔵庫ほどはあろうかという大きさである。本来エンジンを覆っているはずのプラスチック製のカバーは鋼鉄の装甲に取って代えられており、角ばった無骨なデザインのそれは至る所に鉄のネジ頭を飛び出させていた。

 内蔵されているエンジンは通常のエンジンとは二回りほどサイズが大きい高出力のものを使用していた。

 ブレードは1メートル50センチ程の長いものを使用している


 そして装甲の表面には血と思われる筋が幾つも連なっていた。

 そして彼の目の前の物体の下方の開口部がこちらを向いて、2つの点が大きく開かれた。

 彼は得物のグリップ部分にあるボタンごと柄を握りながらそれの近くにある引き金を引いた。

 鋭い金属音を鳴らして、細長い金属板の外周に幾つも連なった不恰好な鈍く光る金属片が激しく回転を始めた。

 そして、足を床に踏ん張り、強く蹴る。

 彼はチェーンソーを力強く構え、前方に突進した。

  

 バイクのエンジン音が聞こえた。

 健太はその左を向く。

 既に快楽の渦に呑まれていたが、脳はこの場ではあり得ない異常をしっかりと感知した。こんな所にバイクがあるはずがないからだ。

 彼の目は音源を発する巨大な黒い影を捉えたが、驚きのあまり声が出ず、代わりに2つの目が出そうになった。

 彼の目に激しく振動する凶悪な機械と大男が映し出された。

 この部屋を叩き潰すかのような轟音と震動と回転。

 そして影は健太と厚子に向かって突っ込んできた。



 
 コンクリートを蹴り、数歩進むうちに腰のチェーンソーを頭上に大きく振り上げ、大きく跳躍する体勢に移る。

 腰を低く落とし、下半身の力を収縮させ力を溜める。

 そして瞬時に足を伸ばし力を解放させ空中に飛び上がる。

 太い足を曲げ、腹と胸を付けるようにして体を丸める。

 チェーンソーを振り上げた腕は頭上に伸ばしたまま、右腕はグリップをしっかり握り右手を丁度頭上に位置させ、左腕は大型エンジン式改造チェーンソー本体を支えるパイプを中程で掴み後頭部上辺りに左手を位置させ、獲物を砕く準備をする。

 飛び上がり過ぎて天井に刃の先が数センチ擦れる。

 鈍い音を立ててコンクリートを抉り、破片が彼に降り注ぐ。

 バネのように強靭な筋肉が放物線を描かせ彼を3メートル先のコンクリートにまで飛ばす。

 着地寸前まで曲げていた両足を伸ばし地響きを立て着地し、瞬く間に彼はそれにあと1歩まで近付いた。

 そして着地の反動で前屈みになった彼はそれの上部に高速回転する刃をめり込ませてしまった。

 耳障りな音を立てて刃が肉に食い込んでいく。

 金属同士を擦り合わせるカン高い音から肉を鋭くない金属片で無理矢理ちぎり取る不快な音に移り変わり、それが絶え間なく続く。

 厚子の頭部右側中央に叩き込まれたチェーンソーの歯はまず薄い頭皮に浅い傷を付けた。

 それ自体は浅かったが、次々と絶え間なく同じ場所に与えられる為、引っ掻かれ、擦られ、押し切られた傷は段々深くなっていく。



 一般的にチェーンソーの回転するチェーンに付いている刃は数種類あり、それぞれ形が異なっている。

 彼の改造チェーンソーの刃は3種類あり、ひとつ目は正面から見て、チェーン上部右側に付いている5ミリほど上に伸びている鋭く鉤状に形作られた薄い鉄板は重要な役割を持っている。それは切断したい物体(この場合は人肉)に最初に斬り込むからだ。

 2つ目はひとつ目の刃と丁度反対側に同じ様き付いている刃だ。これまたひとつ目と同じ様な役割を持っており鉤状に曲がった鉄板で対象を引っ掛け、回転で引き裂く。

 これで対象には2つの同じ長さ同じ深さの切り傷が出来たことになる。

 ここで登場するのは第3の刃である。

 この刃は真ん中を軸に内側に曲げられたシャベルに、そのシャベルより一回り小さい位のシャベルの形にくり貫いた様な、逆さまのVの形をしている。それは先程切り込まれた対象の一部を傷を利用して抉り取る役目を負っている。

 抉り取られた破片は、チェーンの回転を利用して外に飛ばされる。

 これらの働きにより、彼のチェーンソーは獲物をいとも簡単に刻むことが出来るのである。

  
 話は戻る。


 彼のチェーンソーで厚子の頭は薄い頭皮を削られ、既に頭蓋骨への侵入を許していた。

 頭蓋骨に到達したチェーンソーは肉を撒き散らすのを止め、白い粉を撒き散らすことに専念していた。

 改造チェーンソーとはいえ人間の骨の中で最も固いと言われる頭蓋骨を切断するのはほんの少しばかり骨が折れたようだ。

 削られた頭蓋骨は彼に降り注ぎ黒ずんだ頭を真っ白に染め上げ、埃のように細かくなった一部の骨は蛍光灯に透かされ舞い落ちる。

 しかし彼が頭蓋骨を削っていたのはほんの数秒間のことで、すぐに貫通し白い脳髄に到着し、すぐさま抉り始めた。

 脂肪で出来ている脳は内側を通っている血管ごと激しく抉られていく。

 つやつやした表面をほぼ同時に切り裂き、掬い上げ、遠くに飛ばす。

 その動作には木綿豆腐を潰していくような音とバイクの爆音がセッションしている。

 この一連の作業により、厚子の脳髄は減らされていくのであった。

 脳を破壊する動作と並行して切断される方向(つまり刃の下部前方後方)にある頭蓋骨も破壊していき、遂に右は厚子の右頬上辺りに、左は脳が収まっている容器の底、つまりこめかみ辺りに刃を接触させることに成功した。

 そのまま刃は突き進み、上の歯を砕き、唾液と歯茎と神経と舌を小分けにし、顎まで到達した。

 この時、歯医者の代わりに厚子の虫歯を粉砕していたが、当の厚子は感謝することも歯を削られた痛みを訴えることをしなかった。

 何故ならば彼は歯医者ではなかったし、最も厚子は脳を両断され既に死んでいたからだった。

 そして、顎まで両断された厚子は傷口から脂肪やら鮮血を撒き散らしながら顔を前後に分割され凄絶な最期を迎えた。

 グロテスクな断面を晒しており、傍目から見ると随分不幸な最期だったが、少なくとも俊夫よりもマシだった。

 苦痛のなかで生を掴もうともがき死んだ彼に比べ、彼女は快楽の中であまり苦痛を感じること無く正に腹上死したからだ。

 彼はぱっくりと第2の口を開けている厚子からいまだ快感にうち震える血塗れのチェーンソーを抜き取ると、再び跳躍すると、厚子の中身丸見えの喉に向かってチェーンソーの切っ先を突き刺した。

 ハイパワーのチェーンソーの怪力によりあっという間に肛門まで刃は貫いてしまうだろう。

 その前に健太は厚子の肉の下から逃げ出さなくてはならない。

 さもないと健太は凶悪なチェーンソーの刃に大切なブツを粉々にされていしまうだろう。

 そんな訳で、健太は急いで肉の下から仰向けのまま這い出した。

 這い出すときに肛門から出てきたチェーンソーに太ももを傷付けられたので、激しく痛んだ。

 もしあと数センチずれていたら、健太はもう二度と夜を楽しめなくなっていただろう。

 最も、彼はこの廃墟から、このロッカールームから生きて出られないのだが。

 健太は素早く立ち上がると、この悪夢から逃げるべく走り出し、惨劇の場から遠くのロッカーに隠れた。

 彼は服を着たまま行為に及んでいた為あまり鉄の冷たさは感じなかった。

 ひとひとりやっと入る位のロッカーの蓋を閉め、縞状の穴から外を覗いた時、健太はこの部屋自体から逃げ出したほうが良かったと今更ながら気付いた。

 しかし、既に時遅し。

 殺人鬼は厚子から離れて、生き残りを切り刻むべくロッカーの物色を始めたようだった。

 健太の悪夢は始まったばかりだ。


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